Libec 第三ステージ突入!

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Libec(平和精機工業)は、三脚メーカーとしてはもうかなり歴史のある会社だ。日本の評価だけではなく、RSシリーズの誕生と併せて、世界でも大きく評価が変わり、高性能三脚メーカーへと変貌を遂げた。普通の三脚メーカーから「カメラを乗せる全ての機材」と新しい方向へシフトしたのは、従来のJIBアームから更に進化した電動リモコンヘッドのREMO30が登場してからだろう。その頃から「まだまだウチは走りますよ!」と力強い言葉をいただいたが、今回はスライダーという分野まで進出を遂げた。三脚やペデスタルもかなり前から生産してきた同社の今回の試みは非常に大きい。

三脚+スライダー=「ALLEX」

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この8個のBB兼レールローラーがALLEX Sの最大の特徴

安価なスライダーというのは今までも沢山販売されている。ほとんどがノーマルで使うには非常に駄目な製品が多いのだがALLEX Sは最大荷重を15kgと設定、これはENGカメラも問題なく載るレベルだ。

今までの軽量スライダーのメリットは軽量で安価、デメリットはしっかりメンテナンスをやっても動作不良が多い事。このデメリットはBB(ボールベアリング)に起因する事が多い。筆者のコラムでも過去にBBのメンテナンスとチューニングについても書いたことがある。これはスライダー自身の絶対的な想定荷重が少ないため、BB自体もかなり低性能な物が使われている。しかも想定荷重が低いためにどんなにチューニングしてもその荷重を越えると全く動きが悪くなってしまう。

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ご存じの方も多いがBBに関しては日本製が群を抜いて高い品質。中には非接触型のリニアBBもある位だ。スライディングの胆となるBBが日本製以外では既に問題外、後は荷重に対して何処まで影響が出ないか、つまり配置と大きさである。

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耐荷重(カウンターバランス)は3kg

ALLEXはふんだんにBBを使い、点面圧を逃がし耐荷重と動きの良さを実現している。また今までのスライダーは如何にBBが滑らかに動くかに重点を置いてある。筆者のBBチューニングも風が吹けば動くレベルまでにフリクションを削るのだが、ALLEXの場合はスライディングだけではなくそこから更にパン又はチルトの動きを総合的に考えている為、BB自体に独自のグリースを封入しドラッグ感を出している。その粘りが丁度、ALLEX Hと同期出来るのでスライドしながらのパンが非常に気持ちよく簡単に出来る。

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プレートはRSPと同じサイド脱着

スライダーが大きく取り上げられているALLEXだが、実は雲台+脚も素晴らしい。耐荷重自体は小型カメラやDSLRを標準にしているのにも係わらず3kgと言う数字になっている。これだけの重さが在ればNX3やC300程度の重さにも十分耐えられそうだが流石にそう言うわけにはいかない。どんな雲台でも同じ事が言えるが最大耐荷重と言うのはあくまでも理論値で在る事が多い。このグラフを見て貰えば解るが重心位置によってその数値はかなり変わってくる。

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一般的なカメラの重心位置的に見ると約75mm付近、それをこのグラフに当てはめると2kg強、重心位置の高いC100やDSLR系だと2kgを切る荷重と言うのが解るだろう。この辺はよく考えて載せるカメラを決めた方が良い。筆者的に言えばXF205はベストマッチのカメラとして推したい。このバランス内に収まっている限りALLEXは本番でいきなり使ってもGOODバランスを持ったスライディングシステムと言える。

更に軽量な雲台と言うところも見逃せない。とにかく軽い。はじめて手に取ったとき、このヘッドに耐荷重が3kgあるとは思えないほどだった。ザハトラーのACEシリーズも軽量だがそのヘッドよりも確実に軽い。この軽さを再現する為には転倒等での破損が気になるが、ボディは非金属製となる。

担当者によると「蹴り倒して破壊実験をしたが問題なかった」との事。まぁこれは冗談にしても通常の転倒程度で壊れる事はないだろう。また組み合わされる脚も軽量で剛性感の弱い脚に見えるが、組み立て加工精度を従来よりかなり上げる事で耐荷重性能が上がっているという。大体RS-250の脚と同程度の強度を得る事が出来たとの事だった。

