GDC開催。プラットフォーマーからの基調講演がない稀な年

DSC02280.JPG
会場のMoscone Convension Center
DSC02147.JPG
シド・メイヤー氏の講演が今年のGDCのメイン基調講演となった。メイヤー氏は「Civilization」シリーズなどで知られ、GDC 2008のGame Developers Choice Awards にて生涯功労賞を受け取った伝説のゲームデザイナー

ゲーム開発者向けのカンファレンス「Game Developers Conference2010(GDC2010)」が3月9日から13日までの5日間、米カリフォルニア・サンフランシスコで開催された。会場は昨年同様、市内にあるMoscone Convension Center(モスコーニ)。

GDCの始まりは、1980年代に一世風靡をしたゲームデザイナー、クリス・クロフォード氏がサンノゼにある自宅で知り合いのデザイナー達を集めて行った会合が始まりだと言われる。現在は毎年1万人以上の来場者がある、ゲーム業界において最大級のイベントとなった。

GDCでは、ゲーム業界関連者達がレクチャーやパネル、ワークショップ、ディスカッションといった形式で技術の発表を行い、そのセッションの数は毎年300を超える。GDC開催二日間は、特定のテーマを対象に終日かけて行われるチュートリアルとサミットが実施され、また3日目からは、GDCエキスポとしてテクノロジ関連企業と雇用募集をする企業達がブース出展をする。

今年のイベント自身の傾向をみてみると、全体的には、来場者数がアップ。昨年の記録17,000人を上回る18,250人となった。会場のモスコーニは、道路を隔てて3つの建物(North、South、West)があり、どの建物も使ってイベントが行われていたが、今年は最大規模のWestをカットした。2008年はMicrosoftのジョン・シャパート氏、2006年と2009年は任天堂の岩田聡氏と、開催3日目には、例年ビックプラットフォーマーから基調講演者を迎えるのだが、今年はそれがなく、話題のトーンが下がってしまった感があった。また日本人の講演者数が激減。

昨年15名の日本人講演者がいたが、今年は7名で留まった。ソーシャル&オンラインは2日間で40近いセッションが開催され(つまり30分毎に次のセッションが開催されるという数の多さ)、またfacebookからサミット基調講演があるなど、今までのGDCにはなかった新たなゲーム分野の大きな展開が予期される。2010年中にGDCは今回のオリジナルのイベントのほかにベースを他国に移し、カナダ、ヨーロッパ、中国そしてオンラインでイベントを開催する予定だ。 

今年のセッションは400以上もあり、同じ時間軸に26ものセッションが走るため、受講したいセッションが重なってしまうことも度々だ。筆者は出展社側でもあったため、体力的に1日3-4セッションを受講するので精いっぱいだったが、記憶に残る日本人講師によるセッションのいくつかを簡単に紹介したい。

SCE、PS3向け「PlayStation Moveモーションコントローラ」を発表

DSC01930.JPG
噂のPlayStation Moveモーションコントローラ

GDCでは毎年何かしらのビックなニュースが貴重講演で発表されているが、今年はプラットフォーマーからの基調講演がなかった部分、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のプレスカンファレンスで発表された「PlayStation Move」が一番話題になっただろう。現地時間3月10日の夕方、SCEが開催したプレスカンファレンスでは、オープニングで登壇したSCE World Wide Studio Presidentの吉田修平氏よりPLAYSTATION 3(PS3)向けの入力デバイス「PlayStation Moveモーションコントローラ」が発表された。 

これは昨年、ロサンゼルスで開催されたE3 2009で「プレイステーション・モーションコントローラ」として発表された、Wiiリモコンと同じ片手持ちの動作検知型のコントローラだ。このスティック型コントローラの中には、3軸の加速度センサ(accelerometer)、3軸のジャイロスコープ(gyroscope)と地磁気センサ(terrestrial magnetic field sensor)が内蔵されている。このコントローラが優秀なのは3次元空間の絶対座標が検知できる点だ。PS3用のUSBカメラ「PlayStation Eye」と組み合わせると、xyz 3値の絶対座標を得ることができる。カメラはPlayStation Moveモーションコントローラの先端にあるボール型のライトを検知してz座標を割り出すという。

DSC02364.jpg
ソニー・コンピューターエンターテインメント・アメリカから、PS3の3Dゲーム制作について1時間セッションがあった

このライトの色を変えることで複数のプレイヤーを識別し、各々のモーショントラックができる仕組みにもなっている。 先述した「Wiiリモコンと同じ」というのは、実はこのモーションコントロール技術は任天堂と同じサードパーティAiLive社のミドルウェアを採用している。「PlayStation Move」の発売は2010年秋を予定(米国内)しており、PlayStation EYEカメラデバイスが一緒になったスターターパッケージを100ドル未満で販売するという。

ちなみにプレスカンファレンスでは、SCEA Senior Vice President兼Marketing and Playstation NetworkのPeter Dille氏よりPS3の展望について語られた。「God of War III」をはじめとした合計12タイトルが公開され、「KILLZONE2」と「UNCHARTED2」の2作品が大ヒットを記録したと告げた。世界的な経済危機でゲーム産業も影響を受けた中、プレイステーションプラットフォームは2008年度よりも50%近くソフトウェアセールスを伸ばしたという。

DSC02360.JPG AiLive社のミドルウェア。エキスポでの当社ブースでは、ベースのモーション認識・追跡ミドルウェアLiveMove2が紹介されていた。近々、エマージェントゲームテクノロジー社のゲームエンジンGamebryo LightSpeedに対応するという

任天堂プロデューサー坂本氏:シリアス「メトロイド」とコミカル「メイド イン ワリオ」、人の心を動かすゲーム作りとは?

