PRONEWS

  • imgABOUT
  • imgTWI
  • imgFB
  • imgYTU

トップ > コラム > 江口靖二 > [江口靖二のデジタルサイネージ時評]Vol.27 ライブビューイングビジネスの可能性

News

[江口靖二のデジタルサイネージ時評]Vol.27 ライブビューイングビジネスの可能性

2017-04-04 掲載

txt:江口靖二 構成:編集部

今、注目されているライブビューイング

家以外の場所にある全てのディスプレイ、スクリーンはデジタルサイネージである。デジタルサイネージは広告や販促だけがそのコンテンツとは限らない。今、新しいメディア、新しいビジネスとして注目されているのがライブビューイングである。

4K/8K、あるいは今後それ以上の解像度の映像が実用的になると、家のテレビで視聴するだけではなく、100インチを超えて数100インチ以上での表示が可能になる。こうした技術環境を利用した新たなビジネスが拡大していくものと考えられる。これらをパブリックビューイング、ライブビューイングと言う。両者に明確な定義があるわけではないが、一般的な使い分けとしてはおおよそ以下のように区分できると考えられる。

パブリックビューイング ライブビューイング
解像度 2K以上 2K以上
画面サイズ 100インチ以上 100インチ以上
視聴ロケーション スタジアム、競技場、公園 映画館、ホール
設置形態 テンポラリー設置 常設設置
コンテンツ スポーツイベント 音楽、演劇など
ビジネスモデル 無料が多い 有料が多い

今回紹介する4Kライブビューイングは、一般社団法人映像配信高度化機構がスカパーJSAT株式会社と共同で、2016年度事業として総務省が行う「高度な映像配信サービス実現に向けた調査研究」の一環として、映画館での4K有料ライブビューイングを実施したものである。実施概要をまとめると以下の通りである。

■日時:2017年3月16日(木)19時~22時
■上映劇場:TOHOシネマズ日本橋、TOHOシネマズ流山おおたかの森、TOHOシネマズ梅田
■上映コンテンツ:クラシックバレエ
『ニーナ・アナニアシヴィリの軌跡~最後のクラシック・ガラ~』
「白鳥の湖」より第2幕・第4幕
「眠れる森の美女」より
(東京文化会館大ホールより生中継)
■チケット販売:全席指定3,000円/1枚(税込)

東京文化会館大ホールにF55を5台投入 4K中継車の内部

現場会場である上野の東京文化会館から、5台の4Kカメラ、ソニーのF55を4K大型中継車に送り、会場に横付けしたSNG車から衛星にアップリンクをして全国3箇所のTOHOシネマズで受信して中継された。TOHOシネマズではソニーの4KプロジェクターSRX-R320で投影された。

4Kプロジェクターは、ソニーのデジタルシネマ用のSRX-R320

スカパーJSATの新規事業部マネージャーの橋本英樹氏は、現場の空気感を伝えるために様々な検討を重ねていたようだ。

橋本氏:4K映像のクオリティはもちろんですが、音が重要だと考えています。そこで今回は40本を超えるマイクで音を拾いました。とにかく現場の空間感を出したかった。せっかく本格的なオーケストラが入っているのだから、「音が鳴っている」ではなく「音楽」として体感してもらいたかったんです。ちゃんと人間的なアナログ感を残しながらも、映画館という場所で、現場である東京文化会館という場を再現することに注力しました。

筆者はリハーサルを現場で見たのちに、TOHOシネマズ日本橋のライブビューイング会場で本番を体験したのだが、この試みは十分成功したと言える。想像した以上に臨場感があったからだ。

TOHOシネマズ日本橋のスクリーン9がライブビューイングの会場

橋本氏:たとえば、弓が弦をこする音、ダンサーが舞台に着地する音、拍手…そういったノイズとして落とされてしまうような音を、あえてきちんと入れたかったんです。しかし通常の劇場のスピーカー特性では限界があり、音量を上げると一気に破綻する。そことのせめぎ合いでした。

