裸眼で立体視できるインテグラル方式のディスプレイなどを披露

現在NHK技術研究所で行われている主な研究テーマとしてスマートプロダクション、インターネット活用技術、スーパーハイビジョン、立体テレビ、次世代デバイスがあり、それぞれのロードマップがパネル展示されていた

2017年5月26~28日の3日間、東京・世田谷のNHK放送技術研究所において技研公開2017が開催された。今年のテーマは「2020年へ、その先へ、広がる放送技術」となっており、2020年に開催されるオリンピックをターゲットとした8K放送を念頭においたものとなっており、8K放送に必要なカメラや記録技術を始めとしてすでに実用化されている物から、近いうちに投入される機材や技術が披露された。また、8Kの次のテレビとして裸眼で立体視聴できるシステムや、現行の放送とネットを融合した新しいサービスなどの提案が行われた。

8Kスーパーハイビジョンパブリックビューイング。BSで試験放送をおこなっており、リオデジャネイロオリンピックを上映

すでに8Kは制作に必要な機器は開発されており、実際の運用に必要なFPUやIPを利用した伝送技術など現行の放送と同じレベルの運用を可能とする機材が求められいる。今回はそうした機材と共に裸眼で立体視できるインテグラル方式のディスプレイや新たな撮影方式が披露された。インテグラル方式のディスプレイは試作的なものから、スマホに組み込まれた状態のものを実際に手に取って視聴が行え、かなり実用性のあるものとなっている。また、撮影に関しても専用のカメラではなく多視点カメラを利用するなど、ハードルも低くなってきた。

AIを活用したスマートプロダクション。放送局のノウハウや、データをAIにより解析することでソーシャルメディアや自治体などが提供するデータから番組制作に役立つ情報を取得したり、原稿を自動で生成したりする制作支援システム。手話CGや音声ガイド、やさしい日本語など、人にやさしいコンテンツへ自動変換する技術などを利用することで、幅広い視聴者に様々な情報を提供

IoT連携で広がるテレビ×ネット×ライフ。Hybridcast Connectの拡張により番組提供者ごとのコンパニオンアプリを共通化することで、テレビとスマホ、IoT機器を用いた放送コンテンツを中心としたサービス連携が可能。IoT機器と連携する機能により、スマホなどのスマートデバイスに加え、ロボットなどの多様な機器を活用した新しい番組連動サービスを楽しめる

メディア統合プラットフォーム。視聴する場所や時間、視聴機器が持つ機能に応じ、放送・ネット同時配信・VOD(ビデオオンデマンド)などから適切な配信メディアを自動的に選択する技術や、視聴環境に応じて複数の端末を連携して、放送受信機能のない端末で放送コンテンツを視聴したり、操作中の端末とは別の大画面の端末で視聴が行えるようになるほか、放送・ネットの異なるメディアで配信される同一コンテンツを識別し、特定のリンクの付与が可能

三次元被写体追跡スポーツグラフィックスシステム。ボールの軌跡などをCGで表示することができるグラフィックスシステムで、ボールの三次元位置を高精度かつリアルタイムに算出し、正確なCGの合成を実現している。カメラや被写体が動いても、精度の高い三次元位置算出やCG合成がリアルタイムで実現するよう、複数台の可動カメラの校正技術を開発したほか、処理映像のフレームレートの向上により、従来よりも速い動きのボールを追跡可能

インタラクティブな視聴を実現するネットサービス技術。各視点のカメラ映像をMPEG-DASH方式で生成し、PCやスマホのウェブブラウザで、タッチ操作でスムーズに視点を切り替えながら視聴できるもので、テレビのようにCPUやメモリーに制限がある端末でも、高度な映像処理を必要とする360°映像などのコンテンツが視聴可能。ユーザーの操作に応じた映像処理をクラウド上のサーバーで実行し、WebRTC技術によりテレビに伝送することで実現

