[東京Petit-Cine協会]Vol.29 クリエイターズカメラのススメ~自分だけの画作り、コントラストとディテールを考える 3

HOME  >  COLUMN  >  ふるいちやすし  >  [東京Petit-Cine協会]Vol.29 クリエイターズカメラのススメ~自分だけの画作り、コントラストとディテールを考える 3

Column

[東京Petit-Cine協会]Vol.29 クリエイターズカメラのススメ~自分だけの画作り、コントラストとディテールを考える 3

2012-01-17 掲載

[東京Petit-Cine協会]Vol.29 クリエイターズカメラのススメ~自分だけの画作り、コントラストとディテールを考える 3

いささか遅くなりましたが、新年おめでとうございます。今年もPRONEWS、東京Petit-Cine協会、そしてふるいちやすしをよろしくお願いいたします。私たちもまた、皆様の映像制作のお役に立てるよう、様々な情報をお届けしていきたいと思います。特にこの「東京Petit-Cine協会」では個人クリエイターの目線から新しい物に目を向け、常に冒険を忘れずに、皆様の制作へのヒントとなるような情報や考え方を発信し続けていきたいと考えています。一緒に良い年に、良い作品を作りましょう!

あたらしい画作りを求めて!

ここ数年、ビデオの世界は新しい技術の波が次々押し寄せ、混沌としていたように思える。ハイビジョン化、数々のコーデック、デジタル一眼ムービー、そして大型センサービデオカメラ。それぞれの新技術への対応に四苦八苦させられたクリエイターも多いと思うし、私もその一人だった。もちろんそれは今も続いてはいるのだが、ここまでで一つの段階を終え、少し落ち着いたとも言える。少なくとも今ある環境で最良の作品を作っておけば、すぐに古臭くなってしまうという事はないだろう。だから我々クリエイターも少し落ち着いて「対応」するのではなく「使いこなす」意識を持たなくてはいけない。特にデジタル一眼~大型センサーがもたらした表現力の拡大は川から急に海に出たような無数の可能性を我々に与えてくれた。これに「対応」するのではなく「使いこなす」、あくまで我々の感性を基軸にしてそれを表現する為にこの可能性を利用していく気持ちで臨まなくてはこの海に溺れてしまう。そうならない為にも海を理解し、目的地をはっきり見据える気持ちで臨んでほしい。

デジタル一眼が広げてくれた「被写界深度」「レンズ交換」「豊かな諧調と色表現」という可能性を、今までのワークフローの中でどう使うかという事よりも、それで何が撮れるようになったのかを積極的に考えて、ワークフローを変えてしまう事さえも恐れずにいてほしい。今まで撮れなかった物が撮れるという事は今まで表現できなかった物が表現できるという事だから、少なくとも絵コンテを描く時点で撮影プランも含めて常識に捕われない考え方で臨む必要がある。そういう意味で、デジタル一眼から更に可能性を大きく広げたのが、ソニーがPMW-F3、そしてNEX-FS100に搭載した「動画専用の大型センサー」なのだ。

確かに地味ではあるが、今まで撮れなかった物が撮れるという意味では革新的で撮影プランをガラッと変えてしまう威力を持っている。Super35というサイズはデジタル一眼で言うAPS-Cとほぼ同じサイズと考えていいのだが、静止画を撮る為のデジタル一眼は横幅で5000以上もの素子を埋め込んでいる。それが静止画に求められるクオリティなのだから仕方ないのだが、こと動画に関してはフルハイビジョンでも1920x1080でいいわけだから、動画専用としてしまえば同じ大きさの中に1920個の素子でいい事になる。その分、当然素子一つ一つの大きさは大きくでき、いろんな意味で余裕が生まれる。

