取材:鍋 潤太郎
会場となったTCLチャイニーズ・シアター。両側に「IMAX」の文字も見える

はじめに

ハリウッドでは、映画業界のギルド(組合)が各専門分野に分かれて存在している。例えば、皆さんもよく耳にされるであろう米監督組合、脚本家組合、映画俳優組合などが有名だが、VFX分野でもVES(ビジュアル・エフェクト・ソサエティ)がある。さて、これらのギルドでは最新技術や成果を業界内でシェアする為の講演会、セミナー、そして試写会などを定期的に開催している。このイベントをこまめにチェックしていると、有名監督自身が登場される講演会に参加出来るなど、極めて貴重な機会に恵まれる事もある。

INTERSTELLAR © 2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures. All Rights Reserved.

今回は、映画「インターステラー」の11月7日の全米公開に合わせて、ハリウッドのチャイニーズ・シアターにおいて、映画業界関係者向けの試写会+監督を含む制作クルーによるQ&Aセッションが開催された。

映画「インターステラー」は日本でも絶賛上映中という事もあり、ご覧になられた方も多い事だろう。大変タイムリーな内容である事から、今回は、その模様をざっくりと要約し、みなさんにご紹介する事にしよう。ちなみに、このQ&Aセッションは撮影現場レベルの話が中心で、映画のストーリーやネタばれ関連の情報は一切含まれておらず、これから映画をご覧になられる方も、どうか安心してご一読頂ければと思う。

会場は有名なチャイニーズ・シアター

会場は、ハリウッド大通りの中心にあり、観光名所として有名なチャイニーズ・シアター。このシアターで映画が観れるという事を、知らない観光客は意外に多い。そう、ここはれっきとした映画館なのである。

チャイニーズ・シアターは、2013年からオーナーが代わり、大規模な改装を経て同年9月20日にIMAXシアターとして生まれ代わり、現在はTCLチャイニーズ・シアターという名称になっている。29m×14mという巨大シルバー・スクリーンと、座席数932を誇り、北米では3番目に大きなIMAXシアターである。

試写会とQ&Aセッション

INTERSTELLAR クリストファー・ノーラン監督 © 2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures. All Rights Reserved.

この日はまず、チャイニーズ・シアターの大スクリーンで、映画「インターステラー」の試写会が行われた。試写はデジタル上映ではなく、70mm15Pのフィルムを使用した、IMAXプロジェクターによるフィルム上映のプレゼンテーションであった。ちなみに「インターステラー」は、チャイニーズ・シアターでの公開はデジタル上映ではなく、IMAXフィルム上映によって公開が行われているというから興味深い(詳細は後述)。

試写会の後は、監督及び主要クルーによるQ&Aセッションが行われた。今回は複数の映画ギルドのメンバーを対象とした試写会だった事もあり、残念ながらVFXに特化した掘り下げた内容ではなかったものの、普段なかなか聞けない撮影現場のお話などを伺う事が出来、個人的には大変興味深い内容であった。

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試写会後のQ&Aセッションの模様。前列中央がクリストファー・ノーラン監督

パネラーの顔ぶれ(敬称略)

  • 監督:クリストファー・ノーラン
  • 撮影監督:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
  • プロダクション・デザイン:ネイサン・クロウリー
  • セット・デコレーター:ゲリー・フェティス
  • 編集:リー・スミス
  • コスチューム・デザイナー:メアリー・ゾフレス
  • 音楽:ハンス・ジマー
  • サウンド・ミキサー:マーク・ウェインガルテン
  • リーレコーディング・ミキサー:ゲイリー・リッツオ、グレッグ・ランディカー
  • サウンド・デザイナー:リチャード・キング
  • VFXスーパーバイザー:ポール・フランクリン
  • SFXスーパーバイザー:スコット・フィッシャー
  • IMAXスーパーバイザー:デイビッド・キリー(IMAX D.K.P代表)

パネラー達は、ノーラン監督の事を「クリス」と呼び、気心知れた、ほのぼのした和やかな雰囲気の中でパネルは行われた。ノーラン監督も終始笑顔で、一言ひとこと丁寧に答えていた。そんな監督から伝わってくる印象は「謙虚で、もの静かな紳士」といった感じ。

Q&Aセッションでは、司会者が質問を投げかけ、各パネラーがそれに答える形で行われ、時折参加者からの質問も受け付ける形で進行された。下記はその抜粋および要約である。

――壮大なストーリーでしたが、企画開発には時間が掛かりましたか?

