質実剛健。TASCAM HS-P82が受け入れられる理由とは?

発売されてから数年経っているが、その高機能に定評のあるTASCAMの業務用フィールドレコーダー「HS-P82」を紹介しよう。ファームウェアのアップデートも随時行われているこのHS-P82、本レビューでは最新のVer.1.20を使用した。メーカー自身は「HS-P82」についてWebサイトなどで以下の様に謳っている。

高音質8チャンネルミキサーと8+2トラックフィールドレコーダーを統合。操作性、耐久性、運用効率をバランスした業務用フィールドレコーダー。

基本的にはメモリーに記録するメモリーレコーダーの範疇だが、テープレコーダー時代からの老舗メーカーが開発しただけの事はあり、その質感等は他メーカー製品とは一線を画している。ミキサーとしての機能も含まれており現場でモニターチェックする際に役立つ。

メモリー(記録媒体)には信頼性と動作速度の点で有利とされるCF(Compact Flash)カードを採用している。最近ではSDカードの信頼性、動作速度も上がっているが開発時期を鑑みると、この選択は正しいだろう。CFメモリーカードを格納するスロットを本体に2機備え、同時記録によるミラーリング録音が行える等、業務用機器としての確実性、信頼性を確保している。ちなみに、最近よく利用されている某社の8chミキサーは、外部からMIDIを介したコントロールが可能だったり、記録メディアにも入手しやすいSDカードを採用するなど、TASCAM HS-P82と違った便利さがあるが、スロットは1つなのでミラーリングはできない。

音声ファイルフォーマットは一般的なBWFモノに加えてポリファイルにも対応している。ポリファイルの使い道としては、一般的なステレオ音源は勿論だが、例えばMSマイクのMid、SideをステレオイメージにデコードせずにそのままRAW収録した音源は、2モノ1ファイルの方が後々の編集等での扱いが楽になる。同時に扱えるチャンネル数は下記の様に設定したサンプリング周波数の音声フォーマットに依って異なるので運用には注意が必要だ。5.1、7.1といったサラウンドの同時収録には必然的に96kHz以下のサンプリング周波数となる。

  • 44.1/48kHz→8チャンネル+2チャンネルステレオミックス
  • 44.1/48/88.2/96kHz→8チャンネル
  • 176.4/192kHz→4チャンネル

また音声フォーマットによる消費データ量の違いに気を付け、メモリーカードの容量は余裕を持って用意したい。

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ハイサンプリングを活かす8チャンネル分の高音質なマイクロフォン入力を備え、外部入出力としてディジタル端子(D-Sub 25ピン TASCAMピン配列)があり、拡張性も備えている。マイクプリアンプは同社録音機器の中でも最高峰となるUltra-HDDAマイクプリアンプを備えており、このマイクプリアンプ部のEINは-125dBというハイスペックだ。また各種の操作情報を表示するカラー液晶が本体前面に装備され視認性が良好だ。本体のツマミも誤操作や破損を防ぐ為に格納式であったり、操作ボタンに大きめの自照式ボタンを採用し誤操作を防いでいる。またリモートコントロールユニットでもあるフェーダーユニットRC-F82を接続する事で細かなフェーダー操作や各種音声の入出力も可能になっている。本体外装はプラスチックを排除したフルメタル仕様で、両サイドもアルミ削り出しで頑強な作りになっている。

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前面には左から調整ツマミ、タッチパネル方式のカラー液晶、操作ボタンと明確でわかりやすく配置されている。操作パネルを兼ねたタッチパネル式の液晶画面は下辺を手前にスラントさせて角度を変えられる。細かいようだが、画面の角度を少し変えるだけで視認性が大いに改善されるのは嬉しいポイントだ。

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右側

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左側


本体に向かって右側にはマイクロフォンXLR入力とステレオXLR出力、左側にはCFメモリースロットが2機、デジタル入出力端子(AES/EBU D-Sub 25ピン TASCAMピン配列)、クロック及びタイムコード用の入出力端子(BNC)は、タイムコード入出力やビデオリファレンス入力に対応、電源入力端子(4P用と付属のACアダプター用)、外部キーボードまたはフェーダーユニットを接続する為の端子(miniDIN)、コンピューターとの接続用端子(USB)がある。CFメモリースロットにはゴムキャップが使われカードや内部の端子を保護している。

