5月15日、アジアのコンテンツ産業が注目する一大イベントが中国行政区、マカオで執り行われていた。新カジノリゾートホテル「ギャラクシーマカオ」(Galaxy Macao / 澳門銀河)のグランドオープンがあったのだ。同カジノリゾートは、最新の世界最大級カジノリゾートと言うだけでなく、マカオ初の、日系ホテルを持つカジノリゾートとしても注目を集めている。ラスベガスから世界一のカジノリゾートの地位を奪い取ったマカオとはいえ、今までのそのサービスはいかにも「鉄火場」のそれであり「酒と女があればそれで良いんだろ?」という風があった。ギャラクシーマカオの登場は、そうした鉄火場式のサービスに、日本式の「おもてなし」のサービスで風穴を開けるのではないかと期待されているのである。

同カジノに限らず、いま、マカオでは「日本」が静かなブームだ。その勢いは原発事故で水を差されたもののまだ消えてはおらず、ギャラクシーマカオ開業で再び火が燃え上がるのではないかと期待されている。マカオの熱い状況をお伝えしたい。

日系ホテル「オークラ」を有する一大カジノリゾート

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ギャラクシーマカオの広告は、お隣、香港の地下鉄でも派手に行われていた

ギャラクシーマカオのオープン日に向けた広告は、マカオだけでなく、行政区の異なる香港でも地下鉄駅をジャックして、派手に行われていた。1国2制度の中国にとっては、同じ中国内でも香港とマカオは行政制度の異なる、いわば外国。マカオのカジノの広告を香港でやるのは、広告キャンペーンをとなりの国でやっているようなものであるから、その派手さがわかろうというものだ。

ギャラクシーマカオは、マカオの埋め立て地域であるコタイ地域に新設された巨大カジノリゾートで、55万平方メートルもの敷地と併設の3ホテル合わせて2200室ものホテル客室数を誇る、世界屈指の施設である。カジノも豪華で、テーブルゲームだけでも600以上、スロットマシンやその他遊技機と合わせ、2000以上のギャンブルを楽しむことが出来る。文句なく、世界でも有数のカジノリゾートと言える大規模リゾートなのだ。

ギャラクシーマカオを経営する「ギャラクシーエンタテインメントグループ(銀河集団)」は、その名でわかる通り、香港資本のホテル・カジノ経営グループである。マカオではスターワールドホテルなどが同グループの経営として有名であり、このギャラクシーマカオでももちろん、同グループ直営の大型ホテル「ギャラクシーホテル」が運営されている。なのに、わざわざ外資である日系ホテル「ホテルオークラマカオ」を同カジノ内に併設しているのだから、これはただ事ではない。

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ギャラクシーマカオ、外観。モニターではちょうどオープニングセレモニーの光景が流されていた

ギャラクシーマカオでは、オークラだけでなく、例えばフードコートにはペッパーランチも入り、寿司屋や日本料理店も入るなど、随所に「日本」がちりばめられている。そう、ギャラクシーマカオの売りの一つが「日式(日本風)」なのだ。カジノの随所で行われるちょっとしたパフォーマンスも、ロボットのフリをした女性のパフォーマンスだった。これなどは日本のロボットブームをかなり意識しているという。これらは全て、日本客を取り込もうという発想なのだろうが、中国本土からのお客さんの方が、その珍しさから受けが良かったのが印象的だった。

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ロボットのような動きをする女性二人のパフォーマンス。物珍しさに人垣が出来ていた。観客は口々に「日本風だ!(リーシー!)」と。……そ、そうですか?

反面、ギャラクシーマカオの中に入っている遊技機は、日本製品がごく少数でほとんどが中国製であったのも印象的だ。カジノ内のイベントなども、日本のエンタテインメントソフトウェアはほとんど使われていない。これは、ラスベガスの遊技機が、なんだかんだ言って日本製が多いのとは正反対だ。マカオの他のカジノに機械を卸す日系遊技機メーカーとの兼ね合いもあるのだろうが、せっかくのチャンスをコンテンツ産業が生かし切れていない現状を思い知らされた。

ギャラクシーマカオの楽しみ方!

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ギャラクシーマカオ内は、中国人好みのど派手な内装。同カジノの売りの一つである日本テイストとのギャップが大きい

ギャラクシーマカオは、カジノ自体の雰囲気も、広大な長方形の一部屋で非常に雰囲気が良い。ラスベガスのカジノ風に、フェラーリが当たるカジノスロットなども用意されていて、大きなターンテーブルの上でフェラーリの実車がぐるぐると回っていた。スロットマシンも全てラスベガスでおなじみのチケット集金方式で、そのチケットを他のマシンにもそのまま突っ込める。もちろん、支払いも支払機にそのままチケットを突っ込めば自動で行われ、キャッシャーの長い列に並ぶ必要もない。マカオのカジノでは未だにコイン式のところが多いので、これはギャラクシーマカオの大きなメリットだろう。

