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Column

Vol.09 8年目の先生稼業

2015-05-01 掲載

現場の空気を伝えるむずかしさ

「『あまいものが たべたいわ。そうだ プリン つくりましょうよ!』っていって」

3歳の娘はままごとに夢中だ。たいていは娘がお母さん役で、私は娘役というリアルとは逆の設定で、台詞は彼女が考える。しかし適当に棒読みなんてしたものなら「そんな ひくい こえ じゃなくて、もっと たかい こえ だして!」「もっと もっと おおきな こえで!」などと蜷川幸雄氏ばりの演出がついてくる。…うーん、血は争えない。

週に一回、慶應義塾大学でアニメーションの授業をやるようになってから、8年目になった。映画監督や演出家など、本業の裏で学校の先生をやっている人たちは意外と多いが、本職が不安定なゆえに次第と先生が本業になっていく人もいるのがこの業界。私も最初に話がきたときは、「ついに先生業で骨を埋める日が来たか…」と現役引退を考えそうになったけれど、大学側の条件は「現役」ということ。学問としてのアニメではなく、活きたアニメーションを生徒に学んでほしいという意図で、私のような現場に近い人間を採用したいらしい。

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春の慶應義塾大学三田キャンパス。みんな浮かれてふわふわとかわいい

私は仕事でアニメーションを作る事はあるが、アニメの専門家でもないし、人に教えられるほどの知識もない。しかも人前が苦手だし、緊張しいだし、喋りも苦手ときたもんで、学校の先生に向いてる要素があまりない(ディレクターに向いてる要素もあまりないけど)。

しかし授業の相手が留学生と聞けば気持ちも引き締まるってもの。今の日本で勉強しようと思ってくれる外国人がいることだけで涙が出てくる有り難さだし、せっかくなら日本をもっと好きになって帰ってほしい。ならば、みんなの記憶に残る面白い授業をやってみよう。私の大学時代は美大の「映像」専攻だったので、印象に残っている授業を思い出してみた。

  • カメラマンや照明さん、脚本家などがゲスト講師として授業に現れた。現場の人がまとう空気感はとても鮮烈だった
  • 先生の話や黒板の内容よりも、授業でみた映像のことをよく覚えている
  • 生徒に対して質問が多い授業は緊張感があって、そのやりとりを忘れない

ということで、私の慶應授業の流れはこう決めた。

  1. ゲストがいっぱいきて
  2. 一本でも多くの日本のアニメーションを流し
  3. 制作会社を訪問したり、質疑応答の時間を多くして生徒と楽しく会話しながら授業をすすめる

授業のゲスト講師は、プロデューサー、音楽家、アニメーター、脚本家、演出家といろいろ呼んだけど、一番最初に呼ぶ事を決めたのは父親だった。私の父は舞台やアニメーションの演出家。「ムーミン」「オバケのQ太郎」「ルパン三世」「子鹿物語」etc…と、まさにアニメ創世記と言われる1960、70年代からヒットアニメをたくさん作ってきた。セルアニメからCGへの移行も経験しているし、未来への想いも強くある。ゲストで来る先生にはもってこいだ。

こうして親子で授業をする日が年に2回くることになった。一緒に作業するようになって気づくことは、習性がそっくりだということ。あるとき、父は朝までかかって苦労して作っていたという授業用のデータを、パソコンごとそっくり忘れて大学にやってきた。

そもそも授業の前日になってバタバタ一夜漬けのように作業をするところから人としてどうかと思うし、それを全て家に忘れてくるなんて、そっくりそのまま私のエピソードかと思うくらいのトホホな激似っぷり。しょうがないのでぶっつけ本番で、YouTubeから映像を持ってきたり、黒板を使って書きながら同じ内容の授業をしてみたら、必死さとライブ感が増していつもの数倍もおもしろい内容になった。ここら辺の、結局なんとかなってしまう結果オーライ感も自分をみてるかのようで怖くなるほどだ。…うーん、血って。

なんで先生はディレクターになったのですか?

まあなんだかんだで授業は毎度大好評だ。やはり留学生たちは日本の学生と違って、わざわざ外国に勉強にきてるものだから授業に対する向き合い方も違うし、吸収力もすごい。瞳がキラキラと輝いているので、授業をしているこちらまで元気になってしまう。もちろん日本の学生のように携帯をいじったり、寝たりする学生はほぼいない。これだけでも先生的には相当恵まれてるんだろうなぁ。

生徒たちに質問された事がある。「なんで先生はディレクターになったのですか?」

大学の専攻が映像だったし、CM制作会社に就職もしたので、その延長線上でディレクターになったのだけれど、根本的な「なぜ?」には意外と答えられない。特に強い想いや、大きな影響を父からうけた記憶もないが、やはり医者の子は医者。そういう家庭に育ったから他の職業という選択肢が思い浮かばなかったというのが本当のところ。兄や妹も一度は全然違う職種で働いたりしていたが、転職して今はみんななんだか近い職種で働いている。

いつものように授業から帰ると夜も遅い。玄関をあけると、祖母と楽しそうに遊んでいる娘の声がリビングから漏れてくる。

「おばあちゃん、わたし いま ここで しんでるから ドアから はいってきて『きゃあぁぁ』っておどろいて。おおきな こえでね!」

また厳しい演出の最中だ。ふぅぅ、どうしてこんな子が育っているのだろう?やっぱり血のつながりとしか説明がつかない。

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土嚢袋の上で迫真の演技中。「サンタクロースからプレゼントいっぱいもらったわ〜」


WRITER PROFILE

オースミ ユーカ 映像ディレクター。企画、脚本から演出までジャンルを問わず活動。


[ Writer : オースミ ユーカ ]
[ DATE : 2015-05-01 ]
[ TAG : ]

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