MV SOUR「日々の音色」Zealot / NEUTRAL NINE RECORDS

国内外問わず、ネットユーザーならば誰もが知っている大ヒットミュージックビデオ(以下:MV)。You Tubeにアップされた7月初旬から現在まで、アクセス数はなんと100万件超え! 動画サイトをネット・プロモーションのプラットフォームに選んだ成功例として注目されている。

このMVは、NYの広告代理店「BBH」所属のアート・ディレクター、川村真司氏を筆頭に、Hal Kirkland、ナカムラマギコ、中村将良という4名のアーティストによって制作された。分割画面に登場する出演者は、世界各国にいるSOURのファン。事前に指示された動き(綿密に作り込んだプロトタイプのビデオを全員に配布。出演者は練習を重ねた末に撮影に臨むという気合いの入れよう!)を、出演者自ら、私物の「Webカメラ」で撮影していく。素材は編集後、You Tubeに投稿される。ネット環境を駆使したワークフローといい、予算をかけずに世界中の人々をつなぐ秀逸なアイデアといい、その解釈は現代的。「MVのプラットフォームがTVだった時代の終わり」を痛感させられる。

今は、発信者と受信者の双方向的なコミュニケーションによって成り立つネットワーク・メディアの時代。一方的に情報を押し付けるTVの特性は前時代的で、古い。MVのプラットフォームもネットワーク・メディアへと移行しつつあり、ビューアーも好きな作品を選べるネットを愛用する人の方が多い。

ところが、MVの多くはいまだ「TV的」。制作者サイドの美意識や偏った解釈を一方的に押しつけ、納品後の再生メディアの環境など考えもせずに『やり逃げ』する。そんな風に、作品世界のみを独善的かつ自己完結的に制作した作品がまだまだ多い。今、求められるのは「誰かの正解」の押し付けではない。多くの解釈の中から「自分なりの正解」を選択すること、または情報を共有し「みんなの正解」を導き出すことだ。ネットワーク環境に置かれたMVは観賞する作品であると同時に、作り手と見る者の交流を促すコミュニケーション・ツールとしても機能する。

そんな時代性を見事に体現したMVが、SOUR 「日々の音色」である。SOURとファンと演出チーム、多くの人々がばらばらな国、場所にいながらにして、ネットワークで1つにつながっている。そこにあるのは人と人との温もりであり、信頼関係であり、テレビ的な虚構では到底描ききれない、本物の絆である。

出演者たちの楽しげな笑顔を見ていると、最高に幸せな気持ちになって来る。感動したので、遅ればせながら今月の大賞を捧げます。SOURの他のMVもチェックしてちょうだい。

MV SOUR「面影の先」

MV SOUR「半月」

MV UA「月が消えてゆく」Victor Entertainment

nagako3.jpg

©Victor Entertainment

http://www.uauaua.jp/movie/index.html

こちらの作品はドキュメンタリー。MVを制作するよりも、ストレートな記録の方がミュージシャンや楽曲の魅力を上手く伝えることがある。特に現在は予算がなく、まともなMVを作ろうとするとかなりの時間、労力を要する。テレビ放映での影響力も疑わしい。既存のやり方を変える必要がある…。

というわけで今回は実用性と効果を狙い、アルバムのレコーディング風景やちょうど妊娠中だったUAのプライベートを垣間みるドキュメンタリー作品を作成。公式サイトを中心にネットで公開し、話題を広げて行った。

映像制作からプロモーション展開まで、一連のプランを担当したのはアートディレクターの永戸鉄也氏。本来は宣伝担当者が策を練るところだが、今はクリエイターが宣伝の仕掛けをどんどん提案する時代。生んだ映像がどう育つか、先まで目を向けられるクリエイターしか、今後の活躍の見込みはない。

スナック永子vol.28「スナック永子 LOVES OLGA!!!」

  • 日時:2009年9月3日(木)20:00~26:00
  • 場所:SUPER DELUXE!!! 東京都港区西麻布3-1-25 B1F
  • 入場料:1500円(1drink)
  • map:www.super-deluxe.com
  • PERFORMANCE GUEST:OLGA ENTERTAINMENT(Cotori・RUVR SOUL・Ayumi)

WRITER PROFILE

林永子

林永子

映像ライター、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。「スナック永子」やMV監督のストリーミングサイト等にて映像カルチャーを支援。