小型化する4Kカメラ機材

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Panasonic DMC-GH4

4Kの解像度を捉えられるカメラがどんどんと小型化している。特に今年の夏前に発売となったPanasonic DMC-GH4はびっくりするほど小型で軽い。筐体だけでも500gを切る軽さで、更にもともと小型・軽量設計のマイクロフォーサーズのレンズを使用するため、その重さは1kg程度だ。

バッテリーも長持ちするし、メディアは汎用性のSDカードだし、恐るべき機動力を持っている。もちろん内蔵収録形式はH.264の8bit4:2:0/ビットレートの100Mbpsという高い圧縮率なため、各社のデジタルシネマカメラのような「高画質」な収録とはいかないが、4Kカメラの中でも異色を放つ存在である。

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SONYのα7S。4K収録が可能なDSLRが2014年は続々と登場

一方で4K画質と機動力を備えた一台として、SONYのα7Sが挙げられる。このカメラも本体だけで500gを切る大きさで、なんとフルサイズのセンサーサイズをもつ。内蔵で4Kを記録することができないのだが、超高感度のセンサーによるS-Log2による撮影は一目に値するだろう。HDMIから4K出力があるため、外部収録のシステムを組めば高画質の4K収録ができるというわけだ。

小型機の優位性を利用した特機を紹介

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言わずと知れたALLEX。80cmの長さのスライダーであり、三脚ヘッドを用意せずに直接スライダーが三脚に載る点が魅力だ

今回は小型・軽量という特徴を活かして更にカメラの付加価値を上げてくれる特機を前編・後編にわたって紹介したい。まず前編が小型スライダーとして注目を集めるLibecの「ALLEX」。後編は今話題の3軸ジンバルの中でも最新機器といえる、RedWolfのe-ジンバルである。

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3軸ジンバルのe-ジンバルはキャリブレーション時間が短く、セッティングも簡単に行えるスタビライザーだ

両方とも「特機」と呼ぶには小さく、軽いということが挙げられ、一人で運べるほどにコンパクトである。またコストパフォーマンスも素晴らしい。三脚と雲台、そしてスライダーがセットになったオールインワンの「ALLEX S KIT」は実売8万円程度で、e-ジンバルは20万円を切る価格である。

まずはこれらを使ってテスト撮影した動画をご覧いただきたい。モデルとカメラマンと私の3名だけで電車移動の中撮影を行った。機材を運びつつの収録で、モデルの動きなどは全てその場のアドリブである。撮影された素材をそのまま見ていただきたいので、ポストプロダクションでは一切のスタビライザーは使っていない。多少の揺れはあるものの、視点移動の効果はてきめんだ。

Libec ALLEX S KIT

NAB2014で公開されたLibec ALLEXデモ ビデオ

今年の4月、三脚メーカーの平和精機工業のLibecブランドから新たなスライダー「ALLEXシリーズ」が発表された。三脚メーカーらしく三脚ヘッドを活かしたシステムを作り、その使い勝手の良さや滑らかなスライダーなどから、発売前に予約が殺到したとのことだ。今回は「ALLEX S KIT」という三脚、三脚ヘッド、スライダーの3点がセットになったモデルを使って撮影を試みた。さらなる詳細情報等に関しては、同社のホームページやFacebookページを確認してほしい。

ALLEXは、「三脚撮影」から「スライダー撮影」への転換をスムーズに行えることに重点を置いて製作されているようだ。まず、従来のスライダーを想像して欲しい。用意するものは、三脚、ヘッド、スライダー。これだけでは、三脚にスライダーが載っているだけで、スライダーの雲台にはカメラが載るだけだ。そのため、スライダー上でカメラをパン・チルトは出来ない。しかしALLEXの場合、スライダー上で三脚ワークを行うためにヘッドを搭載できる工夫が施されている。

三脚メーカーらしい、ハーフボール一体型のスライダー

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ALLEXの構造は非常にシンプル。長さ80cmのスライダーの中心部に75mmφのハーフボールが用意されており、三脚ヘッドを介さずに直接スライダー部分を三脚に載せられるようになっているのだ。直接搭載できるようになったことで、従来の「スライダー」と「三脚」の間にあった「ヘッド」をレールのスライダープラットフォームの上でパン・チルトを可能にしたのである。

また、このヘッドであるALLEX Hも、これまでのLibec製三脚ヘッドとは違い、パン棒を含めて約1.3kgと軽量化された新たなヘッドだ。耐荷重は、3kg。さらに、フラット・ボール兼用で、ムービー三脚だけではなく、スチル三脚にも取り付けられるようになっている。フラットベースは、スケータードリーなどの様々な特機でも使用できるようになるため、三脚ヘッドだけでも運用でも重宝するだろう。

