最近、二年に1度開催のカメラのオリンピック「Photokina2010」レポートをお伝えしたが、いつものこの「オタセカ」コラムを利用して今回は、Photokina2010の裏側にあるオタク系の情報等をご紹介したい。今回は、Photokina2010番外編だ。だって書ききれないんですよ!

後半にVol.02もあるのでお楽しみに!

オタク目線から見たPhotokina01ナイトビジョンスコープ

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ロシア系兵器マニアなら知らない者はいないであろうLZOS社

徹頭徹尾オタク目線でのPhotokina紹介をしてみたい。なんといってもこれ。光学製品の最先端、ナイトビジョンスコープだ。ロシアのLZOS JSC社(Lytkarino光学ガラス工場)の展示では、ロシアの最新暗視装置を展示していた。同社は、ヨーロッパ最大の光学製品工業であり、また、旧KGBやスペツナズなどの軍・警察組織用も含めた旧ソ連時代からの軍需光学製品への製品供給で知られている。今回の製品もそうした旧ソ連からの軍需製品の流れを汲むと思われる、極めてハイレベル且つ実用的なものだ。

展示されていた暗視装置は、単眼(モノキュラー)と両眼の2つがあった。単眼は立体感がつかめないため、本来赤外線レーザーサイトと組み合わせての暗所狙撃用だが、コストが安いために警備用簡易製品として展示されていると思われる。また、もちろん、定番の暗視装置付き双眼鏡なども展示されており、これらは個人航海向けも含めた海事用としても広く利用されるものと思われる。

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特に、海賊が横行している昨今では、先進国各国の海事関係者の間にもこうした暗視装置の需要が高まっており、ヨット愛好者の多い欧州においては、そうした市場も広く見込めるものと思われる。このPhotokinaでは米国のNAB等とは異なり、欧州バイヤー向けの商品見本市という建前上、軍用品やスパイカメラの類は扱わず、民生品のみを扱うことになっている。とはいえ、イラクアフガンでのPMC(民間軍事会社)の暗躍に判るように、いまや軍事装備も民間の時代。当然、だんだんとこういう品物も扱うようになってきているのだ。

オタク目線から見たPhotokina スワロフスキー飛行船

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スワロフスキーとは、そう、あのオーストリアのクリスタルガラスによる美術宝飾品メーカーだ。最近ではケータイのラインストーン飾り付けで、一部女子から崇拝されているメーカーでもある。そのグループの一員、スワロフスキー・オプティック社は、実は、創業者の息子によって社内創業され、二次大戦以前からの歴史を持つ、ヨーロッパ屈指の双眼鏡メーカーなのだ。

実際のところ、酸化鉛入りのガラス製品を、そのカットと表面加工によって透過や反射をコントロールして独特の美しさを出す本社の方のスワロフスキーのガラス宝飾品の数々も間違いなく光学製品であり、その技術は双眼鏡と共通部分が多い。特に、スワロフスキー・オプティック社の双眼鏡は電子装備をなるべく使わずに光学技術だけで精度を求めているところに特徴があり、そのため、バードウォッチャーの間では定評がある。

歴史ある同社は、Photokina2010でも積極的な宣伝をしており、その一環がこの気球、と言うわけだ。実際、ほとんど無音で飛ぶ飛行船は、同社の無音の双眼鏡と非常にマッチしており、この一角は常に不思議な静寂があったのが印象深い。

オタク目線から見たPhotokina03 プレスルームの謎

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Photokinaのプレスルーム。かなりしっかりした食事を出すデリが付いているのが印象的

これも、ニュース本編には載せられないあたりで、プレスルームネタを。実は、Photokinaは、プレス関係者が極めて多いイベントでも有名だ。何しろ、各社ブースでも、バイヤーとプレス以外はまともに相手にされない傾向が強い商談イベントであるから、皆、ツテを使ってこぞってプレス証を持って会場を訪れるのだ。そのため、Photokinaにおいては、プレスルームがなんと2つある。本来は広大なケルンコンベンションセンターで2つ同時にイベントを行うときに備えての施設だが、Photokinaでは、その両方を同時に使ってしまっているのだ。

実はこのプレスルーム、その両方に売店が設置されていて、飲食が水一杯から全て有料。プレスだけで飲食店が2店舗も成り立ってしまう規模にも驚きだが、そもそも、プレス相手に飲食を有料で提供するあたりの清廉潔白さが、何ともドイツらしい。通常、この手のイベントではプレス相手にはそれとなく飲食を振る舞ってなるべく体裁の良い記事を書いて貰おうと意図するものだが、ドイツ人の政府系(第三セクター)施設らしく、そうした意図をアンフェアと捉えているのがよくわかる。

