9月13日、東京都中央区のロイヤルパークホテル東京でオートデスクのセミナーイベント「Autodesk University Japan 2013」(以下、AU Japan)が行われた。オートデスクというと、PRONEWS的にはFlameやSmoke、または3ds MaxやMayaをイメージするが、会社全体的にはAutoCADやAutodesk Inventor、Autodesk Revitといった建築系、製造系のソフトウェア開発・販売メーカーといった面が強いだろう。AU Japanはオートデスクがカバーする「土木・インフラ・プラント」「建築・建設」「製造」「メディア&エンターテイメント」の分野に分かれて、7つのブースで並行して事例やノウハウを紹介するというものだ。その中から当日行われた映像系のセミナーや展示会場の様子を紹介しよう。

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オレンジ色が会場。第1会場から第7会場まで並行してセッションが行われる

AU Japanは2008年から毎年行われている、オートデスク恒例のイベントだ。今年から大きく変わったのは、参加費が10,500円の有料イベントになったことなのだが、それでも来場者は例年と変わらず大盛況で満員御礼だったという。イベントの見所は基調講演として行われたサムスン電子のコウ・ジョンワン氏による「サムスン電子による開発者のためのエコシステム」と、特別講演として行われたロボットクリエイターの高橋智隆氏による「ロボット時代の創造」だ。コウ・ジョンワン氏の講演は世界のサムスン電子がアプリをどのように開発してどのようにデベロッパーネットワークを作っていくかというもので、高橋氏の講演は数年後、ロボットというのはわれわれにとってとても身近になり、コミュニケーションの相手になるという内容のものだ。特に高橋氏の講演は、これからの未来、われわれの生活がどうなっていくのか?ということが少し垣間見られる非常に興味深い内容だった。

このような高い品質の講演やユーザー同士の交流が、有料になっても参加し続ける引き金になっているのだろう。映像関連のセッションはドリームワークスアニメーションのユアン・ジョンソン氏がドリームワークスのプレビズの方法を説明する「アニメーション映画におけるプレビズ」と、サイヨップ社のトッドアキタ氏による「デジタルプロダクションで賢く働くために」の2つが行われた。その中からアキタ氏のセッションを少しだけ紹介しよう。

カスタムツールに使える数学の基本

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登壇するPsyop(サイヨップ)社のTodd Akita(トッド・アキタ)氏

アキタ氏のセッションは、カスタムツールの開発に使える数学の基本を復習しようというものだ。まずはアキタ氏のサイヨップ社と作品について紹介しつつ、最近のツールの動向を語った。ポイントは「カスタムツールを作っていくということもこれまでにないほど簡単にできるようになってきた」ということだ。CGツールの充実により、今あるツールでできないことは作ってしまえばいいという考え方がやりやすくなってきているとのことだ。具体的にサイヨップ社のさまざまなカスタムツールを紹介したが、どれもそれぞれの世界にその時だけに対応するために作られたツールだという。一方、ツールを作ったりカスタマイズをしようとすると、ある程度の技術的なノウハウが必要になったり、数学的な知識が必要だという。特に数学に関しては、共通の言語としていろいろな人たちがコラボレーションをするなどこれまでと違う形でできるようになるし、ソフトウェアにあるさまざまなバリアや障害というものがなくなっていくのもメリットと語った。

話は、基本的な数学をいろいろ組み合わせることによって、興味深い結果が得られるという解説に移った。まず3Dの座標についてから解説した。座標には極座標とデカルト座標があり、世界の中の1つの地点というのをマップで示すというのならば極座標が適していて、オブジェクトをいろいろな場所に置いていくならばデカルト座標のほうが向いていると解説した。大切なのは作業の内容に合わせて適切な座標を選択しようということだ。続けてベクトルの特徴だが、点は絶対的な位置を示すのに対して、ベクトルは相対移動を表していているといったことから、内積の解説であれば、ライティングや背面検出、拡散反射ランバートシェーディングに使える。このように数学をクリエイティブに落とし込むさまざまな方法をわかりやすく紹介した。

今回のセッションは数学の基礎みたいなものなので、Mayaや3ds Maxでも使えるだろう。難しいと思ったけれども、CGクリエイターにはこうした数学の基礎みたいな知識も必要ではないかということを改めて思ったセッションだった。

