いつの頃からだろう、ディレクターが編集できて当たり前って事になったのは。先日久しぶりに会ったディレクター(以前は私のスタジオによくMA*を依頼してくれていたのだが)に聞くと最近はMAも自分でやっていると言っていた。テクノロジーの発達のせいか、不景気のせいか、パソコンでできる事は自分でやれということなのか。もちろんMAスタジオと同等の事など、技術的にも設備的にもそうそうできる物ではない。だがMAにまで予算が回らないような仕事や、自主制作、趣味の映像作品でも、その音声を向上させるだけの環境はすでに手近な所に用意されている。

特にこのVegas Pro 9には映像編集ソフトでありながら音声編集専門ソフトと比べても遜色のないほどの機能とインターフェイスがある。Final Cut Studio にしても Adobe CS にしてもパッケージの中に音声編集ソフトは入っているが、映像編集ソフト本体の中にここまでの機能が内蔵されているのはおそらくVegasだけだろう。これから3回に分けて、VegasPro9を使用して、”ナレーション録り〜整音〜ミキシング”といった基本的なMA作業をレクチャーしてみようと思う。ぜひ挑戦してほしい。

*MA(マルチオーディオ):映像の現場音、アフレコ、ナレーション、効果音、BGM等、マルチに入った音素材のそれぞれを整え、最終的にバランスをとってミックスする音声編集作業の事。広義では同じ設備の中で行われるアフレコ、ナレーションの録音や、ミックスした後のマスターデータ製作を含む事もある。

録音環境の話

第一回目はナレーション録音に挑戦してみよう。基本的にはドラマのアフレコも要領は同じなので参考にしてほしい。まずはマイク周りの環境だが、ここで知っておいてほしいのは防音と吸音の違い。防音とは文字通り外部の音を遮断する事を言うが、これはスタジオを作るくらいの覚悟がないと現実的には不可能だ。もちろん金銭的、環境的に余裕があるならやるに越した事はないが、例えばホームセンターレベルで販売されている防音用品(窓の隙間テープや鉛のカーテン等)に音響的防音効果を期待してはいけない。

せいぜい生活騒音をいくらか軽減するくらいの効果しかない。外部の音を遮断するような状況を作ろうとすると結局部屋の中に浮いた部屋を作る位の工事が必要になって来る。それは無理だとしても録音のグレードを上げる為にできる事はまだある。その一つが吸音だ。

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収録のためにベストの環境を考える

これは録音時に余計な余韻、残響音( エコー、リバーブ)を極力減らして収録するという事だ。後で整音やミキシングの時に映像の雰囲気に合わせて残響音を付け加える事はできても、一度録音されてしまった残響音を取り除くのは至難の業だ。だから録音の時にはできるだけデッドな状態(声が響かない=残響がない状態)でやるのが望ましい。これは案外身の回りの物を利用したり、マイクの位置や角度を変えるだけでも効果がある物なので出来るだけの事はやっておこう。

残響音の正体は反射音だ。口から出た声が部屋の壁、床、天井、果ては家具や機材にも跳ね返って時間差を付けてまたマイクに戻って来る。これを防ぐ為にスタジオでは壁や天井に吸音材(スポンジや特殊な材質の物)を張り、床にはカーペットを敷く等の方法で対処している。また壁や天井が180度で向き合っていると反射を繰り返してしまうのでわざと角度を付けたり波打つような形になっている所もある。

部屋に吸音を施すとこのように大げさな事になってしまうが、要はマイクと話し手の周りを柔らかい物で囲んでしまえばいい。最近は専用の小型吸音壁も発売されているのでそれを利用するのもいいだろう。また、話し手の周りを丸くカーテン等で囲むだけでも効果はある。消防法に触れてはいけないが、厚手の布や毛足の長いカーペットなどを天井に垂らすのも効果的だ。

MAの押さえどころ:マイク

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おおざっぱに分類するとマイクはコンデンサーマイクとダイナミックマイクに分けられる。特徴はコンデンサーの方は電源が必要でマイクによって供給方法は乾電池であったりプラグインパワーであったりファントムであったりと様々。その分ダイナミックに比べて遥かに高音質で収録可能録なためスタジオの録音ではまず間違いなくコンデンサーマイクを使用する。価格も最近安くていい品物が多く出てきているので個人でも無理なく使えると思う。

