[メディアアートの世紀]Vol.04 メディアアートとアートマーケットとは?

HOME  >  COLUMN  >  岡田智博  >  [メディアアートの世紀]Vol.04 メディアアートとアートマーケットとは?

Column

[メディアアートの世紀]Vol.04 メディアアートとアートマーケットとは?

2009-05-01 掲載

[メディアアートの世紀]Vol.04 メディアアートとアートマーケットとは?

4月は、東京においてアートマーケットのシーズン

2008年秋から始まった地球規模の経済危機は、クリエイティブ経済時代の富の象徴であった現代アートのマーケットをもろに飲み込んでいった。それまで右肩上がりの伸びを見せていたアートオークションにあって、有名な作家の作品や歴史的遺物であろうが落札率は急低下、出せば次から次へと売れる勢いであった現代アートマーケットにおいてもなかなか売れないという事態が世界を包んだのである。

Artfair.jpg
アートフェア東京

4月、集中的に東京においてアートマーケットが開催されるこの月は、日本におけるアートマーケットのシーズンとして定着しつつある。 アートマーケットのシステムが確立した欧米、そして、現代美術が富のステータスとして定着したアジア、その中において歴史的に大衆文化が中心に存在し、現代美術への関心が薄い日本において、アートマーケットは比較するとあまり盛んな状況ではなく、アートマーケットを育ててゆくこと自体がつい最近まで大変であった。失われた10年とよばれた時代(そのまま失われた時代のままのようにもみえるが)には、銀座の画廊は老舗であっても、路面から撤退し、ビルの上層階に移らないといけない状況にまで追い込まれる側面も存在していた。 それがニューエコノミーの反映として、今世紀に入り現代アートマーケットが世界規模で急成長を見せるとともに、その波はやっと東京にも押し寄せ、始まった当初はクオリティの高い参加画廊を募るのが大変であった日本最大のアートマーケット「アートフェア東京」においても、レベルの足切りや参加ウエイティングリストまで起こるまでになり、若手作家を扱う新たな画廊と海外のギャラリーの東京市場への進出意欲の高まりはエマージングなギャラリーを扱う新たなアートマーケット「101東京コンテンポラリーアートフェア」を秋葉原に産むまでに昨年高まっていった。 それが経済危機によって大きな影響を被ることとなったのである。 しかし、それはまるで地球規模のクライシスを前に、恐竜にかわり哺乳類が跋扈する隙間ができたような、新たなチャンスをメディアアートに与えたようなのである。

メディアアートがアートマーケットにデビュー

経済危機によって生まれた底無しの不況感は現代芸術のマーケットをもろに直撃しているかのようであった。この4月の東京におけるアートマーケットに出展するギャラリーの多くは出店規模を縮小し、出展者を集めることに苦労するマーケットも生まれた。その間隙を縫って、メディアアートがアートマーケットにデビューするという快挙が生まれている。

ASIAGRAPH.jpg
ASIAGRAPH

これまでの加熱する足切りとウエイティングリストの状況では生まれ得なかったチャンスをメディアアートが獲得した瞬間である。

現代芸術ギャラリーの出展を扱う「101東京コンテンポラリーアートフェア」その中において、静止画CGアートの時代からCGアートの普及を展覧会を中心に続けてきたアートイニシャチブ「ASIAGRAPH」が独自のブースを構えることに成功した。

扱う作品は日本とアジアの「ASIAGRAPH」参加CG作家によるもので、ほとんどは静止画CG作品、それに映像や着物などCGアートらしい可能性を見せられる作品を網羅して出店に臨んだ。 このことがなぜ快挙かといえば、いわばメディアアートがアートマーケットにおいて価値ある存在(グローバルなコレクターによって資産価値のあるものとして売買される存在)であることは、世界のアートワールドにおいてはとても難しいことだからである。現代美術として価値を見出されたメディアアートは、メディアを用いたメディアアートの作品として昇華して行く中で、メディアアートそのものは常にアートワールドの中の周縁、それもデザインやファッションよりも遠い周縁に存在するしかないのである。アートワールドの視点からメディアアートを求めるコレクターは、世界に6人しかいないとまで言われており、メディアアートを専業で扱うギャラリーは現代美術としての価値を創出しうる力を持ったニューヨークの「bitforms」のほかは皆無であるとまでされている。

メディアアートのチャンスとは?

