[アナログとデジタルの狭間に]Vol.03 デジタルだから音が良いって本当?
2009-03-13 掲載
このコラムは、デジタル化やコンピュータ化によって、絶滅危惧種となってしまうかもしれないアナログ時代のさまざまな事例を通じて、教育関連の最新動向を探って行くことにしよう。今回は、アナログとデジタルの音響機器の話である。
デジタルで本当に音は良くなったのか?
その昔、聞きたい時に音楽が聞ける身分というのは、自分が音楽家で無い限りは一握りの富裕層に限られていた。それはそうである。聞きたい時に音楽家や楽団を自宅に呼んで、演奏会を開く金銭的、時間的、空間的な余裕が必要な、極めて贅沢な行為だったからである。今回の話題は音楽に専念するが、同じ事は画像にも当てはまり、キャンバスが発明される以前は、絵画は建物の壁に描く物であり持ち歩ける類の物では無かった。
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| LPからCD、MP3へというメディアの変化 |
さて、エジソンのロウ管レコードやベルリオーズの円盤レコードなどが発明されたのはここ百数十年前の話であり、それ以前には音楽はライブの生音しか存在しなかった。それ以降、音響機器は発達を続け、我々のような庶民でも好きな時に音楽が聞けるのは、誠に喜ばしい事である。特に「いつでも音楽」を実現してくれるポータブルタイプの音響機器は、つらい朝夕の通勤時などには、現実逃避の手段として実に役立つ。
現在、身の回りのポータブル音響機器といえば、デジタル式が当たり前になってしまった。アキバあたりに行けばmp3プレイヤーは路上に積みあがっており、数千円の下の方の金額で手に入る。筐体は小さくて軽いし、少々の衝撃では壊れないし、電池は長持ちするし、なおかつ音もそこそこ良い。良いことずくめである。学校の中でも音響を教えており、学生が「最近は音響もデジタルになったので、昔よりも音が良くなった」なんて言っているが、果たしてそれって本当?
良い音を求めて
昭和の御世には、この日本にも「オーディオマニア」という人種が存在した。オーディオマニアにもいろいろな流派があったようだが、その中に原音至上主義、つまり生音に限りなく近づけようとするグループがいて、いろいろと原理運動を展開していた。良い音を求めるその姿勢は、求道者のようにストイックなものであり、傍から見ると奇異に見える行動も彼らの間では実に合理的(?)に説明が行なわれた。例えば、筐体の分割振動を抑えて澄んだ音を引き出すために、レコードプレイヤーには重い石を使うとか、スピーカーの紙の質は何が良いかとか、管球(真空管)アンプは音が温かいとか、本当に正しそうな事やちょっとマユツバな事も含めて、良い音に対するさまざまなトライが行なわれていたのは事実である。
実際に原音と同じ音を出すのは、視聴環境から整えなくてはならないのでとても難しい。また「良い音」という言葉の中には、聞き手の心理的なファクターも含まれるので、とても奥が深い趣味であった事は事実である。
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| 真空管プリアンプの一例。LUXMAN NeoClassicoシリーズ 真空管プリメインアンプSQ-N100とCDプレーヤーD-N100 |
最近オーディオマニアという言葉をとんと聞かなくなった。正確な時期は覚えていないが、デジタルのオーディオ機器が出回り始めた頃と、シンクロしているように思う。理由は簡単。デジタルのオーディオ機器は、決まった音を誰でも、条件無しに再現出来るという簡単さ、手軽さを持っている。オーデオマニアが大事にしている、良い音を出すためのしきたり(手法)や儀式(操作手順)を行なわなくとも、あるレベルの音楽が聞こえて来るのである。そのため、しきたりや儀式のありがたみが無くなり、多くのオーディオマニアは宗旨変えをしまったのかも知れない。
さて、デジタルのオーデオ機器として、一番最初に一般化したのはCDだと思う。アナログのLPレコードのように、丁寧に取り扱わなくても良いし、サイズは小さいし、数値的な規格上はLPよりも特性が良かったCDは瞬く間に普及し、一時期はLPレコードを絶滅寸前まで駆逐してしまった。そのCDも現在は、iPodなどのデジタルオーディオプレイヤーやメモリオーディオとネット音楽サイトに駆逐されそうな雰囲気である。
CDが登場した当時、そのS/Nの高さにみな一様に驚いた。LPプレイヤーでは、針をレコードに落とすと、サーっと言うノイズとか、パチパチというLP上の埃の音がまず最初に聞こえて来る。その後に音楽が鳴るので、アンプのボリュームの音を調節する事が出来た。しかしCDの再生では、この最初のノイズが全く聞こえない。ついLPレコードと同じでボリュームを上げ過ぎて、音楽が出た時にとてつもなく大きな音を出し、スピーカーをダメにしてしまう人が出た位である。
CDが出現した当時は、録音自体はアナログのメディアに行なわれていたが、途中からマイクの音をすぐにデジタルに変換記録するようになり、音楽のデジタル化傾向はますます進んだ。いわゆる、デジタルマスターというやつである。ライブ会場の観客の時計の時報の音など、LPレコードの時代にはノイズよりも小さくて聞こえなかった音も、ちゃんと記録再生出来るようになってしまった。
デジタル圧勝!...なのか?
ここまでを見るとデジタル圧勝、だからアナログは滅びたんだ、という話だと思われるかも知れないが、実は本題はここからである。ミキサーなどの音響の技術者の方から面白い話を聞いたのだ。デジタル機器は、周波数を切っているので2万Hzまでは素人でもキチンと再生出来る。でもそれより上の周波数は、記録されていないので再生したくても不可能。しかしアナログのLPレコードは周波数を切らないために、環境さえ整えれば4万Hz以上でも記録再生は可能となる。こんな犬しか聞こえないような周波数音域、無くてもかまわないと思われるかも知れないが、ブラインドでテストしてみると音楽のツヤみたいなものが変わってくることは確かだ。
アレ?また、オーディオマニアが復活しそうな内容の話である。実はもっとビックリなのは、mp3などで圧縮されたオーディオプレイヤーの現状。次回には、なぜ音が悪い圧縮オーディオが流行っているのかについて、問題点を掘り下げたい。
今間俊博(尚美学園大学 教授)
[ Writer : 今間俊博 ]
[ DATE : 2009-03-13 ]
[ TAG : アナログとデジタルの狭間に ]
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今間俊博
尚美学園大学 芸術情報学部 情報表現学科 教授。東海大学工学部通信工学科卒業後、日本初のCGプロダクション「JCGL」の立ち上げに参画。1982年に日本初のCGによるセルアニメ制作に携わる。その後IMAGICAでは、インターネット事業 NOMADの立ち上げに参画した。技術畑にありながらART分野への関心も高い。2000年から現職。専門はコンピュータアニメーション。
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