ソニーポータブルストレージPSZシリーズが重宝される理由

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ファイルベースワークフローの定着とともに撮影素材の受け渡しもテープからメモリーなどデジタルメディアへと変わってきた。編集もノンリニアが当たり前となり、デスクトップだけでなくノートPCでも行える環境が整ってきている。こうした現状からカメラで撮影記録されたメモリー素材ファイルのバックアップや編集プロジェクトファイルの受け渡しなど、比較的容量の大きなデーターをやり取りすることが多くなってきている。

今回取り上げるソニーポータブルストレージはこうした用途に適したメディアとして開発された商品で、HDDタイプ2機種(PSZ-HA1T/PSZ-HA50)とSSDタイプ1機種(PSZ-SA25)がラインナップされている。いずれも現場での使用を考慮して耐衝撃や防滴性を備えており、多少水に濡れたり、机から落としたりする程度では壊れないように設計されている。また、保存や運搬時に便利な専用ハードケースが付属しており、ケーブルなども一緒に収納できるようになっている。インターフェースはUSB3.0とFireWire 800×2を装備しており、高速転送が可能だ。

頑丈かつ高速大容量のストレージは映像制作の強い味方

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頑丈なケースにケーブルとともに収納できるようになっている

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ベーカムのテープとほぼ同じ高さ

外観は金属製のケース本体を厚手のシリコンカバーでくるんだようなデザインとなっており、ベーカムのテープとほぼ同じ大きさだ。シリコンカバーは思ったより柔らかい質感で、机から落とした程度ならこのシリコンが衝撃を吸収してくれる。HDDタイプで2m、SSDタイプで2.3m、専用ケース収納時最大2.4mの耐落下衝撃性能を確保する。

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様々なポータブルストレージを並べてみた

この手のストレージは以前から様々なものが販売されているが、業務用用途を前提としたものはなく、主に堅牢性や収納などに問題があるものが多かった。左がソニーのストレージだが、その隣はHDDが2個収納可能なもの、1.8インチドライブを内蔵したものなど。ソニー以外のものは、内部に緩衝材などがなく、あっても薄いゴム程度で衝撃には脆弱な構造だ。

一般的にPCの外付けストレージとして販売されているものはこうした衝撃に対するバンパーのようなものははく、小型化のためか内部にも緩衝材などがない製品が多い。今回取り上げたストレージは業務用途を目的としており、外装だけでなく内部にも衝撃を吸収するゴム製の緩衝材を使用して保護している。実際の使用時はもちろんこうしたプロテクションを過信することなく運用するのが基本だと思うが、万一の時の保険という意味では心強い。

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コネクターはミニUSB3.0とFireWire 800

コネクターはミニUSB3.0とFireWire 800。バスパワーに対応しており、ACアダプター無しでPCに接続するだけで使うことが可能。HDDタイプ・SSDタイプともに消費電力はUSB3.0が4.5W、FireWire 800が5Wとなっている。

コネクターもシリコンカバーで蓋をできる作りになっており、ホコリや水などがコネクターから侵入しないように配慮されているので、受け渡し時などで急に雨とか砂埃などに見舞われても安心である。

ちなみに、同じような仕様の製品として某L社のオレンジ色のHDDがあるが、周囲のラバーがかたく、平らなところはラバーのガードがない。また、コネクターも無防備なことから、見た目の印象としては不安だ。落下に対しても明確な数値表示はない。中身の構造(ハードディスクの実装)がどうなっているか不明なので、実際のところはわからないが、ソニーPSZシリーズならケースに入れた状態で、2.4mの耐落下衝撃性能を確保している分、信頼度は高い。

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MacBook ProとMacBook Airの2種類を使って使用した。SxSからのコピーはPCに一旦コピーするのではなくSxSからドライブに対してダイレクトに行った。MacBook ProとMacBook AirはわずかにMacBook Proの方が早かったがほぼ同じ速度だった

最近のPCはUSB3.0対応の物が多くなり、その点ではUSB3.0インターフェースの装備は評価できるし、デイジーチェーン接続可能なFireWire 800も2基装備されていることから、一世代前のMacBook Proなどを使っているユーザーにとっても高速なインターフェースを利用できる。デザイン的にもMacとの組み合わせを意識したものとなっているが、欲をいうとThunderboltにも対応してほしかった。ただ、Thunderboltは、オーディオまたはビデオインターフェースとして利用することも多いので、あえて装備しなかったのかもしれない。

