先日の「艶〜Color of love」上映会+セミナーへの多数のご来場、ありがとうございました。映画は観てもらって初めて完成するもの。上映後の皆さんの表情や暖かいお言葉が心に染みました。もとより18分の短編作品は上映する機会がほとんどない物なので今回のイベントは非常にありがたかった。春には2012年の受賞作「彩〜aja」と併せて上映会も企画しているので、是非そちらにも足を運んでいただけたらと思います。

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ソニービジネスソリューション株式会社 後藤俊氏

さて、今回このイベントを企画して下さったソニービジネスソリューション株式会社の後藤俊氏。それだけでも心から感謝しているのだが、それ以上にとんでもないクリーンヒットをかっ飛ばしてくれた。

後藤氏:私としてはふるいちさんのこだわり抜いた画質、弊社のNEX-FS700の高画質を少しでもいい形でお客様に観て頂きたいと考えた上映方法なんですけどね。それにふるいちさんが思いの外食い付いた(笑)。

今回後藤氏が用意して下さった会場は4Kプロジェクターを備えたシアター。だが私の作品はHD(1920x1080p)なので、前回まではBlu-rayによる再生で行っていた。今回も前もってBlu-rayは渡してあったのだが、マスターデータをProRes422(HQ)で持って来てくれというのだ。

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後藤氏:弊社のXDCAM業務用フィールドレコーダー「PMW-50」からデータ再生すれば50Mbps/4:2:2 8bitのクオリティーで観ていただけると考えました。これは一般的Blu-rayディスクが24〜28Mbps/4:2:0 8bitですからかなりの差がでる筈です。

後藤氏が担当しているのは業務用撮影機器であって、上映設備等は言わば専門外。だがご自分が担当していない機材の中から上映クオリティーを格段に向上させる方法をシンプルな発想で見つけ出したのだ。お陰で自分の作品をモナコ国際映画祭の会場(Blu-ray上映)よりも素晴らしい画質で観る事ができ、感動すら覚えた。しかもこのPMW-50、税抜きで480,000円という価格。これなら小さな上映館の設備としても、また、上映会の為にレンタルしても恐らく10,000円以下で借りられるだろう。私が後藤氏の想像以上に食い付いたのはこの点だった。

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このコラムでもプチシネのアウトプットとして、上映館の問題を取り上げてきたが、正直、確立された配給、上映システムの前に行き詰まりを感じ、何か新しいアウトプットを創造するしかないと考えていた。それは更に「もう、ネットしかないか。」という考えに行き着きかけていたが、これはひょっとすると小規模上映館や上映会の活性化に繋がるかもしれないと考えた。

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大きな映画館のようにデジタル化、4K化に数千万円の投資が可能な所はこの際どうでもいい。小さな上映館でやっとHD化を果たせた所でも現実的にはHDVデッキや民生用のBlu-rayデッキでの再生がほとんどだ。それどころか、実際、まだSDプロジェクターでDVDをかけている所もある。上映会には来てほしい。だけどそこで上映されるのはみんなが自宅で見ているBlu-rayというのはどうなのだろう。更にスクリーンが大きくなる分、下手をすると自宅で見るより粗い映像になる可能性すらある。

もちろん上映会に来る目的はそれだけではない。暗い部屋といい音響で集中して作品を観る事も、以前このコラムの中でアップリンクの浅井隆氏が言っていたように、多数の人が同じ時に同じ場所で作品を共有するといった意味もある。だがやっぱり映像作品である以上、自宅では観られない映像美を提供したい、しなければならないと考えるのは当然だと思う。それを可能にするのがこのPMW-50による50Mbps上映だ。