作品から考える画作り その1

結果、感度の向上と低ノイズが実現したという訳だ。 これは私がFS100で撮った最初の作品「気持ち玉」(主演:横張芽衣)からの抜き画だが、このセンサーの実力を物語るカットだと思う。女優の向かって左の顔を照らすのは照明の光、右を照らす青い光は窓から入る自然光だがどちらもディテールをしっかり表現できている。

furuichi2801.jpg

このセンサーの感度、集光のセンシティビティーがこういうカットを可能にしてくれる。言うまでもなく窓からの自然光はさほど強い物ではなく、そちらを活かすためにも照明はどんどん抑えていった覚えがある。結果、室内は非常に暗い状態での撮影になったが、ゲインを上げた事はなく、おかげで暗部にもノイズらしいノイズは見られない。つまり黒が黒としてしっかり表現されている。これがもし従来の感度のセンサーであれば、もっと強い照明を当てなければならなかっただろうし、そうなるとこの自然光との絶妙なバランスは得られなかっただろうし、逆にカメラのゲインを上げれば暗部にノイズが乗る事は避けられない。

まずは今までの照明プランの常識を覆すほど、少ない光で場面作りができるという事だ。そうなると照明機器も非常に節約できるし、今までは撮影には使えないとされてきたような機器でも利用できるようになる。そして何より少ない光量での画作りは非常にセンシティブでおもしろい。その分、光の作り方も根本から考え直さなくてはいけない。

furuichi2802.jpg

こちらも同じ作品の同じ場面でのカットだ。窓の外を通る人影が意味を持つ為、絞りを絞って被写界深度を深くした。だがカメラのゲインは上げずに済んでいるため、やはり暗部にノイズが乗っていない。またその中にある物のディテールまでも細やかに表現されており、生活感をリアルに表現できている。個人的にはこのカメラに惚れ込むきっかけになったカットだ。

作品から考える画作り その2

furuichi2803.jpg

ここからはこのカメラで撮った二つ目の作品「彩~aja~」(主演:笠原千尋 オフィスモノリス所属)からのカットだが、この作品ではこのセンサーの感度を限界まで使い込んでみようと思っていたので更に少ない照明での撮影に踏み切った。また、前回解説したように低コントラストの画作りをしていたため、ブラックゲインをかなり上げたセッティングなので、さすがにノイズが出ている。ただ、そのノイズ自体、とても細かい物で、個人的には画像の滑らかさを損なうほどの物ではないと感じている。この柔らかいトーンの中で肌の質感はちゃんと出ているし、少ない照明のお陰で嫌な影も出ていない。

furuichi2804.jpg

furuichi2805.jpg

この二つのカットはたまたま近くにあった一本の街灯の光だけで撮った。もちろんカメラのゲインも上げているが暗部のノイズはそれほどでもない。闇は闇として黒く捉えられている。下のカットは夜が明けてきて空が少し明るくなってきた所で撮った物だが、何より、照明機器のないこういう場面に撮影を行うチャンスがあるという事に驚いている。これもまた撮影プランごと考え直すきっかけになってゆくだろう。

furuichi2806.jpg

このカットは街灯も何もない夜の森の中でLEDのバッテリーライトだけを使って撮影したカットだ。出かけると言い出した私をアシスタントが「絶対何も写りませんから。」と止めたくらいだ。この頃から私は「闇を撮る」事に取り憑かれ始めていた。

furuichi2807.jpg

そしてついに月明かりだけで夜空と木を撮りたくなった。さすがにこれはゲインを目一杯上げてシャッター速度も1/4秒での撮影だったが、上のカットで彼女が見ていた空はこういう物だという事をどうしても表現したかったのだ。もちろんこのカットも作品の中に効果的に使っている。

かなり無茶はしているが、「撮れなかった物が撮れる」という意味が分かってもらえただろうか?これを基本にコンテ、撮影プラン、照明プランを考えると、表現の幅はグッと広がるだろう。この可能性を皆さんならどう使っていくだろう?最後にこの作品の試写会が決まったのでお知らせしておく。ぜひ一度その目で確かめに来ていただきたい。

SONY NEX-FS100J+オールド・アンジェニューレンズによる"淡麗"の映像美『彩~aja~』特別試写会 +笠原千尋(主演)、ふるいちやすし(作・監督・音楽)による「オーディエンス会見」

 

