写真:山下 奈津子

はじめに

ここ、明るく楽しいロサンゼルス地方には、ACM SIGGRAPHの地方分科会である「LA SIGGRAPH」というものが存在する。日本にもお馴染み「シーグラフ東京」があるが、そのLA版と言えばご理解頂ける事と思う。LA SIGGRAPHでは毎月、月例会を開催している。内容は毎月異なり、新作映画のお披露目やメーキング講演だったり、目新しいテクノロジーの紹介だったりする。この月例会には誰でも参加出来、会員になって年会費40ドルを納めれば、毎月の月例会の参加費は無料となる。会員でなくても、会場入り口で参加費20ドルを支払えば入場する事が可能だ。

さて、アメリカでは9月が新学期にあたり、LA SIGGRAPHも新年度のシーズンが始まった。シーズン最初の月例会は、夏のシーグラフ2012で開催されたエレクトリック・シアターを「再現」するという、毎年恒例のイベントであった。これは、試写室や学校等の施設を利用して、エレクトリック・シアターで上映された全作品一挙上映するというもので、毎年シーズン最初の月例会に実施されている。今回は、その話題をみなさんにお届けする事にしよう。

9月の月例会

月例会は9月11日夜、サンタモニカにある大学、Art Instituteのホールで開催された。夕方6時半から、まず最初に会員優先の入場となり、会員はスクリーンに近い席を先着順で確保する事が出来る。また開場と同時に、ソーシャル・アワー(親睦会)も実施され、飲み物とサンドイッチやポテチ等の軽食(無料)を頂きながら、しばし談笑。7時を回ったところで、一般の入場が開始された。そして7時半になると、いよいよ開演である。LA SIGGRAPH主催者による挨拶の後、シーグラフ2012のコンピュータ・アニメーション・フェスティバル(CAF)のチェアを務めたジョシュ・グロウ氏が、今年のエレクトリック・シアターの傾向と、上映フォーマット等について解説が行われた。シーグラフにおけるエレクトリック・シアターは、言ってみれば「CG業界のオリンピック」である。世界中から応募された作品の中から、選び抜ぬかれた秀作だけが上映される訳だ。

今年のCAFは、応募作品総数 : 601本。予備選考の後、審査員によって選定された作品数:81本、学生作品のエントリー:289本、作品が応募された国:43ケ国という事で、応募総数は、昨年の891本(44ケ国)より少なかったそうである。そして、CAFの中でもハイライトとなるのがエレクトロニック・シアターだが、全32本の作品が上映され、そのカテゴリの内訳は、

  • 学生作品: 9本
  • VFXリール: 7本
  • 短編作品: 6本
  • CM: 4本
  • サイエンティフィック・ビジュアライゼーション: 1本
  • ミュージック・ビデオ: 1本
  • シーグラフ論文予告編: 1本
  • ゲーム・ムービー: 1本

というバラエティに富んだ内容。学生作品が多かった事も特色だろう。また、エレクトリック・シアターで上映された作品を、国別に本数が多い順に見てみると、

  • アメリカ: 15本
  • フランス: 5本
  • イギリス: 4本
  • ドイツ:2本
  • 韓国・オーストラリア・オランダ・イスラエル・ポーランド・ニュージーランド・カナダ: 各1本づつ

という訳で、映像大国のアメリカが第1位だった。日本勢は、エレクトリックシアター入選作品が昨年に引き続きゼロという、少々寂しい結果に終わった。来年には是非期待したいものである。

では、この日のLA SIGGRAPH月例会で特別上映で上映された作品を皆さんに「さっくり」とご紹介したいと思うが、本欄では、一部ではなく「全32作品」を網羅してお届けする事にしよう。全編ないしは一部がオンラインで鑑賞出来る作品もあるので、そのリンクも含めてご紹介しておく。映像が公開されていないものについては、制作者の公式サイトを明記しておいた。ちなみに、この日のLA SIGGRAPHでのエレクトリック・シアターの上映は、HD解像度のQuickTimeで行われた。

Estefan (※Student Prize受賞)
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Jeffrey Call-Brigham Young University/アメリカ
カテゴリ:学生作品
公式サイト:http://universe.byu.edu/index.php/2012/03/26/byu-animation-program-finishing-new-film-estefan/

今年の学生賞を受賞した、Brigham Young Universityの学生ジェフリー・コール氏による作品。とある街の「カリスマ美容師」が、来店した1人の女性客を満足する為に奮闘するという、コメディ作品。今年のStudent Prizeを受賞。

