PRONEWS

  • imgABOUT
  • imgTWI
  • imgFB
  • imgYTU

トップ > コラム > 手塚一佳 > [オタク社長が見たAsianimationの世界]Vol.10 政府とコンテンツ制作との関係

News

[オタク社長が見たAsianimationの世界]Vol.10 政府とコンテンツ制作との関係

2009-11-03 掲載

映像を初めとするコンテンツ産業に関わっていると強く感じるのが、アジア諸外国が日本に追いつき追い越しつつあるという点ではないだろうか?もちろん、この点こそがこの連載のメインテーマでもあるのだが、近年、その勢いがさらに加速しつつあるという実感を持たざるを得ない。従来からこの連載で繰り返し申し上げているとおり、日本と他の新興アジアコンテンツ大国との比較で、もっとも異なるのが、政府・行政からの支援の有無である。中国は映像、特に特撮映像とアニメに大きく力を注ぎ、韓国はネットゲームへの支援を強く行っている。

これに比べ、先般、日本でもようやくアニメ支援のプランニングが始まったと喜んだら、出来たプランはアニメの殿堂と称して、ビルと特殊法人を建てるだけの従来型の建築業者への支援となるハコモノ行政であり、アニメ業界には実質的には一円の支援も無いものであった。これではますます、日本のコンテンツ産業の地位は落ちてゆくばかりである。では、具体的にはどうすればよいのだろうか?

私は先日小沢塾を卒塾したのだが、その関係で、政治家や官僚などの非業界人に具体的な支援策を聞かれることがある。その際に説明するのが、中国や韓国など、他国での政府・行政支援の実態である。

今回は、この点に着目して、他国では具体的にどういった支援を行っているかを書き記してゆきたい。まずは、中国のアニメ支援をご紹介する。

中国のコンテンツ産業への行政支援のひとつ 撮影村

中国のコンテンツ産業への行政支援で、何よりも目立つのが、制作場所の提供である。以前、連載第三回でご紹介したような中国武侠映像、いわゆる「華流」では、島を丸ごと撮影場所に提供したような、いわば特撮のための島まで存在している。島全体や地域全体を撮影地域にすることで、火薬やワイヤーアクションなどの危険機材使用の際の安全を図れるほか、映画・映像にとっては欠かせない情報機密も保つことが出来、また、大規模撮影につきものの交通規制や上空を通過する航空機のスケジュールの把握などが必要なくなるなど、メリットは非常に多い。

半面、そうした大規模撮影地域は、必然的に都市部から離れた場所になるため、スタッフやキャストなどの交通の便の確保や、宿舎食料燃料電気などの確保には地域行政機関との連携が不可欠となる。

実は、こうした島や、地域全部を一種の映像特区として撮影場所にする手法は、そもそもアメリカがハリウッド創生期から行っていた手法であり、特に目新しい手法ではない。例えば、バビロンの街並みを丸ごと作り上げた事で知られる、映画の父グリフィス監督の「イントレランス」や、日本でも大ヒットをした「ベンハー」などが同様の手法を大規模に行ったことでも有名だ。中でも「ベンハー」は、何度もリメイクされ、そのたびに戦車競技の競技場や街並み丸ごと建設するなどの大規模セット設営を行ったことでも知られている。

こうしたハリウッド的な地域政策としての映像制作手法を持ち出してきたところは、良い着眼点だと言えるだろう。

この連載の本題であるアジアに目を戻してみれば、中国以外には、韓国も韓流映画のための同様の政府支援地域があり、政府から提供された土地で大規模セットによる撮影が行われ、撮影終了後は、それぞれの作品名を関した観光名所として広く開放されている。

通常であれば壊してしまう撮影セットを観光に使うという手法は、新しい村おこしの手法として注目もされているところだ。とはいえ、土地の足りない日本では、こうした撮影村の提供は極めて難しいだろう。また、映像コンテンツがいくら日本の主要産業の一つとはいえ、一地域による行政丸抱えのような制作状況は、そこまでの一方的な政治的支援を受けて良いものかどうかという問題もあるだろう。

実は、中国でも、湾岸地域の発展と共にこうした大規模撮影場所の不足が言われ始め、さらには一部特撮業界への支援偏重だとして、こうした撮影村の提供を控える動きが出始めているのも事実である。中国では、撮影だけではなく、映像制作場所の提供をも行っているのだ。

中国が国策で進める動漫基地とは?

teduka1001.jpg
西安の動漫基地外観。古い歴史ある街並みの中に、突然現れる近代的ビルは面白い
teduka1002.jpg
動漫基地内部。アメリカ的CG開発室スタイルの、お洒落な内部だ
teduka1003.jpg
大学生のOJTのため、大型講義室も存在している。イベントなどもここで行われるそうだ
teduka1004.jpg
動漫基地に入っている企業。ここの仕事は上階にある支援団体の紹介で取ってくることが多い