デジタル工作機械が目を引いた展示コーナー

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展示コーナーの様子。写真は来場者がいないセミナー中に撮ったもので、休憩時間は人でごったがえした

AU Japanは展示コーナーも行われている。特に今年の展示はカメラから3D Photoブースやデジタル工作機械の展示が目を引いた。

もっとも目を引いたのは、Autodesk 3D Photoブースだ。12台のiPod Touchの内蔵カメラでブースの中に座った人をいっぺんに撮影をして、撮影データを3Dデータにするというものだ。12台のiPod Touchは同時にシャッターが切られ、さまざまな角度から同時撮影された画像データを「Autodesk 123D Catch」で3Dモデル化するというものだ。自分の姿を3Dモデルができるというサービスが行われていて、このブースには長い行列ができていた。

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写真から3Dデータを作成できる3D Photoブース

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ブースの中には12台のiPod Touchが設置されている

写真や点群から3Dデータを生成するリアリティキャプチャワークフローのブースでは、ラジコンヘリのAR.Droneに目がいってしまった。ヘリコプターはスマートフォンで操作が可能で、ヘリコプター自体にカメラも搭載している。ブース自体は、AR.Droneのカメラで3D化したい建築物などの対象物をさまざまな角度から空中から撮影して、複数の写真から高度な3Dデータを生成するアプリケーション「ReCap Photo」を使って3Dデータを活用しようというワークフローを紹介していた。

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リアリティキャプチャワークフローのブース。ネットの中でラジコンヘリが飛んでいた

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ラジコンヘリにはカメラが搭載されていて、3Dに起こしたいものをヘリで多角から撮影するというデモだ

3Dプリンタの中で人気メーカーのメーカーボット社を扱っているブルレーが3機種もの3Dプリンタの展示を行っていた。3機種ともFDM(熱溶解式)方式と呼ばれる樹脂を先端部で溶かして押し出して成型をするという技術を採用したものだ。今話題の低価格帯の3Dプリンタに採用されているのはみんなこの技術だ。メーカーボットのReplicator 2は、3Dプリンタの中では一番歴史が深いものがあり、クオリティや造形エリアなどはトップランナーであるとのことだ。価格は26万4,800円。

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低価格3Dプリンタの中で人気のメーカーボットのReplicator 2

PP3DPのUP Plus 2は中国製だが、アメリカ国内でも高い評価を得ているとのことだ。プレートのオートキャリブレーション機能というのが初めて搭載されたのが一番大きな特徴だ。プレートの調整というのが印刷のクオリティに大きく関わってくる部分で、そこを自動化されたというのはかなり大きなアドバンテージのある今注目の機種とのことだ。価格は19万9,800円。

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オートキャリブレーション機能が高い評価を得ているPP3DPのUP Plus 2

3D SystemsのCubify Cubeは、同社のもっともエントリーモデルの3Dプリンタだ。外観が可愛いく、いろいろなカラーバリエーションがあるのが特徴だ。カジュアルに3Dプリンティングを始められる方にはお勧めとのことだ。価格は15万9,800円。

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価格が魅力の3D SystemsのCubify Cub

アルテックのブースでは、Stratasys社の3Dプリンタ「Objet30Pro」の実機デモが行われていた。こちらはFDM方式の製品よりも価格の桁が1つ増えるクラスの製品で、モデル材料にアクリル系硬質樹脂を使っているポリジェット方式を採用しているのが特徴だ。モデル材料を吹き付けて紫外線のピカピカ光るランプで固める。それの繰り返しで作られるという感じだ。サポート材を使っているので、複雑な立体物を造形することが可能だ。

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16ミクロンや28ミクロンの積層ピッチを実現するObjet30Pro

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低価格なFDM方式の3Dプリンタと違ってサポート材を使っているのも魅力だ

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樹脂は液体でモデル剤とサポート材をセットする

総括

展示ブースのデモを見てみると、従来は3Dというと凄く長い時間をかけてモデリングをしなければならなかったので、具体的な形にするのは難しい世界だと思われていた。それが、写真から3Dデータが作られ、手軽に出力ができるなど、一般の人でもだんだん扱える存在になっている。ここにきて急激に3Dが凄く身近になったということを感じた。製造業界の3D技術が映像業界にどのように影響を及ぼすかはわからないが、クリエイティブ業界全体の中で注目の動向であることは間違いないだろう。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。