昨今のカジノの進化の中心は、実は、このスロットマシンの充実にある。難しいディーラーとの駆け引きの要らないスロットマシンのお陰で、一部の金持ちのものであったカジノは一般化し、カジノリゾートという新しい商業形態が誕生したのだ。その中でも、チケット方式による遊びの簡便化は、昨今のカジノ発展の大きなきっかけとなっている。

無論、旧来からのディーラーとの駆け引きを楽しむテーブルカジノも健在だ。ルーレットやバカラだけでなく、中国人の大好きなさいころ賭博「大小」も至る所にテーブルが置かれ、オープン初日から多くの人を集めていた。 掛け金の高額なハイリミットエリアは場内の一段高いところに設置されており、多少目立つが、気楽に立ち入ることが出来る。無論、ハイローラー(超高額プレイヤー)向けのVIPエリアは別途用意されているが、本気のハイローラーだけでなく、一般の金持ちの気楽な遊びとしての高額賭博も明確にターゲットとしているのは、マカオのカジノでは初めてのことではないだろうか。

私も金持ちのフリをして、なけなしの小遣いで一手だけそのエリアで打ってみたが、該当テーブル初のハイリミットプレイヤーということもあり、周囲の注目が非常に気持ち良かった。目立ちたがり屋の中国金持ちには、これは受けるだろう。ハイリミットエリアではサービスも完璧で、そのテーブル上で、並ばずにカジノ会員になる事まで出来た。ちなみにハイリミットエリアでは、一手2000香港ドル(日本円で2万円!)から。幸い一手だけで勝ち逃げしたが、もし負けていたら昼飯晩飯抜きになるところだった。思えば、貧乏人が危ない橋を渡ったものである。

もちろん、こうした新機軸のギャンブルだけでなく、マカオ特有のカジノ内での舞台ショーも健在で、きわどいダンスやちょっとした手品などを見ながらのギャンブルも出来るようになっている。リゾート気分のライトな客だけでなく、昔ながらの鉄火場プレイヤーにも優しい、まさに大規模カジノならではの懐の広さと言えるだろう。

カジノだけではないマカオの魅力

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ギャラクシーマカオ併設のホテルオークラマカオでは、和服の日本人スタッフが「おもてなし」の心でサービスを提供している

ギャラクシーマカオのエンターテインメントは、カジノだけではない。最大の売りの一つ、巨大な波の出るプールは世界最大規模で、これからの暑いシーズンを前に、多くの集客を期待されている。また、ラスベガス風のバーやラウンジなども開店の準備があると言い、中国本土では難しい「ちゃんとした酒の飲める店」としての希少価値も期待できる。(何しろ中国本土では、有名ホテルのバーですら、偽物のウィスキーが当たり前に出てくるのである。本物が確実に飲めると言うだけで、価値が高い)

また、同カジノ併設のレストラン群も大注目だ。各国の料理、中でも、ホテルオークラ内にある「山里」など、日本食の充実が凄いのだ。マカオや香港では、昨年くらいから、静かな日本ブームが起きていた。無論、その多くが「食」に関することで、健康志向の強い中国人にとって、日本食は非常に大きなウェイトを占めていたのだ。ところが、東日本大震災とその後の福島第一原子力発電所事故で、その空気は一変してしまった。食に関する日本の安心感が無くなり、日本食を敬遠する雰囲気になってしまったのだ。これも、日本政府の甘い飲食物の暫定基準値が原因であり、失政という他無い。

とはいえ、日本食であっても、原材料が明確に中国産であれば、大いに受け入れられる余地を残している。現に、「山里」や、フードコート内に出店していた日本のステーキチェーン店である「ペッパーランチ」は、ギャラクシーマカオ内でも大人気となっていた。実はギャラクシーマカオのフードコートはプリペイドカードを購入しなければならないため非常に使いにくく、他のレストランと比べて決して安いとも言えないために人気が無いエリアとなってしまっていたのだが、それでも、ペッパーランチには長蛇の列があった。日本風のステーキと言うだけで、これだけの訴求力があるのだ。

今からでも遅くない。なんとか、日本政府が暫定基準値を世界基準まで厳しく見直して、世界の人々が楽しめる日本食を1日も早く復活させてくれることを祈らずには居れない。

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フードコートのペッパーランチは、フードコートの使いにくいシステムをはねのけ、大人気!

ギャラクシーマカオは、実は、グランドオープンとは言ってもまだまだ未完成だ。カジノとホテル部分、そして世界最大の波のプールこそオープンしたものの、もう一つの売りである、シネコンを中心とした巨大商業施設の方はまだまだ未完成。カジノを運営しながら、徐々に施設を広げていく予定になっている。新たに作られる商業施設の方にも多くの日系ショップが入ると噂されており、これからが非常に楽しみなカジノリゾートなのだ。このカジノリゾートは、せっかく日本がテーマの一つと言うこともある。もっともっと日本製の映像コンテンツをプッシュして行ければ面白い展開が期待できるのではないだろうか?

次回は、カジノ以外の、香港マカオでの「ニッポン」について。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。