txt:石川幸宏 構成:編集部

EOS C300 Mark IIの機能拡張ファームウェアを発表

キヤノンのEOS C300 Mark IIは、初代CINEMA EOS SYSTEM機として全世界で一世を風靡したEOS C300からの、初のメジャーバージョンアップ機として昨年の発売以来、世界の映像制作現場で活用されている。そしてこの度、兄弟機のEOS C100 Mark IIとともにその機能をさらに大きく拡げる最新の“機能拡張ファームウェア”が発表された。

特にEOS C300 Mark IIでは、新たに搭載されたCanon Log 3の搭載や、ACES 1.0ビューイングLUTへの対応、EFシネマレンズとの連携拡張など、あらゆる撮影現場の要望に応えた多くの先進機能を搭載。さらにこの春発表されたEFシネマレンズの新たなラインナップ、コンパクトサーボレンズ「CN-E 18-80mm T4.4 L IS KAS S」(10月下旬発売予定)の詳細とともに、7月下旬公開予定のバージョンアップ(無償対応)に向けて、ここではそのポイントをキヤノン開発者のインタビューを交えてお伝えする。

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写真左から:馬越氏、塗師氏、高野氏、川村氏、飯島氏、中山氏

キヤノン株式会社 イメージコミュニケーション事業部

  • ICP統括第二開発センター
    室長 中山智氏
  • ICP第四開発センター
    室長 飯島龍之介氏
  • 主任研究員 川村歩氏
  • ICP第五事業部 馬越貴子氏
  • ICP第一開発センター 室長 塗師隆治氏
  • 主任研究員 高野賢大朗氏
――新搭載「Canon Log 3」について

中山氏:従来のCanon Logに対して、Log 2、Log 3はそれぞれ違う方向性で進化させているものです。昨年のEOS C300 Mark II発売時から搭載しているCanon Log 2は、Cineon Logをより意識して、ダイナミックレンジ、Black、Gray、増感マージンの改善を施したもので、フィルムの特性に近い片対数でリニアな領域が広く画づくりの自由度が高い設計になっています。ダイナミックレンジも1600%で他社のシネマカメラに搭載されているLogカーブにも黒やグレーのレベル、傾きなども近似しています。

それに対して今回新たに搭載したCanon Log 3は、従来のCanon Logの扱いやすさといった利便性を保ちつつも、よりダイナミックレンジを拡張させたもので、ダイナミックレンジ1600%を実現しながらBT.709に近い印象でCanon Log同様のカラー調整で最終ルックへの追い込みも楽なので、従来のCanon Logのユーザーも取り扱いやすいものになっています。

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――Canon Log 2とLog 3の使いわけについて

中山氏:グラフ特性を見て頂いて分かる通り、特に暗部の特性に違いがあり、Log 2は暗部の諧調表現が豊かになるようにフィルム特性に近づけており、色や輝度の諧調は保ったまま露出操作が可能になるなど自由度が大きい特性としています。その為、ポストプロダクションでのグレーディング処理を前提としたカーブとなっており、Cineon Logなどの扱いに慣れた方に使っていただく事でポテンシャルを最大限に発揮することが出来ます。

Log 3はダイナミックレンジは拡張しているのですが、暗部の傾きがLog 2に比べて緩いのでノイズも目立ちにくく、これまでのCanon Logと同じように、デスクトップでの簡単なカラー補正だけでも充分使えるような特性を持っています。Canon Log 2、Log 3ともに、ハイライト側800%以上の広いダイナミックレンジを必要とする場合に向いています。

しかしLog 2は黒の諧調性を重視したり、フィルム的な露出操作を求められるときに向いており、一方のLog 3は、極力ノイズは抑えて、従来のCanon Logのような簡便な操作で仕上げる場合に向いていると言えます。ポスト作業に時間・費用が掛けられて、より追い込んだ画づくりをしたい場合にはLog 2を、ダイナミックレンジを保ちつつも簡単な処理で仕上げたい場合にはLog 3を選択されることをお勧めします。

――Canon Logユーザーからの改善要望と市場ニーズ

中山氏:これまでのCanon Logユーザーから最も多かった要望は、やはりLogとはいえ固いイメージだったので、元々Cineon LogなどのフィルムのLogの取り扱いを知っているユーザーの方々からはそうした要望が多くありました。

