txt:オースミユーカ 構成:編集部

学生たちがつくりだす映像制作への道筋

はじめての映像制作はいつだったのか?美大の映像学科時代に、アニメーションをみんなで作ったのがはじめかもしれない。絵が下手な三人チームで組んだこともあってとても苦戦した。いつしかみんな投げ出してしまい、ほとんどひとりで正解もよくわからないまま作り上げた。たぶんそれがきっかけでチーム作業が苦手になり、以来、一人でCGアニメばかり作っている学生時代を過ごした。すべて自分の思いどおりにいくことが楽しかった。

そんな学生時代の記憶に思いを馳せるのも、映像を教える側、大学の非常勤講師になったからだ。武蔵大学メディア社会学科CM制作実習の授業は、週1回、1時間半だけ。4ヶ月かけて15秒の映像を作り上げる。はじめての経験だったので、わたしも悩んだり立ち止まったりしながらなんとか授業を終え、生徒たちとCMを完成させるところまでこぎつけた。プロのスピード感でみるとゆっくりしているように思えるが、Macすらはじめて触る学生たちがほとんどで、思いのほか時間が足りない。なにしろ企画から撮影、編集までをぜんぶ自分たちでやらなくてはならないのだ。

ACジャパン(公共広告機構)が毎年募集している学生CMコンテストに応募するというのが授業の最終目標。CM企画の作り方やテーマの据え方などは、普段日常的に自分がやっている仕事なので教えることができるが、さあ撮影、という時に立ち止まった。そこはきちんとプロフェッショナルに講義をお願いしたい。

ということで映画「キングダム」や「図書館戦争」、数々のCMを手がける撮影監督の河津太郎さんに撮影の授業をお願いすることにした。う~ん、日本を代表する撮影監督の授業を受けられるなんて、この贅沢さが生徒たちに伝わるだろうか…。そして期待していた通り、河津さんの授業はすばらしかった。

例えば、「撮影とは…、光を操ること」。「映像制作とは…、チームワーク」などわかりやすい。「各スタッフは、監督を質問攻めにするのが仕事」、「監督は、スタッフからの質問にきちんと答えが返せるように考えを深めておくことが大事」など、思考のきっかけを投げるのが抜群にうまい。撮影を教える授業だからといって、カメラを持って技術的なノウハウを教えてくれはしない。限られた時間の中で、きちんと心に残る“考え方”を示唆してくれるのだ。

大学構内での撮影。みなはじめての経験だが、監督は大きな身振りで一生懸命役者(ゼミ生)を動かす

今回は15人のゼミなので、3チーム、各5人編成にわかれて撮影をする。チームの中では役割り分担を決め、監督、撮影、制作進行、美術、録音と、コンパクトに撮影が可能な最小体制を作ったのでそれぞれの仕事も明確だ。

企画は生徒たちの全員のアイデアで競い、1班は「LGBT」がテーマのエモーショナルなドラマ。2班は「パワハラ」がテーマの実写とグラフィックの合成モノ。3班は「歩きスマホ」がテーマのワンカット勝負。三案まったく違うカラーの企画でなおかつ時代にあった公共性のあるテーマに落ちついた。

1班の舞台は教室での人物撮影だったため、撮影の授業では実践で被写体をみつめた。教室の蛍光灯を消し、自然光だけで人物に対しての光のあたり具合をみてみる。さらにブラインドを半分閉め、また光のあたり具合をみつめる。プロのように照明をたくさんあてこまなくても、自然光すら操ることができるということを学ぶ。そしてじっくりと被写体をみることで、そこにムードはあるのか?エモーショナルな映像とはどんなものなのか?自分たちで答えをみつけていく。

LGBTがテーマのチームは、感情をゆさぶるCMにしたいと一眼レフを使って雰囲気を大事にした撮影

カメラの使い方はマニュアルをみたり、使い倒すことで学べるが、被写体に対する照明の考え方はなかなかこういう機会じゃないと学べない。河津さんは3チームそれぞれの企画にあわせて、撮影にどんな光が必要かを的確に伝えてくれた。

こうして生徒たちは、力をあわせて自分たちの手で撮影を終えた。が、しかし初心者あるあるで、バックアップを取らずにデータを消してしまうというハプニングもあった。日頃プロの私たちが一番恐怖に感じていることだけれど、生徒たちは「撮り直したからこそ、よりいい映像が撮れた」とポジティブに捉えていて、なんだかまぶしいほどだった(笑)。

私が今回授業を通して掲げた目標は「映像制作を楽しむこと」。グループで力をあわせて作るモノ作りは大変だけど、やっぱり楽しい。そう感じてもらえるよう、それぞれの役割りを明確に割り振って、チームで協力せざるをえない状況を作った。私の学生時代は思い通りにいかないくらいなら、すべてを一人でやるほうがいいと思っていた。でも数々の経験を経て、そもそもが思い通りに行かないことの連続だらけだと知ったし、人といっしょに作るからこそ超えられる自分の限界を楽しめるように変わった。

楽しい思い出でも、苦い思い出でも、きちんと心に刻み、映像をみんなでつくることはただ楽しいだけでなくやりがいのある「仕事」にだってつながるということを知って欲しい。そんなふうに未来に希望を抱ける授業になっていたとすれば、ちょっとうれしい。

WRITER PROFILE

オースミ ユーカ

CMやEテレ「お伝と伝じろう」「で~きた」の演出など。母業と演出業のバランスなどをPRONEWSコラムに書いています。