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背面にはバッテリーの格納口がある。録音時には使用しないので本体を地面に置いて操作する際にはこの方が安心だ。 底面にはゴム足、上面には何もないがフェーダーユニットが同じサイズなのでこれを積み重ねて操作する事ができる。

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写真の様にフェーダーユニットを上面に置いて操作すると非常にコンパクトながら充分なフェーダーのスケールやフェーダー自体の質感も良好で快適に操作が行える。

実際に録音してみる。その真価は?

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実際にサンプルを録音してその高音質を認識する為に、ここでは雷雨の様子を敢えてモノラルで収録した。マイクは、SENNHEISER MKH 418-SのMidのみ(MKH 416相当)を使用、直接雨の当たらない場所から雷雲を狙った。雷の音は様々な周波数成分を含んでいるのでちょっとフィルターを掛けただけでも印象が変わってくる。雨垂れの音も注意しないと雨の感じがせず風景が浮かんでくる様な音の印象にならない。その為、今回はマイクのウィンドスクリーンや風防は敢えて付けずに素の状態でマイクロフォン本来の音質で収録した(当然、風等の影響の無い場所を選んでいる)。


■サンプルデータ

▶192kHz 9216kbps WAVE形式
ダウンロード:TASCAM_HS-P82_ThunderRain_192kHz.wav

▶44.1kHz 256kbps MP3形式
ダウンロード:TASCAM_HS-P82_ThunderRain_256kbps.mp3

あらかじめ192kHzを出力できる視聴環境をご用意ください。
(PCの音声出力設定…Windowsの場合は利用しているサウンドカードのドライバ設定画面、Macの場合は「Audio MIDI設定」アプリ上で選択 ※対応していない場合があります)

筆者がこのTASCAM HS-P82のハイサンプリングでの収録音を聴いた時、あくまでも自然な音、という印象を受けた。他の類似したレコーダーも高音質化が進んでいるが、記録する音声フォーマットの制限内で何とかより良い音質で収めようとして、何らかの丸め込みが感じられる物が多い中、HS-P82の自然さは好感が持てる。また音質的に余計な演出が無い分、DAW(Digital Audio Workstation)等に音声データを取り込んでの後処理がしやすい。

作成された音源が再生されるであろう環境等を考えると、極端に高密度なハイサンプリングの素材は不要かも知れない。あるいは、そこそこの素材でも充分に用を為すだろう。しかし、素材の良さはそこから生み出される物の質を確実に上げてくれる。不要な部分は削ぎ落とせばいいだけだが、不足な部分を補うのは非常に困難だ。余裕を持った素材を得る事は、後々のワークフローでもその有用性が違ってくる。サンプル音源の雷雨もフィルター等は使わず風防も無しで直接、生の音を収録したものだが、ほとんど後処理の演出が不要なくらい「自然」に録れている。音の入れ物の大きさがこれほど余裕のある音質を捉える事を再認識させられた。

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TASCAM HS-P82で様々な録音、操作をして全般的に感じたのは、このクラスの機器になると作りの良さからくる心地良さが随所に感じられるということだ。それはきちんとコストを掛けて各箇所を作り込んでいる印象を受けるということ。確かにデジタル機器特有の難しさもあり、ある程度この機器の設計思想が判ってこないと操作に戸惑う場面もあるかも知れない。しかし一旦その思想が理解できてしまえば、カラー液晶によるタッチパネルの操作は手に馴染み、新たな可能性を感じさせてくれる。オプションのフェーダーユニットのカッチリした作りと、その操作性もなんとも便利。運用時には是非とも加えたい一品だ。

WRITER PROFILE

須藤高宏

須藤高宏

東京・国分寺市に於いて録音スタジオ「マイクロサウンド」を運営し各種録音編集に携わる傍ら最近では各種イベント配信音声を担当。