[オタク社長が見たAsianimationの世界]Vol.08 中国ネットゲーム事情 その2
2009-09-15 掲載
かつてのゲーム大国日本?
日本は、かつて、世界第1位の売り上げを誇るゲーム大国であった。しかし今、日本は、制作規模では世界3位くらいのゲーム中規模国であろうと言われ、その順位も近々中国やEU諸国に抜かれて恐らくさらに低下するであろうと言われている。売り上げ市場としての規模に至っては、どこまで順位が落ちるのか見当も付かない状況だ。
ここ数年は携帯電話や携帯情報端末の発展で「ゲーム」という枠組みが曖昧になり、またオンライン販売の発展でゲームごとの所属国の境界線が曖昧なために、明確な順位は一概には決められない状況であるが、ゲームの世界全体売り上げでの伸び率の1位2位を争っているとされるゲーム制作国2国の名は多くの人で意見を同じくしている。それは、米国と韓国だ。
米国については、十分な情報が伝わっている。しかし、韓国の情報はPronewsに限らず非常に少ない。これは、韓国のゲーム売り上げの大半が、日本ではなかなか一般化しないネットゲームによるものであり、しかもその売り上げの多くを、中国を初めとする世界各国からの課金に頼っているためだと思われる。
もっとも、韓国は昨年末からのサブプライムローン崩壊に伴うリセッションの影響を極めて強く受け、国全体としては青色吐息そのものの状況ではある。しかし、ネットゲームなどの市場独占状況は、多少悪化したもののまだまだ優位性が高いものであり、近いうちの復活が予想される国でもある。
そうした状況でも、韓国のゲームがそれなりの元気を保っているのは、偏に、中国市場にいち早く乗り込み、また人件費のかかる制作拠点を一部中国に移しているからに他ならない。今回は、そうした韓国のゲーム展開戦略の中心ともいえる、韓国ゲーム企業の中国進出に焦点を当ててお話ししたい。
進出する韓国ネットゲーム企業
韓国のゲーム産業と言えば、なんと言ってもネットゲームだ。韓国のネットゲームは、そもそも二つの要素から広まったと言われる。それは「ブロードバンド(ADSL)の早期普及」と「コピーソフトの蔓延」である。前者は韓国が軍事優先色の強い国家であるだけに、こうした情報設備の導入が一気に進む傾向がある優位性だろう。また、PC房(日本で言うところのネットカフェ)という特殊な環境が世界で最も早く普及したエリアであるところもその理由だろう。
そして後者は結果的には非常に皮肉だが、陸続きの北朝鮮や中国系の安い人件費を背景にしてコピーソフトが蔓延したためにオフラインゲームではどんな形にしても採算が合わず、そのため、オンライン上で月額なりアイテムなりごとに課金をするタイプのゲームしか利益が出なかったと言う事情による。
いずれにしても、先見の明と言うよりも、やむにやまれぬ結果であったのだ。しかし韓国は、こうして偶然得た優位性を見逃すことなく、制作・開発への補助金制度や、中国など諸外国へのネットゲーム市場開放に対する外交努力などの政府支援によって一気に拡大したことでも知られている。また、韓国政府は、こうした外交交渉や開発に対する資金面での補助の創設、あるいはファンドの支援や市場創設などを通じて、非ハコモノ支援に徹している。実は、コンテンツ産業に対しては、今後、中国などごく一部を除いた国においては、ハコモノ支援はあまり効果的とは言えないといえるため、この方策も大変みごとに当たり、韓国のネットゲーム独占状況を生み出した。
なぜなら、中国のハコモノ開発であるソフトウェアパークは、その面積も人口も日本の1地方都市に相当する大規模な開発であり、それに同じハコモノで対抗することは他国には事実上不可能であるからだ。例えば、日本に於て1地方都市や島1つを丸々ソフトウェア開発団地にすることは、我が国の国土や国民人数、そして個々人の職業選択の自由を考えれば、限りなく不可能に近い事が判るだろう。つまり、規模で競い合うハコモノ開発において、中国の大規模パークに対抗することは無理なのだ。
しかし、韓国は、中国の発展以前から、ハコモノ競争ではゲーム先行国である我が国日本や米国に対抗する事が出来ないような中規模国家であったことが幸いした。韓国はそうした事情から初めからこうした非ハコモノを中心とした支援を行っており、それがこの中国経済の席巻する時代において生きてきているのだ。
現在でも、中国国産ネットゲームと言われているものの多くが、実は韓国資本、韓国企画による事実上の韓国系ゲームであることも多く、世界不況下の韓国ゲーム産業に貴重な利益をもたらしている。政権交代を成し遂げようやく諸制度の大規模改革を行うことが出来る我が国において、こうした韓国のやり方は、コンテンツ海外戦略の転換への参考になるのではないかと強く考えてしまう。
北京で先陣を切る、酷构斯(クォーガス)社
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| 酷构斯(クォーガス)社の方々。ネットゲーム先進国韓国から中国へ、思い切った進出を果した彼らは若い。韓明東総経理は中国語を理解しないために、私の言葉を日本語から中国語に訳して貰い、それを酷构斯社のスタッフに韓国語に訳す3元中継での会話となった |
