2008年9月に登場した史上初のHD動画収録機能付きデジタル一眼は、実はEOS 5D MarkIIではなく、Nikon D90であったことはご存知でしょうか。一眼動画は、物理的にはニコンのカメラから始まったのです。ただ、ニコンの一眼で撮れる動画は、なぜか?永らく「AVI Motion JPEG@720p24fps」固定だったので、幾人かの強者(つわもの)チャレンジャーを除けば、基本的に皆さっさとEOSに流れていきました。

D90(左)D7000(右)

その後、SONYさんやPanasonicさんが順当に参入し、ご存知の通り、一躍「ラージセンサー・カメラ市場」が活況を呈するようになります。…が、ニコンさんは相変わらずのマイペース。昨年ようやっとD7000が登場し、フルHD(1080p)での収録ができるようにはなったものの、正直、二年ほど周回遅れの印象。基本的に『ニコンは一眼動画に注力したくないメーカーなんだな』という認識が定着していたと思います。

と・こ・ろ・が。そんなニコンさんが今年1月にスペックを公開したD4、D800には、みんな腰を抜かさんばかりに驚かされる羽目になりました。

『ヘッドフォン端子、あります!』
『音声レベルメーター、表示できます!』
『一粒で3回おいしいクロップ録画モード、あります!』
『4:2:2クリーン出力、できます!』
…って、どこの次元からやって来た優等生ですかっ!?(笑)

D4(左)D800(右)

突如、彗星の如く登場したD4、D800。そのスペックを見て感じたのは、D4こそ、いわゆる “HDSLRの頂点” として君臨するモデルになるのでは?という予感でした。どちらも35mmフルサイズ・センサー機とはいえ、3,600万画素という超高密度センサーを備えるD800とは違い、D4の全く欲張っていない1,620万画素センサーのほうが「圧倒的に暗さに強い」であろうことは想像に難くありません。

また、FX(フルサイズ:x1)、DXクロップ(x1.5)というD800に用意されている二つのクロップ撮影モードに加え、D4には更に一段上のフルHDクロップ(x2.7)モードが用意されており、つまり1本のレンズで3回おいしい!点もすこぶる好印象。

そこで、早々とPRONEWSさんにお願いして、2月にD4をしばらくお借りしてテストをさせて頂きました。

んん?ですが、事前の想像に反してテスト結果は芳しくありません(詳しくは、Vol.2にて)。異変は、FXフルサイズ・モード、DX x1.5クロップ・モードでの収録中、ピントの山がまったく掴めず、「あれ〜?」と首を傾げたところから始まりました。どこにピントを合わせても、ボヤッとしていて解像感がないのです。持ち帰ったデータを等倍で確認しても、印象、変わらず。海外のニコン派の友人などは「Oh、なんか優しい描写やね〜」などと言ってくれたりもしましたが、やっぱり、なんかヘンです。だって、センサー中央部をフルHD画角で切り出して収録するフルHDクロップ(x2.7)モードの絵は、それはそれは気持ち良く解像しているのでした。

…じゃ、D4で動画撮る時はフルHDクロップ・モードで撮れば? って、それは本末転倒も甚だしい。

なぜ、こんなことが起こるのか? なにか使い方が間違っているのか?いやコレはやっぱりダウンサンプリングのやり方に、どこか間違いがあるんじゃ?…と、悶々と出口の見えない疑問を抱え込んでしまい、いつまで経ってもレビューが書けません。これでは埒があかない。

そこで、PRONEWSさんに頼んで、ニコンのご担当の皆さんにお引き合わせ頂いたのでした。

ROUND 1:D4、D800、気になるポイントを一問一答

  • 日時:5月14日
  • 於:ニコンイメージングジャパン
  • ご協力:高橋和敬氏(左)、吉松栄二氏(中央)、寶珠山秀雄氏(右)
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ダウンサンプリング方式について

寶珠山秀雄氏(以下、寶珠山氏):D4の収録動画に関し、FXとDXモードでは「解像感が低い」というお話を頂きました。まずは動画収録に関する全般的な制約として、FXモード、DXモードの画角は3:2、1920×1080クロップは16:9と、画面の収録アスペクトが異なります。そして、センサーが感じた16.2Mの絵は、最終収録画素数である1920×1080=約2Mサイズまで画素を減らさなければなりません。その「減らし方」には幾つかの方式がありまして、D4とD800では異なる方法を採っています。