こうしたこだわりは体験空間としても、映像クオリティでも、そして音の再現性としても現場に近い状況を再現できるがゆえに細かい必要なことなのだという。終演後に4Kライブビューイングを体験した現役のバレリーナの方に感想を聞いたところ、

とても素晴らしい体験でした。こういう試みはニーズがあるので、もっと普及すると思います。あえて言うとすれば、例えばプリマの視線の先にあるものが映像では切り取られてしまっていることがあったのがちょっと残念です。

とのこと。

5台のF55は、舞台全体を押さえるカメラと、それぞれのバレリーナを追いかけるカメラに分かれており、これらがスイッチングされて一本の映像として配信された。これは当然のことだと思うのだが、バレエとして見たい映像というのはやはり音楽のライブとは異なる部分が多いようだ。これに4Kの高解像度で大画面で見るという要素が加わるわけで、これまでのテレビとは異なるカメラワークやスイッチングが求められるのだろう。これはバレエに限らずどういう被写体であっても言える話で、経験値を重ねていく必要があるだろう。

また彼女はさらに「今回の料金3,000円は安いかなと思います。このクオリティであればもっと払う価値があると思いました」と付け加えた。現場の料金はS席18,000円からD席5,000円となっていた。現場の最も安い料金よりもさらに安い設定であったわけだが、こうした料金設定もビジネスとして確立するためには非常に重要なことである。

TOHOシネマズ日本橋の映写室。デコーダーとしてターボシステムズのXjive Playerを使用

ビジネスとして成功するためには、単に現場からの生中継だけに留まらず、新しいエンターテインメント事業として確立できるかどうかが鍵を握っている。インターネットやモバイル環境の普及や進化によって、生活習慣や感覚、感情、そして時間などのあらゆるものが変化しており、これらは人が紡いできたコミュニケーションや経験、価値観を大きく変え、消費スタイル、余暇活動に大きな変動が生じている。近年、様々な業種や業態において同様の傾向が見られ、2020年にはまったく違った市場形成が予測される。

エンターテインメント産業ではリアルなイベント市場が成長し続けている。楽曲配信や放送、DVDやBlu-rayパッケージ需要は急減する一方で、音楽ライブやミュージカル、演劇などの動員が急増している。2015年時点で4年連続のプラス成長を記録し、スポーツ等のイベントに関しても今後も更なる拡大が期待されている(「2016ライブ・エンタテインメント」白書より)。

いろいろな業種業態において「モノ」から「コト」への消費スタイルの変化と言われることが多い。エンターテインメント産業とは、生活習慣や感覚、感情そして、時間とともに生まれ、成立してきたコンテンツ産業であり「楽しい」という感覚を絶対価値としてきたと言える。テレビはその1つであることは言うまでもないが、テレビだけにとらわれる必要はない。

これらを取り巻く周辺環境が大きく変化している中、エンターテインメント産業に求められる「楽しさ」も大きく変わると考えられる。この「新しい楽しさ」を表現する手法や、要素技術やコンセプトはほぼ出揃い、進化の予測も可能になりつつある。新しい技術や手法を継続的に追い続けるとともに、生活習慣や感覚、感情そして、時間とどのように組み合わせることで「新しい楽しさ」が生まれ、ライブ・エンタテインメント産業とて定着するのかを追求するべきである。ライブビューイングはこれからが正念場になる。


WRITER PROFILE

江口靖二 江口靖二事務所主宰。現在デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。


[ Writer : 江口靖二 ]
[ DATE : 2017-04-04 ]
[ TAG : ]

関連のコラム一覧

[江口靖二のデジタルサイネージ時評]Vol.26 お手軽系のデジタルサイネージのオーナーを訪ねて日間賀島に行ってみた

txt:江口靖二 構成:編集部 活躍する小規模デジタルサイネージシステム 一般店舗などの店頭で、安価で手軽に使えるデジタルサイネージを多く見かける。しかし、本格的な普及... 続きを読む

