世界最大のコンピュータグラフィックスのカンファレンスであるSIGGRAPH(シーグラフ)。これまで30年以上にわたって、7月もしくは8月という真夏に米国の各都市で行われてきた。その真夏のSIGGRAPHとは別に、今年から真冬の12月それもアジア圏で開催される事になった。これがSIGGRAPH ASIAだ。第1回目のSIGGRAPH ASIA 2008は、今年の12月10~13日の4日間、シンガポールで行われた。自称「SIGGRAPHマニア」の私としては、これに行かないと年が越せないとばかりに出かけてきた。

初開催の期待とは裏腹にコンパクトな会場と少ない来場者

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コンベンションセンター入口の壁面に設置された巨大なスクリーンには、2年後の韓国ソウル市開催によるSIGGRAPH ASIA 2010の大々的なプレゼンテーションが繰り返し上映されており、SIGGRAPHの雰囲気を熱く盛り上げていた。

コンベンションセンター入口の壁面に設置された巨大なスクリーンには、2年後の韓国ソウル市開催によるSIGGRAPH ASIA 2010の大々的なプレゼンテーションが繰り返し上映されており、SIGGRAPHの雰囲気を熱く盛り上げていた。

SIGGRAPH ASIA 2008会場となったSUNTEC CONVENTION CENTERは、海に程近い新市街の商業施設SUNTEC CITYにあった。幕張メッセなどと比較してもコンパクトな造りで、シアターの定員も650人程度しかない。夏のSIGGRAPHではお馴染みの、巨大なLos Angeles Convention Centerなどとは異なり、会場内を歩き回るのは楽だった。米国のSIGGRAPHでは会場とホテルの往復もシャトルバスを使う必要があるが、SIGGRAPH ASIAではシャトルバス自体が運営されていなかった。シンガポールの街自体がそれほど大きくはなく、規模の大きなホテルが会場から至近距離に固まっており、さらにタクシー代がとても安いといった理由だろうか。筆者が宿泊した安ホテルでも、会場まで徒歩10分程度。特に不便は感じなかった。

初開催となったSIGGRAPH ASIAの会場だが、会場内は閑散としていた金融不況の影響だろうか、コミッティの当初予想では8千人の来場を見込んでいたようだが、見たところ全体で3千人程度の入りでは無かったかと思う。

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今回のExhibitionの中で一番大きなブースを出展したのがAutodesk。会場に入ってすぐの一番目立つ場所にあり、最も凝った造りになっていた。

今回のExhibitionの中で一番大きなブースを出展したのがAutodesk。会場に入ってすぐの一番目立つ場所にあり、最も凝った造りになっていた。

会場全体がコンパクトなため、Exhibitionの展示会場も狭いもので、出展者数も少なく感じた。大きなスペースを有するAutodesk、IBMなどを除けば、1コマ、2コマの小さいブースが大多数を占めた。アジア初開催で未知数な部分もあったためか、大規模なデコレーションのあるブースは少なく、真っ白い壁で囲われているだけのシンプルなブースは、米国SIGGRAPHの華やかな展示と異なって、いささか寂しい感じがした。ブースは、CGを教える学校関係ブースと、タイ、中国・香港などアジア諸国が自国企業を集めた展示ブースが目立った。米国からも、1コマブースではあるがPIXARなども出展。アジア圏からの優秀な人材の確保にも力を入れていることがうかがえた。今回、最大のブース規模と凝った造りのブースは何と言ってもAutodeskのブースである。3ds Maxとmayaに加え、今回SOFTIMAGE|XSIを傘下に収めたAutodeskは、Houdiniを除けば事実上3次元CGソフトの独占状態となり鼻息も荒いのだろう。PaperやCoursesを行っている部屋の隣で、Autodesk社独自のセミナーを行っており、朝から参加者に軽食を振舞っていた。

アジア圏の優秀作品を上映したElectronic Theaterに満足

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首都大学東京の渡邉英徳さんの作品「SIGGRAPH Archive in Second Life」。仮想空間の中に過去のSIGGRAPHの写真をちりばめている。
 