具体的には、D4はどちらかというと高感度のときの画質を重視した画素の作り方を、D800のほうは解像感を重視した画素の作り方をしています。この志向性の違いで、それぞれのカメラが記録する動画の特性に違いが出ます。

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raitank:メーカーは自社カメラの画素の作り方を断固として明かしてくれませんが(笑)、センサー信号の画素の減らし方、いわゆるダウンサンプリングの方法は、主に「ラインスキップ」、「ビニング」、「画素混合」の3つに集約されるのでは?

そして、エイリアシングやモアレのないキレイな動画は、なんといっても「画素混合」が一番!ということが知られています。ならば全社とも「画素混合」を採用してくれれば何も問題ない筈なのに、なぜか?現在市場に出ている一眼あるいはノンフレックス・カメラのほとんどが、「ラインスキップ」か「ビニング」の二択です。僕の知る限り、敢えて「画素混合」を採用しているのは、実質、某社のアレしかありません(笑)。これは一体なぜなのでしょうか?

寶珠山氏:いくつか理由がありますが、一番大きな理由は、私たちは動画ではなく「写真」のメーカーである、ということです。きれいな動画のために!と画素混合方式を採用すると、別の、写真のために必要な特性を犠牲にしなければなりません。

半導体の画素ピッチの限られたスペースの中に、色々な回路を埋め込まなければならない。画素を混合するには混合するための「回路」が必要ですが、それは写真の画質向上には関係 がありません。ということは、その回路を埋め込むためには、写真の画質を良くするのに必要な別の回路を削らなければならないという事になります。

画素ピッチは決まっており、半導体の中に埋め込むことができる回路の絶対量も決まっており、それを何のためにどう割り振るか?という問題に直面するのです。最終的にどんな回路 を、どんな方式を採用するかは、各カメラの味付けと、メーカーとしてのポリシーの違いが大きく出るところなのだと思います。

HDMI経由の4:2:2出力について

raitank:僕がテストさせて頂いた時には、HDMI端子から出ていた筈の4:2:2信号が外部機器で認識されませんでした。その後、調べてみると、本体内の「メモリカードスロットを2つとも空にしなければならない」という話を聞きましたが…。

吉松栄二氏(以下、吉松氏):その話はどこで聞かれたのでしょう? 実際には、カードスロットの中身のあり/なしは、外部4:2:2収録とは全く関係がありません。なにか違う操作と絡んで、誤解されているのではないかと思うのですが。

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raitank:え?カードスロットを空にする必要はないのですか。 この情報は海の向こうの動画系フォーラムに、しかも何人もの方がそれぞれの言葉でアドバイスしています。僕はテストの後でこの情報を知りました。そして「な〜んだ、僕はカードを入れたままだったので4:2:2信号が出ていなかったのか」と判断していたのですが…。そういう事実はないのですね?

吉松氏:ええ、実は私もそういう噂を耳にしてはいたのですが、実際はカードのあり / なしと4:2:2出力はまったく関係がありません。カードが入ったままの状態でも、HDMI端子からはちゃんとクリーンな4:2:2信号が出力されています。

リップシンクがずれる問題について

raitank:リップシンクのずれについては如何でしょうか?これも海外のフォーラムで2つ、3つレポートが挙がっていましたが。

吉松氏:こちらは私たちも把握している問題です。手をパンパン叩く絵を撮ると、叩く前に音が出てしまっている(笑)。微妙なズレではあるものの、一度気になるとものすごく気になります…。本件につきましてはもう修正の目処は立っていますので、できるだけ早めにファームウェア・アップデートの形で対応させていただきたいと考えています。

今後の動画に関する展開について

raitank:ニコンさんは今後、動画についてはどのような姿勢で取り組まれるおつもりでしょう?