[江口靖二のデジタルサイネージ時評]Vol.25 ニューヨーク市の街角サイネージ「LinkNYC」

txt:江口靖二 構成:編集部 ニューヨークの街角に設置された新しいデジタルサイネージ端末「LinkNYC」とは? ニューヨークのLinkNYC ニューヨーク... 続きを読む

[江口靖二のデジタルサイネージ時評]Vol.24 設置場所や利用目的が広がるデジタルサイネージ

txt:江口靖二 構成:編集部 様々な場所で利用されるデジタルサイネージ デジタルサイネージは広告や販促、館内案内や時刻表以外にも、様々な場所で利用されている。これらは... 続きを読む

[江口靖二のデジタルサイネージ時評]Vol.23 世界の案内サイネージを巡ってみてわかったこと

txt:江口靖二 構成:編集部 昨年後半から、国内外にある相当数の案内サイネージを見てきた。2020年に向けて、また国策とも言える外国人観光客向けにこれから数年で相当数の案内... 続きを読む

[江口靖二のデジタルサイネージ時評]Vol.22 「デジタルサイネージ ピクタソン」とその先に目指すもの

txt:江口靖二 構成:編集部 サイネージを巡るハッカソン 街中のディスプレイがデジタルサイネージであること、特にタッチパネルなどで操作ができるものについては、そもそも操作でき... 続きを読む