その一方で、Logが何かを深く知らずに、Canon LogからLogの世界に触れたユーザーという方も非常に多く、そうしたユーザーからは簡単なカラー調整だけでも非常に使いやすいという意見も頂いていました。その両面の意見を反映して、従来からのLogユーザーにはLog 2を、Canon Logの延長で使いたいユーザーにはLog 3を、という2つの新たなLogモードを用意しました。

――EOS C300からの進化と継承

飯島氏:シネマカメラとして最初のEOS C300は設計しましたが、想像以上に幅広いレンジのユーザーにご使用いただいたと同時に、我々の想定した以上の使い方もされていました。EOS C300 Mark IIではそれらのフィードバックを元にLogなどのソフト面だけでなくハード面でも多くの改善を施しています。

EOS C300発売当時はMFのみでしたが、お客様の要望もありEOS C300 Mark IIでは高度なデュアルピクセルCMOS AFをさらに進化させたAF機能を盛り込みました。ハード面ではEOS C300とほぼ同等のボディですが、消費電力はEOS C300に比べ約2倍ですので、放熱設計も大幅に見直しています。

他にもケーブル、防滴処理などの特にメカの堅牢性にも重点に置き強化しています。EOS C300は幅広いレンジのユーザーにご使用いただいたので、背面のファインダーについては社内外からも賛否両論、多くの意見がありました。確かにハイエンドユーザーの方はサイドビューファインダーがメインですので不要との意見を頂きましたが、そもそもの当初のEOS C300のコンセプトはオールインワンで買って箱から出してレンズとバッテリーを付ければすぐ撮影できるというものでした。

ハインエンドユーザーの意見は確かに大きいのですが、リグを組まずに手持ち撮影で使用されるユーザーも多くおられますので、当初のコンセプト通り様々な撮影スタイルで幅広いユーザー層に使用していただくことを考慮し、今回もファインダーは残しています。

――堅牢性強化を中心にメカ部分の信頼性を大幅改善

川村氏:(EOS C300 Mark IIの筐体設計改善において)どういう使われ方をするか?という部分を理解して設計に落とし込むのに苦労しました。色々な方にご意見を伺い、撮影現場に立ち会いましたが、その中でも特機などを扱う機材レンタル屋さんの視点が我々メカニックの視点と近かったので、非常に参考になりました。さまざまな過酷な使用環境を想定しこれまでの使用事例を見直して再設計しました。

またMark IIでは設計思想として「剛」と「柔」を明確に分けることで、信頼性を高めました。例えば、ハンドルからブラケット、本体フレームまでは六角ボルトを用いて頑強に接続する「剛」設計となっておりますが、フランジバック部分は周囲が硬質な素材だけだと衝撃でズレてしまうため、マウントからセンサーまでのユニットをバネ材で吊って柔軟性を持つ「柔」設計に変更し、レンズに衝撃が加わってもフランジバックがズレにくい設計にするなど、使用時の不用意な事態も想定した部分にも配慮しています。

また冷却機構も空冷ファンの設定を自由に変更出来たり、放熱フィンを備えるヒートシンク兼ダクトを利用した強制空冷構造となっているので、吸気口から水や埃を吸い込んでも本体内には入リこみづらい構造と、高効率な放熱を両立した構造となっています。

――その他のファームアップポイントについて

飯島氏:最新ファームアップでは最新のCN-E18-80mm T4.4 L IS KAS Sレンズへの対応など、EFシネマレンズのと連携機能も多く対応していますが、一番改善要望の多かったREC時のマグニファイ対応です。動画記録中でも4Kでのフォーカス合せ等において拡大表示がしたいという意見を多く頂きましたので、今回のファームアップで対応しています。

そのほかメニューの動作改善としてこれまではフレームレートを変更すると同時に解像度などの設定も自動的にリセットしていましたが、システム的に保持できるものはその前の設定を保持するように改善しました。その他操作性を含め様々な機能向上を図っています。

とにかくEOS C300 Mark IIはハードウェア面に関しても、今回の拡張ファームアップにしても、カタログスペックに表せない多数の改良・改善をこだわって細部にまで施しています。ぜひ実際に使用して頂き、その性能を体感していただきたいと思います。

CN-E18-80mm T4.4 L IS KAS S

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EOS C300 Mark II+CN-E18-80mm T4.4 L IS KAS S

