ハンドヘルドカメラとしての方向性を考える

ここ数年来AVCHDカメラのラインナップは各社から多数発売されている。今回はPanasonic AG-AC160の後継機であるAG-AC160A(以下AC160A)をお借りすることができたので、同クラスであるSONY HXR-NX5J(以下NX5J)との比較を交えながらレポートしてみたいと思う。

この記事を読まれている方にはSONYユーザーが比較的多いのではないだろうか。そういう筆者も実はSONY党なのである。しかしながらPanasonic製のDSLRとしてのDMC-GH2やAG-AF105のような大判センサーカメラの評価が各方面ですこぶる高いと言うのも事実なのである。ハンドヘルドカメラとしての方向性がSONYとPanasonicでは違いがあるのだが、今回その差がどの程度あるのか、与えられた短い時間の中で大まかではあるが検証を行ってみた。

saruta_1.jpg

まずは基本的な特徴をおさらい

AG-AC160AとHXR-NX5J 基本スペック比較

※上記表をクリックで拡大表示します。なお上記は掲載時点で公開されているメーカー仕様書を元にした比較情報です。最新情報や詳細は各メーカーのHPでご確認ください。

大きな違いと言えば筐体サイズのほか、レンズのズーム倍率がAC160Aは22倍、NX5Jは20倍、と言ったところだろうか。

saruta_2.jpg

実際に両機を並べてみると大きさの違いがまず目に付く。AC160Aは NX5Jより一回り大きいといった印象なのだが、手にしてみると意外と軽い。重さ的にはNX5Jより200g程度重いのだが、その差はあまり感じられなかった。ハンディーでの手持ち撮影が多い場合にはこの200gの差が出てくるのかもしれないが、カメラの重心がバッテリーの位置を右側にオフセットしている関係上、手首にあまり負担がかからない設計になっている。

レンズ周りの機能がなかなかいい

saruta_3.jpg

レンズを正面から見てみるとフィルター径は72mmと両者同じなのだが、実際の前球の径がAC160Aのほうが若干小さい。鏡筒自体はかなり太いので、光学系が小さい分もう少し全体の径を細くできなかったのか残念である。というのも左手でマニュアル操作する場合、鏡筒の径が太いとリングの回転角が同じでも径が太い分繰り出し量が大きくなってしまう。特にズーム操作などは繰り出し量が多いと扱いにくい。このあたりが改善されるともっと操作しやすくなると思われる。

NX5JとAC160A両機ともピント、ズーム、アイリスとそれぞれ独立したリングを備えている。しかしAC160Aはズームリングが機械式となっている。ENGカメラ用レンズとほぼ同じ感覚でマニュアル操作ができる事はとても好感が持てる。筆者としてはリングの粘りがもう少し合ったほうがよいのだが、サーボモーターとの兼ね合いもあり、あまり重くすることが出来ないのだろうと推察する。この機械式マニュアルズームは本機の大きな特徴のひとつではないだろうか。

フォーカス機能についてだが、本機はAC160からAC160Aに変わりフォーカス合わせを容易にする「ターボ・ワンプッシュ・オートフォーカス」と「EXPAND(拡大)」表示機能が追加された。このターボ・ワンプッシュ・オートフォーカスはとっさのフォーカス合わせにはなかなか使える機能のように感じた。かなり小気味良くピンが合ってくれる。

またマニュアルフォーカス時のアシスト機能として[IN RED]と[EXPAND]の両モードをアシストボタンに設定できる。[IN RED]はピーキング表示と同じと考えてよい。被写体のエッジを検出してピントが合っている部分を赤く表示する。また[EXPAND]は液晶モニターの中心部に2.25倍に拡大された領域が表示される。撮影中にも容易に表示できるのでピントの確認などにはありがたい機能だ。

