映画制作は、ハイリスク・ローリターン

夏から4ヶ月に渡って撮影監督・カメラマンとして携わっていた映画「さかなかみ」がクランクアップした。この映画は建築や都市計画までを手がけるプロデューサー、またフライフィッシングの第一人者としても有名な浜野安宏氏が作・監督・主演までをこなし、ご自身の北海道の自然に対する愛情と問題意識を世に問おうと、自ら1000万円以上の自己資金で制作されている物だ。

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映画「さかなかみ」より

こう書くと「なんだ、プライベートムービーか」などと馬鹿にしたような事を言う人もいるだろう。確かにこんな高額なポケットマネーを映画の為に出せる人はそうそういないし、ともすれば怪しい企業の社長の道楽や、宗教団体の物と一緒にされてしまうかもしれない。しかも映画を作るのは初めてという浜野氏なのでそういう誤解も受ける事があるだろう。北海道を旅しながら撮影をするという長編作にしては1000万円という金額は充分とは言えないが、そこは私の得意の小さなチームで映画を作るという経験を活かし、私を含め、4人のスタッフにもちゃんと報酬が支払われ、無事ロケを終える事ができた。

これから編集に入るが、完成後はこれまた浜野氏が上映イベントを自ら企画し、北海道の自然を守る基金の設立へ繋げるというから驚きだ。とんでもない規模の自主制作映画だと言える。もちろん浜野氏は本業の方で成功を収めたお金持ちだ。彼のやり方を手本にする事はできないが、これを機会に今回は映画の資金について考えてみようと思う。

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映画に出資するという言葉をよく聞く。出資という言葉はやはり経済活動として使われる事が多く、当然出資した方もしてもらった方も経済的利益を強く意識し、責任も生まれる。その結果、作品のテーマは、より大衆に受け入れられやすい物を選び、動員が見込める出演者を起用するという流れは、文化的、芸術的価値よりも優先される事が多々ある。

私は経済人ではないが、出資という観点に立てば映画なんてハイリスク・ローリターンである事くらいは容易に想像できる。それがアメリカのように映画が産業として成り立っている所であればいいのだが、日本ではそうはいかないし、ましてやテレビ局も絡まない小さなプロジェクトとなると経済的利益なんて期待する方がバカバカしい。アメリカの映画は世界の映画、日本の映画は日本の映画でしかない。一部のアニメ映画等は世界でも興行的成功を収めてはいるが、基本的には残念ながらそういう状態だ。

だが、日本ではこのアメリカ式をそっくり真似てしまっているように思う。それはマーケットの規模を無視した事だと言わざるを得ない。そして苦しい制作環境が生まれてしまい、文化、芸術意識は二の次になってしまうのだ。これまでこのコラムでお伝えして来たように、その馬鹿げた経済感覚は小さな映画館にまで浸透し、逆に動員さえできれば何でもいいという風潮すら感じてしまう。映画という商品、映画という文化。これは一度分けて考える必要があるのではないだろうか。

そういう意味ではヨーロッパの感覚はアメリカとはかなり違うように思う。映画なんて所詮芸術だろ?経済とは関係ないよ。なんて言いながらお金をつぎ込む人がいる。それは例えば気に入った絵描きに別荘をアトリエとして使わせ、行ってみればメイドまでいてご飯を作ってくれるなんていう夢のようなお金持ちの道楽としての意識が今も残っているのだ。まぁ、そこまで都合のいい話はそうそうないだろうが、少なくともお金を出す人の経済的利益意識は低い。その代わり、文化、芸術意識は非常に高い。そういった物にお金や力を提供する事が彼らのステイタスに繋がるというのだ。

映画を作る為の私たちの感性や技術、そして彼らのお金や力が必要だ。そう考えると彼らは共同制作者なのだと思う。その仲間意識は利益を重んじる経済人的な出資者には決して感じる事はない。自分が美しいと思う物、正しいと感じる事にお金を投じる。そんな潔さを今回の浜野氏にも感じたし、商品としてではなく、まず映画という物はそういう物だという事が日本ではなかなか通用しない。

外国人は口々に「日本には素晴らしい文化がある」と言う。それは古典的な物だけに限られるのだろうか。いや、彼らが愛する日本映画は黒澤や小津だけではない。今も日本映画には興味を感じてくれている。そんな暢気な事を言っているからヨーロッパはいつまでたってもパッとしないのだという人もいるが、なぜだろう?文化的には彼らはとても豊かだと感じる。

日本は、映画を作るにはとても恵まれた環境

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ショートムービー「艶〜color of love」

今、この時代、日本という国、映画を作るにはとても恵まれた環境にあると言える。経済意識に支配された周りの厳しい環境に文句を言っているよりも、もっとしっかりと映画を文化として成り立たせなければいけないと思う。お金持ちの方々にもはっきり言おう。私たちの仲間になって下さいと。あなたがベンツを買うお金で立派に映画を作ってみせます。だから一緒にやりませんか?見返り?一緒に試写室で美しい物を観ましょう。映画祭に出してドキドキしてみましょう。それだけです。だからそのお金、下さい!

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最後に私事だが、昨年「彩〜aja」で賞を頂いたモナコ国際映画祭にて、今年は私の新しいショートムービー「艶〜color of love」が再び入選を果たした。前回は何の期待もなくお祭り参加の為だけに行って来たのだが、今回は完全に営業目的で行って来ようと思っている。目的は向こうでのエージェントを探す事と、「私が作る日本映画にお金を出してくれませんか?」とヨーロッパのセレブに真剣に頼んでみる事。まぁ、簡単な事ではないだろうけど、映画なんて所詮、夢ですから!

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。