もう一度プチシネで映像制作するには?

ここのところずっとFS100の話を続けていて、とある読者からお叱りを受けた。「ちっともプチじゃないじゃないか!」

ごもっとも。確かに50万以上もするカメラはプチなカメラとは言えない。借金してでも所有してほしいカメラであることには違いないのだが、それができなきゃ映画が作れないというのでは「プチシネ精神」に反するというもんだ。ここは一つ原点に戻って草の根レベルで映像文化を盛り上げる為のレール敷き直そうと思う。

ではカメラは何を使うべきなのか?Canon 5D markIII?いやいや、この際もっとカジュアルに!かといってせっかく作った物が映画祭にも出せない物であっては意味がない…。これまでずっと話してきた映像表現力が発揮できないレベルではこれまた意味がない。携帯電話ででもフルHD映像が撮れるこの時代、「映画が撮れる」最低限のカメラとは?人それぞれの考え方があるだろうが、ふるいち的に、プチシネ的に言い切ってみる。

まずはサイズだが、巷では4Kだ8Kだと騒がしいが、フルハイビジョン(1920×1080)あればまずは大丈夫だろう。最近、デジタル上映している映画館でもフルハイビジョンで充分満足出来る。プロジェクターの性能が上がってきたのだろう。今回の地デジ騒動のような形でテレビが急に4Kや8Kになる事は考えられないし、一般の人がパソコンで見るにしても今はフルハイビジョンがやっとという状態だから、今、無理をしてそれ以上のサイズにする必要はないと思う。ただ、DVDでの配布が目的であっても将来に残したい作品であれば撮影、編集、マスターまではSDではまずい。720p(1280×720)というのもちょっときわどい。フルハイビジョンでマスターを残しておく事をお勧めする。

サイズはあくまで記録するサイズであって、問題は「何を」記録するかという事。それのクオリティを決めるのがレンズとセンサーの性能だ。携帯電話でもカメラでもフルハイビジョンという意味では同じであってもそこで大きな差がある。何かを記録しておくだけなら携帯電話でいいのだが、表現力という意味でプチシネとしては最低限「カメラ」を使う事にしよう。量販店にズラリと並んでいるコンパクトカメラであるが、値段も1万円前後の物から10万円近くのものまで…。

レンズとセンサーの性能は、押さえておこう

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一体何が違うのかというと、やはりこのレンズとセンサーの性能が違うのだ。それともう一つ、大事な基準がいろいろな撮影設定をマニュアル設定できるかという事だ。コンパクトカメラは基本的には静止画を撮る為の物で、今はほぼ全てのカメラで動画も撮れるが、オート設定は、やはり静止画用という事になる。動画設定は、例えばシャッタースピードの設定等、やはりマニュアルで合わせる必要がある。もちろん、画作りという意味でもマニュアル設定は絶対条件になる訳で、一枚一枚を個別に楽しむ静止画と違って、ムービーは違う条件の場所で撮った別のシーンを繋ぎ合わせる事もある。

トーンを揃えるという事はマニュアルでしかできない。それが出来る機種となると少しクラスは上になるし、中には静止画ではマニュアル設定可能だが、動画はオートのみという機種もあるので要注意。量販店でも機能が書かれた札が並んでいるが、そこまで詳しく書かれた物はほとんど無く、店員さんに聞いても分からない事が多い。残念ながらこれを見極めるにはやはり実物に触ってみるしかないだろう。

この時点で選べるコンパクトカメラは非常に限られてくる。少なくとも3万円以上の上位機種になってくるはずだ。私の知る限り、Panasonic LX5 等がその条件を充たす最低限の機種になる。

次にセンサーの性能だが、表現力という意味で大切なのはその大きさで、これもお店の札には書かれていない事が多く、また、最近ではコンパクトカメラなのに、センサーはデジタル一眼と同じ大きさの物が搭載されている物まで出て来ているので混沌としている。

ここまで読んで、なぜビデオカメラが候補に挙がらないのか不思議に思っている人もいるかと思うが、このセンサーの大きさという意味では皮肉な事に安価なビデオカメラは非常に小さくて、比較にならないのだ。静止画用のコンパクトカメラの方がプチシネ制作には向いていると言わざるを得ない。前述のLX5はコンパクトカメラの中ではかなり大きめのセンサー(1/1.63型CCDセンサー)を搭載しているので、デジタル一眼には及ばないがこの辺りを一つの基準にして考えるといいだろう。いや、断言しておこう。LX5なら頑張ればプチシネ作品は撮れる!値段も3万円台で、どうだ!プチだろう!

よし決めた!Nikonにしよう!その理由は?

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このクラスになると、レンズもライカだったりツアイスだったりと、いろいろ良い物が付いてはいるが、クリエイターとしてもう一歩表現力を高めたいのであれば、コンパクトカメラの更に上位の物を選ぶより、レンズをいろいろ選んで付け替えられるデジタル一眼という事になる。嬉しい事にミラーレス一眼と呼ばれるクラスが最近とても活発に各メーカーから発売されている。センサーの大きさから言うと、小さい方からPENTAX Q、Nikon 1、PanasonicとOLYMPUS(マイクロフォーサーズ)、そしてAPS-Cと同等の大きさのSONY NEX、FUJI X。中でもマイクロフォーサーズ以上の物だとサードパーティーも含めて色々なレンズが発売されていて、豊富なマウントアダプターを使えばレンズの選択は無限とも言える。大きなセンサーと相まって表現力は格段に上がる。

逆に言うとPENTAX QとNikon 1は、まだ世に出たばかりの規格で、基本的には純正の数本のレンズから選ぶしかない。だが、皆さんはCマウント、Dマウントというレンズがあるのをご存知だろうか?それぞれ昔の16mm、8mmフィルムのムービーカメラ用に作られた規格で、その中には魅力的なレンズがいっぱいある。

もちろん小さなフィルム用に作られたレンズなので、マイクロフォーサーズ以上のカメラに付けても周りが丸く削られてしまうが、実はNikon 1のセンサーサイズはこの16mmフィルムとほぼ同じ大きさで、Cマウントレンズが使え、その為のマウントアダプターも先頃発売された。また、まだ試してないが、DマウントはPENTAX Qに使えるかもしれない。こうなってくると表現の幅は一気に広がってくる。

実は私は随分前にCマウントのアンジェニューレンズを手に入れており、いろんなカメラに付けてみたものの、丸く削られた画像では使い物にならず、ずっと眠らせていたのだが、去年Nikon 1が発売されてついにこのレンズを使えるようになったと大喜び!しかもフルハイビジョンでムービーが撮れるとなっては、これはもう買うしかない!という訳でアダプターも含めて買ってしまった。とは言っても、カメラはレンズ付きで4万円前後、Cマウントのレンズはオークションに目を光らせていればおもしろいオールドレンズが安価で手に入る。私のプチシネセットはこれで決まり!この大きさならいつも持ち歩けるし、町中でこっそりロケしていても目立つ事はないだろう。

さぁ!作品制作にとりかかるぞ!プチシネ方式で!

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「口では何とでも言える」と言われるのもしゃくなので、宣言します。私はこれで小さな作品を作って、ここで発表していきたいと思う。大げさな物ではなく、できれば月一くらいで作れるプチな物。だけどクオリティの高い物。その為には制作方法も規模もよく考え直さないといけないと思うが、これもまた面白い挑戦だと思うので、まぁニヤニヤしながら応援していて下さい。あ、本当に手伝ってくれる人、出演してくれる人も募集中です。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。