DSC02024.JPG

任天堂からの唯一の講演としてGDC開催3日目に、坂本賀勇(さかもとよしお)氏を迎えての”From Metroid to Tomodachi Collection to WarioWare: Different Approaches for Different Audiences”が開催された。坂本氏は、任天堂でファミリーコンピュータ作品の開発から関わってきた。現在はシリーズ最新作の「METROID:Other M」(米国では6月27日に発売予定)や、「メイド インワリオ」シリーズ、「トモダチコレクション」といった、人気作品の統括責任者として開発、監修を行っている。

DSC02010.JPG
プレゼン中に登場した坂本賀勇(さかもとよしお)氏
DSC01965.JPG
各バージョンと機種別の「メトロイド」
DSC01989.JPG
ワリオ冠の各ゲームタイトル

しかし本人の自己紹介では、「私はグローバルではなく、ニッチ路線が強いゲームデザイナーというのがワタシの正体です。会社からは怒られそうですけれども、私はこのスタンスをかなり気に入っています」と語っている。

この講演について、シリアスタッチの「メトロイド」からコミカルタッチの「トモダチコレクション」「メイド イン ワリオ」まで、ジャンル合い異なる作品のプロデューサーが同じ人間(坂本氏)であることに、任天堂岩田聡社長が興味を持ったことがきっかけ、と坂本氏は語る。「ゲーム開発に対してどのようなアプローチをしているのか、そのダイナミックレンジの広さを紐解くことで見えてくるものをGDCで講演したらおもしろいのでは?」との岩田社長自らの提案により、実現したものだという。坂本氏は、自分は特に意識していない。作風がばらばらといわれたことはあるが、それぞれにどんなアプローチをしているのか、そもそもプロデュースとは何かということは即答しづらい、と困惑したという。そこで改めて、自らのゲーム作りについて振り返り、講演することにしたそうだ。

「岩田が疑問に思う、私のゲーム制作というポイントでお話させていただきたいと思います。岩田の疑問とは何なのか、ということをご説明する前に、私がこれまで携わってきた作品について説明させていただく必要があります。皆様がたには、なじみ薄い私の挨拶代わりとしてご了承いただければ、と思います。では、皆様にはなじみ深いメトロイドから始めたいと思います」


任天堂の関係者による講演は、いつも内容の濃く人を引きこませる魅力あるものが多い。今回の坂本氏による講演も、内容は勿論、表現が個性豊かな名講演であった。

DSC01987.jpg

(GBA「まわるメイドインワリオ」の誕生秘話。「本体を回すとアナログレコードが再生されるコンテンツを試すために、椅子にゲームボーイアドバンスを置いてぐるぐると回していた岩田が一言「くだらね~」とつぶやいたところから、このプロジェクトがスタートしました。」「ご覧の写真はそのときを再現した合成写真です。ちなみに岩田の頭はこんなに大きくありません」(会場爆笑)「このタイトルで初めてメイドインワリオのプロデュースを手掛けました」

DSC02026.JPG
友達コレクションバージョンの岩田社長
DSC02032.JPG
坂本氏が個人的に愉しんでいるとい友達コレクション

なぜ坂本氏の作風は幅広いのか?坂本氏は、イタリアの映画監督、ダリオ・アルジェント氏のホラー映画作品が、現在の自分のもの作りに決定的な影響を与えたという。アルジェント監督のような作品を作りたいと思うようになった坂本氏は、アルジェント監督の手法を分析した。「作り手は、ムード、間、コントラスト、伏線を活かして観衆を恐怖させるのです」。そして、アルジェント監督に対するオマージュ的作品としてファミコン用ソフト「ファミコン探偵倶楽部」を完成させる。

しかし「ムード、間、 コントラスト、伏線」は、ふつうの手法であることに坂本氏は早い段階から気づいていたという。もう1つの話は、坂本氏が幼いころから興味を持っていた “笑い”。「何かおもしろいものがないかな?」と、1日のうちのけっこうな時間を笑いの研究に割いているという。まわりの人が喜んでくれるのがうれしく、「自分自身をおもしろがってもらえるためのネタをつねに求めていて、ふだんから感度を研ぎ澄まし、秘密の引き出しにしまっておくように心がけている」そうだ。 

そして、思いついたネタを発する場を頭の中でくり返しシミュレートし、ベストパターンを考えている、「笑いをコントロールしたい」自分を見つける。「私は、自分が使っているのは、恐怖のときと同じ「ムード、間、コントラスト、伏線」だと気づいたんです」(坂本)。人の心を動かすのも、「ムード、間、コントラスト、伏線」を作り手がコントロールすることにあると坂本氏は説明する。「作り手は受け手の心の動きをイメージしながら作品を作ります。それを効果的に行うためには、みずからが受けた経験を肌感覚で受け止める必要があります。

