Digital Signage EXPO2012レポート第2弾は放送やポストプロダクション視点から興味深い展示をご紹介したい。

放送通信融合型L字サイネージ

衛星放送プラットドームであるディレクTVの「DIRECTV Message Board」は待合室型のデジタルサイネージではニーズが高そうなのだが、日本ではまず実現しそうもないサービスである。

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DIRECTV Message Board

画面をご覧頂くとわかるように、いわゆるL字放送と同じ画面分割での表示だ。利用シーンは待合室などで単純にテレビを流すだけでは無く、その待合室のロケーションオーナーが独自の情報を出したい、そういったニーズを想定している。

番組は衛星経由で受信され、L字部分のコンテンツは受信機をインターネットに接続させて配信され、これら2つを受信機で合成して表示させている。対応しているチャンネルはCNNやFox Newsのようなニュース系を中心に45チャンネル以上とのこと。さらに一部ローカル地上波局も対応している。

番組部分は当然ながらCNNのようなチャンネルオペレーターが編成放送しているが、L字部分はロケーションオーナまたは配信者側がテキストメッセージや静止画、ロゴなどを独自で自由に配信できる。これらはWEBベースのCMS(Contents Management System)から行う。テンプレートから、L字か逆L字かどうかや、色などを選び配信したいテキストを入力したり写真をアップロードする。配信したい端末を個別に指定でき、かつ時間帯や曜日指定も可能だ。そしてL字部分で広告的な配信をすることも可能である。

そうなのだ、これはまさに日本のテレビ局が最も反発する「混在表示」そのものなのだ。混在表示とは、テレビ画面上にテレビ番組以外のものは表示してはならないというテレビ局側の「主張」であって法的根拠は無い。テレビ局側の主張は、免許によって厳密に管理運用されている自分たちの放送本編以外の(例えばインターネットからの)情報が同一画面上に表示されると視聴者が混乱する、というものだ。

このあたりのことについて、DIRECTVやアメリカのテレビ局やチャンネルはどう考えているのか非常に興味があったので聞いてみた。すると映画や音楽などのエンタメ系のチャンネルの一部は今回のサービスには参加しないようだ。理由は日本のような画面上の責任論ではなく、作品性の維持といった観点からのようだ。そこで日本のテレビ局の主張をぶつけてみたところ、日本のテレビ局とは180度違う答えが返ってきた。

「テレビ局はとにかく自分のチャンネルを見て欲しい。しかしある場所にいる人たちが一番感心のある情報を常に放送しているとは限らない。であるから、その場所固有の情報がきっかけとなって番組も見てくれればそれでいい」

ロケーションオーナーからしても、待合室のようなところでお客様にテレビを見せるというのは昔から行われてきた話で、低コストなホスピタリティーサービスなわけだ。しかしテレビ番組にはロケーションオーナーの思いや伝えたい情報が全く出せなかった。そこに登場したのがこのDIRECTV Message Boardというわけなのだ。月額89.99ドルで4台のHDレシーバーが提供され、メッセージは使い放題である。

そしてさらに驚いたのは、この金額から一定の分配が各チャンネルに提供されるのは勿論なのだが、Message Boardではチャンネル側には追加分配が全くないのだそうだ。混在表示されてしまい、軒先で別の商売をされてしまうにも関わらず、である。

マルチ画面でちょっと面白いツール

複数画面の利用はデジタルサイネージにおいては効果的な手法だ。しかし複数ディスプレイに対して映像をインパクトある手法で映し出すことは結構手間のかかるポスプロ作業だったり、映像配信制御システムが必要なことが多い。Planarの「Mosic」はこれらを解決してくれるユニークなシステムだ。下の写真をご覧頂きたい。

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PlanarのMosaic

複数ディスプレイが不規則に配置されているが、これは全体で一つの仮想的なフルHD画面が設定してあり、各ディスプレイはフルHDのある部分を切り抜いたように表示している。つまり黒い壁面の後ろに大型なフルHDディスプレイがあり、部分的に抜けて見えているようなものだ。

システム側でディスプレイの配置に合わせて切り抜き、表示をさせる部分を可変できる。さらに各ディスプレイは前後の距離方向に対しても情報を設定できるので、手前に設置されたディスプレイを若干拡大表示させることも出来る。設置空間次第であるが、こういったツールの登場によってテレビともWEBとも違う表現の幅が広がることを期待したい。

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ディスプレイを立体的に配置し、最適化した映像を簡単に作り出せる

他にはつい先日、日本でもサムスンが発表した新しいSurface2.0を搭載した「Samsung SUR40 for Microsoft Surface」の実機も展示されていた。価格は150万円程度。

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Samsung SUR40 for Microsoft Surface

(デジタルメディアコンサルタント 江口靖二)

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。