「ポストペット」や一人乗りの飛翔体をつくるプロジェクトで知られる八谷和彦から社会に対して挑戦的なビデオアート作品群でお騒がせのChim↑Pomまでメディア性の高い作品を扱っていることで異彩を放つギャラリー「無人島プロダクション」、VJ活動がアートとして昇華している宇川直宏など同じくメディア性の高い作品を扱う「NANZUKA UNDERGROUND」といった東京においてエマージングで元気なギャラリーもアートマーケットでは、絵画や写真、立体など、現代美術として商材足りえる作品を出展し、ディールしている。それだけ、メディアアートは周縁であり、難しいのである。

Photomo.jpg
フォトモ

その中にあってメディアアートのチャンスは、日本最大の現代美術マーケット「アートフェア東京」でも垣間見ることができた。 写真を組み合わせることで立体のパノラマ世界を箱庭のように現出させる、糸崎公朗オリジナルのメディアアートインスタレーションである「フォトモ」が、四国丸亀のgallery ARTE によって出展された。 「フォトモ」は前世紀より日本ならではのポップなメディアアートとして知られており、既に様々な作品集や「子供の科学」「デジカメWatch」などで連載中でもある。このように好事家によって世に知られ、評価を受けながらも、現代アートとしてマーケットに並ぶことのなかった良質のメディアアートが遂に表に並ぶようになったのである。

これらメディアアートが日本におけるメジャーなアートマーケットのシーンに登場することが出来たのこそ。今の金融危機の困難による現代芸術の衰えの間隙であるということができる。数多くのギャラリーが経営上の理由により、アートマーケットへの出展を見合わせる中、通常ならコレクターを引き寄せる市場形成力がないということから予備選考で撥ねられるであろう「ASIAGRAPH」に出展スロットが生まれる隙間が生まれたこと。そして、今までならまさにマーケットとして「高く簡単に売れる」資産価値が形成出来る絵画や彫刻を前面に出してきたであろう画廊が敢えて、新たにコレクターに知ってもらいたい存在としてメディアアート作品を紹介するのは、今が投機家を誘う市場の季節ではなく、本当にアートを愛し手に入れたい人々に対してマーケットを開ける時期ではないかというギャラリーの考えが表れたのではないかとも見て取れる。 実際にこのようなメディアアートのケースだけでなく、作品として興味深かったり、欲しくなるようなものなのだが、それを持つことは資産にはならないだろう現代アートが会場で老舗や有名どころ程、様々にディールされていたのが、一方でまさにこの時期だからチャンスとして枠を得た新興ギャラリーの多くがコレクターが手に入れやすい絵画作品で勝負するのと対比して、印象的であった。

本当にメディアアートが市場の表舞台にたつために

それでも残念でならないこともあった。せっかく日本におけるメジャーなアートマーケットに登場した「ASIAGRAPH」なのであるが、商いとしてのアートマーケットへの道への工夫が必要であったことだ。額装のほとんどは発泡スチロールパネルの貼り込み、手の込んだ額装はまるで街角の額縁屋の額縁メインで中身はサービスに表れるような仕上がり、これではメジャーなアートマーケットにおける現代美術の意義である「資産としてのアート」(だから文化史的価値としての「アートワールド」という概念が大事にされる)というモチベーションが崩れてしまう。

これではいくらエディション(数量限定制作)を前面に出しても、そのエディションのひとつが既に安っぽいハレパネであり、そもそも疑わしいのではないかという疑念を持たれてしまって残念なのではないのだろうか。

ここは現代美術の先輩で、既に大きな価格形成力を持っている、フォトアートの分野における作品の仕上げ方やマーケットとしての演出方法から学ぶ点が多いのではないのだろうか。 ともあれメディアアートにとって、大きな挑戦の第一歩が始まったのである。 この経験が、次にどのようなかたちで進歩し、日本から世界に現代美術の表通りに歩めるか期待してゆこうではないか。


[ Writer : 岡田智博 ]
[ DATE : 2009-05-01 ]
[ TAG : メディアアート メディアアートの世紀 ]

関連のコラム一覧

[メディアアートの世紀]Vol.06 集合知との融合で都市を変えるプロジェクト札幌

[メディアアートの世紀]Vol.06 集合知との融合で都市を変えるプロジェクト札幌

革新的に世の中が変わる時、何処も挑みもしなかったアイディアを実現することで、一気に頭角を著わすということがある。今回、取り上げるのは、まさに、メディアコミュニケーションと都市とをダ .... 続きを読む

[メディアアートの世紀]Vol.05 ロボットアートの魅惑-Art of Robot-

[メディアアートの世紀]Vol.05 ロボットアートの魅惑-Art of Robot-

巨大なロボットが都市を劇場に 今回は少し映像についてのメディアアートを脇に置きロボットアートについてご紹介したい。 今、横浜の街で開港から150周年を記念した「博覧会」が開催されて .... 続きを読む

[メディアアートの世紀]Vol.03 メディアアートは少し先の未来をみせてくれる

[メディアアートの世紀]Vol.03 メディアアートは少し先の未来をみせてくれる

皆がメディアアートに対して他の美術とは違う特別な思いを持つのはなぜだろう。その理由は他の美術とは異なる期待を持たせてくれるからということができる。 美術がその作品を通じて美しさや社 .... 続きを読む

[メディアアートの世紀]Vol.02 世界でひとつの「メディア芸術」祭、今年も盛況

[メディアアートの世紀]Vol.02 世界でひとつの「メディア芸術」祭、今年も盛況

世界でたったひとつの「メディア芸術」祭 今年も2月、2週間にわたり六本木の国立新美術館で開催された文化庁メディア芸術祭。回を重ねる毎に入場者数が増える中、今年は約5万5千人もの人々 .... 続きを読む