中国の映像制作場所の提供の中でも、もっとも日本人が衝撃を受けるのが「動漫基地」の存在ではないだろうか。動漫とはアニメーションのこと。基地はそのまま基地。つまり、国策によるアニメーション開発のための基地が、動漫基地なのだ。

中国では、IT特区として、日本の一つの市町村が入ってしまうような大規模な新興地域全体がソフトウェアパークとして企業に安価に提供されているが、その亜種として、アニメ専門のソフトウェアパーク「動漫基地」が設定されることが増えてきたのである。

動漫基地の特徴は、まずその立地である。動漫基地は中国各所にあるのだが、いずれも、従来の都市部から離れたソフトウェアパークの中ではなく、地方中枢都市の都市部やその近郊に建てられ、近隣にコンテンツ関連学部を持つ大学があることが多い。

どうしても24時間態勢になりやすいアニメ制作には、生活に便利な都市部での立地が必須なのだが、動漫基地が都市部にあることが多いのは、そこを十分に理解した設定と言えるだろう。また、美大出身者をそのまま学生時代からインターンとして制作に参加させるためのOJT(オンジョブトレーニング)の場としての役割を考えると、大学に近い場所に設定されることが多いことも納得が行く。

中国企業のみならず、海外からの進出企業であっても、こうした設備を数年の間極めて安価に使うことが出来るのが、動漫基地なのだ。動漫基地への参加企業へは、地元学生の雇用義務や納税義務などが存在しており、ただ一方的に政府から税金が垂れ流されているだけではない点にも注目したい。まさに、産学行政の連携が上手く行っている好例と言えるだろう。

また、動漫基地では、単に、企業向けの安価な設備が政府支援で提供されているだけではない。全ての動漫基地で、政府主導による企業向けの支援団体もここに入っており、中国内外の企業や政府団体、各地の大学などと、仕事や人材のやりとりを仲介している。日本の、ただ作っておしまいのハコモノ行政との違いは、まさにこの仲介や継続支援部分にある。ここが強いからこそ、中国のコンテンツ産業は急激に強くなったのだと実感できる。

日本においても、こうした、きちんと企業の将来から業界設計、人材育成までトータルに見据えた、きちんとした政府支援があればなあ、と、強く思わざるを得ない。


WRITER PROFILE

手塚一佳 CGムービー制作、ネットワークゲーム制作を得意とするデジタルデザイン会社アイラ・ラボラトリの代表取締役。


[ Writer : 手塚一佳 ]
[ DATE : 2009-11-03 ]
[ TAG : ]

関連のコラム一覧

[オタク社長の世界映像紀行]Vol.01 アジアから世界へ。それでも生き残る日本オタク産業

1年半の長きに続いた「オタク社長が見たAsianimationの世界」が、今回からリニューアル新連載となった。その名も「オタク社長の世界映像紀行」。この一年で世界経済が激変し、中国... 続きを読む

[オタク社長が見たAsianimationの世界]Vol.18 世界のオタクたち、2010年前半を振り返って

2010年も前半が過ぎ去った。遺憾ながら世界中で停滞した経済状況であり、日本でも政権交代後の与党内政変が起こり、世の中決して景気が良いとは言えない。オタクの世界も同様であった。しか... 続きを読む

[オタク社長が見たAsianimationの世界]Vol.17 フランス、パリの最新オタク事情

世界のアニメ/漫画などポップアートの中でも、日本のそれらの持つ地位は、一種独特である。アジアに限らず、欧米先進国や発展途上国など、どこの国に行っても、日本以外の国のそうしたポップア... 続きを読む

[オタク社長が見たAsianimationの世界]Vol.16 オタク的視点でNAB2010を歩けば…

先日米国ラスベガスで行われたNAB2010は、PRONEWSの特集ページでもわかるとおり、十数年ぶりの大変革を感じさせる大盛り上がりの中閉幕した。今年の立体視放送と、ファイルベース... 続きを読む

[オタク社長が見たAsianimationの世界]Vol.15 東京国際アニメフェアでのアジア勢の動向

2010年3月25~28日まで開催された「東京国際アニメフェア」は、去年までとは大きく様変わりをしていた。ビジネスデーに日本人同士の商談の姿が非常に少なく、代わりに海外向け、特に中... 続きを読む