ノーラン監督:元々はスピルバーグ監督が企画を温めて手掛けていたプロジェクトでした。それを私が引き続く形になりました。足掛け7年掛けて、ストーリー・デベロップメントを行いました。

――「メメント」に代表される、時間軸を逆行させる演出のアイデアは、何処から生まれてくるのでしょうか?

ノーラン監督:あの手法は、私自身の経験から、そして自分の中から、自然に出て来るという感じです。タイムスパンを分解する事で、ストーリーをより壮大に、そしてストーリー・テリングをより興味深く行える利点があると考えています。

――今回は視覚効果の面でも、チャレンジが多かったのでは?

ポール・フランクリン氏(VFX) / スコット・フィッシャー氏(SFX):この作品は宇宙空間など、ビジュアル面での大きなチャレンジが必要とされる視覚効果が沢山登場します。科学的&視覚的の両面から見て、説得力のある映像に仕上げなければなりません。単なる「SF映画的な映像」にはしたくありませんでした。VFXはダブルネガティブ、SFXはニューディール・スタジオが手掛けています。

※筆者注:VFX(Visual Effects)はポスト・プロダクションによるデジタルの視覚効果、SFX(Special Effects)はミニチュアや炎など、撮影時に行う物理的な視覚効果という形で、現在も使い分けられている

INTERSTELLAR © 2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures. All Rights Reserved.
――編集は如何でしたか?

リー・スミス氏(編集)これまで、クリス(ノーラン監督)とは過去6回程、ご一緒にお仕事をさせて頂きましたが、今回も大変複雑な内容の作品でございましたですね~。なんだか、作品を追う毎に、どんどん複雑化しているようにも思います(場内爆笑)。

――この作品は、宇宙船内のシーンを始め、多くのシーンがIMAXフィルムで撮影されていますが。

デイビッド・キリー氏(IMAX):その通りです。でも、なぜそうなったのかは、私よりもクリスに聞いてもらった方が良いでしょうね(笑)。

ノーラン監督:70mm15Pという大型サイズのIMAXフィルムで撮影する事で、非常に鮮明な映像が得られるのです。私自身も、IMAX映画の火星ドキュメンタリー作品などの大ファンです。「インターステラー」においては、特に、コックピットでのヘルメットの映り込み、ガラスやライトの見え方など、そういうドキュメンタリー・スタイルの絵を表現してみたのですが、これらは「IMAXフィルムによる撮影ならでは」と言えるでしょう。

――今回も素晴らしいサントラが印象的ですが、作曲での苦労は?

ハンス・ジマー氏(音楽):2年前のある日曜日、クリスから、キレイな薄い紙にタイプされた、1枚の手紙が届きました。クリス、あのタイプライターはどんな機種を使っているのかな?私は、あのキレイなタイプの隠れファンなんだが…。その手紙には、映画の概要が1ページにまとめられていました。クリスと仕事をする時は、いつも2人でアイデアを出し合いながら曲を仕上げていく事が多いですね。時には電話口を通して曲を聞いてもらったりとか(笑)。この曲には、ドラムを入れないようにしよう、ここはストリングス(弦楽器)で行こう、などと相談しながら、4ケ月ほど掛けて仕上げていきました。

――プロダクション・デザインは如何でしたか?

ネイサン・クロウェイ氏(プロダクション・デザイン):…あ、私も手紙をもらいましたよ(場内爆笑)。監督とランチをして、映画の内容を説明されましたが、最初は「は?」という感じで(笑)、映画全体のイメージを掴むのに苦労しました。そこから4~6週間掛けて、どんな世界観を表現していくのか、意見を出し合いました。説得力のあるデザインにする為、NASAの資料をリサーチしたり、LAのカリフォルニア・サイエンス・センターで展示されているスペースシャトル・エンデバーを見に行ったり。観客が「見慣れた」宇宙のイメージに近いものを目指しました。

――衣装デザインで苦労された部分は?

