以前、ドイツで行われたカメライベント「Photokina」のレポートでも触れたが、DSLRムービーカメラCanon 5D mark2やDSMCカメラ「RED ONE」の登場によって、映像の最先端は、スチルカメラの最先端と渾然一体となり、その境目が曖昧になりつつある。同じ回路と光学装置を用いて、一枚だけ写真を撮る事に特化すればスチルカメラと呼び、それを連続して撮ればムービーカメラと呼ぶ時代になりつつあるのだ。

2月9日~12日にかけてパシフィコ横浜で行われたカメライベント「CP+」においても、その傾向は極めて顕著だった。本来であればスチルカメラのイベントである同イベントにおいて、映像カメラ、しかも本格的な業務用映像カメラの展示が多々行われていたのである。こうしたCP+の詳細はPRONEWSの他の記事にお任せするが、同イベント中、気を吐いていたのが、中国企業ブースであった。

世界のデファクトスタンダード、中国のカメラサポート製品群

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Shanghai Ring Light Digital Technology社のブース。何と同ブースはこの日、英語対応だった

最近、日本のどこのカメラ店を覗いても目に留まるのが、見た目はしっかりしているのに妙に安い三脚、ライト類だ。無論、これらは全て中国製。正直言って、雲台の出来は決して良いとは言えないし、持ち運び向けの製品も決して軽いとも言えないが、民生品としては十分な性能を持っており、業務用途でも緊急時には使えないこともないレベルのものもある。

ライトも、信頼性はともかく、その明るさや使い勝手はそこそこのものが多く、特にLEDライトは、中国製は一回り安い上にそれなりの性能で、非常に便利に使うことが出来る。実際、世界を回っても、安価な民生三脚やLEDライト、レフ板などは中国製が当たり前で「Photokina 2010」でも、三脚類などでは非常に大きな面積を取っていた。もはや、中国製カメラサポート製品類は、世界の低価格制作におけるデファクトスタンダードと言えるレベルに達しつつある。

CP+においてもこの傾向は顕著で、日本でもおなじみになりつつあるカメラ周辺機器ブランド「BENRO」などの中国系ブースが、非常に大きな面積を取っていた。ついにあの妙にプライドの高い菅政権ですらも、日本のGDPが中国に負け、世界3位に落ちたことを認めざるを得なくなった今、カメラ機材も、中国製だからというだけで無視することは出来なくなりつつあるのである。そんな中、ひっそりと展示されていたのが、中国企業系のミニブースだ。

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同社自慢の「DSLR Rig Movie kit」。変形パターンが非常に多く、使い勝手が良さそうだ

去年末の「InterBEE 2010」でもそうだったが、最近はこうしたミニブースに思わぬ掘り出し物があることが多い。それは今回のCP+においても同様で、「Shanghai Ring Light Digital Technology」社のブースなどはその傾向が極めて顕著であった。同社のブースは、CP+の中でも極めて異色であった。なにしろ、私が訪れたときにはブース内は全て英語か中国語での交渉となり、日本語が通じなかった。そのため、ビジネス客のみが見に来る状況であったが、それでも常に客足が途絶えない状況であった。

それもそのはず、同社の魅力はその性能価格比にある。例えば同社の定番スチルカメラ向けLEDライトである「O-Flash」は、レンズを取り囲むようにするため陰がでないという画期的商品で、なんと市場価格15~50ドル程度という超低価格LEDリングライト。各種スチルカメラ向け互換バッテリーグリップも50~100ドル程度と爆安で信頼性も高く、この2つの機材は、日本のプロカメラマンの間でも個人輸入者も多く、定評がある。元は数十ドル程度のものでも個人輸入をすれば1万円を超えてしまうこともあるわけで、それでもプロが買う価値のある、安定した性能を持っている機材を出している信頼のメーカーなのだ。

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様々なRIG変形を見せてくれるブースのお姉さん。金属製でがっしりしていて非常に頼りがいがある

そうした同社が、満を持して日本市場に持ち込んできたのが「DSLR Rig Movie kit」だ。同キットは、様々な変形によって9つの使い方が出来るカメラRIGで、一昔前に流行ったMilideのDVカメラ向け変形サポートキット「STEADIPOD DV-Partner-I」のDSLR版のようなものだと思えば想像しやすいだろう。軽量の代わりに華奢なところのあるMilideの「STEADIPOD」と異なり、このShanghai Ring Light Digital Technology社の「DSLR Rig Movie kit」は主要パーツが金属製で非常に丈夫。そのかわりにずっしりと重い。このあたりはいかにも真面目に作った中国製の良好な製品らしい感じだ。

驚くべきはその価格で、世界市場価格で末端価格200ドル以下を目指しているという。何かと高くなりがちな日本市場においても相当な低価格に収まってくると見られ、もしこれが日本国内で販売されることになれば、相当に革命的な事態になるのではないだろうか。同社は、このキットに付けるためのDSLRムービー向け液晶ファインダーフードも販売しており、こちらも20ドルを切る格安での販売を狙っている、とのこと。