寶珠山氏:正直、動画に関しては、どういう仕様にしたらお客さんに受け入れられるのか?いまいち自信がないところもあります。ただ、多くのお客様が写真だけでなく動画に関しても期待を寄せておられることは存じあげております。極力良いものを出していきたい。弊社には現在、動画専用カメラがありません。そういうカメラを開発する部門・部署もございません。これは同業他社さんに対する弱点であると同時に、社内調整の手間がかからないという意味では、逆に強みにもなると思っています。他部署に遠慮や配慮をしたり、機能の出し惜しみをする必要がありませんから…。

raitank:…なるほど。某社の競合機種とは違い、D800ですでにクリーンな4:2:2信号出力まで実現されてしまわれた秘密は、そういうことでしたか(笑)。

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吉松氏:開発前のリサーチでも多くの方がHDMIからクリーンな4:2:2信号が出ることを希望されていることがわかり、「コレは絶対にやらないといけないな!」と考えていました。

寶珠山氏:ただし、会社のスタンスとして、ニコンはなにを差し置いても、まず写真のメーカーなのです。動画のために静止画に関する何かを犠牲にするというコンセンサスは、社内的に出しにくい。ですので方向としては、できうる限り静止画を犠牲にすることなく、動画系の性能をどんどん上げていく、ということになるかと思います。

24Mbpsというビットレート

raitank:今回、D4、D800を試させて頂いて、大いに気に入りました。特にD800は現在の品薄状態が解消したら、たぶん自分でも買ってしまうと思います。ただ、敢えて一つだけ気になる事を指摘させて頂ければ、24Mbpsというビットレートでしょうか。これはいかにも低すぎます。より高画質なデータが必要なら外部レコーダーで4:2:2出力を収録してね!という話かも知れませんが、一眼動画の大切な要件として「機動性」というファクターもあります。カメラに外部モニタをつけて外部レコーダーをつけて… ということになったら、結局、大きなビデオカメラと変わらなくなってしまいます。

寶珠山氏:ただ、こう言ってはナンですが、D4、D800に搭載しているH.264は、かなりハイスペックな仕様になっています。私どものベンチマークでは、ビットレート数値の倍ぐらいの効率を確認しています。

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高橋和敬氏(以下、高橋氏):ビットレートの数値だけを単体で抜き出されますと、たしかに低く感じられることとは思いますが、エンコードの方式等の中身は他社様とは若干違います。同等ビットレートの他社製カメラと見比べていただくと、明らかに画質が上であることをご確認いただけると思いますので、その辺りはまた詳しく検証して頂ければ幸いです。

(以上、05/14/2012@ニコンイメージングジャパン)

まだまだROUND 2へ続きます!

さて。こうして実際にニコンの皆さんにお話を伺うことができ、胸中にモヤモヤしていた疑問のほとんどは解消されたものの、D4をお借りした際に4:2:2出力が上手くいかなかった原因は以前として不明。これはお話を伺うだけでは(頭で理解するだけでは)わからないよね…?と思っていたところ、吉松さんから「うちにあるKi Proで4:2:2出力のデモをお見せしましょうか?」とお声がけいただきました。ありがとうございます!

ROUND 2:D4、D800での外部収録、実践編

  • 日時:5月25日
  • 於:ニコンイメージングジャパン
  • ご協力:山本宏臣氏、上村昇史氏、原信也氏、吉松栄二氏、杉原麻理氏(左から)
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    山本宏臣氏(以下、山本氏):カメラのほうは「動画の設定」→「画面サイズ/フレームレート」を「1920×1080 30fps」、「HDMI」→「出力解像度」を「オート」に設定します。

    吉松氏:「出力解像度」の「オート」は、出力先のEDID(HDMIテレビなどが持つ映像表示機器情報)を自動的に検出し、そこに記述されているパラメーターと自身の動画の設定を照合します。サイズやフレームレートがマッチすれば、そのまま出します。

    ところが、このEDIDがクセ者です。検出した内容に合わせても動作しない機器が多数あるのです。メーカーによってEDIDへの対応がマチマチで、実は対応しているのにEDIDに記述していない場合もあれば、逆に本当は対応していないのにEDIDに対応しているかの如く記述してしまっているケースもあります。そういう場合の回避策もありますので、のちほどご紹介します。