メアリー・ゾフレス氏(コスチューム・デザイナー):中でも、宇宙服のデザインには気を配りました。NASAで見慣れた、あの「お馴染み」の宇宙服を表現する為、ワーナースタジオのワードローブ(衣装)部門で、沢山の種類の宇宙服を実際に縫い合わせてみて、その中から良いものを選んでいきました。

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チャイニーズ・シアターのロビーでは、撮影で使用された宇宙服の衣装が展示されていた

――撮影現場での苦労は?

ホイテ・ヴァン・ホイテマ氏(撮影監督):この作品は膨大なショット数で、それが苦労と言えば苦労でしたが、クリスは全ショット、全アングルを全て完璧に覚えていて、コンピューターを必要としませんでした。それには驚きましたね。

ゲリー・リゾー、グレッグ・ランディカー氏(リーレコーディング・ミキサー):撮影現場では、役者の音声を拾うのがいつもチャレンジなのですが、今回は宇宙服のヘルメットを被っていた事が大きな助けになりました。何故かと言えば、IMAXのフィルムカメラって、回すとすごい音がするんですよ。でも、ヘルメットの中にマイクを仕込んで録ると、ヘルメットがカメラ・ノイズを遮断してくれるんです(笑)。そのお蔭で、ダイアログを拾うのに、非常に助かりました。

――サウンド・デザインでこだわった部分は?

マーク・ウェインガルテン氏(サウンド・ミキサー):「リアルな音を作ろう」、それがベースにあったコンセプトでした。どんなサウンド・エフェクトを入れるかで、観客が受ける印象は大きく変わります。映画を観た人が「リアルに感じる」事、それを突き詰めていきました。

――今日のチャイニーズ・シアターでの試写は、デジタル上映ではなく、IMAXフィルム映写機によるフィルム上映でしたが。

デイビッド・キリー氏(IMAX):今日の試写に参加された皆さん、是非、TwitterやFacebookでこう拡散してください。「映画『インターステラー』は、ここチャイニーズ・シアターで、IMAXフィルム上映で見るべきだ!」とね。是非とも、IMAXフィルムの醍醐味を堪能して頂ければと思います。

――それではお時間です。みなさん、さようなら!

…と、このようなパネル形式のQ&Aセッションであった。

今回は、司会者を含め総勢14人という大所帯のパネル・セッション、しかもノーラン監督ご本人が登壇されるという事もあり、チャイニーズ・シアターは満席状態。会場内には知り合いのVFX関係者の顔も多く、LA中の業界関係者が詰めかけたという感じであった。

おわりに

最後に、「インターステラー」の、アメリカでの上映フォーマットについて、言及しておきたい。

この作品は、全てフィルム撮影。35mmパナビジョンのアナモルフィック・レンズ、35mm8Pのビスタビジョンカメラ、そして70mm15PのIMAXカメラ、この3つを使い分けて撮影されているが、特にIMAXフィルムで撮影されているという事もあり、全米公開では、

  • 全米42箇所の限定IMAXシアターにおける70mm15P IMAXフィルムによる上映
  • 全米11箇所の限定映画館における70mmフィルムでの上映
  • 映画館における35mmフィルムでの上映
  • IMAXシアターでのデジタル上映
  • 映画館における4Kデジタルプロジェクターによる上映
  • 映画館におけるデジタルプロジェクターによる上映

という多彩なフォーマットでの配給が行われており、大型映像ファンやポスプロ関係者には大変興味深い上映形態と言えるだろう。特に、映画館での70mm上映というのは久しぶりに聞く響きで、フィルム文化存続に積極的なノーラン監督の姿勢が見てとれる。

もしこの作品をIMAXのフィルム上映で鑑賞したいなら、是非とも、前述のTCLチャイニーズシアターがおススメである。上映期間、上映時間などの詳細はコチラ。近々に渡米を予定されている方は、是非ともチェックされたし。

■参考用サイト

映画「インターステラー」日本公式サイト
http://www.interstellar-movie.jp/

米公式サイト
http://www.interstellarmovie.com/

米公式サイト 上映フォーマットに関する詳細ページ
https://interstellar.withgoogle.com/ways-to-see

米公式サイト 撮影フォーマットに関する詳細ページ
http://www.interstellarmovie.com/formats/


『インターステラー』大ヒット上映中!
オフィシャルサイト:http://www.interstellar-movie.jp
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures. All Rights Reserved.

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。