2012年1月31日 PM18:00~20:00
@Apple Store,Ginza 3Fシアター (入場無料)
〒104-0061 東京都中央区銀座3-5-12サヱグサビル本館 TEL:03-5159-8200

映像作家/音楽家、ふるいちやすしの最新作、『彩~aja~』の完全版(47min.)を上映。その後、主演の笠原千尋とふるいちやすしによる「オーディエンス会見」では、会場にこの作品で使用したカメラ、SONY NEX-FS100JやFinal Cut Proの編集データまで持ち込み、オーディエンスの聞きたい事にとことん答えていく。インディペンデントで映像作品を作る喜びと楽しさを何とか知ってもらおうというApple Storeとふるいちやすしの共通の思いから生まれたスペシャル・イベント。

『彩~aja~』

10代の頃、 aja(エイジャ)と呼ばれた天才画家の彩は、その自由奔放な行動が周囲を混乱させた事を悲観し、森の中へ逃げ込み、植物と水と光の絵しか描かなくなった。人との接触を断った平穏な空気の中で活き活きと絵を描く彩だが、ある日、人気画家の蒼に出会い、閉ざしたはずの心の窓が再び開いてしまう。舞台で異才を放つ笠原千尋の映像初主演作品。


[ Writer : ふるいちやすし ]
[ DATE : 2012-01-17 ]
[ TAG : 東京Petit-Cine協会 ]

関連のコラム一覧

[東京Petit-Cine協会]Vol.30 色についての考察。もう一度考えてみよう!

[東京Petit-Cine協会]Vol.30 色についての考察。もう一度考えてみよう!

「色」についてもう一度考えよう 私が知る限り、広告商品の撮影時が最もシビアに色を決める。そりゃそうだ。お客さんがその色が良いと思って、いざ現物を見てみるとイメージが違うとなると怒ら .... 続きを読む

[東京Petit-Cine協会]Vol.28 クリエイターズカメラのススメ~自分だけの画作り、コントラストとディテールを考える 2

[東京Petit-Cine協会]Vol.28 クリエイターズカメラのススメ~自分だけの画作り、コントラストとディテールを考える 2

Inter BEEは新しい絵の具のお披露目会。とでも言えばもっとクリエイター達が集まってくれるのだろうか?少なくとも僕はそう思って毎年見ている。ただ会場でクリエイターに出会う事は稀 .... 続きを読む

[東京Petit-Cine協会]Vol.27 クリエイターズカメラのススメ~自分だけの画作り、コントラストとディテールを考える

[東京Petit-Cine協会]Vol.27 クリエイターズカメラのススメ~自分だけの画作り、コントラストとディテールを考える

「被写界深度のコントロール」再考 女優:横張芽衣(公式ブログ『ひつじがいっぴき』) 前回解説した「被写界深度のコントロール」という物は、レンズの選択、絞りとNDフィルターの使い方等 .... 続きを読む

[東京Petit-Cine協会]Vol.26 クリエイターズカメラのススメ~レンズ交換とフォーカシングで変わる画作り

[東京Petit-Cine協会]Vol.26 クリエイターズカメラのススメ~レンズ交換とフォーカシングで変わる画作り

カメラがどんどん新しくなってゆく。本当はクリエーターの要求に応じる形で技術が進歩していくのが望ましいとも思うのだが、最近は技術先行の感は否めず、クリエーターはそれに追いつくのがやっ .... 続きを読む

[東京Petit-Cine協会]Vol.25 クリエイターズカメラのススメ~FS100の懐の深さ

[東京Petit-Cine協会]Vol.25 クリエイターズカメラのススメ~FS100の懐の深さ

「所有」すべきクリエイターズカメラSONY NEX-FS100 前々回より「所有」すべきクリエイターズカメラとしてSONY NEX-FS100を紹介してきたが、日本国内よりも欧米を .... 続きを読む

関連のニュース記事

WRITER PROFILE

ふるいちやすし 映像作家・音楽家・作曲家として数々のサウンドトラックやアーティストへの楽曲提供等も行い、自身で脚本、監督、撮影から編集、音楽までもこなすマルチプレーヤー。企業VPやCM等の制作と平行して、年に何本もの自主制作作品を制作している。
Studio :Loo-Ral Art
Mail : fuluichi-yas@loo-ral.com


