ある映像のエフェクト作りに余念のない作者。何が出来上がるのだろうか…?

Vegas Pro 10がやってきた!ヤァヤァヤァ!

今回リリースされたVegas Pro 10。目玉は何と言っても3Dなんだろうが、私が驚いたのはネイティブのEOS MOVIE が前にも増してサクサク動く。4段くらい重ねて透明度を変えてもフルフレームで動いてしまう。3D対応のような派手な機能を加えながら、このような地味な基本性能もきっちり向上させているのはさすがだ。キヤノン自体がネイティブ編集を諦めるかのようにFinalCutのProRes変換用のプラグインを作っているのに、ソニーのソフトでサクサク編集できてしまうのはなんとも皮肉な話だ。

さて高音質ミュージックBlu-rayの製作で、先日は、歌のレコーディングを行った。今回お願いした相沢千恵さんはとてもハスキーな声の持ち主で、声そのものに加えて息の成分が多く含まれて、それでなくても生々しさのある歌に96kHzの音の生々しさ加わり、なんだかドキドキするような音で録れた。歌った本人にとっても新鮮な体験だったようだ。

それはさておき、リビングルーム、テレビの前で楽しんで頂く音楽作品ということで、やはり映像コンテンツの事も考えておかなくてはいけない。普通に考えるとアーティストのPVという事になるんだろうが、歌を聞く度にそれが映し出されていてはいくら優れた作品であっても、飽きがくるだろうし、YouTube等で見られるものではパッケージとしての魅力に欠ける。

何か他にないものだろうかと考え続けて、この連載の始めにも読者からのアイデアを募ったりもしたが、ほとんど意見は寄せられなかった。難しいんだと思う。PVと歌詞の出るカラオケ用映像は当然収録するとして、何らかのイメージアートとか、iTunesやプレステでお馴染みのミュージックビジュアライザー的な映像、制作過程のドキュメンタリー映像、どれもアリだとは思うが新鮮味に欠ける。今回はなるべく流しっぱなしでも飽きのこない、かといってビジュアライザーほど偶発的ではなく、しっかりとこの曲の世界観を表現している固有のイメージアートに挑戦してみようと思う。

プロシージャルで作る二度とない瞬間エフェクト

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今回まず使用するのはVegasPro 10のメディアジェネレーター。あらかじめ幾つかのパターンが用意されているが、これは適当に選んでやれば良い。あとで曲のテーマやパートの雰囲気に合わせてかなり劇的に変化させる事ができるからだ。

なお、このジェネレーターは単なるクリップアートではない。例えばクリップアートならせいぜいエフェクトをかけるか色を変えるくらいの事しかできず、何より動きや時間が限られている。これはフラクタル理論によって、つまり全てのパラメーターが関数の変数として扱われ、理論上変化は無限のパターンを持つプロシージャルテクスチャーなのだ。それをクリップとして生成してくれるので曲やパートに合わせて時間を自由に決められる。一度クリップにしてしまえばそれを切り刻んで使おうがエフェクトをかけようが、やりたい放題だ。

おそらくクリップアートやテクノムービーを製作しているクリエーターの中にもこれを使っている人がいるはずで、単体ソフトとして売り出してもいい位の物だと思う。これをパートの雰囲気に合わせて幾つか作っておくのもいいし、雰囲気の変わり目にキーフレームを打って違う変化傾向を作りだすのもいい。こうして曲に合わせて変化を付けていくとクリップアートをつなぎ合わせて作るVJ的な発想とは一線を画したオリジナルのアートが生まれる。さらに別の考え方でこの曲固有のダイナミクスを持った素材を作ってみよう。

今回はアルミホイルをぶら下げLEDライトで着色した物をメロディーやリズムに合わせて裏から叩いてそれをビデオカメラで収録した。わざとフォーカスを合わせずモヤッとしたひかりの雲が曲に合わせて動く、これはビジュアライザー風の素材として先ほどの物とはまた違った変化を演出する為の素材だ。ちょっとカッコ良く言うと光で演奏するような感覚でとても楽しい。他に水を張った鍋を叩いてみたり、シーツを揺らしてみたり、アイデアは尽きない。合成素材として使うのが目的なので、映像のクオリティにはあまり気を使う事はないだろうが、この時、ビデオカメラのマイクも活かしておき、後でタイムライン上での同期に役立てるようにしよう。

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画面左のトリマーにあるのができあがったアルミホイルの画像だが、音声をガイドに同期を取った後、その前に作った素材と合成する。上に乗せた素材のトラックにあるコンポジットモードから適当な合成モードを選択してやると二つのダイナミクスが交錯して、思わぬ化学変化(?)が起きる。しかしその全てがこの曲の持つダイナミクスからできている物なので、曲と一緒に見ていると不思議な一体感を感じる事ができる。後は組み合わせのセンスと時の運!ここで紹介したのはほんの入り口にすぎないのでとにかくいろいろ試行錯誤してみてほしい。

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Vegas Pro 10で制作した完成素材

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。