カタログスペック通りの高速転送レート

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PMW-F55で撮影した素材が入ったSxSメモリー約52GBのファイルをコピー。書き込まれたファイルはMXF OP-1aなので、いくつかのフォルダーがあり、ファイルの数も多い。1つの大きなファイルではないのでコピーに時間がかかりがちな構造だ

実際にMacBook ProとMacBook Airを使用して、SxSから約52GBのファイルのコピーを行ったところ、HDDタイプのPSZ-HA1Tが7分40秒(460秒)、SSDタイプのPSZ-SA25は約4分30秒(270秒)だった。SxSのファイルはPMW-F55で撮影したもので、複数のフォルダーやファイルを含むXDROOTフォルダーごとドラッグアンドドロップでコピーしたものである。SxSメモリーとカードリーダー、PCのUSBハブなどを含めたオーバーオールの実際的な数値で、バックアップ環境としては標準的なスタイルだろう。ということで、撮影現場で64GBのSxSをバックアップする時間は、PSZ-HA1Tで7-8分、PSZ-SA25では4-5分ということになろう。ちなみに、PSZ-HA1T、PSZ-SA25ともに工場出荷時のフォーマットはFAT32なので、4GB以上のファイルがあるとコピー出来ない。付属のフォーマッターなどでHFS+に再フォーマットしておこう。

201403_sony-PSZtest-HDD_SSD.jpg Blackmagic Disk Speed Testにおけるスピードテストの結果。左がHDDタイプのPSZ-HA1T、右がSSDタイプのPSZ-SA25
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201403_sony-PSZtest-HDD_AJA.jpg HDDタイプのPSZ-HA1TにおけるAJA System Testの計測結果。左が8bit/1920×1080/ファイルサイズ1GB、右が10bit RGB/4096×2160/ファイルサイズ4GBの設定
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201403_sony-PSZtest-SSD_AJA.jpg SSDタイプのPSZ-SA25におけるAJA System Testの計測結果。左が8bit/1920×1080/ファイルサイズ1GB、右が10bit RGB/4096×2160/ファイルサイズ4GBの設定
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201403_sony-PSZtest-Mac-OS_Air3.jpg 今回スピードテストを行ったMacの環境
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客観的に早さを見るため、Blackmagic Disk Speed Testと以前からビデオ系ストレージのテストとしてよく使われているAJA System Testを利用して計測してみよう。カタログ上はHDDタイプのPSZ-HA1Tが最大120MB/s、SSDタイプのPSZ-SA25は最大400MB/sとなっている。Disk Speed Testの結果は、PSZ-HA1TがRead/Writeとも100MB/s以上、PSZ-SA25も400MB/s以上とほぼカタログデーター通りの数値となった。AJA System Testでは、4K/4GBと1920×1080/1GBの2つとパラメーターで行ったがこれもDisk Speed Testとほぼ同様の結果となっている。

一般にカタログデーターは特定の条件下で行われるため実際より良い数値になるのだが、2種類のベンチマークテストはPSZ-HA1Tが10-20%下回るものの、PSZ-SA25は市販品のドライブではなく専用に設計されているということもあるが、カタログを上回る結果となったのは立派といえるだろう。これだけのスピードが確保できると収録メディアとしても申し分ないが、AJA System Testのグラフで谷間がある分を注意して使う必要はあると思う。

いずれのストレージドライブもUASP(※1)などの最新高速転送機能をそなえているが、そうした機能に対応していない場合はどうだろうか。2014年4月9日(日本時間)にサポートが終了するWindows XPの古いPCにUSB3.0アダプターという組み合わせではHDD、SSDともに50MB/s以上となった。これは内蔵のドライブとほぼ同じ結果なので、そのマシーンがもつ最大スピードは確保できると見て良さそうである。なお、Windowsの場合UASP対応はWindows 8以降なので、本来のパフォーマンスを発揮させるにはWindows 8が必須となりそうだ。

※1:UASP=USB3.0でSCSIのプロトコルを用いることで、より高速転送を可能としたもの。利用するにはドライブ、PC(USBアダプターなど)、デバイスドライバなど全てがUASP対応の必要がある。最大5Gbpsの転送レートで、USBの約10倍。Thunderbolt並の速度が期待できるとされている

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無難なカラーとデザインなので一般的なノートPCともマッチする。ちなみにこのPCは現場でSxSからのバックアップに重宝した。ExpressCardスロットと着脱可能なセカンダリーHDDが装備されている