Writer

編集部(100)
PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートです。
稲田出(27)
映像専門雑誌編集者を経てPRONEWSに寄稿中。スチールカメラから動画までカメラと名のつくものであればなんでも乗りこなす。
石川幸宏(35)
映像専門雑誌DVJ編集長を経て、リアルイベントを中心とした「DVJ BUZZ TV」編成局長として活躍中。
小寺信良(24)
業界で噂の新製品を、AV WatchやITmediaのコラムでもおなじみの小寺信良氏がレポートする動画連載。
raitank(5)
あまたの海外ソースを読み漁ってHDSLRを独学。海外から仕入れた情報を日本語で発信するグラフィックデザイナー/アートディレクター。
ふるいちやすし(45)
自身で脚本、監督、撮影から編集、音楽までもこなすマルチプレーヤー。
岡英史(19)
バイクレース及びF3レース参戦など、映像とはかけ離れた経歴を持つ異色ビデオカメラマン
手塚一佳(45)
CGムービー制作、ネットワークゲーム制作を得意とするデジタルデザイン会社アイラ・ラボラトリの代表取締役。
江夏由洋(13)
兄弟で株式会社マリモレコーズを設立し、ノンリニアにおける映像技術、映像制作を中心に、最新技術を取り入れたワークフローを提案している。
山本久之(26)
映像エンジニア。フリーランスで映像設備のシステムインテグレーションと、ノンリニア編集に携わる。
林永子(27)
2005年よりサロンイベント「スナック永子」を開催。通称「永子ママ」
鍋潤太郎(19)
ロサンゼルスを拠点とするVFXジャーナリスト。
高野光太郎(4)
映像クリエイター。フリーランスにてミュージックビデオ、番組オープニングタイトル、CM、劇場映画、全てをデスクトップで制作。
安藤幸央(9)
無類のデジタルガジェット好きである筆者が、SIGGRAPH ASIAやCESなど海外の注目イベントを紹介。
猪蔵(5)
いつも腹ペコ。世の中の面白いことを常に探っている在野の雑誌編集者。
山下香欧(8)
米国ベンチャー企業のコンサルタントやフリーランスライターとして、業界出版雑誌に市場動向やイベントのレポートを投稿。
ヒマナイヌ(5)
頓知を駆使した創造企業
坪井昭久(5)
映像ディレクター。代表作はDNP(大日本印刷)コンセプト映像、よしもとディレクターズ100など。3D映像のノンリニア編集講師などを勤める。
萩原正喜(69)
米国コロラド州から、米国のデジタル放送事情からコロラドの日常まで多岐に渡るコラムをお届けします。
岡田智博(7)
クリエイティブクラスター代表。メディアアートと先端デザインを用いたコンテンツ開発を手がけるスーパー裏方。
江口靖二(5)
デジタルサイネージコンソーシアム常務理事、慶應義塾大学DMC機構研究員などを兼務。
しらいあきひこ(2)
カメラメーカー、ゲーム開発などの経験を持つ工学博士が最先端のVR技術を紹介。
今間俊博(5)
尚美学園大学 芸術情報学部 情報表現学科 教授。アナログ時代の事例を通じ、教育関連の最新動向を探る。
伊藤裕美(5)
オフィスH(あっしゅ)代表。下北沢トリウッドでアニメーション特集上映を毎年主催している。
秋山謙一(17)
PRONEWS記者。映像業界紙記者、CG雑誌デスクを経て、2001年からフリージャーナリストとして活動中。
UserReport(10)
業界で話題の商品を実際に使ってみてどう感じたかを、各方面の様々な方々にレポートしていただきました。
System5 Labs(8)
SYSTEM5スタッフが販売会社ならではの視点で執筆します。

HOME  >  COLUMN  >  [東京Petit-Cine協会]Vol.29 クリエイターズカメラのススメ~自分だけの画作り、コントラストとディテールを考える 3