最新機材にも乗り込んできた中国

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「KIPON」社ブース。同社は世界最大級のレンズマウントアダプタメーカーだ

しかし、最近の中国の本質は、実は、ハイテク分野にもある。特に、日本や欧米諸国の最新機材を安定生産することに成功した昨今の中国では、金属加工技術の進歩は凄まじく、最近では精密機械でも安定動作をするものも作られるようになってきているのだ。例えば、他業種でも、天津の時計メーカーでは、超精密機械式時計機構「トゥールビヨン」などの欧州有名時計ブランドへのムーブメント提供などもしていおり、その技術力はすでに平均的先進国と同等と言えるのだ。

こうした中国の最新金属加工技術力を背景にCP+に乗り込んできたのが「KIPON」社だ。同社は、既に欧米では著名なカメラレンズマウントアダプタ業者となっており、その販売規模は世界でも最大級となっている。今回は、Panasonicのレンズ交換式大判素子業務用ビデオカメラ「AF AG105」の発売を機に、マイクロフォーサーズ対応レンズアダプタを先頭に、満を持して日本市場へも参入してきた。

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AF105に取り付けたEFマウントアダプタ。精度の高いメカニカルな絞りがなかなか格好良い

同社ブースでまず目に付いたのが、マイクロフォーサーズ用、EFマウントアダプタ。今までもEFレンズアダプタは多く出ているが、EFレンズは絞りが電子制御のため、通常のマウントアダプタでは常時絞り開放になってしまい、マイクロフォーサーズカメラでは非常に使いづらいという欠点があった。それを一気に解決するのがこのアダプタで、何と、アダプタ内にレンズ内蔵の絞りとは別に、機械式の絞り機構が付いているというコロンブスの卵的製品なのだ。

ただし、このマウントアダプタでのEFレンズはフルサイズレンズのみ対応で、デジタル向けEF-Sレンズはフランジバックが足らず、使用できない。それでも、CanonのLレンズラインが業務用大判素子ビデオカメラで使用できるのだから、このメリットは大きいものになるだろう。例えば、この「KIPON」のマイクロフォーサーズ向けEFマウントアダプタに、Canonの「EF16-35mm F2.8L II USM」あたりを付ければ、32mm~70mm相当の非常に明るい標準ズームレンズになるわけで、このメリットは捨てがたい。

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シフト&ティルトマウントアダプタ。シフトとティルト両対応のため、非常に応用範囲が広い

また、同じくマイクロフォーサーズ向け、シフト&ティルトレンズアダプタも同時発売をしていた。こちらは、マイクロフォーサーズアダプタに取り付けるフォーサーズレンズアダプタで、ティルトだけでなく、何とシフト撮影も出来る優れもの。マイクロフォーサーズの浅いフランジバックを生かした画期的なマウントアダプタで、ティルトとシフトを同時に出来ることにより、様々な撮影用途への応用が期待される。両レンズアダプタ共に、近日中に日本市場でも発売になるという。

さて、今回のCP+を見てわかるとおり、AF105のようなマイクロフォーサーズ業務機や、 NEX-VG10や次世代NXCAMなどのSONY Eマウントの廉価ラインビデオカメラは、日本国内だけでなく世界でも強く注目を集めている。なにしろ、これらのカメラ規格のためだけに日本市場に進出してくる企業もあるほどなのだ。とはいえ、日本国内においては、こうした業務用カメラ価格の低下は、将来日本の景気が回復したときに、制作者自らが自らの首を絞めてしまう弊害になるという声も根強くある。

しかし「景気が回復する」といったところで、今のご時世と日本の地政学的状況を考えれば、どうしても中国市場頼みになる。現在の日本の官僚に個別国交渉能力が無い以上、TPPだって通ってしまうだろう。そうなれば、こちらから大陸市場に進出するだけでなく、向こうから我が国への進出も必然だ。そうなれば、日本海を挟んでの制作費は否応なしに近似してしまう。冷厳な未来の事実を言えば、たとえ好景気になっても今後制作費が上がることはおそらく無いのだ。そうした状況下で、我々が、まだまだ人件費の安い中国などと同じ価格帯で戦うためには、長い経験に裏打ちされた高い技能だけではなく、安価で優秀な自国産機材というのは大きな武器になる。

実際、今回ご紹介したように、中国韓国が半ば以上国策でのカメラ機材開発を行っているのも、両国が映像製作大国になった今、将来のさらなる発展をめざしてのことだろう。それに対し、我が国日本の映像制作における優位点は、日本製カメラが世界のデファクトスタンダードだという一点に尽きる。と、なれば、我が国の次世代映像製作を担う基軸カメラとして、こうしたPanasonic AG-AF105や SONY NEX-VG10 あるいは次期NXCAMなどの安価~中程度価格の高画質カメララインは、そうした下支えのためにも必須になってくるのではないかと思うのだ。

今回はCP+での中国企業をご紹介したが、元々はせっかくの日本企業のカメラ規格に対するレンズマウントアダプターだ。是非とも日本企業にももっと積極的にこの分野に乗り込んで頂いて、これからも長年にわたってカメラは常に日本が中心であって貰えればと願わざるを得ない。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。