映像作品のアウトプットに関して考えてみたい。つまりいつ、誰が、どこで見ているのかということだ。映画に関しては古くはまず封切り館でデビューし、ロードショーが終わった時点でマイナー館等で上映され、それから暫く間を置いてDVDで発売され、更に時間を置いてテレビで放映されるという道があった。ただこのサイクルがどんどん短くなっているのはお気づきだと思う。更に配信等による供給、PCや携帯端末といった視聴環境も加わり、正直、何を基本に考えていいのか分からない状態になっている。映画館や他の上映施設の状況は回を改めて考える事にして、今回は視聴者に直接届ける為のメディアについて考えてみようと思う。

最高品質を届ける

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前回、音楽業界でCDが売れなくなった理由について書いたが、何もDVDを売っていこうという意味では決してない。そんな事にとらわれていると結局音楽業界と同じ事になるのは目に見えている。第一、DVDというSD画像を記録した物が未だに映像作品のメインの商品だというのはどうした事なのだろう?地デジ化によって、全国のほぼ全ての家庭がハイビジョンテレビを買ったという、またとないビジネスチャンスを映像業界は棒にふったのだ。Blu-rayという唯一のハイビジョンメディアをあの時一気にスタンダード化できなかったのはハードメーカーとソフトメーカーの協調性の無さと怠慢と言わざるを得ない。今ではすっかりハイビジョンに慣れてしまった視聴者に対してレンタルでも販売でもDVDでSD映像を見せるという恥ずべき事をしてしまっている。最近になって発売されるメジャータイトルではBlu-rayも同時に発売されるようになったものの、その違いをユーザーに知らせようとする努力がされているとは思えない。故に本当に少しずつしかBlu-rayの普及は広がってないし、そもそもPCや携帯端末にはほぼ無縁なディスクというメディアが必要ないのではないかという傾向にもなっている。それは恐らく止められない正当な方向だと考えるべきだろう。つまりこのままだとディスクというメディアはレンタルからも消えて無くなる運命だという事だ。

これは音楽業界が辿った道と酷似している。CDの音質を44.1kHzで止め、データ配信の為にダウングレードまで行ったという事は時代の流れだと言えないこともないが、少なくとも最高の物を供給する事を諦めてしまったという点では今の映像業界にも同じ事が言える。すっかり存在感が薄くなってしまったディスクを、それでも買おうという人がいるとしたなら、それは特別にその作品を愛してくれるマニアでしかあり得ない。その思いに最高品質の物を届けようとしないのはどう考えてもおかしい。第一、マニアがそれで納得するはずない。と、思いたいのだが、視聴者がそれに慣れ、そんなもんだと思って冷めてしまうのが一番怖い。ならば携帯で充分だと思われてしまっても仕方がない。「まさか!」と思ってしまう人もいるかもしれないが、現に音楽ファンの状況はそうなっている。逆に考えると、今、”あなたが好きなその作品、ディスクを買えばもちろんハイビジョンで音質も96(または192)kHzの最高音質で自宅で好きな時間に好きなスタイルで楽しめます!”と言えば、マニアもついてきてくれるだろうし、それを機会にテレビやプレーヤーをグレードアップさせる事も考えてくれるかもしれない。

さらに前回お話したパッケージにファンの気持ちをくすぐる美術的要素を盛り込んでいけば、買わないはずがない。今後のディスクメディアという物はそういった存在価値であるべきだし、利便性はデータ配信に任せておけばいい。そちらはすでに稼働し始めているし、コストやフォーマット、制作者へのロイヤリティー等の問題が片付けば、インディームービーやマニアックなコンテンツも配信可能になるだろう。何より大切なのはファンの熱を冷まさない努力だという事だ。その熱を一旦冷ましてしまっては、4K、8Kといった更なる高画質も空振りに終わってしまうだろう。

今もう一度考えるBlu-rayの可能性

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これは簡単な事ではない。まずは作品だ。ここで元素となっているマニアという物を作るのは、優れた作品でしかあり得ない。どうしても高品質で見たいと思わせる作品とは、いったいどういう物なのだろう。例えばアダルトビデオではその欲求がはっきりしているし、現に意外とBlu-rayでの出版も比較的盛んだ。一般作でもそれは同じ事で、マニアの欲求をかき立てる映像美と音、これが絶対条件だ。このターニングポイントで映像クリエイターや音楽家が無策で良い筈がない。今まで通りの作品作りでディスクを単なる記録、販売メディアとしか捉えていないクリエイターが多すぎると思う。ひょっとすると一つの作品がBlu-rayプレーヤーを一気に普及させるきっかけになる可能性もある。そんな時には強気のBlu-ray限定版をぜひ作ってほしい物だ。だが大きな問題もある。それはBlu-rayで出版する為の初期費用の高さだ。

実は3年も前に書いた別のコラムで指摘している点だが、なんと今もってその問題は変わらず残っている。しかも単価は下がってきて¥1,500くらいから。少なくともDVDと同じようにBlu-rayがマスターになるようなシステムに変わらないと、そうとうメジャーなタイトルでないと出版できない。いつまでたってもこんな状態だからBlu-rayは普及しないし、インディームービーの世界も盛り上がらない。我々はもうとっくにフルハイビジョンでマスターを作っているというのに、なんとも歯がゆい限りだ。どうせマニアにしか売れないなら、魅力的なパッケージを作って、ディスクはコピーで作るというのは案外現実的な方法かもしれない。

もう一つ忘れてはいけないポイントがある。それは前にも書いたが各家庭に高画質テレビがあるという事だ。そしてそれは音もそこそこ良い物が多い。それと共にコンポーネントステレオが家庭から消えているというのもポイントだ。つまりテレビ前という場所が美しい音を楽しむ場所としても最適だという事だ。だからこそ映像作品の音質というのが大変重要にもなってくるのだが、私はもう一度音楽作品をBlu-rayで出版していくという事も考えていいのではないかと思っている。最悪、映像の入ってないハイサンプリングレートの音楽Blu-rayでもかまわない。それこそジャケットの美術と同様の付加価値として何か映像が流れてもいいと思う。それを流すか流さないかはユーザー次第で、基本は音楽を聴く為のディスクとして最高品質の物を届けるという事だ。そうなると今のテレビ環境にアドオンする形のアンプやスピーカーがほしくなるユーザーも出てくるはずだし、ハードメーカーにはデジタル(HDMI)入力、192kHz D/Aコンバーターの付いた手頃なアンプを発売してほしい物だ。さて、ここまで言ってしまったら一つくらいそういう作品を作らなきゃな。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。