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スライダープラットフォームに水準器が搭載されており、三脚メーカーらしさが感じられる

また、スライダープラットフォームに水準器が搭載されるなど、Libecらしさも持ち合わせている。スライダーを設置する流れで水平をサッと取れるなど、細かい点ではあるが実際に準備する身には優しい作りだ。また、ヘッドとスライダーを固定する締付ハンドルは、一つのものを共有することになり、セッティング中の煩わしさは全くない。こういった準備をシンプルにする機能の数々は時間のない撮影現場でとても有効的に使用することができ、DSLRなどのワンマンオペレーションでは大きな利点なことは間違いない。

強弱の調整が可能な8点ベアリング

では、最も大切なスライダーの「滑らかさ」はどうか…言わずもがな、これがとてもスムーズなのだ。スライダーとスライダープラットフォームの間には、8個のボールベアリングが装備されており、この8個の接点がスライダーのスムーズさを左右するポイントとなる。これまで様々なスライダーを使用してきたが、ベアリングの強さをコントロールすることができないため、カメラ重量によりスムーズさをコントロールできず、結果的に上手くスライドできないことが多々あった。そのため、使用するカメラに見合ったベアリングの強さを持つスライダーを探すことが重要であった。

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スライダーには8個のベアリングがついており、ベアリングの硬さを調整できるのが魅力の一つだ
※写真は試作品段階の物で、製品版は材質が変更されている

しかし、ALLEXの場合、なんとベアリングの強弱を調整できるのだ。カメラの重量に合わせて、スライダーの強さ・滑らかさを決定できるのは、ALLEXの価値を高めている要因の一つであろう。調整には同梱の六角レンチが必要であり、前日などの撮影前の段階で、調整するといい。そして、シーンによってはスライダーの滑らかさを微調整する場合もある。その際には、プラットフォームに取り付けられたフリクションツマミにより、細かな調整も行えるのだ。そのため、スライダーの調整を行うには、まずはベアリングの強弱をカメラに合わせて行い、撮影現場ではフリクションツマミでシーンに適した強さにするのがいいだろう。

ALLEX+FS7

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カメラを入れても総重量7kg未満と、非常に軽いため、持ち運び、セッティングが簡単である

今回は、PanasonicのGH4やSonyのPXW-FS7を使用してテストをした。GH4はアクセサリーなどをつけずに、カメラのみを搭載したが、カメラが軽いこともありセッティングは簡単であった。さらにスライダーもスムーズでありレールの端にカメラを持って行っても歪むこともなく、強固な作りとなっていた。

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実際にGH4で撮影すると、レールが歪むこともなく、引っ掛かりもなくスムーズな動きをすることができた

FS7の場合、レンズを含めて3kgほどの重さがあり、DSLR用に調整していたALLEXではスムーズにスライドを行えず、ガタガタな映像になってしまった。しかし、ベアリング調整を改めて行うと、プラットフォームは引っかかることなく、スムーズにスライダー上を行き来してくれた。ALLEXのカメラの最大搭載重量は15kg(テーブルトップ使用)と、もちろん上限はあるが、その範囲内の重さのカメラであれば調整次第で滑らかに動くため、ALLEXが1台あればスライダーは十分であると感じる機材であった。

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FS7を搭載して撮影を行ったが、GH4用のセッティングではやはり動きにくく、ベアリングの調整を行った

スライダーの各所にもユーザーへの配慮が施されており、スライダーのエンド部分には用意された「脚」は、取り外すことなく開閉ができる。床置きでの使用時に簡単に広げられ、移動時には閉じて仕舞うことが可能である。さらに、LibecのフレキシブルアームAS-7Kもエンド部分に取り付けられるなど、拡張性への配慮もある。

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スライダーのエンドには「脚」がついており、床置きでもしっかりとスライドをできる。また脚は開閉式のため、移動時は脚を閉めて小さくできる

ワンマンオペレーションでもストレスなし

ヘッド、三脚の軽量化も施されたALLEXシリーズは持ち運びが簡単なワンセットのスライダーである。全て合わせても総重量5.8kgと軽く、ワンマンオペレーションでも楽に使用できる。カメラ総重量が15kg以内であればスムーズなスライドが可能であるため、4K撮影可能なDSLRに外部収録器などを組み合わせて使うのもいいだろう。今回はALLEX S KITの使用となったが、ヘッドを2つ用意できるのであれば、スライドを斜めや縦にして使用することも可能になるなど、撮影の幅が広がることは間違いない、拡張性の高いスライダーだ。


[DigitalGang! Extra] Vol.02

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。