txt:江口靖二 構成:編集部

サイネージ特性が活かされた広島電鉄のリムジンバスサイネージ

広島空港から市内まで、広島電鉄のリムジンバスを利用した。車内に設置されたバスサイネージは、純広告に加えて、スポンサードのコンテンツとしてニュース、星座占い、クイズなどのコンテンツがあった。その中でニュースと星座占いのクリエイティブは、コンテンツ内容自体は普通なのだが、表現方法がとてもサイネージの特性をよく理解して制作されていたのである。

まず最初にニュースコンテンツを映像で見ていただきたい。タブレットを手持ちで走行中に撮影しているので、手ブレはご容赦いただきたい。

バス車内なので音はなく映像のみだ。画面構成は下部右に写真、左にニュースの見出しが配置されている。この部分は最後まで表示されたまま動かない。上部にはニュース本文が一番大きな文字の横スクロールで右から表示される。多くのニュースコンテンツの表現とは異なるのがお分りだろうか。普通は画面レイアウトはほぼこの配置だが、見出しが上部に固定で、本文がもっと小さい文字で表示される。写真の左右は逆の場合もあるだろう。そして全体としては静止画で表示されて動かない。

それと比較して、さらにこれがバス車内だということをイメージしていただきたい。この広島電鉄のバスサイネージの場合、見出しと写真でどういうニュースか一瞬でわかる。その後本文がスクロールで出てくるので、関心があればその文字を追いかけようとする。さらに順に文字が出るので最後まで見ようとする。電光ニュースと同じカタチである。

バス車内では、ディスプレイまでの距離が遠かったり、車窓が全体として多いので、ディスプレイは概して見にくいことが多い。そこで可能な限り文字を大きくして、電光ニュース部分はさらに大きな文字で表示している。ディスプレイから離れている場合は、最初の見出しは読めないかもしれないが、この横スクロールなら読みやすい。さらに視認性を高めるために、スクロール部分は黒背景に白文字で、コントラストを上げている。

デジタルサイネージコンテンツは、動画であることより、変化することが重要であることを再認識させてくれる。とてもよく考えられているデジタルサイネージのクリエイティブ表現だ。電車の中のデジタルサイネージでもこれが有効とは言えないかもしれないが、バス車内ではこの方が明らかに伝わりやすいと思う。

星座占いも同様によく工夫されている。ニュースだけでなく占いも秀逸であるということは、コンテンツを担当している人はデジタルサイネージコンテンツのことをよく理解している。たとえば朝のテレビ番組の占いは、ランキング形式のものが多い。ランキングの表示順は、1位を出して、途中を出して、最下位を出して残りというものが多かったり、牡羊座から順番に魚座まで出すものもある。

前者はランキングに意味があり、自分は何位というところに主眼が置かれていて、視聴者はそこが気になって自分の順位がわかるまでチャンネルを変えない。後者は一覧性があり、時間軸が読者に委ねられていてランダムアクセスが可能な雑誌などのやり方だ。接触態度がテレビと雑誌では異なるのでこういう違いになるのだ。

このバスサイネージは、最初に3、2、1位の順でカウントダウンをして、次に牡羊座から順を追って表示され、それぞれの順位も併記されている。いわば先ほどの話との比較でいうと、折衷案である。

ニュースと星座占いの事例は、些細なことではある。どう表現しても大きな違いはないのかもしれない。しかし、少なくともこのコンテンツ制作者は、バスの中、他との最適な差別化ということをかなり深く考えたのだと思う。デジタルサイネージコンテンツのクリエイティブは、こういうところまで考えて制作することが必要であることを再認識した事例である。

WRITER PROFILE

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。