フレーム周波数120Hzに対応したシート型ディスプレイ。フレーム周波数120Hzに対応した4Kパネルを4枚貼り合わせた8Kシート型有機ELディスプレイ

フルスペック8K制作システム。広色域、ハイダイナミックレンジ(HDR)、多階調(12bit)、高フレーム周波数(120Hz)を実現したフルスペック8K制作システム。ワイプやディゾルブも可能なライブスイッチャーや文字合成装置、フレームシンクロナイザーを新たに開発したほか、昨年までに開発した3板式フルスペック8Kカメラや超小型8K単板カメラに加え、フル解像度8K単板カメラも120Hzに対応

8Kレーザープロジェクター。レーザー光がスクリーン面で干渉することで生じる局所的な色むら(スペックルノイズ)を約半分に低減し、高画質化を図ったほか、ハイダイナミックレンジ映像ハイブリッドログガンマ(HLG)方式にも対応

テレビ映像における顔認識技術。テレビ映像に映る人物が誰であるかを自動的に認識する技術で、照明条件や出演者の表情、顔の向きが大きく変動するテレビ映像においても高精度に顔を認識する。番組情報のためのメタデーターとして出演者の登場シーンの検索などに応用可能

スポーツ番組への手話CG自動付与。自動で手話CGを生成する技術で、オリンピックやパラリンピックの競技中に放送局に配信される競技関連データを解析し、試合の状況をリアルタイムに手話CGに変換するとともに、試合経過のダイジェストも生成。タブレット端末やスマートフォンでいつでも手軽にこれらの手話CGが見れる

テレビ視聴ロボット。家庭でテレビ番組を一緒に楽しむパートナーとしてのコミュニケーションロボット。ロボットに搭載したカメラとマイクロホンアレーを利用して、テレビと人の位置を検出する環境センシング技術や番組情報と字幕情報から番組に関連の深いキーワードを抽出し、番組に関連する言葉をロボットが自発的に話しかける技術。放送番組を見ているときに、テレビの方向を見ながらつぶやいたり、人の方向を見て話しかけたりする動作を行い、視聴者とコミュニケーションが可能となる

進化する8K撮影・記録技術。240枚の撮影に対応した8K高速度カメラおよび映像圧縮回路とメモリーパックの開発により、毎秒240枚の8K映像のリアルタイム圧縮と可変速で滑らかなスローモーション再生が可能な8Kスロー再生装置

8Kスーパーハイビジョンの撮影を支える技術。4K/8Kに対応した高精度なオートフォーカス技術とカメラへの入射光量を広い範囲で連続して制御可能な電子式NDフィルター

HDR/SDR一体化制作カメラと色再現。ハイダイナミックレンジ(HDR)映像信号と、従来の標準ダイナミックレンジ(SDR)映像信号を同時に出力可能なHDR/SDR一体化制作カメラ

単色のLED照明などで彩度の高い被写体を撮影すると映像信号が飽和して色の階調が失われる場合があったが、RGB信号レベルに応じて彩度を抑える色補正手法を開発。これにより、HDRからSDRに変換した映像の色再現も改善

IPネットワークを利用した番組制作システム。8K信号をIPネットワークで伝送するための変換装置や、ネットワーク上の設備をスタジオ間で共有して利用する方式を開発することで、一般のIP専用回線を利用でき、高品質な8K映像を遠く離れた場所からも低コストで伝送が可能

必要とするスタジオへ動的に割り当てるリソースプロバイダーを開発することで、スタジオ間で設備の利用が競合しないように割り当てを管理することにより、複数のスタジオで設備を共有し効率的な運用を実現。IPネットワークを活用することで、離れた場所でも設備を直接リモート制御できるようになり、迅速で確実なワークフローを実現可能

中継制作の可能性を広げるスマートFPU。スマートFPUは双方向の無線IP回線で中継現場と放送局内を接続し、放送局から中継現場設備のリモート制御や、中継現場から放送局のファイルベースシステムへの映像ファイル伝送などが可能。低遅延伝送を実現しており、本線映像のほか、送り返しやタリー、制御信号などが双方向でやり取り可能