How To Eat Your Apple(※Jury Award受賞)

Erick Oh/アメリカ&韓国
カテゴリ:短編作品

リンゴの中から、様々なクリーチャーが登場。リンゴを食べながら、どんどんクリーチャー達が増殖していく…というシュールなコメディ。テンポ良い展開が面白い。今年のJury Awardを受賞。

Iloura VFX Reel
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IIoura/オーストラリア
カテゴリ:VFXリール
同社ホームページ:http://iloura.com/

オーストラリアはシドニーにあるエフェクト・ハウス、Ilouraが最近手掛けた作品から映画「ゴーストライダー」を始めとする、同社が最近手掛けたVFXリール。

Twining “Gets You Back To You”

Psyop/アメリカ
カテゴリ:CM

コカコーラのCMシリーズで有名なPsyopによる、英トワイニング紅茶のCM。フォトリアル系ではなく、水彩画のようなやわらかいタッチが印象的な作品だった。

Tangled Ever After : The Rings

Walt Disney Animation Studios/アメリカ
カテゴリ:短編

注:この作品は、9月11日のLA SIGGRAPH月例会では、諸般の事情から上映されなかったが、シーグラフ2012におけるエレクトリック・シアターの上映作品として参考までにご紹介させて頂く。長編アニメ「塔の上のラプンツェル」の番外編として制作された短編アニメーション。最高に笑える1本であった。日本でも、10月24日に発売される「シンデレラダイヤモンド・コレクション」(ブルーレイ)のボーナス映像として鑑賞する事が出来るので、是非お見逃しなく。

Photofly

Simon Hegwarty-Rumble Studios/イギリス
カテゴリ:サイエンティフィック・ビジュアライゼーション
同社ホームページ:http://www.rumblestudios.com

Rumble StudiosによるR&Dプロジェクトで、オートデスク・ラボのPhoto Flyを使用したイメージ・ベースド・モデリングに、エフェクトや追加のモデリングを加え、部分的にHDRをによるリライティングを施したビジュアライゼーション作品。

“Little Talks”-Of Monsters and Men

Mihai Wilson-WeWereMonkeys/カナダ
カテゴリ:ミュージックビデオ

インディ・フォーク・ポップ・バンド Little Talksのミュージック・ビデオ。モノトーンで淡々と展開する映像が面白い。一度耳にすると脳裏に残るメロディーラインも印象的だった。

Weta VFX Reel
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Weta Digital/ニュージーランド
カテゴリ:VFXリール
同社のサイト:http://www.wetafx.co.nz/

ご存知Weta Digitalによる映画「プロメテウス」を中心に構成したVFXリール。映画「アベンジャーズ」等の話題作も含まれており、見応え充分のVFXリールである。

Rising

Lionel Juglair-Groupe Mikros Image/フランス
カテゴリ:短編作品

テレビCM等を手掛けるフランスのVFXスタジオGroupe Mikros Imageによる短編アニメーションで、蝶が幼虫からサナギを経て成虫になるまでを、幻想的に描いた作品。

Sony VFX Reel
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Sony Pictures Imageworks/アメリカ
カテゴリ:VFXリール
同社のサイト:http://www.imageworks.com/

映画「アメイジング・スパイダーマン」のスパイダーマンと敵キャラ「リサード」の戦いから、ハイライト・シーンをテンポ良く編集したVFXリール。

Papers Trailer

Siggraph2012/アメリカ
カテゴリ:予告編

毎年、シアター中盤に挿入される、Technical Papers(論文発表)の予告編。今年のPapersの中から、ハイライトを分かり易くナレーション入りでご紹介。

Dilated Pixels Episodic Television VFX 2011-2012
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Dilated Pixels/アメリカ
カテゴリ:VFXリール
同社のサイト:http://dilatedpixels.net/

ハリウッドはサンタモニカ通りにスタジオを構えるVFXスタジオ、Dilated PixelsのVFXリール。同社が最近手掛けたテレビシリーズのVFXが中心。

Herr Hoppe und der Atommull

Jan Lachauer, Thorsten Loffler – Filmakademie Baden- Württemberg/ドイツ
カテゴリ:学生作品

シーグラフ常連校、ドイツのFilmakademie Baden-Wuerttrembergの学生作品。核廃棄物処理を風刺したコメディで、オムニバス形式で数本が上映され、笑いを誘っていた。

Mac ‘n’ Cheese

Tom Hankins, Roy Nieterau, Gijs van Kooten, Guido Puijk – School of Arts Utrecht & Colorbleed Studios/オランダ
カテゴリ:学生作品