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    山本氏:カメラからは1920x1080p@30fpsで出力してKi Proに入力します。Ki Proからは、カメラの外部出力に忠実に1080p@29.97ジャストでモニタ信号を出力しています。ところが、Ki Proに接続したこちらの外部モニタには、ご覧の通り何も表示が出ません。これはカメラがモニタのEDIDを読みに行き、1080p@60fpsが可能だと言われたので、その指示通りに出力したものの、実はモニタ側が対応できないというケースです。

    こういう場合は、セットアップメニューの「HDMI」→「出力解像度」を「1080i(インターレース)」に設定してみてください。すると、Ki Pro側もインターレースにはなりますが、モニタが対応できるようになります。これは緊急回避的な解決法ではありますが、なにも映らない場合には、このように60iから少しずつ下げるようなやり方ができるようにしています。

    raitank:でも、いわゆる局素材を撮影するのでもない限り、今やインターレースで撮ることはないと思うんです。今のお話ですと、どうしてもプログレッシブで撮りたい場合は、こうしたEDIDベースで対応していないモニタ等は諦めなくてはならない、ということでしょうか?

    吉松氏:そうですね。開発の過程でさまざまな外部機器を試したのですが、このEDIDに関しては、各メーカーがどこまで正しく記述して下さっているのか、けっこう不安を感じまして(笑)、このような回避策を考えました。

    10_mr_kamimura.jpg

    山本氏:続いて、セットアップメニューの「HDMI」→「詳細設定」という項目があります。こちらの「出力のレンジ」と「出力画面サイズ」、「ライブビュー時の情報表示」という項目を見てください。

    「出力のレンジ」…録画機器やHDMI機器により、フルレンジ(0-255)が使えるモニタ機器と、制限(16-235)されているものがあります。たいてい「オート」に設定しておけば適切な設定が選ばれるはずです。

    「出力画面サイズ」…テレビに100パーセントで出力すると端がケラレますので、「100パーセント」の他に「95パーセント」を用意しています。収録時には「100パーセント」を選びます。

    「ライブビュー時の情報表示」…「オフ」にして頂ければ、映像出力のみ(いわゆる、クリーン4:2:2信号)が出力されます。

    外部レコーダー収録時には、もう一つ忘れてはならない大切な設定があります。

    「液晶モニターのパワーオフ時間」・・・必ず「制限なし」にしてください。そうしないとライブビュー中に遮断が発生します。

    raitank:僕が外部収録をテストさせて頂いた際に気になったのが、カメラ設定の中の幾つかの項目が、いったん撮影を始めるとグレーアウトして変更できなくなってしまうことです。例えば撮影の合間に「撮像範囲(クロップモード)」を変更したいのに、グレーアウトされてしまって、変えられない。毎回、面倒だなぁ…と思いながら、いちいち電源をオンオフしてリセットして、しのいでいたのですが…。

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    山本氏:あ、それは電源のオンオフではなく、一旦「ライブビュー」モードから抜けて頂くだけで、再度、設定できるようになります!

    raitank:なるほど。ライブビューから出ればいいのですか。僕はずっと液晶モニターに拡大ルーペを付けた状態で運用しているもので、その「ライブビューから抜ける」という発想がありませんでした(笑)。

    原信也氏(以下、原氏):この辺りのユーザーインターフェイスに関しては、私たちも検討課題として認識しております。ライブビュー中の設定変更については今後検討していきたいと思います。

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    raitank:あと、まだ本格的にD800を外に持ち出してはいませんが、やはりモアレがかなり出るようですね。米・Mosaic Engineering社が、もうすぐD800用の後付けローパスフィルターを出してくれるそうですが。

    ただ、ホコリの混入を考えたら戸外での脱着はできませんし、いちいちそんな外付けフィルターを付け外しするのも面倒な話です。ここは一発、ローパス・フィルターの効果を消した兄弟機、D800Eの逆バージョンで、動画収録用に強力なローパス・フィルターが入った「D800M」みたいなモデルも出して頂ければ…(笑)。

    (以上、05/25/2012@ニコンイメージングジャパン)

    8/14、後編「Vol.2」を掲載しました!


    [Nikon D4,D800レビュー] Vol.2

    WRITER PROFILE

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    raitank

    raitank blogが業界で話題になったのも今は昔。現在は横浜・札幌・名古屋を往来する宇宙開発系技術研究所所長。