土持幸三の映像制作101

txt:土持幸三 構成:編集部

映像がネットで視聴できる時代

僕がロサンゼルスの大学で映画を学んでいた90年代後半は、8ミリや16ミリカメラを使って撮影をする流れの中にデジタルビデオカメラ撮影の波が起きていた。デンマーク映画で家庭用ビデオカメラで撮影された「セレブレーション」が公開され、ソニーのVX1000やキヤノンのXL1といったカメラがインディペンデント映画に新しい風を吹き込み、それらのカメラで撮影した素材を自宅のPCにキャプチャーボードで取り込み、編集ソフトで編集するスタイルが確立されていった。

そんな時、インターネットに自分が創った短編作品を公開できる場が登場した。iFilmという当時ロサンゼルスにあった会社が始めたサービスは、瞬く間に全米に広がっていった。当時のインターネット回線はアナログで、モデムをつけ「ピーガー」と音を立て接続し、動画は途中で止まったりと動画視聴に関しては良い環境とは言えなかった。

帰国して、「ネットシネマ」という文字どおりインターネットで動画を配信するサービス向けに動画を制作するようになり、テレビ局とは違うネット動画の可能性をみたが、接続回線がADSLになっていたとはいえ画面は小さく長時間見るには少々苦しい状況だった。

最近は光回線が整備され、オンデマンドの番組など高画質で長時間の作品でもネットで苦も無く見ることが出来るようになったが、なんと4Kで撮影され、4Kのまま放送・配信まで始まっているという。聞くと、友人であり映画プロデューサーでもある芳賀正光氏が現場を仕切ってやっているとのことで、池袋にあるスタジオにお邪魔した。

tsuchimochi101_12_operationroom

オペレーションルーム

tsuchimochi101_12_3cameras_DVX200

スタジオのカメラは三台のDVX200

4K番組を携帯で見る意味があるのか?その真意を探る

tsuchimochi101_12_HAgaMasamitsu

芳賀正光氏

スタジオは小さくまとめられており、機材も考えられたものが的確に置かれ、4K番組が放送できる環境が整っていた。放送局名は「モデルプレスTV byひかりTV 4K」で、24時間番組を放送し、ひかりTVか携帯電話で無料視聴することができるという。4K番組を携帯で見る意味があるのか?と思い芳賀氏に伺ってみた。

芳賀氏は、数々の映画やテレビ番組、インターネット放送局「あっ!とおどろく放送局」も手掛けてきた人物で映像の技術にも非常に詳しい。今回の4K放送に関しては、技術的な事はネット放送に比べて4Kカメラ等の機材が登場したことで、ある程度の環境は整ったのだが、4K放送に向いた番組とは何か?というノウハウを築いている段階だということだった。4K放送は4Kテレビで視聴すると、肉眼以上に見えるほどの威力を発揮する。その美しさが生きる素材や番組は何か?そして、オンデマンドで番組が好きな時間に見れるようになった現在、生放送でいかに「いま見るべきもの」を視聴者に届けられるかがカギになってきていると話してくれた。

tsuchimochi101_12_girls

写真左より岸明日香さん、原明日夏さん、栗山麗美さん(順不同)

では、その綺麗になった映像を出演者側はどう感じているのだろうか?この事はHD放送が始まった頃も話題になったが、4Kになり何が変わったのか?芳賀氏が手掛ける番組「ナナイロ~THURSDAY~」の出演者、岸明日香さん・原明日夏さんとキャスターの栗山麗美さんに伺ってみた。

女性陣三人が異口同音に話してくれたのがメイクのこと。4K放送という事で初めはバッチリ濃いめのメイクをしていたそうだが、4Kだとその濃さまでがわかってしまうため、現在は三人とも逆に薄めのメイクにしているとのこと。また、ツヤを着けるとそのツヤが目立ちすぎてテカテカになってしまうという意見もあった。

僕が使ってきたカメラも、8ミリカメラからどんどん変化しデジタル4Kになった。すでに8Kも登場してきている。規格が変わり便利になったり不便になったりもする。ただ、機材がいくら変化しても撮影の基本は変わらない。4K放送は、試行錯誤を経てより良いものが生まれるだろう。ただ肉眼で見えないものが見える超高画質になりつつあるいま、その画質をいかせる内容のコンテンツも必要になるのだと強く感じた。

WRITER PROFILE

土持幸三

土持幸三

鹿児島県出身。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。