オランダはユトレヒトの学生4名による、ドタバタコメディ。その制作には、5ケ月という期間と、大量のピーナッツ・バター・サンドイッチを費やしたという事である。

Chevrolet “Joy”

Psyop/アメリカ
カテゴリ:CM

Psyopによる、シボレーのコマーシャル。Psyopらしい遊び心が楽しい。夜、家でテレビを見ていると、良く流れているCMである。 ちなみに、Psyopは日本では「サイヨップ」と記述される例もあるが、サイコロジカル・オペレーションの略語から取っている為、実際の英語の発音ではサイオップとなる。

ILM VF X REEL
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Industrial Light & Magic/アメリカ
カテゴリ:VFXリール
同社のサイト:http://www.ilm.com/

泣く子も黙る、ILMのVFXリール。「バトルシップ」「アベンジゃーズ」等の大作ハリウッド映画のメーキングが、惜しげもなく紹介されていた。

Wanted Melody

Paul Jaulmes, Broris Croise, Guilaume Cunis – Supinfocom Arles/フランス
カテゴリ:学生作品

シーグラフ常連校、フランスのSupinfocom Arlesの学生作品。筆者が今年1番笑った短編である。なんと、「ちん○」キャラクターが西部のガンマンという設定の爆笑アニメで、その生態や習性をさりげなく画面に持ち込んだ描写が可笑しい。場内は笑いの坩堝と化していた。ど~でも良いけど、筆者の後ろの席のオバちゃん、笑いすぎ。

Oh Sheep!
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Gottfried Mentor – Filmakademie Baden- Württemberg/ドイツ
カテゴリ:学生作品
公式サイト:http://technical-artist.de/project/oh-sheep

こちらもシーグラフ常連校、ドイツのFilmakademie Baden-Wuerttrembergの学生作品。対峙して睨み合う2人の羊飼いと、その羊達をほのぼのムードでコミカルに、そしてバイオレンスに描いたコメディ作品。

DiRT3
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RealtimeUK/イギリス
カテゴリ:CM
同社のサイト:http://www.realtimeuk.com/
http://www.realtimeuk.com/projects/view/dirt3

イギリスのVFXスタジオRealtimeUKによる、ゲームDIRTシリーズの新作リリースに合わせて制作された予告編である。フォトリアルなカー・アクション・シークエンスにご注目。

Digital Domain VFX Reel
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Digital Domain/アメリカ
カテゴリ:VFXリール
同社のサイト:http://digitaldomain.com/

渦中にあり、この程ようやく落ち着きを取り戻したデジタルドメインのVFXリール。同社が手掛けた映画のVFXから「ドラゴンタトゥーの女」「ザ・ウォッチ」「リアル・スティール」、そして数々のCMを編集したリール。

Dynamic Earth Visualization
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Excerpt : Coronal Mass Ejection and Ocean/Wind Circulation Gregory W. Shirah – NASA/アメリカ
カテゴリ:サイエンティフィック・ビジュアライゼーション
オフィシャルサイト:http://www.nasa.gov/topics/earth/features/dynamic-earth.html

太陽と、太陽から発せられる電磁波などによって地球が受ける影響や、地球の大気の動きなを科学的データに基づいて視覚化したビジュアライゼーション映像である。

Jack and Chuck
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Alexandre Chaudret, Thomas Crepin, Maureen Kressmann – Supinfocom Arles/フランス
カテゴリ:学生作品
オフィシャル・サイト:http://www.jack-and-chuck.com/

こちらも、シーグラフ常連校、フランスのSupinfocom Arlesの学生作品。両腕が無い天才作家と、彼を利用して名声を得る悪徳セールスマンを描いたお話。全体的にダークなトーンが印象に残る作品。

Fertilization
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Thomas Brown – Nucleus Medical Media Inc/アメリカ
カテゴリ:サイエンティフィック・ビジュアライゼーション
公式サイト:http://catalog.nucleusinc.com/generateexhibit.php?ID=71115

精子が胎内を遡り、数々の試練と難関を乗り越え、最終的に受精に至るまで道のりを科学的データに基づき視覚化した映像であるビジュアライゼーション。映像が終わると、誰かが思わず「….思ったより複雑な旅だったんだ」(英語)とつぶやき、その瞬間、場内から低い笑いがジワジワと広がったのが印象的だった。

Rosette(Well Told Fable受賞)