PSZ-HA1Tのドライブ情報を見るとST1000LM 024 HN-M101BBとなっており、中身はSeagateのディスクのようである。ただ、ソニーでは内部のドライブは、製造時期に応じて最適な製品を選別して採用する方針ということなので、性能向上などを目的に変更になる可能性がある。

一方PSZ-SA25はPhison PC8350400Sとなっており該当するドライブは見当たらなかった。ただ、ファームがS8FMから始まっており、PHISON製のコントローラーを採用したNANDフラッシュメモリーのようだった。ベアドライブとして市販されているものではなく、この製品用に設計された専用の高速ドライブを採用しているということだ。

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よく見ると右側に表記があるが、ちょっと見では容量やHDD、SSDの区別はつかない。ドライブは通電中ブルーのLEDが点灯し、読み書きなどの動作中は点滅するようになっており、ドライブの状態はひと目でわかる

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同梱されているフォーマットソフトウェア「Portable Storage Formatter」。SSDタイプは交換目安を確認することが可能。HDDタイプでは下側の交換目安表示はでない

ポータブルストレージ用のフォーマットソフトウェア「Portable Storage Formatter」が同梱されており、これを使うことでFAT32、NTFS、HFS+でのフォーマットが可能。WindowsとMac用のソフトがストレージの中に入っている。間違って消してしまっても同社のWebサイトからダウンロードできる。通常PCでフォーマットや初期化は行えるが、SSDタイプのみこのソフトを使うことでフォーマットだけでなく交換目安を確認することが可能となっている。Portable Storage Formatterでは、OSのフォーマッター同様、クイックフォーマットとフルフォーマットが可能で、フルフォーマットではデーターを完全に消去してからファイルシステムの初期化をするため、情報漏えいのリスクを低減できる。なお、SSDは使っていくうちに速度低下を招くことがあり、これを解消するためにはOSでのフォーマットではなく、SecureErase(※2)を行うと良いとされているが、専用フォーマッターはそれには対応していないようだ。

※2:SecureErase=元々はHDDの機密漏洩防止のための完全データー消去の意味だが、SSDの場合は、OSではファイルの消去を行う場合、管理領域(FAT=File Allocation Table)の削除のみなので、一度書き込みを行った領域をOS上で削除しても実態は残ることになる。ここに再度書き込みを行う場合SSDではブロック単位で消去を行ってから書き込むことになるため、時間がかかることになる。SSDにおけるSecureEraseはドライブにまったく何も書き込まれていない状態(新品時と同じ状態)にすることを指しており、一般に専用のツールを使って行う


SSDはフラッシュメモリーを採用していることから書き換え回数による寿命が存在する。もちろんこのドライブに限らずフラッシュメモリーを採用しているすべての製品に当てはまることだ。交換目安はSSDの書き換え回数を読み取ることで、ドライブの寿命を予測してこうしたフラッシュメモリーを使用するうえでの不安要素を解消できるようになっている。

大容量のデジタルデーターの受け渡しはスニーカーネットに勝るものなし

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シリコンカバーは接着されていないので、取り外すことができる。オプションでカラーバリエーションがほしいところだ

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重ねても簡単にずれないようにシリコンカバーには凹凸がある

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SxSカードリーダーも統一したデザインの物がほしくなる

ネットワークが充実した現在でも、大容量のデーターは簡単確実で安全安価な人手による受け渡しが行われている。撮影した素材をまとめてバックアップするのはもちろん、合成用のCG素材を現場へ持ち込む、MAに映像データーを渡す、編集用のRAIDから一時的にデーターを退避、映像や音声など編集に必要な素材をまとめて1年ほど保管しておきたいなど、大容量かつ高速なメディアはファイルベースの時代に不可欠なものといえよう。

ただ、こうした用途を前提に考えられたメディアは不思議と今までなかったのが現状だ。今回レポートしたストレージは運搬や保管も考慮した作りになっており、同じデザインでスピードの異なる2タイプを用意するなど、現場的によく考えられていると思う。また、3年間保証というのも業務で使う上で非常に重要で、それだけ自信があるといえるだろう。

単に容量やスピード、価格で選択しがちだが、バックアップとして使う場合はやはり信頼に重点をおきたい。現場で使用しているうちに、シリコンカバーの色がグレーだけでなくほかの色も欲しい、本体にインデックスやメモを挟めるように、もっと大容量なものが欲しいなど、様々な要望も出てくると思う。このあたりは更なるラインナップの拡充やオプションでの対応など、今後に期待したい。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。