クリエーターの「やりたい」を実現する会社

レディー・ガガの全米ツアーの前座に出現した初音ミクの特殊スクリーンによるフォログラム、香川で行われたチームラボの「夏のデジタルアート祭り」、さっぽろ雪祭りの雪像へのプロジェクションマッピングなど…様々な新しい映像表現の裏で技術を担っているのが株式会社プリズムだ。

株式会社プリズムは札幌と東京に拠点を構える映像技術会社。コンサート・舞台・映画・イベント・常設展示等での映像・音響の提供、最新映像技術を使った空間全体のプロデュース、映画プロデュースなど事業は多岐にわたる。

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株式会社プリズム イベント事業部長 松浦靖氏

松浦氏:弊社の場合、コンテンツ会社からの依頼が多く、デザイナーやコンテンツ制作をされている方が何かを実現したいんだという時に、弊社の持つ技術力を駆使して実現するという感じです。実現したいってことは制約度がないというか、難しい案件も「なんとかします」と言って実現してしまう、っていうのが会社の売りみたいな状況です(笑)。

きっかけはシンディー・ローパー

プリズムの“様々なものに投影したい”という姿勢は創業のきっかけにあるようだ。

松浦氏:元々、弊社の代表・深津修一は公民館などで映画を上映する会社に勤めていました。その頃、1995年シンディローパー・ジャパンツアーで「彼女の胸に映像を投影して欲しい」という依頼があったそうです。それまでスクリーンという枠の中でビジネスを完結してきた人間にとって、その自由な発想は衝撃だったそうです。

そして無事コンサートツアーを終えた3ヶ月後「これこそこれからの映像表現のあるべき姿だ」と、株式会社プリズムを立ち上げたそうです。

プロジェクションマッピングも日本でまだあまり知られていない2003年頃から手掛けており、常に最先端を追い続けている。

架設式全天周映像ドーム「ホワイトロック」

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ドーム専用動画再生ソフトウェア「AMATERAS Dome Player」

「四角いスクリーンに縛られない」プリズムの売りの一つが「ホワイトロック・ビジュアルドーム(通称:ホワイトロック)」だ。巨大なスクリーンのドームをくみ上げ、天井一面に映像が投影されるというもの。国内で唯一プリズムが扱っている。


松浦氏:弊社が所有しているホワイトロックをイベントごとに会場に建設しています。映像は6台のプロジェクターで映しており、AMATERAS Dome Playerというドームプロジェクションに特化したソフトウェアを使用しています。サッポロ・シティー・ジャズではホワイトロックがコンサート会場になりました。さっぽろ雪まつりや東京デザイナーズウィークなど様々な案件で活躍しています。

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ホワイトロック。大きさは直径99ft(約30m)~24ft(約7m)とバリエーションも豊富

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視界すべてが映像という空間は圧巻。寝転んで鑑賞するとより没入感を堪能できる



北海道からモンゴルまで…北国で培った技術力

2010年11月「東京都庁デジタル掛け軸」、2012年3月「日本ハムファイターズ開幕戦3Dマッピング」など様々なプロジェクションマッピングを手掛けている。2014年2月さっぽろ雪まつりで大雪像「大雪像イティマド・ウッダウラ(インド)」へのプロジェクションマッピングはメディアでも話題になった。

松浦氏:雪まつりのプロジェクションマッピングはいろいろ苦労がありました。1つは投射する物が日々形を変えることですね。雪像はパッと見ではわかりませんが徐々に溶けて形が変わってしまうんです。1週間ほど毎日マッピングの調整をしていましたね。あとはプロジェクターの熱問題。寒すぎても落ちるし暑すぎても落ちる。雪が降るので防水もしないといけない…。落ち着かせどころに持っていくノウハウがかなりたまりましたね(笑)。

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さっぽろ雪まつりでのプロジェクター設置の様子

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特性のケースで熱問題を解決

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配線のための雪かき



国外でも大きなプロジェクションマッピングを手掛けている。モンゴル国家主催のイベント「国家ナーダム」では、10万人の前で国会議事堂にプロジェクションマッピングをしたという。

松浦氏:企画の段階から大変でしたね。3ヶ月ほどの間、何回も打ち合わせ行くところからでした。日本から機材を持っていたんですが、飛行機がすごい小さな直行便しかなくて、プロジェクターもケースに入れると積んでもらえなくて、わざわざダンボールをもう一度買い直したりとかしましたね(笑)。発電車はロシアから調達しました。

しかしドライバーがロシア人で、ロシア語しか話せなくて「スイッチを切りたい」「燃料大丈夫?」みたいな一言も日本語からモンゴル語に通訳してもらってモンゴル語からロシア語の通訳に話して…大変でした(笑)。

幾多の困難を乗り越えて行われたプロジェクションマッピングは大成功を収めたという。

松浦氏:モンゴルの英雄・チンギス・ハンが立ち上がる演出の部分では10万人の大歓声が衝撃波のように押し寄せてきました。やりがいありましたね。

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モンゴル国会議事堂へのプロジェクションマッピング調整時



厳しい現場を支える機材たち

数々の大規模な現場や条件のあまりよくない現場などを乗り越えてきたプリズム。トラブル対策に頭を悩ませ、機材選びには細心の注意を払っている。

松浦氏:一番は使いやすさですが、できるだけ国内メーカーの物を選ぶことが多いですね。輸入物だと代理店がやめちゃいましたってなるので…。まずは修理といったときに、対応していただけるのが一番ですね。

また、機能面でも助かっている部分が多々あるという。

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Roland「M-200i」。Wi-Fi経由でiPadでも制御が可能

松浦氏:ケーブルの引き回しは大きい会場になればなるほど電源や他のケーブルと一緒になることが多いんです。アナログのケーブルだとノイズが走りやすいのでローランドのREACシステムを使用することが多いです。REACだとLANケーブルを引くだけで高音質で40ch分の音声/リモートコントロール/レベル情報を伝送できるので、現場で楽に出来ている状況ですね。

後は、M-200iのミキサーを導入しています。iPadで操作できるので、会場を歩き回りながら調整できるのがいいですね。ビデオミキサーはV-800HDがすごく出ています。マルチフォーマットなので現場でどんな信号が来ても対応できるという点は素晴らしいです。

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Roland「V-800HD」。SDI・HDMI・RGBなど様々な信号が混在可能

どんな場所でも映して見せます

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Roland「S-0816」。デジタル伝送「REAC」で24chの高音質オーディオを細いケーブル1本で伝送できる

松浦氏:私たちは小さな会社なので、物量で勝負は中々大変かなと。なのでちょっと変わったとこを出していきたいなと。普通に映し出せない所に映すという形のことは抜きん出たいなというのがありますね。「悪条件の所でもやります!」というとそんな案件ばかりになってしまいそうですが(笑)。

でも条件が悪い所でのイベントはノウハウを持っているので、日本のイベンターさんが海外でイベントをするときには選んで頂きたいなと、そして一緒に面白いモノを作っていきたいなと思っています。

クリエーターの思いを何としてでも形にしたいという“熱意”を幾多の困難を乗り超えて得た“自信”によって昇華させる。すばらしいプロ根性を垣間見た。四角いスクリーンの枠を飛び超えていくプリズムのチャレンジから今後も目が離せない。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。