Romain Borrel, Gael Falzowski, Benjamin Rabaste, Vincent Tonelli – Supinfocom Arles/フランス
カテゴリ:学生作品

シーグラフ常連校、フランスのSupinfocom Arlesの学生作品。ハム屋さんを訪れた女性が、妄想に走って将来を予測、店を飛び出していくまでの「妄想部分」にクローズアップ、コミカルに映像化した作品。少々グロい描写もあったが、笑える1本であった。今年のWell Told Fableを受賞。

Tippet VFX Reel – Immortals
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Tippet Studio/アメリカ
カテゴリ:VFXリール
公式サイト:http://www.tippett.com/vfx/immortals/

フィル・ティペット率いるサンフランシスコのティペット・スタジオによる、VFXリール。映画「インモータルズ 神々の戦い」のメーキング。各エレメントのブレイクダウンが詳細に渡って紹介されていた。

Ramus

Chris DeVito, Danice Parry – School of Visual Arts/アメリカ
カテゴリ:学生作品

School of Visual Artsの学生作品。嵐で木から落ちてしまった枝のキャラクターが、木製オブジェを作っているコワーイおっさんに狙われ、絶対絶命の大ピンチ!しかし、木の幹が守ってくれるというお話。キャラクターの豊かな表情にご注目。

Witcher2 Assassins of Kings
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Platige Image / ポーランド
カテゴリ:ゲーム・ムービー
サイト:http://www.platige.com/frontend/project/the_witcher_2_intro

映画やCMのVFXを手掛けるポーランドのVFXスタジオPlatige Imageによる、「Witcher2」のゲーム・ムービー。船上の王様を狙う暗殺者を描いた、ハイエンド&フォト・リアリスティックなゲーム・ムービーである。

For the Remainder

Omer Ben David – Bezalel Academy of Arts & Design/イスラエル
カテゴリ:学生作品

イスラエルのBezalel Academy of Arts & Designによる学生作品。静かな部屋で過ごすネコの様子を、セリフなしでのストーリー・テリングを試みたという。毛筆のブラシ・ストロークのような、独特の絵づくりが印象に残る作品。

Clover “Way Better”

Passion Pictures/イギリス
カテゴリ:CM

Clover Way Betterのテレビ・コマーシャル。「Cloverは、どこから来たの?」と尋ねる孫の質問に答えるお爺ちゃんのナレーションに沿って、Cloverの乳製品が出来上がる様子をファンタジックに描いている。最初、作風を見て「Psyopかな」と思ったのだが、制作したのはイギリスのVFXスタジオPassion Pictures。

Release Your Imagination

RealtimeUK/イギリス
カテゴリ:短編

イギリスのRealtimeUKによる、インハウス・プロジェクトの短編作品。「自らの発想力をポジティブに解き放てば、明るい未来が訪れる」というメッセージが込められているという。ペーパー・クラフトのような質感や、カラフルな色使いが楽しい。

Reflexion(※Best in Show受賞)

Yoshimichi Tamura – Planktoon/フランス
カテゴリ:短編
同社のサイト:http://www.planktoon.com/#/comments_likes

フランスのPlanktoonの短編アニメーションで、日本人アニメーター田村義道氏が監督として参加している。デート前にお化粧をする女性が、自分自身へのフラストレーションを募らせ、「鏡の中の自分」と戦うというストーリー。今年の”Best in Show”を受賞。

Paperman (※サプライズ上映)
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Walt Disney Animation Studios/アメリカ
カテゴリ:短編

注:この作品は、9月11日のLA SIGGRAPH月例会では、諸般の事情から上映されなかったが、SIGGRAPH2012におけるエレクトリック・シアターの上映作品として参考までにご紹介させて頂く。

エレクトリック・シアターにてサプライズ上映された作品。この作品の詳細は敢えて伏せさせて頂くが、筆者イチオシの短編アニメーション作品である。ディズニーの最新長編アニメーション『シュガー・ラッシュ』の日本公開時に同時上映される予定なので、お楽しみに!

全32本を駆け足でご紹介したLA SIGGRAPH月例会での「エレクトリック・シアター」特別上映の模様だが、その全容はご理解頂けたものと思う。これらの作品群は、シーグラフの公式サイトからオンデマンドで鑑賞する事も可能なので、こちらのリンクをご参照あれ。

http://siggraphencore.myshopify.com/products/siggraph-encore-online-svr-on-demand-subscription-2011-annual

参考サイト:
LA SIGGRAPHオフィシャルサイト:http://la.siggraph.org/

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。