――CN-E18-80mm T4.4 L IS KAS Sの開発企画経緯について

馬越氏:今回新たに「コンパクトサーボ」というジャンルとして発表しました「CN-E 18-80mm T4.4 L IS KAS S」は、操作性はシネマ・放送用レンズの仕様で運用はEFレンズという、当社のレンズの良い所を併せ持つハイブリッドな新ジャンルのEFシネマレンズです。現行のEFレンズは、これまでも多くの動画ユーザーの方にもご使用頂いてきましたが、あくまでスチル用に最適化されたレンズであり、動画撮影時においての操作性や運用性の更なる強化を要望する声もいただいておりました。

これらの声に応えるべく、ワンマンオペレーションに最適かつ多様な撮影スタイルに応じた4Kカメラ対応の光学性能を実現した本レンズを商品化致しました。併せてカメラの低価格化が進んで行く中で本レンズもその市場動向に対応した価格に設定しています。

――シネサーボレンズとの違い

塗師氏:シネサーボレンズシリーズ(CN20×50 IAS H/P1・H/E1、CN7×17 KAS S /E1・S/P1)は、シネマ用途に加え、放送用途向けを強く意識して開発した製品です。一方でコンパクトサーボは、ブライダルをはじめとした業務用市場を強く意識した製品であり、その市場がスーパー35mm・APS-Cサイズといった大判センサーカメラへ移行してきました。そのため、小型で使いやすい大判センサー対応(スーパー35mm対応・APS-Cサイズカメラ対応)のズームレンズの開発に至ったのです。

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――開発にあたって苦労した点

塗師氏:コンパクトサーボの開発にあたっては、まず1.2kgに収めるという目標から、開発に着手しています。これまでの放送やシネマレンズの設計をそのまま持ち込むと、どうしても鏡筒が大きく重くなってしまうので、一から設計を見直しています。

シネサーボレンズがズーム比7倍で2.9kgですから、それをいかに1/3のサイズに収めるかというチャレンジが一番の難関でした。スチルレンズの様に伸び縮みして良いのであれば小型化は比較的容易なのですが、動画用として必須である前玉固定でこのサイズと重量をキープし、さらに最も使用頻度が高い18-80mmというズーム域で4K対応光学性能を達成する、といった高次元のバランスが一番難しいところでした。

4月にNABで発表した時にも、この仕様に収めた事が最も多くのユーザー様にご評価頂いた所です。また、T4.4という明るさについても、ズーム全域でT落ちがなく4K対応の高い光学性能により安心して開放から使って頂ける点も大きな特徴です。またフランジバック調整ができる点においてもご評価頂いています。

――基本のレンズ内部設計

塗師氏:シネマレンズと基本コンセプトは同じですが、設計そのものが変わっているので色々と新たなチャレンジをしています。例えば多様な操作性の核となる、AF対応のためのUSM搭載とズーム・フォーカス・アイリスのマニュアル操作との両立は光学設計的に大きなポイントです。

従来のEFシネマレンズ同様、不要光の削減にも注力しており、鏡筒の遮光設計や表面処理を工夫して内面反射を抑制しています。また、光学設計の段階からレンズ間の相互反射を制御し、コーティングでカラーバランスを統一しつつ面反射ゴーストを抑制しています。ゴースト・フレアが少ないことで、シネガンマ・HDR等の高階調撮影でも、そのポテンシャルをフルに引き出すことができます。

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――専用グリップ「ZSG-C10」について

高野氏:CN20×50 IAS H/P1・H/E1は三脚設置での使用を、CN7×17 KAS S /E1・S/P1では肩担ぎでの使用を前提として、各レンズともサーボユニットに関しては各々の重量等の仕様や、使用される状況に応じた設計を施しています。今回のZSG-C10については、EOS C300 Mark IIやEOS C100 Mark IIに装着して手持ち運用する場合と、肩担ぎで運用されるケースを想定して、多様な撮影スタイルに対応するための脱着式タイプの設計になっています。ズームスピードもワイド端からテレ端まで業務用ENGレンズ同等の速度レンジで駆動しますので利用幅も広く、またカメラグリップ部のジョイスティックで上がテレ方向、下がワイド方向にズームコントロールも可能です。

協力:キヤノン株式会社/キヤノンマーケティングジャパン株式会社


[Canon UPs!] Vol.02

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。