Blackmagic Designは先のNABでユーザーがアップグレード可能な4KデジタルシネマカメラBlackmagic URSAと大型のLCDモニターとカメラを一体にしたBlackmagic Studio Cameraを発表した。同社はそれ以前にBlackmagic Cinema CameraやBlackmagic Production Camera 4K、Blackmagic Pocket Cinema Cameraといった新しいコンセプトのカメラを発売していたが、それらはいずれもプロシューマーをターゲットとした製品だった。今回NABで発表されたカメラはテレビやデジタルシネマの現場でプロが使うにふさわしいカメラとして設計されたものだという。

本邦初公開?Blackmagic URSAを解剖する

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Blackmagic URSA PL

Blackmagic URSAにはEFマウント、PLマウント、B4マウントの3機種のほか、HDMIを搭載したセンサーレスのボディがあるが、発売はEFマウントとPLマウントの2機種が先行して提供される。今回この2機種のほかBlackmagic Studio Camera 4Kが国内に入荷されたので紹介したいと思う。

Blackmagic URSAで最もユニークなのは、センサー部分をユーザーが交換できるようになっており、例えば将来的に暗視対応やハイスピードのほか、マイクロフォーサーズマウントなどのセンサーを搭載したモジュールと交換できる余地が残されている。また、サードパーティがこうしたモジュールを開発できるよう同社では本体とのインターフェースなどの技術情報も無償で提供するという。

モジュールの交換をユーザーが行えると謳ってはいるものの、NAB発表時も実際にこうしたデモは行われておらず、センサーモジュール単体の展示もなかった。交換用のセンサーモジュールが発表されていないので当然ともいえるが、まずは最も気になるセンサーモジュールを取り外してみよう。

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センサーモジュールはレンズマウント周囲の4本のネジを外すことで取り外すことができた。このスペースに色分解光学系をもつB4マウントを組み込むのはかなり難しいと思われる。補正光学系を組み込んだ単板式になるのだろうか。発売が後になっているのはそうした事情があるのかもしれない

発表時の説明では「4本のネジを外すのみ」ということだったので、マウント周囲にある4個のネジを外しセンサーモジュールを引っ張りだす。コネクターかケーブルで接続されて簡単に外せるものと思っていたが、期待に反してかなり力を入れないと外すことはできない。

それもそのはずで、センサーの放熱のためボディ側と熱的に結合するために、PCのCPUの放熱器で使われているようなグリースがたっぷり塗られている。実際はかなり粘度の高いグリースで、パテか粘土に近い感触だ。カメラ側の接合面には碁盤目状に溝が切ってあり、ピッタリ張り付いてしまわないように配慮されているようだ。ということで、撮影現場で簡単にセンサーモジュールを交換して使用するという運用は避けたほうが良さそうである。

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取り外したセンサーモジュールは回路基板がむき出しで、交換時にはグリースの再塗布も必要になるので、撮影現場での交換は危険だろう。グレーのグリースの下にセンサーを冷却するペルチェ素子がある

Blackmagic Designもアップグレード可能ということで、現場での交換は想定していない。あくまでも”新たなセンサーが出たらユーザーが交換できます。”という前提になっている。

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センサーモジュールを横から見るとセンサーと熱的に結合するための銅の部材が見える。基板は2階建てとなっている

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センサーモジュールを取り出した本体部分。熱的に結合するようになっているほか、ネジ穴以外にセンサーモジュールの決めピンの穴がある。電気的にはコネクターで接続されるようになっている

URSAはデジタルシネマなど制作用を意識した設計となっており、4K対応やRAW記録は当然のこと、操作性やデザインなども制作用のカメラとしての要件を備えている。特に操作面では両側面にタッチスクリーン式のLCDモニターを装備しており、各種設定やタイムコードやWFMなどテクニカルなインジケータが独立して表示できるようになっている。

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こうしたカメラでは異例の大型LCDモニターが装備されており、タッチスクリーンによる操作なのでファンクションボタンが並んでいるもののスイッチの数は少ない

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反対側にも同じLCDモニターが搭載されており、カメラマンは映像に集中し、VEやアシスタントがテクニカルな操作を分担するような運用にも別モニターなどを用意しなくても対応できる

また、カメラボディもアルミ合金製の堅牢な作りになっており、随所に1/4または3/8ネジ穴が空けられている。URSAの電源を入れてしばらくするとカメラ全体が温かくなってくるが、センサーやカメラ内部のデバイスから発生する熱をボディ全体で放熱しているほか、カメラ後部からファンによる強制冷却も行っている。

ファンの音は非常に静かで回転しているのが分からない。これならカメラの近くにマイクがあってもファンの雑音を拾うこともないだろう。URSAにはマイクが内蔵されているが、レベルメータにファンのノイズが現れることはなかった。

