今年もNAB Show(全米放送機器展、主催・全米放送事業者協会=National Association of Broadcasters)開催までカウントダウンとなった。本年は、米ラスベガスで4月10日(米国太平洋時間)に開幕する(展示は12日から)。開催に先立ち2010の見どころを先駆けてお届けしたい!日々ニュースでNABの出展情報はお贈りしているのでそちらも参考にしてほしい。

昨年の2009 NAB Showは、世界同時不況の影響もあって出展規模縮小や出展取り止めが相次ぐなか、いかにローコストに、しかし高品質に制作をするのかに焦点が当たった。RED Digital Cinemaの取り組みは十分に認知されたほか、コンシューマー向け製品のEOS 5D Mark IIデジタル一眼ムービーの活用が提案されたことも、プロ機材を集めたNAB Showでは異例のことであり特筆すべきことだった。さらに、4Kデジタルシネマ移行の検討オプションとして2Kステレオスコピック3D制作にも注目が集まった。これらの方向性は、昨年1年間を通じて、日本でも同様の動きをしてきたとも言えるだろう。

さて、1年が過ぎて2010 NAB Showの開幕が近い。米国市場の動きはどうなっているのか。すでに世界同時不況を抜け出しつつあるとも、まだまだ抜け出すには時間がかかるとも言われているが、どんな経済状態であっても毎年新しいトレンドが輩出され続けていくのもNAB Showの特徴だ。各旅行会社から伝え聞くところによれば、今年は昨年にも増してツアー客の集まりが悪いという。確かに日本国内の経済状態の改善は思うように進んでいないようだ。

今年は10年に1度あるかないかの大きな転換点

しかし、これだけはハッキリと言っておこう。今年は10年に1度あるかないかの大きな転換点に差し掛かっているということだ。2000年前後の前回はHD編集・ネットワーク利用により、制作環境が大きく進化し、PCでの編集環境に大きくシフトした。このシフトで誰もがノンリニア編集を扱えるようにならなかったなら、民生デジタルビデオカメラがメモリーへ移ることはなかったかもしれない。業務のファイルベース移行も相当遅れたはずだ。それでは、今年はどうか。今年の動向を占ううえで欠かせない要素は以下の4つだ。

  • ファイルベース
  • デジタル一眼
  • Blu-ray 3D
  • Ustream

この4つのテーマを核に今年のNABのトレンドを推しはかってみたい。

File based (ファイルベース)

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ファイルベース環境への移行が進みつつある。これをより効率化するには、トランスコーダーの高速化や品質管理、ファイルアーカイブ、メタ検索といったものが欠かせない。これらがどう連携していくのか。編集環境では、これまでトランジションやエフェクト面で活用されていたGPU処理が、タイムラインプレビューにも応用されていきそうだ。すでに、SIGGRAPH ASIAなどでテクノロジープレビューされているAdobe Mercury Engineもその1つ。SIGGRAPH ASIAでは8枚のフルHDを同時再生していたが、よりブラッシュアップした形でデモされるに違いない。

ファイルベースカメラレコーダーでは、キヤノンの動向に注目が集まるはずだ。NAB Show会場マップに占めるブースの大きさは、パナソニックと同規模となっており、これまでの2倍以上の広さのようだ。すでに50Mbps MPEG-2を採用したキヤノン初のファイルベースカメラ開発を表明しており、このカメラレコーダーの登場もありそうだ。ソニーも今年1月にSDカードに対応したNXCAMを発売しているが、NABに合わせてさらなるファイルベースカムコーダーを投入してくるかもしれない。

DSLR(デジタル一眼)

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昨年、EOS 5D Mark IIの登場で脚光を浴びたデジタル一眼ムービー分野。今年は、35mmフルサイズだけでなく、35mmフィルムカメラと同等の撮像面積であるAPS-Cサイズセンサーを使用したカメラの活用も進んで行くのではないか。日本に比べて、撮影サポート用のガジェットが豊富に存在する米国市場。スタビライザーや、撮影補助のステー、フォーカシング機構など、さまざまなデジタル一眼対応パーツの登場が予想される。

Blu-ray 3D

BRAVIA3D.JPG

Blu-ray 3Dの規格化で、家庭用ハイビジョン視聴環境にも3Dが入ってきた。今年はいよいよステレオスコピック3Dの制作環境強化が待たれる。2010 International CESで出されたパナソニックのツインレンズ3Dカメラレコーダーの登場も注目を集めそうだ。初心者では困難な、視差調整やテロップ挿入をどう解決していくのか。現在は、ハイエンド環境でのフィニッシング環境が中心だが、ノンリニア編集環境でのステレオスコピック対応はあるのか。さらに、コンテンツ制作のためのBlu-ray 3Dオーサリング環境はどうなるのかといった点には注目だ。ステレオスコピック3Dのライブ収録にも注目したい。3Dカメラリグのセッティング環境やプレビュー環境、ライブグラフィックス合成環境なども、地味な存在ながら必要不可欠な状況になっているのはいうまでもない。

Ustream

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Ustreamは、Twitterのライブテキスト連携により、ライブの空気感を視聴者が共有することを可能にした。1月のInternational CESでソニーが記者発表中継に活用したり、ソフトバンクが決算説明会に利用するなど、企業の映像利用も開始されている。こうなってくると、企業利用では、従来の放送局向けの中継ソリューションでは複数の機器を組み合わせる必要もあり、機材コストがかかり過ぎる。昨年は編集環境のローコスト・高品質に関する機能強化がなされたが、今年は中継ソリューション分野でも同様に、ローコスト・高品質への対応が急務となった。今後は、低価格のノンリニア編集ソフトウェアがプロ映像制作にも活用されたように、企業向け中継ソリューションがプロ市場でも受け入れられる可能性も出てくるだろう。

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デジタルハイビジョン、4K・ステレオスコピック3Dなどハイエンド制作への対応とともに、PC/モバイル映像制作もますます重要になってきている。企業が、さまざまな方法での映像利用を再確認しはじめた今年は、NAB Showの動向も大きく変化するのではないか。現地で時代の変化を見届けていきたい。

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