[アナログとデジタルの狭間に]Vol.04 メモリーオーディオは便利ですか?
2009-04-17 掲載
このコラムは、デジタル化やコンピュータ化によって、絶滅危惧種となってしまうかもしれないアナログ時代のさまざまな事例を通じて、教育関連の最新動向を探って行くことにしよう。今回は先回に続き、アナログとデジタルの音響機器の話である。
データ圧縮について話そう
デジタル音響機器の流れ(歴史というわけでは無く流行り廃りの事です)は、CD→MD→メモリプレイヤーだと思う。中にはプロフェッショナル御用達のDAT(Digital Audio Tape)とか、ハードディスクプレイヤーもあるのだけれど、比較が面倒になるのでここでは割愛させていただく。
今の学生はほぼ全員、何らかの形でメモリーオーディオプレイヤーを絶えず携帯している。それは、iPodやmp3 playerのようなオーディオ専門機器の場合もあるけれど、大抵の携帯電話は、mp3とかAACとかの再生機能がオマケで付いているので立派なメモリーオーディオ機器なのだ。そうなった理由は、CPUの高速化、メモリの低価格化とバッテリーの素晴らしい進歩という話は、また後日させていただくとして、今回はデータ圧縮の話。
mp3などのファイルは、オーディオの成分に不可逆圧縮をかけており、元のデジタルオーディオ信号には戻らないが、聞いた時には元の音源とほぼ同じに聞こえる程度に、そこそこ似た信号は再生出来るという規格である。ファイルの圧縮方法には、zip、lhaなど元のデジタル情報にキチンと戻る可逆圧縮法もあるが、ファイルの容量(大きさ)は圧倒的に不可逆圧縮の方が小さく出来る。そのため、音楽のmp3、画像のjpeg、動画像のmpegといった可逆圧縮形式がメジャーに使用されている。こういった圧縮形式の事をCODECとも呼ぶ。良くWebで動画サイトを見ている時に、「CODECが無いため再生出来ません」といったエラーメッセージが出てくるのは、こいつのせいである。
先ほど圧縮された音信号を、「元の音源とほぼ同じに聞こえる」という言い方をしたが、シンクロスコープなどの測定器で見ると、全く同じで無い事は確認出来る。たとえば、図のように低い周波数と高い周波数が微妙に重なっている音信号などは、デジタルに変換した時に情報量が大きくなってしまう。そのため、デジタルになった時の情報量を小さくすべく、音信号の波形を少し滑らかにしたりするのである。ところが、こういった処理をしたにも関わらず、実際に聞く時にはさほど音の違いには気が付かない。
オーデォ機器の音の秘密とは?
オーディオ機器の音というのは、元の音を録音してから、それがユーザーの耳に届くまでにさまざまな工程と機材を経由している。耳に届く音質は、それらのパフォーマンスの総合力というわけである。携帯オーディオプレイヤーの場合、耳に一番近い機器は一般的にはヘッドフォーンである。そのため、オーディオプレイヤーの開発者は、ヘッドフォーンから耳に届く音が一番良く聞こえるように、途中の工程で音を微調整しているから、元の音とは違う事には気が付きづらい。
それが証拠に、いつも聞いている携帯オーディオプレイヤーからヘッドフォーンをはずして、その代わりに、もっと高級なスピーカーを使った据え置き型オーディオコンポーネントステレオにつないで、音を鳴らしてみて欲しい。いつもヘッドフォーンで聞いているのと、同じ音には聞こえないと思う。その場合、いつもの音よりも良くなった、と感じる場合もあるのだが、多くの場合、おや?いつもの方が良い音で聞こえているぞ、という感覚を持ってしまう。ヘッドフォーン用に味付けされた音は、元の音源とは違う音になっているからだ。
年齢による耳の機能の違いとは?
オーディオには年齢による耳の機能の劣化、という問題もある。歳を取ると高い音が聞こえなくなる、というのは良く聞く話。筆者の家では、液晶やプラズマタイプでは無く、未だにブラウン管のテレビを見ている。ブラウン管のテレビには、フライバック・トランスという高い周波数を扱うトランスが使われているが、これが経年変化で周波数が下がってくると、少々耳につく音がする。隣の部屋でブラウン管テレビのSWをONにすると何となく分かるのは、このフライバック・トランスからの音のせいである。家では息子2人が、この音がうるさいと文句を言うが、親2人には全く聞こえていない。
耳の鼓膜周りの筋肉が老化で硬くなると、高い音が聞こえなくなるだけではなく、高い音の圧力がノイズに聞こえるようにもなる。これは、鼓膜の振動が音に追従出来なくなり、鼓膜が全体では無く、分割振動といって鼓膜の一部分が勝手に振動するためである。こうなると混変調といって、元の音源には無かった成分の音が発生し、それがノイズとして認識される。若い人はロックのように、高い音が大音圧で迫ってくるようなピーキーな音でも鼓膜が追従するため平気だが、歳を取って来ると追従しなくなる。弦楽器のように、高い音の成分はあっても音圧は低くて柔らかい音楽を好むようになるのも、耳の機能低下の問題が無関係ではないだろう。
音の周波数成分については、FFT(離散フーリエ変換)といった手法を用いて解析すると、元の音源に、どの周波数の成分が、どの程度の量含まれているかが分かる。ロックとクラシックでは高い音成分の含有量も違うが、一番小さなピアニッシモの音から大きいフォルテッシモな音まで、曲を構成するダイナミックレンジについても大分異なる。
最初から大きいが、ほぼ同じような音圧が最後まで続くロックに対して、コンサート会場のざわめきが聞こえそうな小さな音圧部分から、ロック並みに大きな音圧の部分まで、1曲の中に大きなダイナミックレンジを持つクラシックは、デジタルのオーディオ機器に対して、ある要求を求める。ポップスやロック音楽では、デジタル化して情報を圧縮してもそこそこ同じ音源として聞こえるのだが、クラシックではヘタをすると、元の音源と同じ音に聞こえなくなるのである。
デジタル化は、はたしてオーディオの世界に福音をもたらしたのだろうか?次回は、著作権を含めた音楽ビジネスの周辺について考えてみたい。
[ Writer : 今間俊博 ]
[ DATE : 2009-04-17 ]
[ TAG : アナログとデジタルの狭間に ]
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今間俊博
尚美学園大学 芸術情報学部 情報表現学科 教授。東海大学工学部通信工学科卒業後、日本初のCGプロダクション「JCGL」の立ち上げに参画。1982年に日本初のCGによるセルアニメ制作に携わる。その後IMAGICAでは、インターネット事業 NOMADの立ち上げに参画した。技術畑にありながらART分野への関心も高い。2000年から現職。専門はコンピュータアニメーション。
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