AC160Aのオートフォーカス機能はかなり優秀で、例えばカメラ前にある被写体が急にフレームアウトした場合、NX5Jは一瞬前後にピンを送りその後遠方にピントを合わせる動きをするが、AC160Aは迷う事無くスーっと遠方に合焦することが出来る。またフォーカスアシスト機能が有効になっている場合、自動調整終了後はフォーカスリングを動かすまで次の自動調整は行わないようになっている。

便利な機能として液晶画面の一番左下にフォーカス調整用のバーが表示され、画面全体のフォーカスが視覚的に確認できる。ピントが合っているとバーが左から中心方向に伸びる。バーの先端部分にはグリーンのドットが表示されていて、最大値の位置にこのドットが残るようになっている。オーディオのピークメーターに似た感覚で確認することが出来る。

気になる明るさは?画質は?!

saruta_4.jpg

実際にPanasonicのMOSセンサーとSONYのExmorCMOSとの明るさの違いが気になるところだが、暗い場面ではNX5Jのほうが若干ではあるが明るかった。厳密な測定をしたわけではないが、感覚的には0.5絞り程度の差があるように感じた。

画角に関しては、AC160Aがワイド側が3.9mmなのでNX5Jの4.1mmと0.2mmしか違わないが、意外とこの差は大きい。これにより室内での撮影などワイコンを使わずに撮影できる場面も増えるだろう。また、テレ側も22倍というENGレンズに匹敵する倍率なので、通常の撮影なら十分ではないだろうか。実際に画質の評価をAVCHDの圧縮ノイズの影響をうけないHD-SDIで行ってみた。モニターはSONY PVM-D14L5Jで評価してみたのだが、AC160Aのほうが細かい描写など解像度感のあるすっきりとした映像であった。

またフィールドでのテストでは両機とも60iの最高画質で記録したものをEDIUSを使い静止画で切り出した。以下の写真はレンズのテレ端とワイド端のテストも兼ねているので比較していただきたい。

saruta_5_2.jpg saruta_6_2.jpg saruta_7_2.jpg saruta_8_2.jpg

両者をフルサイズで見比べるとその違いが確認できるだろう。

saruta_9_2.jpg saruta_10_2.jpg

上記テストはメタルハライドランプ3200Kの照明下で撮影したもの。

この照明下ではAC160AのシーンファイルF1[ノーマル]状態では背景のブルーが、ややマゼンタ方向に回ってしまっていたのでF2[FLUO](蛍光灯の特性を考慮したファイル)を選択。まだ若干マゼンタ方向に回っているがNX5Jとかなり近い感じにあわせることが出来た。各シーンファイルはそれぞれ調整項目があるのでそれらを調整することにより、好みの色を出すことが出来るようだ。ただし、+7・・・0・・・-7迄のように調整範囲も狭く大雑把な部分がある。

内蔵のWFMやVFMは簡易的ながら現場では非常に重宝する。

限られた時間内でのインプレッションだったので、まだまだ見落としている部分がたくさんあると思うのだが、大雑把ながら操作性や絵の傾向など必要な部分は押さえたつもりだ。しかし被写体や照明環境による違いまでは確認することが出来なかったことをお詫び申し上げたい。

自分の周りを見るとNX5JやHVR-Z5J(HDV)の利用者が多く、実際に新機種選定の理由を聞いてみると「いままでSONYしか使ったことがないので今回もSONYで」という声をよく聞く。確かに大ヒットしたDSR-PD150の時代から操作系に関しては似たような設計思想を踏襲しているので、DV⇒HDV⇒AVCHDと変遷しても基本的な操作性が似ていれば、撮影時のストレスは少なくてすむ。またバッテリーや他のアクセサリー類も共通に使用できるというのはメリットが大きいのではないだろうか。しかし、実際にENGカメラに近いボタン類の配置や映し出される映像をしっかりと確認した場合、意外と機種選定は変わってくるかもしれない。

WRITER PROFILE

猿田守一

猿田守一

企業、CM、スポーツ配信など広範囲な撮影を行っている。PRONEWSではInterBEE、NAB、IBCなどの展示会レポートを行った経験を持つ。