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コンベンションセンター内にあるシアター。同じ大きさのシアターが2つ並んでおり、Electronic Theaterだけでなく、Talks & Panels の”Star Wars: The Clone Wars” など、Computer Animation Festivalのさまざまなイベントが1日中行なわれていた。

首都大学東京の渡邉英徳さんの作品「SIGGRAPH Archive in Second Life」。仮想空間の中に過去のSIGGRAPHの写真をちりばめている。


 
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コンベンションセンター内にあるシアター。同じ大きさのシアターが2つ並んでおり、Electronic Theaterだけでなく、Talks & Panels の”Star Wars: The Clone Wars” など、Computer Animation Festivalのさまざまなイベントが1日中行なわれていた。

SIGGRAPH ASIAは、Exhibitionのほか、Art GalleryとEmerging Technologies、Electronic Theater、Paper(論文発表)、Courses(講座受講)などで構成される。Electronic Theaterの会場内で贈賞式が行われたのも特徴的だ。今回Jury’s Selection Award(審査員賞)を受賞したリンクスデジワークスのKUDANについては、Talks & Panelsにおいても福本隆司氏により発表が行われた。Art GalleryとEmerging Technologiesは、コミッティによる招待展示とともに同じ部屋に混在して展示されていた。3種類の展示物が同じ部屋にあったことになるが、その違いは作品の隣にあるプレートに「Art Gallery」「Emerging Technologies」、招待展示の「CURATED WORK」という表記があるだけだ。とはいえ、米国SIGGRAPHでもArt GalleryとEmerging Technologiesに関しては、コミッティが変わると、考え方の違いからさまざまに展示方法を変えられて来た背景があり、今回の展示形態も初めてではない。

Electronic Theater会場は、今夏ロサンゼルスで開催されたSIGGRAPHのElectronic Theater会場(Nokia Theater、7000人収容)と比較すればカワイイ規模である650人の会場だった。しかし、ギッシリと客が入ったTheaterは盛り上がった。米国SIGGRAPHは今年からコンペティション形式に移行して、レベルの低い作品も見なければならなくなったが、SIGGRAPH ASIAでは旧来のElectronic Theater形式での上映だった。すでに選別された優秀作品ばかりが上映されるもので、充分に満足できるものだった。大会の趣旨からも、アジア圏の映像の割合を増やしていたことも、納得できた。

作品の長さについては一考をする必要があるかもしれない。米国SIGGRAPHでは、1本の作品に5分以下というタイムリミットが課せられる。これには賛否があるが、少なくとも観客から見るとテンポ良く上映が行なわれ、途中で飽きる事は少ない。今回の上映は、1本1本の作品が長すぎで、10分近くになるものあった。間延び感は否めない。途中で寝てしまいそうになった。

来年は横浜へ、英語コミュニケーションなど運営への不安も

SIGGRAPH運営は、多くのボランティアが動員され、SIGGRAPH ASIAでも例外では無かった。今回のスタッフは、少なくとも英語と中国語は通じるため質は悪くなかったと思う。しかし、やはり、アジア初のSIGGRAPHである。動員されたボランティアの大多数は、米国SIGGRAPH自体を体験していなかいこともあって、運営にぎこちなさを感じるシーンも多かった。例えば、通常、ブース写真を撮影していると注意されるが、人によって対応がまちまちなのだ。カメラパスを提示しても「撮影はダメ」という人がいるのはまだしも、ブース関係者が自社ブースを撮影するのさえダメという人も始末。こうした運営方法の不徹底は到るところで散見された。

来年のSIGGRAPH ASIA 2009の開催地は日本。12月16~19日の4日間、横浜・みなとみらいのパシフィコ横浜で開催される。つまり、来年は私達がホスト国となるわけだ。ボランティアは集まるのか? 会場内のコミュニケーションは大丈夫だろうか? 金融不況は少しは収まってくれているのだろうか? アジア初開催のSIGGRAPH ASIAに出かけて少々不安になった面もあるが、来年の横浜の開催は楽しみな大会になる事を期待している。

今間俊博(尚美学園大学教授)

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今間俊博

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アナログ時代の事例を通じ、教育関連の最新動向を探る。