Photo by 山下 奈津子

3~4月のロサンゼルス地方は、1年間で最も映画業界や映画館が盛り上がらないシーズンである。その意味では、エキサイティングで興味深いネタが少なく、ジャーナリスト泣かせの時期でもある。しかし、今月も楽しい話題をお届けする事にしよう。

今回はハリウッドの新名所であり、しかも映像関係者には興味深い観光スポット「マダム・タッソー館」(Madame Tussauds)をご紹介したい。最も「マダム・タッソー館」がハリウッドにオープンしたのは2009年なので、厳密には超フレッシュな旬の情報という訳ではない。しかし、あまり派手に宣伝していない為か、地元ロサンゼルスの映像関係者の間でも実は意外に知られていない場所なのである。おそらく日本では尚更の事だろう。という訳で、今回はその全容を掘り下げてレポートしてみる事にしよう。

ハリウッドの新名所 「マダム・タッソー館」

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「マダム・タッソー館」は、元々はロンドンにある同名の蝋人形館が発祥だそう。その歴史は、18世紀に活躍した著名なフランスの蝋人形作家、スカラプター(造形家)のマダム・タッソー(マリー・タッソー)に遡る 。

マリー・タッソー女史は1835年、ロンドンに蝋人形館を開館。ここはイギリスでも著名な観光名所となったが、現在ではアムステルダム、ベルリン、ハリウッド、香港、ラスベガス、ニューヨーク、上海、ワシントンD.C.、バンコクなど世界中に”支店”がオープン、ここハリウッドには2009年に登場した。

ここに展示してある蝋人形は、セレブリティばかり。ハリウッド・スター、TVスター、シンガー、スポーツ選手、キャラクター等など、幅広いジャンルを網羅し、その数は膨大だ。

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その一例を挙げると、オバマ大統領、ウィル・スミス、ジョニー・デップ、ニコラス・ケイジ、サミュエル・ジャクソン、ジュリア・ロバーツ、クリント・イーストウッド、ビヨンセ、マイケル・ジャクソン、ジャッキー・チェーン、デンゼル・ワシントン、キャメロン・ディアス、フランク・シナトラ、ブリトニー・スピアーズ、タイガー・ウッズ、ベッカム、スパイダーマン、アルビン/しまリス3兄弟など。

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しかも「顔以外はおさわりOK」、入店料は$25ポッキリという明朗会計なので、蝋人形と肩を組んでの写真撮影も自由に出来るというフレキシブルさも嬉しい。蝋人形は等身大なので、まるで本人を目の前にしたかのようなリアリティがある。

ちなみに「蝋人形博物館」というジャンルでは、ハリウッドには昔から知られた「Hollywood Wax Museum」が既に存在しており、ともすれば「なんや。新しい蝋人形館が出来ただけやんけ」と思ってしまいがちだ。しかし、それは大きな誤りである。

この「マダム・タッソー館」で展示されている蝋人形は、他とは全くレベルが違う。では、何がどう違うのか? その秘密をさっくりとご紹介しよう。

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ここで展示されている蝋人形の多くは、次のような工程で制作されるという。まず、実際にセレブリティー本人を造形スタジオへ招いて全身を測定し、正確に粘土造形を行う。造形には通常300パウンド(約136Kg)もの粘土を使用する。そして石膏モールドを行う。最終的にファイバーグラスでモデルを起こす。完成モデルは、重い頭部を含む自重を支えるだけの頑丈さも要求されるという。髪の毛は4週間ほど掛けて、1本1本、手作業で植えていく。女性の高度なヘアスタイルが要求される場合はウィッグを使用する事もある。肌の色や瞳の色も、本人に可能な限り近づけてペイントを行なう。

もしセレブリティ本人に時間が取れる場合ば、本人を再度招いて、完成具合の「最終チェック」も実施される。モノにもよるが、1体を完成させるのに3ケ月、場合によってはもっと長い時間を要するという。このように、すべての人形は、高度な造形と丹念な作業によって制作され、ハリウッドの特殊メイクにおける造形テクニックとほぼ同じ制作工程を経て完成した人形ばかりが展示されているのだ。

画像をご覧頂ければ、その精巧さはおわかり頂けるのではないかと思う。まさにVFX関係者には「一見の価値あり」である。ハリウッドの「マダム・タッソー館」は、有名なチャイニーズ・シアターの左隣という便利な場所にあり、ロサンゼルスを訪れた際には是非とも訪れて欲しい場所だ。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。