DSC02054.JPG

『METROID: Other M』に携わるD-Rockets、配島邦明氏と太陽企画や声優スタッフ。坂本氏は、チームとして「Project M」と名付けている

それはふだんの姿勢、引き出しを豊かにする過程で生み出されるものなのです」。「岩田社長の疑問に対する解答は、自分はシリアスとコミカルなもの両方に貪欲だったためにチャンスに恵まれたという言葉で説明がつきます。つまり答えは、「とくに違いがありませんでした」ということになります。でもそれは手段の話で、本当はいろいろなものに共鳴できる感性と、それを貪欲に掘り下げる心があれば、共通の手法によって人の心をさまざまな方向に動かすことが可能なんです」。(坂本)この結論後には引き続き、自身が手がけたニンテンドーDS用ソフト「トモダチコレクション」と、Wii用ソフト「METROID:Other M」についての秘話が語られた。

最新サウンド技術で能率性、対費用効果を上げるMASTS

DSC01835.JPG

向かって左:スクエア・エニックス土田氏  右:矢島氏

現地時間3月11日木曜日の朝イチセッションとして、「FINAL FANTASY XIII’s Motion Controlled Real-Time Automatic Sound Triggering System」が開催された。米国でタイムリーに3月9日に発売された「FINAL FANTASY XIII」の最新技術の解説とあって、会場は大入り満員。今回は、スクエア・エニックスからサウンドディレクター&サウンドデザイナーの矢島友宏氏と、テクニカルディレクター&オーディオプログラマーの土田善則氏が招かれ、「ファイナルファンタジーXIII」(FF13)で実装された、リアルタイムカットシーンのワークフローについてサウンドシステムの一つMASTS(Motion-Controlled Real-Time Automatic Sound Triggering System)の開発に関しての説明となった。

DSC01856.JPG
足音サウンドの数
DSC01886.JPG
FF13には様々なファンタジーキャラクタが登場する
DSC01888.JPG
入力したサウンドを即座に画面上で確認できるデバッガー

MASTSは、ゲーム中で発生する各種効果音、足音といったキャラクターの挙動音の発生をモーションやコリジョンの判定によって自動生成する内製システムで、今回のシリーズ最新作品で初めて実装された。実はこのセッション内容は、昨年12月に横浜で開催されたSIGGRAPH ASIAでも公開されており、今回はその「おさらい版」となった。

最初に矢島氏より、本人が関わったタイトルを事例にあげ、ゲーム内での発音制御のタイプについて説明があった。矢島氏によると、効果音を鳴らす手段には大きくわけてふたつのタイプが存在するという。ひとつは足音や衣擦れの音をシーケンサーでキャラクターの動きに合わせてひとつひとつ手動で結びつけるというもの。手作業であるから作業時間を費やすが、キャラクターの感情変化を音で表現するのに最適な手段であるという。

もうひとつはイベントテーブルを設定し、ゲーム内でそのアクションが起きた時点で自動的に効果音を鳴らすという手法だ。しかし、次世代機で表現されるリアルなグラフィックスに対応できるサウンドを実現するには、両方を応用しても限界がある。そこで、「Motion-Controlled Real-Time Automatic Sound Triggering System」、つまりMASTS開発の構想を立ち上げたという。これはサウンドデザイナー側だけでなくプログラマ側の協力が必要だ。しかし提案当初は、プログラマ側から困難な色が返ってきたという。その理由として「担当できるプログラマが少ない。

それに、違うデザイナー側との連携がうまく取れるか心配だった」と、土田氏は矢島氏から替わって説明する。その後、実現したらかなり面白いという情熱をもって土田氏のチームが開発を承諾、キャラクターの間接ごとにセンサを埋め込んで音を制御して挙動と連動する物理演算システムが生まれた。そしてMASTSを実装して完成したFF13は、カットシーンでの作成工程が約1/3まで削減することができたという。FF13では、使用サウンドの数は手動で結びつけたものと条件テーブルで鳴らされたものの合計が約9000個。FF13ではMASTSの搭載により手動で音を結びつける必要がなくなったという。

作品ごとのサウンド総数を見ると、MASTSがいかに作業を効率化しているかがわかる。また、作業していく中、試行錯誤として、2足歩行ではないキャラクターへの音付けへの対応がでてきた。FF13には、多足型のモンスターや、空中飛行するキャラクターが登場するのだ。そこに関しては、サウンドデザイナーが自在に操作できる、グラフィカルなUIを持ったスクリプト機能を実装させることで対応したという。制作で使われた音パターンのデータは、ライブラリー化して次への作品への再利用ができる。土田氏は、最後に「MASTSの将来的な費用対効果は非常に大きい」と語った。

WRITER PROFILE

山下香欧

山下香欧

米国ベンチャー企業のコンサルタントやフリーランスライターとして、業界出版雑誌に市場動向やイベントのレポートを投稿。