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また、映像出力も業務用のSDIに加え、HDMIも装備されており、最近ぐっと価格が下がってきた民生用HDプロジェクターと組み合わせても、自宅では観られないクオリティーを実現する事ができるはずだ。こうなると100万円はかからない。小さな上映館はもちろん、ひょっとするとそれ以外の所でも新しいスタイルの映画上映が可能になるかもしれない。余談だが、業務器であるため、スクリーン上に「再生」とか「ローディング中」とか余計なメッセージやマークがでないのも嬉しい。

後藤氏:そこまでの発想はなかったですが、確かにその通りですね。部署は違いますが、弊社でも数千万規模での上映システムのソリューションや、ご家庭での視聴機材は提供させてもらっています。しかしこれらに比べて小規模な上映館のデジタル化やHD化に関する提案があまりできていないかもしれません。今回のPMW-50にしても、基本的には常務用撮影機材ですしね(笑)。例えば民生用のHDプロジェクターと組み合わせるにしても、今後特別なご提案が必要かもしれません。

私が知っている限り、小規模上映館やそれ以外の施設がHD上映を可能にしようと考えた時、一千万円以上の予算がなければ、後は家電量販店やネット上で民生品の中から独自で品定めをするという事が多い。この辺りのプレゼンテーションやカウンセリングにはメーカーやプロショップももっと積極的に乗り出してほしいものだ。

50Mbpsのデータ上映で何が変わるのか?そして今後の展望

50Mbpsのハイビットレートと言っても、HD→4K→8Kといった解像度が上がる高画質化とは全く意味が違う。私の作品に限って言えば撮影はAVCHDなので最大28Mbps、4:2:0カラーサンプリング。それをそのままアップコンバートしてもあまり意味がないように思える。

しかし編集段階で加えるもの、特にトランジションやカラーグレーティング、その他のエフェクトがマスターデータでは奇麗に書き出せてもBlu-rayに書き出す為に再圧縮をした段階でクオリティーを損なう事が多い。フェードイン・アウトやクロスディゾルブ等のスムーズさは失われ、時には変なノイズを発生させる事もある。もう一つはグラデーションのスムーズさだ。これもひどい時には粗い縞模様のように見える事がある。今回の上映ではその辺りの改善が素晴らしかった。

後藤氏:ふるいちさんからお預かりしたマスターデータはApple ProRes422(HQ)。これは約220Mbps/4:2:2ですから、まずはこれをMPEG2 50Mbps/4:2:2のMXFファイルに変換しました。やはり元データは高品質になればなるほど良いです。これはVEGASやPremeire等のNLEソフトで行えますので、作品を直接このフォーマットに合わせて書き出すのもいいかもしれません。

次に弊社の「Content Browser」(Content Browserのダウンロードサービスは、XDCAMまたはNXCAM本体所有者対象)というソフトを使用してSxSメディアに書き込みます。というのも、PMW-50のメディアはSxSですので、そこにXDCAM独自のフォルダ構成でデータを書き込む必要があるからです。単純にリーダー・ライター等でコピーするだけでは再生できません。

また、将来性という意味では弊社がPMW-F55、F5の登場に合わせて発表リリースしましたXAVCというフォーマットは、例えばHD29.97pにおいても100Mbps、4:2:2 10bitという品質を持っております。また、上位機種のPMW-1000で対応しているのはLong GOP圧縮で、XAVCフォーマットの中にはIntra圧縮の220Mbps 60pの記録モードもあります。F55/5での記録が可能ですが、再生可能デッキは今の所存在しません。もし今後、これに対応したレコーダーが発売されれば更に高品位な上映に活用できるかもしれません。

しかもそれには新しいディスクやテレビ放映の統一フォーマットを決めるような醜い争いも起こらないだろう。その時点で上映できる最高の品質に変換するか書き出すだけでいい。少なくとも家庭で観られる画質よりは常により上質な映像が提供できる。確かにコピーガード等の問題もつきまとうかもしれないが、プチシネクリエイターと小さな上映館との人間的信頼関係に勝るコピーガードは無いと私は考えるのだが、いかがだろうか?

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。