テクニカルディレクター 山本久之

私は久しぶりのワクワク感を味わっている。それは、遠い過去にも一度経験したことがある。Avid Media Composer5は、今年春のNABで発表になった大きな節目にあたるバージョンだと聞いている。この歴史のあるMedia Composerの最新版を前にして、私はワクワクしている。

私が初めてMedia Composerに触れたのは15年程前になる。当時はノンリニア編集というポジションも確立されておらず、編集の王道はまだリニア編集だった頃だ。当時と大きく異なるのは、すでにFinal Cut Proにたくさんの時間を費やしており、ノンリニア編集というジャンルもすでに業界に定着している点である。

今回Final Cut Proユーザーの視点で、新しくバージョンアップしたMC5を客観的に見て欲しいというリクエストが来た。当初は不慣れなため読者の方々に訴求できるようなものが、的確に書けるかどうか大きな不安があった。しかし、非AvidユーザーでFInal Cut Proユーザーという視点から見ることで、そこに新鮮なポイントを見いだせるのではないかと考え直した。

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Media Composerバージョン5では、FCPユーザーへのアプローチがいろんなところに見受けられる。シーケンスウインドウのタイムコード表示が左側に移動したり、新しく採用したスマートツールなどがそれにあたる。トグルボタンをトラックの左側に配置して、Avidでは御法度だったトラックを直接ドラッグしてタイムライン上を移動できるようになった。かたくなに守っていたAvidエディティングのしきたりを譲歩してきたところにも、このMC5での意気込みが感じられる。

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FCPを制作者が好んで使う理由のひとつに、ProRes422コーデックがネイティブで読み書きできる点がある。QuickTimeのデコーダ・コンポーネントは無償で配布されているので、Windowsでも最近はProResコーデックを素材の搬入で利用している話はよく耳にするようになった。これまでのMC4では、残念ながらProResファイルを直接編集のタイムラインへ持ち込むことができなかった。歴史がありユーザーも多いAvidでありながら、あえてFInal Cut Proを編集で選択した背景にはこんな理由があった。

AMA Avid Media Access

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FileメニューからAMAのVolumeかFileを選択

MC5ではこれまでのフラストレーションを払拭するために、AMA Avid Media Accessが搭載された。AMAはProRes形式に限らず、REDのR3D形式、EOSのH.264など今後登場する未知のファイル形式も含めて、Media Composerで標準で対応している形式以外を積極的に取り込むための新機能である。FileメニューからAMAのVolumeかFileを選択するだけで、Media Composerが対象ファイルへのリンク情報を管理し始める。AMA実行時には一切のレンダリングや取り込みの待ち時間は発生しないので、この段階での非生産的な時間は必要ない。

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AMAでリンクしたファイルに関しては、黄色に識別される
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さまざまなコデックが読み込み可能

AMAでリンクしたファイルに関しては、VTRからキャプチャやインポートしたファイルと区別するために、Binウインドウ内で黄色く色分けされている。現状ではAMAリンクしたファイルからのXML書き出しができないなど、いくつかの制限事項があるので、AMAリンクなのかどうかをエディターははっきりと認識しながら編集作業を進めることが求められる。ここまでのちょっとした仕組みさえ理解しておくだけで、これまで涙を飲んで諦めていたProResファイルをストレスなく編集で使うことができる。

実際にProRes422HQの素材を使って簡単なタイムラインを編集してみたところ、特にスクラブ時に引っかかる感じもほとんどなく、FCPのタイムラインと大差なく編集できる印象を受けた。AMAは常時オリジナルファイルからのデコード処理をバックグラウンドで処理するはずなので、CPUに対するそれなりの負荷が予想される。試しに、16コアの最新MacProと、一世代前のMacBook Pro3.0GHzでタイムラインを使ってみた。

当然MacProの方がレスポンスは若干良い印象は受けたが、MacBook Proでもシーケンス内のクリップ数が多くなければ、現実的に使えるレベルだと感じた。さらにMac版MC5の利点として、FCS3がインストールされているという前提はあるものの、MCのシーケンスからProResコーデックへの書き出しも可能なのだ。これはMCユーザーには朗報なのではないだろうか。

今回検証したMacBook Proでは、Mac OSX10.6.4、FCS2010、がインストールしてあった。これにより、/Library/QuickTimeディレクトリ内には、ProResコーデックの エンコーダ・コンポーネントが導入されているのだ。このようにMedia Composer5がProResコーデックを正式にサポートしたことにより、これまでエディター泣かせだった未対応フォーマットへの対応が実現する。素材がProResだったために、わざわざビデオテープに書き出してからMCにキャプチャーしおていた面倒から開放されるのである。

REDのR3Dの対応はどうだ?