WRITER PROFILE

江口靖二 江口靖二事務所主宰。現在デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。


Writer

編集部
PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。
小寺信良
業界で噂の新製品を、AV WatchやITmediaのコラムでもおなじみの小寺信良氏がレポート。
raitank
アートディレクター。あまたの海外ソースを読み漁ってHDSLRを独学。国内と海外の情報流通の温度差にモーレツな疑問を感じ、最新の情報を自ら日本語で発信するblogを運営中。
ふるいちやすし
自身で脚本、監督、撮影から編集、音楽までもこなすマルチプレーヤー。
岡英史
バイクレース及びF3レース参戦など、映像とはかけ離れた経歴を持つ異色ビデオカメラマン
江夏由洋
兄弟で株式会社マリモレコーズを設立し、ノンリニアにおける映像技術、映像制作を中心に、最新技術を取り入れたワークフローを提案している。
手塚一佳
CGムービー制作、ネットワークゲーム制作を得意とするデジタルデザイン会社アイラ・ラボラトリの代表取締役。
山本久之
映像エンジニア。フリーランスで映像設備のシステムインテグレーションと、ノンリニア編集に携わる。
鍋潤太郎
ロサンゼルスを拠点とするVFXジャーナリスト。
江口靖二
江口靖二事務所主宰。現在デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。
安藤幸央
無類のデジタルガジェット好きである筆者が、SIGGRAPH ASIAやCESなど海外の注目イベントを紹介。
高野光太郎
Cosaelu株式会社 代表取締役 / 映像ディレクター ミュージックビデオ、番組オープニングタイトル、CM、劇場映画、全てをデスクトップで制作。
ヒマナイヌ
頓知を駆使した創造企業
オースミ ユーカ
映像ディレクター。企画、脚本から演出までジャンルを問わず活動。
林和哉
映像プロデューサー/ディレクター。入口から出口まで全てのポジションを守備範囲にしている。最新技術が好物で、各種セミナー活動も豊富。
土持幸三
1970年生。鹿児島県出身。俳優を経て渡米。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。
茂出木謙太朗
株式会社キッズプレート代表。「楽しいInternetコンテンツ」をテーマに活動。現在VRの可能性をまさぐり中。CG-ARTS協会会員
猿田守一
企業用ビデオ、CM、ブライダル、各種ステージ記録など撮影から編集まで地域に根ざした映像制作活動やCATV局などへの技術協力なども行っている。
松本敦
映像クリエイター。企業VPからスポーツイベント撮影まで幅広く手がける。アクションカムやドローンなどの特殊ガジェット好き。
鈴木佑介
日本大学芸術学部 映画学科"演技"コース卒の映像作家。 専門分野は「人を描く」事 。 広告の仕事と個人ブランドでのウェディングがメイン。 セミナー講師・映像コンサルタントとしても活動中。
柳下隆之
写真家アシスタント、現像所勤務を経て、撮影機材全般を扱う輸入販売代理店で17年余り勤務の後に、撮影業界に転身。一眼カメラによる撮影を得意し、代理店時代に手がけたSteadicamや、スタビライザー系の撮影が大好物。
奥本宏幸
大阪を拠点にしているフリーランスの映像ディレクター。演出・編集・モーショングラフィックをバランス良くこなす。フィンランドサウナが好きです。
井上晃
映像制作会社「有限会社マキシメデイア」代表、制作プロデューサー&キャメラマン。Facebookグループ「ATEM Tech Labo」、「Grass Valley EDIUS ユーザーグループ」を主催して、ATEMやEDIUSの布教に、日々勤しんでおるでよ。
黒田伴比古
報道・ドキュメンタリーエディターでありながら、放送機器に造詣が深く、放送局のシステム構築などにも携わるマルチプレーヤー。
石川幸宏
映像専門雑誌DVJ編集長を経て、リアルイベントを中心とした「DVJ BUZZ TV」編成局長として活躍中。
ヒラタモトヨシ
ファッションとテクノロジーを繋ぎイノヴェーションを生み出す事をライフワークとし、WEB/ライブメディア/高精細映像表現を追求。
須藤高宏
東京・国分寺市に於いて録音スタジオ「マイクロサウンド」を運営し各種録音編集に携わる傍ら最近では各種イベント配信音声を担当。
猪蔵
いつも腹ペコ。世の中の面白いことを常に探っている在野の雑誌編集者。
ベン マツナガ
未来シネマ/ディレクター。ハリウッドでの大型映像制作、短編時代劇の自主映画制作を経て、現在は、映像を通じて人と人をつなぐことをテーマに様々な映像制作に取り組んでいる
金田浩樹
映画・テレビの映像制作を中心に、USTやニコ生等、ライブメディア各分野を横断して活動中。ジャンルや固定概念にとらわれない構成力と発想に定評あり。
ViewingLab
未来の映像体験を考える有志の研究会。映画配給会社、映像作家、TV局員と会員は多岐に渡る
稲田出
映像専門雑誌編集者を経てPRONEWSに寄稿中。スチルカメラから動画までカメラと名のつくものであればなんでも乗りこなす。
山下香欧
米国ベンチャー企業のコンサルタントやフリーランスライターとして、業界出版雑誌に市場動向やイベントのレポートを投稿。
萩原正喜
米国コロラド州から、米国のデジタル放送事情からコロラドの日常まで多岐に渡るコラムをお届けします。
坪井昭久
映像ディレクター。代表作はDNP(大日本印刷)コンセプト映像、よしもとディレクターズ100など。3D映像のノンリニア編集講師などを勤める。
林永子
2005年よりサロンイベント「スナック永子」を開催。通称「永子ママ」
岡田智博
クリエイティブクラスター代表。メディアアートと先端デザインを用いたコンテンツ開発を手がけるスーパー裏方。
しらいあきひこ
カメラメーカー、ゲーム開発などの経験を持つ工学博士が最先端のVR技術を紹介。
秋山謙一
映像業界紙記者、CG雑誌デスクを経て、2001年からフリージャーナリストとして活動中。
今間俊博
アナログ時代の事例を通じ、教育関連の最新動向を探る。
伊藤裕美
オフィスH(あっしゅ)代表。下北沢トリウッドでアニメーション特集上映を毎年主催している。
UserReport
業界で話題の商品を実際に使ってみてどう感じたかを、各方面の様々な方々にレポートしていただきました。
System5 Labs
SYSTEM5スタッフが販売会社ならではの視点で執筆します。

トップ > コラム > 江口靖二 > [江口靖二のデジタルサイネージ時評]Vol.27 ライブビューイングビジネスの可能性