映画祭の受賞がスタート

前回に引き続き映画祭についてお話ししよう。と、言うのも私自身、今回の受賞という事を活かしきれるかどうかはこれからであり、知らなかったというだけですでに手遅れな事もある。アカデミー賞を獲ったのとは訳が違う。賞を獲っただけでは何も変わらないし、自分でそれを活かしていく努力をしないとせっかくの機会が無駄になってしまうからだ。これは国内の映画祭でも同じような物だし、恐らく格上のカンヌやベルリンで賞を獲ったとしても基本的には変わらないだろう。よほど多額の賞金でももらわない限り、映画祭の受賞という物は自分で活かしていかないと大した意味のない物になってしまう。今後、映画祭への参加や受賞をする皆さんの為に、少しでも参考になればという思いも込めて、あえて失敗談も含めてお知らせしたいと思う。

さあー映画祭に向かうぞ!

ではまずお金の事を!(笑)でも大事でしょう。いや、知ってなきゃ大変だ。お金、結構かかるんだ。賞金とかが出る映画祭なら元が取れる場合もあるだろうが、ホームページ等に明記されていなければ賞金はないと考えた方がいいだろう。それに入選した時点では勿論受賞するとは限らないわけだし、旅費、宿泊費は自腹というのが基本だ。中には宿泊費を出してくれる映画祭もあるが、旅費まで出してくれるケースは聞いたことがない。モナコの場合は指定のホテルのみ、半額で泊まれるというサービスがあったが、何分セレブの国だ、半額でも東京より高いし、ネットで見る限り安宿という物がそもそも存在しない。まあこれはモナコという場所が特殊だからなのだが、特殊と言えば期間中毎日パーティーがあり、更にそれに参加する費用まで取られてしまう。

その上、タキシード等のドレスコードもあり、ちょっとシャレにならないくらいのお金がかかってしまった。幸運にして4つもの賞を戴く事にはなったが、賞金はゼロだ。以前カンヌでCMの賞を獲ったチームの一人が受賞記念のプレートを約10万円で買わされたという話も聞いた事がある。カンヌでは映画祭の期間中、同時に幾つかの映像フェスティバルが行われており、有名なカンヌ映画祭とは別の物だと思われる。賞金がないだけでなく、とんでもない商売のカモにしようと企んでる輩がいるとも聞いてるので注意が必要だ。

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さて、そこまでして行く意味があるのかと言えば、答えはイエスだ。こういう機会に何を得るべきかという答の一つが「出会い」だと思うからだ。世界中から映画を作る人達や世界的デビューの上映に繋がるバイヤーが集まり、また、そこにクリエイターとして紹介され、その作品をすぐに観てもらえる機会があるという状況はめったにあるものではない。作品や自分のプロモーション資料をしっかり整えてチャンスに変えるべきだ。モナコで行われたゴージャスなパーティーでもセレブやプロデューサーに対して露骨に売り込みをしている監督や役者達を多く見かけたが、それは当たり前の事で、みんな観光やお祝いに来てる訳ではない。売り込みを受ける側もそれを充分理解しているようで、逆に作品について色々訊かれたり、上映の日時を確かめられたり、もっと具体的に作品の権利の所在を確かめられたりもした。印象的だったのは大体どの映画祭でも同時に行われている脚本や企画のコンペで来ている人達は、出資者と共に監督やカメラマン、役者といった人材を探していて、私も幾つかのアプローチを受けた。

ただ、奥ゆかしき日本人である。やっぱりそういう場所にも行動にも慣れていない。上品ぶって壁際で飲んでいたのではこの機会を活かしきれないはずだと大いに反省している。日本では「パトロン」という言葉に何やら怪しいイメージを持たれてしまうが、お金持ちは文化にお金を出すのが当たり前という気風がある国ではもっと前向きに自分を売り込む姿勢が必要なんだと感じた。

幸運にもロシアの監督が我々の作品を気に入って、一緒に新しい作品を作ろうと誘ってくれて現在進行中だ。そういう色んな出会いの中で積極的に振るまい、更に真偽をしっかり見抜いて具体的なチャンスに繋げる為にはかなり慣れも必要だが、少なくともそういう機会に優れたクリエイターとして紹介される事は国際映画祭ならでは事だろう。だからやはり現地には行くべきだ。逆に言うと行っても仕方ないようなマイナーな映画祭には最初からむやみに応募すべきではないのかもしれない。実は私も知らなくて惜しい事をしたのだが、国際映画祭に入選した人に対して旅費等を助成する「文化庁日本映画海外映画祭出品等支援事業」というシステムもあり、利用するべきだと思う。その他、様々な情報は「公益財団ユニジャパン」のホームページで得られるので、応募する際にはぜひ見て、参考にすべきだ。

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プロモーションの重要性!

さて、こういう機会を活かすもう一つのポイントは、やはり作品を広く知ってもらう為と今後の活動に対するバリューとして使う事だろう。「作品を身内だけではなく、もっと多くの人に観てもらいたい」といった悩みを持っている人は私だけではないだろう。それにこういうバリューを使う事は決して晴れがましい下品な行為だとは思わない。考えてもみてほしい。お客さんの立場に立ってみても、名前も知らない人が作ったり出演したりしてる数多くの映画の中から何かを選ぶ時に、少なくとも国際映画祭で多くの人が気に入った作品だという道標がある事は、例えマイナーな映画祭であっても何もないよりは期待できる。特に自分が住んでいる以外のエリアで上映する時には、もうそれだけが頼りと言ってもいいし、上映館もそれを望んでいる。

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また、マスコミもテレビのニュースやメジャーな新聞だけではない。もっと身近なニュースを探しているメディアはいくらでもある。まずはそういう人たちに知らせる事がとても重要なのだ。私も今月の14日にシステムファイブさんの協力を得て、やっと受賞報告上映会というのをマスコミと上映館の作品担当者や配給会社の方々、プロデューサー等を招待してやらせてもらう事ができた。ニュースとしては二ヶ月経った今では遅すぎるくらいだが、今後の活動の為にもやはりこういう機会はできるだけ早く設けておくべきだろう。帰国した空港にマスコミが待っていてくれるような有名人とは訳が違う。そういう機会も自分で作っていかなくては自分の為にも人の為にもならない。心配しなくても必要のないニュースだと感じた人は勝手にスルーしてくれる。胸をはって自分からどんどん知らせるべきなのだ。実際私もかなり抵抗はあったのだが、思い切って報告してみると喜んでくれる人はたくさんいたし、それをきっかけに何かを始めようとしてくれる人もいた。有能なマネージャーやプロデューサーが代わりにやってくれるのであれば問題ないが、そうでなければ自分でやらなくてはいけない。皆さんももし国際映画祭に入選したり受賞したりした時には、ただのお祭りで終わらせる事なく、その作品の為にも、またその後の活動の為にも、大いに「活かして」ほしいし、その準備をしておいてほしい。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。