[メディアアートの世紀]Vol.01 映像の20世紀からメディアアートの21世紀へ

[メディアアートの世紀]Vol.01 映像の20世紀からメディアアートの21世紀へ

映像の20世紀からメディアアートの21世紀へ 20世紀のライフスタイルどころか文明そのものを変えてしまった映像メディアのインパクトと同じような、ダイナミックな変化が今、メディアアー .... 続きを読む

関連のニュース記事

WRITER PROFILE

岡田智博 キュレーター・プロデューサー(アート&コンテンツ&デザイン) 九州芸術工科大学大学院および東京大学大学院学際情報学府を修了。クリエイティブクラスター代表として、メディアアートと先端デザインを用いたコンテンツづくりやプロダクトの開発、創造的なITサービスの開発を、ときには中小企業のブランド化、国家プロジェクト、都市開発と、顧客と消費者のニーズに応じてアーティストやクリエイティブピープルとともに、全国各地で手がけているスーパー裏方。ホームページ: クリエイティブクラスター http://creativecluster.jp/


Writer

編集部(99)
PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートです。
稲田出(27)
映像専門雑誌編集者を経てPRONEWSに寄稿中。スチールカメラから動画までカメラと名のつくものであればなんでも乗りこなす。
石川幸宏(35)
映像専門雑誌DVJ編集長を経て、リアルイベントを中心とした「DVJ BUZZ TV」編成局長として活躍中。
小寺信良(23)
業界で噂の新製品を、AV WatchやITmediaのコラムでもおなじみの小寺信良氏がレポートする動画連載。
raitank(5)
あまたの海外ソースを読み漁ってHDSLRを独学。海外から仕入れた情報を日本語で発信するグラフィックデザイナー/アートディレクター。
ふるいちやすし(44)
自身で脚本、監督、撮影から編集、音楽までもこなすマルチプレーヤー。
岡英史(19)
バイクレース及びF3レース参戦など、映像とはかけ離れた経歴を持つ異色ビデオカメラマン
手塚一佳(44)
CGムービー制作、ネットワークゲーム制作を得意とするデジタルデザイン会社アイラ・ラボラトリの代表取締役。
江夏由洋(13)
兄弟で株式会社マリモレコーズを設立し、ノンリニアにおける映像技術、映像制作を中心に、最新技術を取り入れたワークフローを提案している。
山本久之(26)
映像エンジニア。フリーランスで映像設備のシステムインテグレーションと、ノンリニア編集に携わる。
林永子(26)
2005年よりサロンイベント「スナック永子」を開催。通称「永子ママ」
鍋潤太郎(18)
ロサンゼルスを拠点とするVFXジャーナリスト。
高野光太郎(4)
映像クリエイター。フリーランスにてミュージックビデオ、番組オープニングタイトル、CM、劇場映画、全てをデスクトップで制作。
安藤幸央(9)
無類のデジタルガジェット好きである筆者が、SIGGRAPH ASIAやCESなど海外の注目イベントを紹介。
猪蔵(5)
いつも腹ペコ。世の中の面白いことを常に探っている在野の雑誌編集者。
山下香欧(8)
米国ベンチャー企業のコンサルタントやフリーランスライターとして、業界出版雑誌に市場動向やイベントのレポートを投稿。
ヒマナイヌ(5)
頓知を駆使した創造企業
坪井昭久(5)
映像ディレクター。代表作はDNP(大日本印刷)コンセプト映像、よしもとディレクターズ100など。3D映像のノンリニア編集講師などを勤める。
萩原正喜(69)
米国コロラド州から、米国のデジタル放送事情からコロラドの日常まで多岐に渡るコラムをお届けします。
岡田智博(7)
クリエイティブクラスター代表。メディアアートと先端デザインを用いたコンテンツ開発を手がけるスーパー裏方。
江口靖二(5)
デジタルサイネージコンソーシアム常務理事、慶應義塾大学DMC機構研究員などを兼務。
しらいあきひこ(2)
カメラメーカー、ゲーム開発などの経験を持つ工学博士が最先端のVR技術を紹介。
今間俊博(5)
尚美学園大学 芸術情報学部 情報表現学科 教授。アナログ時代の事例を通じ、教育関連の最新動向を探る。
伊藤裕美(5)
オフィスH(あっしゅ)代表。下北沢トリウッドでアニメーション特集上映を毎年主催している。
秋山謙一(17)
PRONEWS記者。映像業界紙記者、CG雑誌デスクを経て、2001年からフリージャーナリストとして活動中。
UserReport(10)
業界で話題の商品を実際に使ってみてどう感じたかを、各方面の様々な方々にレポートしていただきました。
System5 Labs(8)
SYSTEM5スタッフが販売会社ならではの視点で執筆します。

HOME  >  COLUMN  >  [メディアアートの世紀]Vol.04 メディアアートとアートマーケットとは?