WRITER PROFILE

手塚一佳 CGムービー制作、ネットワークゲーム制作を得意とするデジタルデザイン会社アイラ・ラボラトリの代表取締役。


Writer

編集部
PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。
石川幸宏
映像専門雑誌DVJ編集長を経て、リアルイベントを中心とした「DVJ BUZZ TV」編成局長として活躍中。
小寺信良
業界で噂の新製品を、AV WatchやITmediaのコラムでもおなじみの小寺信良氏がレポート。
raitank
アートディレクター。あまたの海外ソースを読み漁ってHDSLRを独学。国内と海外の情報流通の温度差にモーレツな疑問を感じ、最新の情報を自ら日本語で発信するblogを運営中。
ふるいちやすし
自身で脚本、監督、撮影から編集、音楽までもこなすマルチプレーヤー。
岡英史
バイクレース及びF3レース参戦など、映像とはかけ離れた経歴を持つ異色ビデオカメラマン
江夏由洋
兄弟で株式会社マリモレコーズを設立し、ノンリニアにおける映像技術、映像制作を中心に、最新技術を取り入れたワークフローを提案している。
手塚一佳
CGムービー制作、ネットワークゲーム制作を得意とするデジタルデザイン会社アイラ・ラボラトリの代表取締役。
山本久之
映像エンジニア。フリーランスで映像設備のシステムインテグレーションと、ノンリニア編集に携わる。
鍋潤太郎
ロサンゼルスを拠点とするVFXジャーナリスト。
江口靖二
江口靖二事務所主宰。現在デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。
安藤幸央
無類のデジタルガジェット好きである筆者が、SIGGRAPH ASIAやCESなど海外の注目イベントを紹介。
高野光太郎
Cosaelu株式会社 代表取締役 / 映像ディレクター ミュージックビデオ、番組オープニングタイトル、CM、劇場映画、全てをデスクトップで制作。
ヒマナイヌ
頓知を駆使した創造企業
オースミ ユーカ
映像ディレクター。企画、脚本から演出までジャンルを問わず活動。
林和哉
映像プロデューサー/ディレクター。入口から出口まで全てのポジションを守備範囲にしている。最新技術が好物で、各種セミナー活動も豊富。
土持幸三
1970年生。鹿児島県出身。俳優を経て渡米。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。
茂出木謙太朗
株式会社キッズプレート代表。「楽しいInternetコンテンツ」をテーマに活動。現在VRの可能性をまさぐり中。CG-ARTS協会会員
猿田守一
企業用ビデオ、CM、ブライダル、各種ステージ記録など撮影から編集まで地域に根ざした映像制作活動やCATV局などへの技術協力なども行っている。
松本敦
映像クリエイター。企業VPからスポーツイベント撮影まで幅広く手がける。アクションカムやドローンなどの特殊ガジェット好き。
黒田伴比古
報道・ドキュメンタリーエディターでありながら、放送機器に造詣が深く、放送局のシステム構築などにも携わるマルチプレーヤー。
ヒラタモトヨシ
ファッションとテクノロジーを繋ぎイノヴェーションを生み出す事をライフワークとし、WEB/ライブメディア/高精細映像表現を追求。
須藤高宏
東京・国分寺市に於いて録音スタジオ「マイクロサウンド」を運営し各種録音編集に携わる傍ら最近では各種イベント配信音声を担当。
猪蔵
いつも腹ペコ。世の中の面白いことを常に探っている在野の雑誌編集者。
ベン マツナガ
未来シネマ/ディレクター。ハリウッドでの大型映像制作、映画「血族」のプロデュースを経て、現在は、映像を通じて人と人をつなげるドキュメンタリー作りに没頭している
金田浩樹
映画・テレビの映像制作を中心に、USTやニコ生等、ライブメディア各分野を横断して活動中。ジャンルや固定概念にとらわれない構成力と発想に定評あり。
ViewingLab
未来の映像体験を考える有志の研究会。映画配給会社、映像作家、TV局員と会員は多岐に渡る
稲田出
映像専門雑誌編集者を経てPRONEWSに寄稿中。スチルカメラから動画までカメラと名のつくものであればなんでも乗りこなす。
山下香欧
米国ベンチャー企業のコンサルタントやフリーランスライターとして、業界出版雑誌に市場動向やイベントのレポートを投稿。
萩原正喜
米国コロラド州から、米国のデジタル放送事情からコロラドの日常まで多岐に渡るコラムをお届けします。
坪井昭久
映像ディレクター。代表作はDNP(大日本印刷)コンセプト映像、よしもとディレクターズ100など。3D映像のノンリニア編集講師などを勤める。
林永子
2005年よりサロンイベント「スナック永子」を開催。通称「永子ママ」
岡田智博
クリエイティブクラスター代表。メディアアートと先端デザインを用いたコンテンツ開発を手がけるスーパー裏方。
しらいあきひこ
カメラメーカー、ゲーム開発などの経験を持つ工学博士が最先端のVR技術を紹介。
秋山謙一
映像業界紙記者、CG雑誌デスクを経て、2001年からフリージャーナリストとして活動中。
今間俊博
アナログ時代の事例を通じ、教育関連の最新動向を探る。
伊藤裕美
オフィスH(あっしゅ)代表。下北沢トリウッドでアニメーション特集上映を毎年主催している。
UserReport
業界で話題の商品を実際に使ってみてどう感じたかを、各方面の様々な方々にレポートしていただきました。
System5 Labs
SYSTEM5スタッフが販売会社ならではの視点で執筆します。

トップ > コラム > 手塚一佳 > [オタク社長が見たAsianimationの世界]Vol.10 政府とコンテンツ制作との関係