8KスーパーハイビジョンFPU。HEVC/H.265によるエンコーダー・デコーダーを用いたリアルタイム8K伝送システム。6/6.4/7/10/10.5/13GHz帯のマイクロ波帯のハイビジョンFPUと同じ18MHzの帯域幅で周波数利用効率を向上させ、200Mbps級の長距離伝送を実現

次世代地上放送システム。通信と連携した移動端末向け地上放送サービスで、放送の電波が届かないところでは通信による同時配信を受信して映像・音声の途切れを防ぐ通信連携技術。MMT(MPEG Media Transport)技術を応用した仕組みを導入することで、視聴者に放送と通信のどちらからコンテンツを受信しているかを意識させないシームレスな切り替えを実現する

並列型インテグラル立体ディスプレイ。毎年展示しているインテグラル立体ディスプレイだが、今年はスマホタイプのものがいくつかあり、実際に手に取れるようになっていた。最近のスマホはHD解像度のものもかなり一般化し、そうした製品と比べると粗いものの、充分実用の範囲といえる

インテグラル立体テレビの要素技術として多視点ロボットカメラによる撮影システムが展示されていた。インテグラル立体テレビの撮影にはほかにも専用のカメラを使う方法もあるが、多視点ロボットカメラであればほかにも使いまわしが可能

インテグラル立体テレビの要素技術。多視点ロボットカメラで撮影した多視点映像から奥行を推定することで、高品質な三次元モデルを生成して要素画像に変換する撮影技術を構築。これにより従来のレンズアレーが不要になり、より大きな被写体や移動する被写体の撮影が可能となった

インテグラル立体の飛び出す絵本。特別なめがねが不要で、見る位置に応じた自然な立体映像を見ることができるインテグラル立体ディスプレイを応用しており、絵本から物体が飛び出す量をインタラクティブな操作で調整し、CGで作られた絵本を展示

実空間センシングによるスポーツ中継向け新撮像表現技術。ボールの軌跡や選手の顔の向きなどの被写体情報をセンサーやカメラの情報を活用して高精度に取得する技術を使い画面上にボールの軌跡をCGで表示することが可能

世界最小サイズの8.3インチ8K有機ELディスプレイを使用したVRシステム。8Kの表示装置を使用しておりリアルなVR体感が可能

スポーツ番組の音声ガイド。実況や解説のない競技動画に音声ガイドを自動で付与することができ、テレビ音声と音声ガイドの両方を聞くことで、視覚障害者をはじめ、自動車の運転中のように映像が見られない状況にある場合でも番組を楽しめる

番組制作のための音声認識。明瞭に発声されない音声が多い情報番組をリアルタイムに認識する技術や、取材映像の書き起こしを効率良く制作する技術で、生放送の情報番組への字幕付与、取材映像中のコメントを書き起こすための音声認識技術

リアルタイム競技データからの音声ガイドの自動生成。スポーツ中継の競技関連データから、試合の進行を合成音声で自動発話。人手を介することなく効率的な制作が行え、生成された原稿をそのまま字幕として活用することも可能

安全な放送通信連携サービスのためのプライバシー保護システム。秘匿検索とアクセス制御を両立する暗号方式を使用することで、視聴者が許可したサービス事業者に限り、クラウドサーバー上で暗号化したまま視聴履歴を検索可能なプライバシー保護システム

次世代地上放送システムのための音声符号化方式。22.2ch音声信号を1/50のデータ量に圧縮できる高効率符号化技術MPEG-H 3D Audioを用いた高効率で多機能な音声符号化方式

ウルトラ指向性マイクロホン。音響管を高精度に設計するためのシミュレーション技術を開発し、従来のショットガンマイクの音響管を長くすることでさらなる指向性を達成

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。