あっという間に12月! もういくつ寝るとお正月! 1年を締めくくる時節に乗じて2011年を振り返ってみれば最低最凶! 12月もとっとと終われ!

厄災への愚痴はさておき、今年の映像シーンを真面目に総括したいと思います。まず始めに、今年のMy Favorite MVを紹介します。

サカナクション「バッハの旋律を夜に聴いたせいです。」

アイデアは感覚的。叙情的。変で笑っちゃうけれど緊張感があって怖くてかっこいい。キワモノのようでいて作りは音を良く聴かせるプロモーション・ビデオの王道。なんでしょうかこのバランス感覚は。プロとしかいいようがありませんが、感性とツールの意義を断崖絶壁ギリギリのところで際立たせたクリエイティブディレクター 北澤”momo”寿志氏と田中裕介監督の手腕に拍手を送ります。

さて。昨年を契機に、ユーザー参加型のインタラクティブ映像が浸透した1年でした。TV-CMは媒体がテレビだけに、視聴者の参加はままなりませんが、だからこそインタラクティブサービスを宣伝する、例えばGoogleのCMが目立ち、従来のCMを古めかしく見せるといった皮肉な現象が起きました。

「Googleで、もっと。クロームでストリートライブ」CM

こちらはGoogleのWEBブラウザChromeのCM。ChromeをベースにしたMVも多数輩出されました。

OK Go + Pilobolus「All Is Not Lost」Official MV

salyu×salyu「ただのともだち」

ユーザーの書き込みが反映されたり、好きな画面をチョイスしたり。オフィシャルバージョンを鑑賞した後、オリジナルを作って楽しむという、1粒で2度美味しいシステムが人気となりました。映像演出はプラットフォームの分割画面を活かす、シンプルかつアナログの粋を極めた洗練されたアイデアを採用。いずれも音と映像を感覚的に楽しむ、プリミティブな快楽を与えてくれます。

一方、アナログというには壮大なスケールで、しかしながらたくさんの人間が確かに手を動かしながら大自然との共鳴を計った傑作も誕生いたしました。そう、みんな大好き「森の木琴」。今回はメイキングバージョンをエンベッド。

Making of the Touch Wood commercial – 森の木琴

このCMは海外で人気に火が付き、カンヌ国際広告祭で三冠を受賞したことにより多くの日本人にも知られることとなりました。間伐材で巨大な木琴を作り、音を奏でるという一大プロジェクトには、新しいテクノロジーを起用する以上のプリミティブなインパクト、凄みがあり、世界中の人々の胸を根源的な部分で熱くさせました。カンヌでは観客総立ちのスタンディングオベーションで大歓迎を受け、作り手のみなさんの感動もひとしおだったとのこと。

また、目の前にいる大勢のオーディエンスにアトラクション型映像体験を提供するプロジェクションマッピングの手法も、パフォーマンスや企業イベントを通じ、広く一般に知れ渡ることとなりました。

成蹊大学欅祭第50回 3Dプロジェクションマッピング

こちらはP.I.C.Sが総力を結して手がけたダイナミックな作品です。私も見に行きましたが、モニターサイズに集中していた視点が拡大される開放感、超快感! なにより、オーディエンスの拍手や「すごい!」「きれい!」「びっくりした!」などの声援がリアルタイムで響き渡り、人と映像が場の空気を共有する在り方って素敵って、しみじみ思った次第です。

人が熱意を込めて作り、人々が受け止め、参加したり感動したり、思い思いに楽しみ、ネットやアワードや拍手喝采を介して評価が作り手に届く、という良質な循環に恵まれた場合、インタラクティブな技術を利用した映像もそうでない映像も王道コマーシャルも映画も、充分にインタラクティブであると私は考えます。発信者と受信者が一丸となって作品の未来を作り上げる。映像作品というコミュニケーション・ツールの底力を実感した2011年でした。

WRITER PROFILE

林永子

林永子

映像ライター、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。「スナック永子」やMV監督のストリーミングサイト等にて映像カルチャーを支援。