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今回サンプルで使用した2台のカメラ。写真左のNEX-5をベースに大口径レンズをセットして約2.1kg。写真右のEOS 7Dベース、レンズは35mm f1.4、5inchモニターをセットして約3kg。この仕様だと7Dはカウンターバランス的には推奨外となる。

様々な可能性

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ヘッドを2個組み合わせた簡易JIB的な動きもOK

ALLEXの組み合わせとして、ヘッド2つでラディカルな使用方法は各展示会でも紹介されている。二次元的な動きしかできないスライディングシステムにもう1つ支点を組み合わせる事で三次元的な動き、簡易JIB的な動きも表現する事が出来る。単純に支点として組み込むなら同じシリーズの雲台でも良いが、より滑らかな動きを求めるなら荷重を考えるべきだろう。つまりスライダーだけならカメラの重さだけを気にすれば良い。

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もう1つ組み合わせるなら、カメラ+雲台+スライダー本体の重さも加味すべきだ。今回はカメラ本体に同じものを使うので、雲台とスライダーに重さを追加し(1.3kg+1.8kg)、合計で約5.5kgなのでRS-450ヘッドを組み合わせた。RS-450の最小荷重は重心50mmで6kgチョイなので数字的にはオーバーしているが、この組み合わせで重心位置は軽く200mmを越える。こうなるとRS-450のカウンターバランスで当にど真ん中になる。スライダーには70mmハーフボールが付いているのでそれを外せば小ネジ・大ネジ合計3ヶ所あるので適切な場所で取り付ければ良いだろう。

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何と中型のENGカメラをスライダーに搭載可能

スライダー自体の耐荷重は15kgある。コレは平置きでの曲がり剛性の事だそうで、実際に手にして見ると確かに剛性感は高い。試しにENGカメラを乗せたところ平置きは元より、脚の上に設置したスライダーでも剛性不足の不安はない。もちろんスライド部分の再調整とドラッグは最強にする必要があるが、このコンパクトなスライダーの上でENGが移動していく感覚は実に面白い。ただし、質量的にはかなり大きくなっているので、それなりのカメラワークが出来る事が前提となる。

総評

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Libecの雲台は底面がフラットな物が数多くあった

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メーカーは違うが、マンフロットの雲台アダプター325Nを使用すれば、各種雲台がフラットベースに変更できる

性能もコストパフォーマンスも高いALLEX。流石に三脚メーカーが作ったシステムだ。全てが高次元で綺麗にまとまり、このシステムを機材車に積んでおけば現場での活躍は大きいだろう。

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チルト角はこの通り(90°から-80°)
※画像をクリックすると拡大します

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しかしながら、個人的に気になる部分を上げておこう。まずはスライダーの長さ。約800mmでもよいが、ワンマンで扱うにはやはりこの半分の400mmレールも欲しい所。400mmなら常時三脚にも邪魔になる事はないし、例に出したようにENGカメラにも組み込めるなら、チョット画角を代えると言う意味でその効果は大きいはず。

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写真のヘッドはH40(耐荷重4kg)。これ位のカウンターバランスを持っていると尚良い

もう一つは雲台の耐荷重。3kg在れば小型カメラやDSLRも搭載できるが特に今時のDSLR系ならピント確認用の小型モニターやフィルターを差し込む為のマットボックスは、必需品。この場合どうしても3kgと言う耐荷重は物足りなくなる。せめて4kgの耐荷重があれば、上に載せるカメラの選択肢は非常に大きくなる。両方とも技術的には大して難しく無いはず。オプション扱いでショートレールや耐荷重4kgのスプリング交換など対応して貰えると嬉しい所だ。

更にRSシリーズのヘッドがこのスライダーシステムにボルトオンで使えるようなフラットベース化も出来ると更に良い。この辺は是非サンプルでも構わないのでInterBEEでの出品を切に願いたい。

WRITER PROFILE

岡英史

岡英史

モータースポーツを経てビデオグラファーへと転身。ミドルレンジをキーワードに舞台撮影及びVP製作、最近ではLIVE収録やフォトグラファーの顔も持つ。