ちなみに、ここでの話題は、主にバッヂエンジニアリングについて。今回は、CANONの5D Mark2(借り物)と私物のKiss X4の2つのカメラで取材を行ったのだが、このkiss X4の方が馬鹿受けで、プレスルームの話題をさらっていたのだ。私が常駐していたのは東館の狭い方のプレスルーム、こちらで、テーブルの上にカメラを放りだして記事を書いていると、皆「!?」と立ち止まり、カメラをしげしげと眺めるのである。

kiss X4は、欧州では550Dという名前で出ており、名前の通り5D mark2の簡易版という扱いで知られている。ところが、この日本人の持っているものは、明らかに名前も違うし、変なでかいマイクまで付いている。もちろんそこは皆プレスだけあって、説明をするとちゃんと名前の違いについては知っているのだが、実際に目の前で見ると、やはり「なんでキスなの?」という疑問が出てくるらしく、わざわざ写真に収めていく記者までいた。

実際のところ、ライカの一眼レフなどもそうだが、カメラにはこうした名前だけ違う製品や、他社製品なのに商品名バッヂだけ換えた、いわゆるバッヂエンジニアリングのものが多い。これも文化と言えば文化なのだが、こうした名前の違いの持つ商品戦略について、意見交換が出来たのは貴重であった。

特に、今後、電子化が進めば進むほど、kiss X4のようなこうした安価な製品の性能が、ちょっと前に出た高価な上位製品の性能を凌駕する事態がしばしば発生するようになる事が予想される。そうした場合に、ネーミングでもってクラス分けをして、多少強引にでも下位製品は下位製品であるという位置づけをすることも、当面は必要なのでは無かろうか、という意見が多くあった。これが米国であれば、こうしたクラス付けを行きすぎた商業化であると嫌って叩く記者が多いだろうが、こうしたクラス付けを容認する意見が多いのも、欧州ならではではなかろうか。

オタク目線から見たPhotokina04 ドイツ随一のオタク街ケルン

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ケルン中央駅の本屋。2階建ての2階の半分近くが日本の漫画で占められていた

さて、ここで会場の外に目をやってみよう。ケルンという街を一言で言うと「欧州のお伊勢さん」とでも言うべき街である。中央駅前には隣接して巨大なケルン大聖堂が建ち、街はその大聖堂への参拝客の消費を目当てに構成されている観光の街なのだ。街を歩けば土産物屋に香水(ケルン名物のオーデコロン、オリジナル)をこれでもかと掛けられ、飲酒に厳しいドイツにおいて昼間から道路のテラス席で皆揃ってケルッシュビールを飲んでいるのも観光の街ケルンならではの光景だ。

しかし、そんなケルンのもう一面が、実はオタクの街である、という事。ケルン中央駅の本屋にまで日本漫画があふれ、街のあちこちにあるおもちゃ屋にも日本のゲームやおもちゃがあふれている。どちらかというと日本文化、とりわけオタク文化を軽んじる傾向の強い欧州では、ケルンは、非常に珍しい街と言えるだろう。

実は、私が今回ケルンに行った目的のもう一つが、居合の先輩でもあり、オタク仲間でもある居合道のケルン道場の人々への訪問であった。わざわざドイツまで行ってドイツの人々と居合をして、さらにゲームやD&D(もちろん、紙と鉛筆とさいころで遊ぶ方!)の話で盛り上がるのは、人としてどうかとは思うが、オタクとしては至福のひとときと言える。

そこで出たのは、最近、出版社や経産省が進めたがっている、日本文化の海外輸出についての話題。もちろん、親日のケルンの人々はそうした動きを極めて好意的に受け取ってくれていたが、フランスあたりでは軋轢もあると聞くし、イギリスではそもそも全く相手にすらされていないらしい。とはいえ、子供たちは日本のアニメを好むことが多く、そうした日本産のアニメやゲームに比べて、欧州産のアニメ屋ゲームはどうしても殺伐としすぎているか、物語性に欠けているのではないか、と言う意見があった。

 驚くべきは、ケルンの先輩、友人たちがきちんと、欧米の再編集者によって切り刻まれて別物にされてしまっている「ジャパニメーション」と本来の「日本製アニメーション」をちゃんと区別しているところだった。実際、ショップでも、再編集板のジャパニメーションではなく日本の原作をきちんと置いてあるところは、さすが親日家の多いドイツである。ただし、ここでも、韓国や台湾による日本アニメ・ゲーム風の作品は多数見られるそうで、こうした作品が日本の作品と混同されている傾向は強い。特に韓国は、国策として海外文化進出への支援もあるので、これには注意が必要だ、と言う意見が多くあった。

 結局のところ、文化の輸出という行為にはこの手の軋轢がつきものではあるのだが、とにもかくにも、きちんと現地に作品を出して、伝えるべきを伝えていかなければ話にならないのは事実だ。経産省も、補助金や補助制度屋それに伴う団体設立ばかりに目が行っている様子ではあるが、そうした役人利益のあるものだけでなく、きちんと現地マーケットと我々制作者をつなげる役割を担ってくれればよいのに、と、願って止まない。結局、我々制作者や企業が利益を上げなければ税収もなく、税収がなければ役人もいずれ飢えてひからびるのだから。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。