中国に進出した韓国ネットゲーム企業はいくつか知っているが、今回取り上げるのは、北京市内にある酷构斯(クォーガス)社である。酷构斯(クォーガス)社は、中国においては「MIR」や、「千年」が有名だが、いずれも日本ではあまり知られていないゲームだ。同社関連のゲームで日本で知られているものは、「A3」というガンホー社運営のゲームが有名だろう。(*1そのほかには、日本国産のゲームのいくつかを中国で運営することを手伝ったことでも、業界では知られている会社だ。
同社が中国に進出したのは今から5年以上前。最初は韓国向けゲームのグラフィックパーツ製作を社内外注的に請け負っていたが、今では中国市場向けにもゲーム制作をしている。中国市場は大きくまたプロも少ないため、近い将来の草刈り場になりうると踏んでいるようだが、残念ながら、まだまだ中国国内向けに関しては大きい黒字とは行かない様子である。
これは、実は中国には日本や韓国のような「カラー」が無いためではないかと、同社のスタッフは考えているとのことだ。つまり、中国は非常に大きい国で、地域差や民族差も大きく、そのため、全国で共通する文化というものが非常に少なくなってしまっているというのだ。
| 酷构斯(クォーガス)社ゲーム画面 |
中国においては、例えば、現代都市での話や武侠ドラマ、あるいは第二次世界大戦ものは共通だが、それ以外の細かな日常生活や昔話などの民族アイデンティティに触れる部分になると、途端に共通性が減ってしまいユーザーが困惑する事態になる。
また、もうコストのかかる一つ大きい問題として、中国におけるネットゲームは、ゲーム性よりもコミュニケーションツールとしての側面が重視されるという点にあるという。つまり、普通の先進国であれば、ゲームのためにレベルアップに時間がかかったり優れたアイテムを入手するための困難解決を楽しむ傾向があるのだが、ゲームよりもコミュニケーションツールであると感じている中国ではそうした困難解決の方向性をストレスであると感じる傾向が強く、それにクレームが付いてしまうと言うのだ。
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| 制作現場は非常に近代的だ。実際、韓国や日本で制作するのと、あまり遜色はないだろう |
例えば、日本のネットゲームの進出失敗要因として、各社日本ゲームの中国版運営を手伝った同社が挙げるのが「いくら日本の本社にクレームを出しても、アイテム追加もシナリオ追加もしてくれなかった」という点だ。強すぎるアイテムや簡単すぎるシナリオが拒否されるのは、日本の困難解決を楽しむタイプのゲームプレイとしては当たり前のことであるのだが、コミュニケーション重視の中国ネットゲームでは、それは到底受け入れられないというのだ。そのため、日本製ゲームはあっという間に飽きられて、利益を上げられなかったのではないかと同社スタッフは分析をしている。
酷构斯(クォーガス)社の韓国立副総経理は、こうした日本ゲームの国際不振を憂いて「私たちがそもそもこの世界に入ったのは、日本のゲームがきっかけです。日本の昔のゲームは、夢を叶える力があり、人気があった。だからこそ、日本のゲームにも是非頑張って貰いたい」という。
しかし、これだけの文化の違いを埋めることを考えると、単に日本のゲームのローカライズをしても追いつかず、あくまでもはじめから中国向けのゲームを作らねばならないことは自明だ。実際、酷构斯(クォーガス)社でも、ただの韓国版ネットゲームのローカライズではなく、中国向けの完全作り直しのつもりでアイテムや設定を全面的に新規で作ると、ようやく利益が出るという。
この点を理解して、中国市場に一番始めに本格的に乗り込んでくる日本のゲームメーカーはどこなのか、非常に注目されるところと言えるだろう。
さて、先に述べた単なる地域色以外にも、同じ「中国」でも、様々な行政エリアがある。単に地方色と言うだけでなく、政府の仕組みそのものが異なってしまうのも、中国の懐の大きさなのだ。そもそも中華人民共和国の中に、本土、香港、マカオという3制度があり、その本土も沿岸特区と内陸部に明らかに制度が別れている。さらに言えば、同じ「中国」を名乗る「中華民国」が実効支配する台湾も中国であると言えるだろう。次回は、こうした地域と中国との関係について注目したい。
(*1 「A3」は、同社の前身であるOnline Actoz社時代に作ったゲームであるが、事実上同じメンバーでの制作なので、同社関連作品といってもさほど間違いではないはずだ。
[ Writer : 手塚一佳 ]
[ DATE : 2009-09-15 ]
[ TAG : オタク社長が見たAsianimationの世界 ]
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手塚一佳
(てづか かずよし)
クリエイター集団アイラ・ラボラトリ代表取締役。1973年生まれ。東京農業大学農学部卒、日本大学大学院中退、小沢一郎政治塾8期生。数多くのアニメや実写合成に携わり、特にロボットアニメの演出力には自信がある。CG関連書籍のほかマンガなどの著書も多数。大学、専門学校などでの講義も受け持つ。居合家でもあり刀匠の元で刀匠免許を目指して作刀修行もしている。早くから海外コラボ制作に目を付けており、世界中を飛び回る日々。
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