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カメラ上部には様々なアクセサリーを装着できるようにネジ穴が随所に設けられている。肉厚のアルミ合金のボディとなっており、こうしたアクセサリーの装着もゲージなどを使わなくても安心して装着できる

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カメラ後部の放熱口からはファンで排気されるようになっているが、動作音もなく極めて静かだ。肉厚ボディが放熱器の役割を果たしているようだ

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レンズマウント下部に小さな穴が2つあり、内蔵マイクによる音声収録用となっている。本体のファンは静かだが、レンズの操作音やモーター音を拾いやすい位置ともいえる

URSAにはソニーなどのENGカメラで使われているVエッジの三脚アダプター(俗に言うフネ)が標準装備されているが、オプションでショルダーアダプターが用意されている。ただ、カメラが7kgほどでレンズやバッテリーなど撮影に必要な装備をすると10kg以上になり、昔のENGカメラ並みの重量を覚悟しなくてはならない。

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オプションのショルダーアダプターは前側にロッドやハンドルが装着できる部分とショルダーパッドの2個で構成されている。これらは、標準で装備されているVエッジと交換になるので、このアダプターを装着するとフネによる三脚搭載はできない

フネは他社製の物を利用するわけだが、どこのメーカーのものでも使用できるとは限らないようで、ソニー製のものは装着できたが、他社のもので装着できないものがあった。フネ後部のネジ部分がURSA側の切り欠きにピッタリおさまらない。そのためにソニー製のフネはこの部分がバネで後ろに可動するため装着できたわけだ。オプションのショルダーアダプターは肩パッドの前後が金属製になっているため、体型によってはこの部分が当たるので、別途座布団のようなものを用意した方がいいかもしれない。

ちなみに、標準装備のVエッジもオプションで15mmのロッドが装着できるようになっており、マットボックスなどを取り付けることも簡単に行える。

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上からモニター出力端子、電源、音声入力。いずれも業界で標準的に使用されているコネクターなので、特殊な変換などは必要ない

CFast 2.0対応のコンパクトフラッシュカード(CFメモリーカード)スロットを2基備えており、交互に交換して長時間記録を行うことができるようになっているが、現状では60fpsの4KRAWには対応していない。500MB/sほどの高速メモリーが必要とのことで、将来的にこうしたメモリーに対応したファームが提供されてからの対応になるという。なお、カメラ底部にUSBコネクターがあり、ファームはこのUSBを利用してユーザーサイドで行える。

12G-SDIは同社の独自規格となっており、現在のところ同社の製品にしか採用されていない。他メーカーの既存システムとの接続にはSDI×4への変換が必要になるが、近いうちにアダプターが発売になるという。このカメラ用に12G-SDI to SDI×4のアダプターをカメラ後部のバッテリーマウントとの間に装着できるようになるとスッキリするのだが、汎用性を考えると同社のミニコンバーターシリーズとなるのかもしれない。

HD-SDIでも100mほどのケーブル長が限界といわれており、12G-SDIとなると5Cの同軸ケーブルでもそんなに長いケーブルは使用できないだろう。スイッチャーなどと組み合わせてマルチカメラとしての使用は注意が必要だ。

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同社の独自規格の12G-SDIはケーブル1本で4Kの伝送が可能だ。既存システムなどではSDI×4を採用していることもあり、12G-SDI to SDI×4のアダプターが用意されることになっている

バッテリーマウントは標準では装備されていないが、ソニーVマウントやアントンバウアーのゴールドマウントプレートに対応したネジ穴が装備されている。VマウントはIDXが近いうちに対応するということで、これを使えば簡単に装着できるようだが、ソニーやアントンバウアーの純正品の場合はカメラ側のコネクターとの配線をしなくてはならない。

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後部のバッテリーマウント装着部分。マウント装着には手前にあるようなコネクターケーブルが必要になる。電源は+側4極、-側4極で接続されるようになっており、バッテリー残量などの情報用接続も可能となっている

数年前にREDがデジタルシネマ業界に一石を投じ、その後キヤノンなどデジタル一眼のメーカーやソニーなどのビデオメーカー、更にはARRIまでもがアフォーダブルなデジタルシネマカメラを市場に投入し、まさに激戦区となった。特に今年のNABではAJAもこの市場にカメラを投入。いずれもCMOSの欠点であるローリングシャッター現象を克服しており、今後の動向に注目したい。このレンジのカメラから目が離せないのである。

WRITER PROFILE

稲田出

稲田出

映像専門雑誌編集者を経てPRONEWSに寄稿中。スチルカメラから動画までカメラと名のつくものであればなんでも乗りこなす。