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AMAリンクしたR3DファイルをSource Settingsからパラメータ調整

さらにAMAの機能で対応された、REDのR3Dについても検証してみた。MCタイムラインへはProRes同様レンダリングなどの待ち時間は一切ない。REDワークフローに関わった経験があれば想像しやすいと思うが、R3Dファイルはこれまでのどんなアプリケーションでも取り込んだ瞬間は、表示までに微妙なディレイが出るものである。しかしMC5ではそれがなかった。

これには正直驚かされた。このレスポンスの良さはシーケンスへR3Dファイルを配置してからも衰えることはなく、小気味良さはずっと継続される。このときのビデオクオリティメニューのセッティングはBest Performanceにしていた。さすがにFull Qualityではコマ落ちが頻発して編集どころではなかった。しかし、この品質でもエディティング作業に問題が生じるレベルではないと私は判断できた。再生パフォーマンスを稼ぐために、極端に品質を落としているということはなかった。MacBook Proの性能でもFull Screen Playbackでも同様のパフォーマンスが得られたことも大きなポイントだった。

AMAリンクしたR3Dファイルでも、Source Settingsからdebayerのパラメータは調整することが可能である。このときのREDのカラーサイエンスは最新のFLUTカラーサイエンスをサポートしているのも高く評価できる点だ。最新のREDcolorやREDgammaのカラースペースやガンマカーブがMCでも利用できるのは、REDワークフローでの大きなアドバンテージになる。

FCPとの比較でR3Dファイルへの対応を見れば、R3DファイルをAMAリンクを介してではあるが、無変換でシーケンスに持ち込めるMCの利点は大きい。Avid社のエンジニアの情報によれば、RED社からリリースされているR3DファイルのアクセラレータハードウエアREDRocketを、Avidシステムと同じワークステーションにインストールすることで、フォーマット変換やインポートが必要になった場合、処理の高速化の恩恵を受けることができるという。

これで、オフライン編集だけでなく、オンライン編集のコンポジット素材として、DPXなどのイメージファイルの書き出しも高速化される。しかし現状では、残念ながらREDRocketを使ったシーケンスの再生には対応していない。この点は誤解の無いように、コンビネーションの検討をしなければならない。

大きく変化したユーザーインターフェースとは?

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スマートツールの存在
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タイムライン上でトラックを直接修正

ユーザーインターフェースの面で、MC5は大きく変わった部分がある。スマートツールの存在は、既存のAvidユーザーにはあまりありがたみがないかもしれない。しかし、FCPユーザーから見ればこれが有るか無いかで、大きく操作感が変わるのではないかと思う。これは赤のオーバーライトと黄色のインサートモードを切り替えながら、トラックを直接左右にドラッグすることでタイムライン上を修正できる。FCPではあえて取り上げること自体に違和感のある極めて基本的な操作である。

Avidではこれまでこの機能を前面に持ってこなかったかというのは、設計思想に関わっているのではないかと思う。カット数が少ないシーケンスでは問題ないが、長尺の編集では全体を見渡すと詳細な部分で何が起こっているかは把握しにくい。そんな複雑なタイムラインになったときに、エディターの意思に反して誤操作をしてしまったら、どこが変更になったかを追いかけにくくなってしまう。そこでAvidでは不用意なタイムラインの誤操作を極力防ぐために設計していたのではないだろうか。柔軟性を重視したFCPと、確実性を重んじたAvidの設計思想の違いが垣間見れ、興味深いところだ。

総括

今回はFInal Cut Proエディターの視点から見たMC5を検証した。編集業界ではAvidかFCPかの二者択一がこれまでよく話題に登っていた。まさに宗教論争に似た対立軸で語られることも多かったと思う。しかし、今回真剣にFCPエディターとしてMC5に触れてみると、そんな切り分けは無意味であることがわかる。それぞれには長所と短所を持っている。そして、それぞれが進化し続けている。ある時点で見れば優劣はあるのかもしれないが、それは一時的な側面である。 それよりも双方の長所だけをうまく良いとこ取りをして、おいしい機能だけを使い分けるのが賢いエディタなのではないだろうか。

また今回検証で使った、Macintosh環境という点も大きくクローズアップされるべき点だと感じる。Windows版ではできないProResへの書き出しができる点や、FCPとの連携を視野に入れるのなら、Mac版MC5にアドバンテージが大きい。幸いにMC5の価格も以前に比べてとても入手しやすい価格帯になってきている。現状では明らかにMC5のアドバンテージは、REDワークフローである。R3Dファイルをネイティブに使える利点は大きい。この特徴を生かしたエディティングワークフローを使いこなせるかは、エディターの腕に掛かっている事は言うまでもない。


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