ただし、構造的にはダイナミックに比べてかなりナイーブな物なので取り扱いと保管には注意が必要だ。コンデンサーとダイナミックという分類とは別に指向性の違いというものがあり、目的によってしっかり使い分けなければいけない。指向性とは音を拾う角度と方向の事で、よくロケで使われるガンマイクという物を高感度だと誤解している人がいるようだが、実はこの指向性の角度が非常に狭い物の事をいう。角度が狭い分、マイクが向いている方向の以外の音が入りにくく、結果狙った音がクローズアップされるという仕組みだ。

それに比べてスタジオで使われるコンデンサーマイクは総じて指向性の角度が広い。その分豊かな音で収録可能なのだが、これは防音や吸音がしっかりできている環境での話で、周りで鳴っている余計な音や残響音も豊かに綺麗に拾ってしまう。故に環境によっては多少の音質を犠牲にしてでも指向性の狭いマイクを使った方がいい結果に繋がるかもしれない。ガンマイクを使うというのも状況によってはアリだと思う。

指向性の話のついでにマイクのセッティングについて話しておこう。言葉をハッキリ録るためにはナレーターや役者の口を狙うのが基本だが、マイクに息が吹き込まれないように注意しなければならない。バフッというノイズになってしまうし、特にコンデンサーマイクの場合にはマイク自体を壊してしまう原因にもなる。例えばナレーターが少し下を見ながら原稿を読むような時には写真のように上の位置から角度をつけて口を狙うと良い。

また、人によってはしゃべると唇や舌でペチャペチャ音をたててしまう癖があることもある。そういう時はあえて口を外して狙った方がいい結果を得られる事が多い。そしておでこを狙うと爽やかに、胸を狙うと豊かで落ち着いた声になる事が多い。

MAの押さえどころ:オーディオインターフェイス

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▴上がオーディオインターフェース、下がコンプレッサー

オーディオインターフェイスの一番の役割はマイクのアナログ信号をデジタルに変換することだ。コンピューター自体にマイク入力ジャックがある事から内部にもオーディオインターフェイスが組み込まれている事がわかる。ではなぜわざわざ外部のインターフェイスを使うのだろう?もちろん変換の品質の違いもあるが、重要なのはノイズ対策だ。一つはケーブルの違い。コンピューターのマイク入力は大体アンバランスのミニプラグ用になっているが、これでは外部からの影響を受けやすくノイズを拾ってしまうしマイクの選択にも制約が出てくる。

さらに注意すべき点は、コンピューター自体、静電気と電磁波の固まりみたいな物なのでアナログ信号に影響を与えてしまうということだ。外部のインターフェイスを使う事によってコンピューター本体から離れた所でデジタルに変換する事が可能になる。逆に言うとせっかく外部のインターフェイスを使っているならコンピューターから少し離して置かないともったいない。オーディオインターフェイスにも機能やクオリティーによって様々な価格の物があるが、シンプルで安価な物でもいいのでぜひ使ってほしい。

この他の留意点として、ナレーターが見るモニター、タイミングを指示するキュー等ができるだけ原稿を見る視線上にあるという事だ。もちろんMAスタジオにあるようなモニターシステムとキューイングライトがあればいいのだが、今回は最小の設備でのナレーションに挑戦しているので、PCの画面をディレクターと一緒に見てもらい、合図も出しやすい配置にするという形で切り抜けた。決して格好のいい物ではないが、どんな状況でも音質向上を図るという事を諦めてはいけない。

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オーディオインターフェイスの下に設置しているのが、コンプレッサーだが、ナレーション録音から始まって、最終的なマスタリングを行うまで、少なくとも三度、別の目的で使う事になる。今回は録音環境の事に終止してしまったが、このコンプレッサーの使い方も含めて、次回からVegas Pro 9 での録音、整音、ミックスと進めていきたい。乞うご期待。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。