土持幸三の映像制作101

txt:土持幸三 構成:編集部

子供達の「こうしたい!」という思いが形になった

今年度の川崎市での小学生を中心に行う映像授業がすべて終了した。今年度は担当している3校の5年生、計8クラス、1校は6年生による卒業に際して、写真による自分史を動画で制作し家族に感謝を伝える授業を、中学校では1年生から3年生が混成グループとなり短編映画を制作する授業を行った。今回のコラムは、この川崎市による映像授業取り組みをいち早く取り入れ、9年間継続しているK小学校の授業の様子と、今年度の映像授業全体を振り返って見ようと思う。

このK小学校の夏休みの宿題は、児童各自が物語を書いてくることで、その中からクラスで1つ選んで脚本を作成。それをクラスで監督、助監督、撮影、照明、記録、録音、美術、出演者と役割を決めて10月から映像授業がはじまり、だいたい週に一回のペースで1月中旬まで撮影にのぞむ。

毎年だが、脚本が仕上がるまでは試行錯誤が続く。今回もつじつまが合わなかったり、急に環境が変わって、見ているものにはわかりづらかったり、最後までクラス全体で脚本と格闘していた。そこで、改めて8年前のK小学校5年生の脚本を読んでみた。

1組は、クラスの水槽から逃げ出した亀が実は初代校長先生で、亀を探す4人組に初代校長先生が友情の大切さを説くという話。2組は、転校するクラスメイトのために、学校内に様々なクイズを仕掛け、それを一緒に解いていき友情を深めていく話。3組は、喧嘩をしながらも映画をつくり10年後に再会し、小学校の頃を思い出し、改めて映画を創ろうと誓う、これまた友情の話。

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男の子は妖精に魔法をかけられ、トイレで自分が透明になってしまった事に気付く

これに対して今年度は1組が、授業中に漫画を読んだり授業態度が悪く周囲に迷惑をかけている男の子が、3人の妖精の魔法によって透明人間になってしまうが、自分を客観的に見ることによってクラスメイトの自分に対しての思いを知り、自分の授業態度を改めるという話。

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改心した男の子に再び魔法をかけて元に戻す妖精。イスに立っている女の子は魔法がかかった瞬間、紙ふぶきを男の子に振りかけるため準備している

2組は、親が転勤族の男の子は、友達をつくってもすぐ別れるのが嫌なので友達をつくらないと決めている。その男の子に友達になろうという子が現れるが、小さなことで喧嘩をしてしまう。それを閻魔大王から遣わされた悪魔と天使が、地上に降り立って二人の仲を取り持つ話。

こうみると、年数がたってもテーマ自体は大きく変わっていないが、物語の展開が広がり内容も深くなっているし、子供達の目指しているところも高い。これだけ長い年数、映像授業を実施している学校だと、自分の兄弟が授業を受けていた時に家庭で話題になったり、低学年の時に当時の5年生の作品を観ていてそれを覚えていたりと、子供たち(もしかしたら親も)の映像制作に対するリテラシーがある程度できているのだろう。

撮影の授業の時、出演者は同じ服を着てきたり、髪型を維持したり、家から撮影に使う小物を用意して来たり、家族も巻き込んでの映像制作授業なのだ。今年度の担任の先生は、お二人とも転任されてこられたので、最初はかなり不安を感じておられた。しかし最後の方になってくると、子供達が撮影のために様々な準備を始めたり、物語を修正したり、監督の指示に従うようになったりと、クラスが一つの方向に向かって団結していく過程を見て、感じて頂けたように思う。

K小学校以外では、地域の人々へのインタビューを通じて自分達の学校の歴史を知るという新しい試みや、校舎の工事施工者に、なぜ壁の色はこの色になったか?など、その時に感じたことを映像にするという特長があった。またコンピューターを使った編集も、新しいソフトの導入でクオリティが上がったりと、子供達の「こうしたい!」という思いが少し形になった年でもあった。

K小学校で使用している機材が古くなったり、インタビュー撮影でのカメラ数が不足したり、素材の整理など課題も多くあったが、今年度も川崎市をはじめ多くの先生方の協力もあって、僕は映像授業を子供達以上に楽しむ事が出来た。

WRITER PROFILE

土持幸三

土持幸三

鹿児島県出身。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。