PRONEWSでもお馴染みの映像クリエイター高野光太郎氏がInter BEE 2010の会場にある「Asia Contents Forum」で、デジタル一眼レフによるプロモーションビデオの制作事例を紹介した。10月27日に発売したピアニスト西村由紀江さんのアルバム「Piano」初回限定版に付属する映像の制作事例で、デジタル一眼レフの活用方法やPhotoshopを使ったカラーコレクション、ワークフローを詳しく紹介した。

スローを撮影現場に持ち込んだノートPCで即確認

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高野光太郎氏(右)とステージの進行を担当したアドビシステムズの古田正剛氏(左)

まず制作全体の概要紹介からだ。撮影を担当したのはフォトグラファーの石田晃久氏。普段はスチルのカメラマンとして活躍中で、今回はアルバムのジャケット撮影と同時にミュージックビデオの映像撮影も担当した。カメラはキヤノンのEOS 5D Mark IIとEOS-1D Mark IVで、H.264のHD動画記録によって撮影。生っぽさを消してミュージックビデオらしくするために24コマで制作し、最終的にDVDの形式にするために2-3プルダウンをかけて毎秒30フレームにした。編集はPremiere Proで行い、非圧縮に書き出してポスプロに持ち込むという流れで作られた。

面白かったのは高野氏が現場にPremiere Pro CS5をインストールしたノートPCを撮影現場に持ち込んだ話だ。EOS-1D Mark IVの60fpsの撮影素材を24コマのスローの映像にすると、2.5倍のスローモーションが可能になる。しかし、EOSのカメラボディの液晶モニタではスローを再生することはできない。そこで、撮影現場に持ち込まれたノートPC上のPremiere Proで、撮影された60fpsの素材のフレームレートを即座に23.976fpsに変換、その場でスロー再生結果をチェックした。つまり、Premiere Proをリアルタイムのフレームレートコンバーター的に使うという方法だ。

Photoshopで映像の色や歪みを編集

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広角レンズで撮影された鍵盤を「レンズ補正」で一直線に修正をしているところ

石田氏は普段のスチルの仕事のように、自分で撮ったミュージックビデオの映像素材もカラーコレクションを希望。そこで、動画にも対応したPhotoshop CS5 Extended(以下、Photoshop)を使い、普段使用しているフィルターワークを映像にそのまま適用した。Photoshopは、「ウインドウ」→「アニメーション」をクリックすると、タイムラインが表示され、撮影された動画データを写真のように開くことができる。開いた素材を「スマートオブジェクト」に変換すれば、普段のスチル画像と同様に様々なレタッチが可能となる。このテクニックを使い、単板センサーのデジタル一眼カメラでの映像で発生しやすい偽色と呼ばれる虹色のムラのような現象を「フィルター」→「ノイズ」→「ノイズを軽減」で簡単に消せることなどが紹介された。

映像の歪みを修整する方法も紹介された。西村さんの視線から見た鍵盤の撮影のカットは、西村さんとピアノの間にEOSを入れて広角レンズで撮影をしたもので、撮ったままでは端が歪んでしまう。そこで、「フィルター」メニュー→「レンズ補正」を選ぶことで、レンズの歪みが修正できるというものだ。 このほか、石田氏が実際にレタッチをしたいろいろな素材が具体的に紹介された。どの素材も「レンズフィルター」「露光の調整」「レベル補正」といった写真のレタッチワークをそのまま映像に適用している。映像にもスチルのフォトレタッチのノウハウが通用するのには驚かされてしまった。

色は最初からしっかりと決めて撮ること

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セミナー後にインタビューに応じてくれた高野氏

最後に高野氏は素材の破綻について注意を紹介した。デジタル一眼レフで撮った素材は色が破綻しやすい。石田氏は「JPEGでカラコレをしているみたい」と言うほどだ。通常のビデオカメラの撮影では後で修正しやすいように少し色を抑えるノウハウがあったが、デジタル一眼レフの場合はこの方法は向かない。色の方向性を最初からしっかり決めて撮影することを勧めた。

制作事例のステージを終えて一休止している高野氏にインタビューをすることができた。ステージ上では紹介されなかったアルバム「Piano」の映像制作について、いくつか質問をしてみた。

-「Piano」のミュージックビデオはいつぐらいに撮影をされたのでしょうか?

8月17日撮影で、9月中旬納品というスケジュールでした。

-撮影は、1日で終わりましたか?

撮影はなんとか1日で終わらせました。というのも同じ内容の世界観で、ジャケットとミュージックビデオの同撮だったからです。1日で完了させてほしいという要望に答えられて良かったです(苦笑)

-今回の映像制作を通して、CS5を選んだメリットで感じたことはありますか?

EOSで動画撮影をしたデータを変換せずに直接Premiere Proで読めることですね。これは制作時間の短縮にもなります。撮影現場で撮った60fpsのデータをPremiere Proに読み込んで、フレームレートを変えれば、スロー再生を変換せずに確認出来るというのは非常に便利でした。

-変換なしにEOSのデータを読み込めるのはいいのですが、編集のレスポンスはどうなのでしょう?

確かに古いスペックのマシンでしたらば厳しいかもしれませんが、一定のスペックをもったマシンならば、問題はありません。PianoのミュージックビデオではHP EliteBook 8440wというインテルCore iファミリー搭載のノートPCでPremiere Proを動かしましたが、問題を感じることはありませんよ。

-ほかにCS5を選ぶメリットはありますか?

ダイナミックリンクでしょうね。Premiere Proで編集したオンラインの1本のデータをそのまま、After Effectsに送ることができます。また、After Effectsで編集をしたものは、Premiere Proにも反映されます。

-CS5から搭載された新しい機能で気に入ったものや、今後CS5で試してみたい機能はありますか?

なぞるだけで自動的に連続するフレームの境界線を追従する「ロトブラシ」は時々使っています。驚いたのは、選択範囲の正確さです。微妙な色の違いでも上手く設定すればかなり正確に範囲指定してくますね。After EffectsにはCS 5から新しくColor Finesse 3 LEがバンドルするようになりました。映画とかCMとか、仕上げのときに色の補正をするカラーグレーディングシステムというのがありますが、その色の補正の情報を交換するためのファイル形式をColor Finesse 3 LEはサポートしていてAutodesk FlameやAutodesk SmokeへのLUT書き出しに対応しています。今までAfter Effectsで当たりを付けても、ポスプロのマシンでは同じようにならないという経験がありました。だから自宅である程度方向性を詰めておいて、編集室に入れば、ポスプロでの作業時間の短縮にもなりそうですね。

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