デジタル一眼レフの動画撮影の大きなメリットの一つが「コンパクトなサイズ」だろう。両手に収まる筐体でシネマライクな映像を捉えることのできる魅力は現場でも評価が高いところだ。私はEOS 5D MarkIIを使用して多くの撮影を行っているのだが、従来のフィルム撮影に比べて、大幅に機材のユニットスケールを抑えることができている。

魅惑のNDフィルター

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簡単にレンズに直接装着できるフォト用のNDフィルター。動画撮影でも大活躍だ

その中で最もDSLR撮影で使いやすさを発揮しているのがNDフィルターだ。従来の映像撮影ではフィルター類をかけるときはマットボックスを使用する必要があったのに対し、デジタル一眼レフの場合はスチルレンズに取り付けるNDフィルターを使用すればよいことになる。価格も高く、大きいマットボックス用の角型フィルターと比較して、安価で高性能な丸型のスチル用NDフィルターは大変使い回しが簡単というのが大きな魅力だ。マットボックスはいかにも「映画撮影」といった見栄えのするものだが、スクリュー式で簡単に取り付けられるフォト用のNDフィルターの使いやすさは抜群だ。

もともとNDフィルターは減光のレベルにあわせてそれぞれの種類を用意しなければならず、割と整理などが面倒なことが多かった。私は撮影の際には何枚かのNDフィルターを用意して、カットに合わせたものをよく使用する。そのうち最もよく使うのが3段減光のND0.9で、例えば絞りが8の際に3段減光で2.8まで絞りを開けることができるので劇的な効果を狙うことができる。

特に動画撮影となるとこのNDの果たす役割は非常に大きい。お昼の強いデイライトの下で適正な露出を得ようとすると、絞りを閉めるかシャッタースピードを速くしなければいけないため、被写界深度が深く、さらには動きがパラパラした動画になってしまう。そのため日中などの明るい場所において浅い被写界深度を狙う際や、遅いシャッタースピードを狙うカットなどではNDフィルターが必要になる。ポスプロでスローや手振れ補正といったフィルターをかけるカット以外では、シャッタースピードは1/30~1/100に収めるようにするのがよく、またDSLRのフィルムライクなボケ足を醸し出すために絞りは2.8~4程度が美しいと言えるだろう。

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NDフィルター付けずに撮影(シャッタースピード1/640)

NDフィルター付けて撮影(シャッタースピード1/30)

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NDフィルター付けずに撮影(絞り10)

NDフィルター付けて撮影(絞り2.8)

可変式NDフィルターは画期的なアイテム

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左からKenko、GENUS、Tiffenの可変式NDフィルター

今回更に使いやすくなったフォト用のNDフィルターを検証してみたい。それが「可変式NDフィルター(Variable NDフィルター)」である。別名Fader NDといわれるように2枚の偏光フィルムを重ねる方式で、減光のレベルをリニアで変えることのできる画期的なアイテムだ。可変域は商品により様々だが、比較をしたのは大手3社の可変式NDフィルターである。使用したのは、KenkoのバリアブルNDX、TiffenのVariable ND Filter、そしてGENUSのND Fader Filterだ。径はどれも77㎜を使用し、レンズに合わせてステップアップリングで72㎜などにダウンサイズさせた。

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77㎜の径であればステップアップリングを使うことで小さい径のレンズに付けられる

この手のアイテムは、

  • 一枚でほとんどのカットをカバーできる(取り替え作業や面倒な計算をせずに済む)
  • リニアなので、細かく露出を調整できる

という2つの魅力が挙げられる。とにかく「超便利」「超お手軽」な特徴を兼ね備えている。3社だけでなく数多くのメーカーから発売になっており、値段は1万5千円~3万円程度が主流であろう。ちなみにGENUSのフィルターは1万円台で購入できるため、コストパフォーマンスはかなり高い。

気になるのは色シフトと減光幅

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カラーチャートを使って、色シフトと減光幅を検証

とはいうものの、やはりその性能は気になるところだ。特にNDフィルターの与えられた使命である「純粋減光」をどこまで実現するのかという点はきちんと調べておきたい。2枚のフィルターの角度を変えることで減光のレベルを調整する仕組みは、まさにPLフィルターと同じ原理なため、色のシフトが避けられない。つまり、どれだけPL効果が起きないように設計されているかが大切なファクターだ。また、仕様上では可変式も2~9段の減光範囲を持っているようで、その性能を調べてみた。

カラーチャートを被写体に、3種類の可変式NDフィルターで実際に動画を撮影し、色のシフト具合と実質的な減光範囲を検証した。ISOは640、絞りは2.8で固定にし、シャッタースピードを変えることで計測。どのフィルターも一番薄い状態から一番濃い状態までレンズを回す仕組みなのだが、それぞれ特有の目盛りが側面に記しており、その目盛りの最大(濃い)と最小(薄い)の2か所で色味と段数を計った。ちなみに目盛り範囲外での使用は色むらや極端な色シフトが起きるため、目盛りの範囲内での撮影を心がける必要がある。

自分のスタイルにあったものを選ぼう

撮影は曇りの日中に行い、NDフィルターを装着しなかった場合の適正露出におけるSSは1/4000であった。 結果は以下の通りである。

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更に色シフトだが、写真の1-Gの位置にあるオレンジ色のRGBバランスをPhotoshopで計ってみた。 結果は以下の通りである。

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NDフィルターなしの動画切り抜き
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Kenkoフィルター
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最大時SS1/160

最小時SS1/1600

Tiffenフィルター
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最大時SS1/30

最小時SS1/1600

GENUSフィルター
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最大時SS1/50

最小時SS1/1600

結果を検証すると、下記のことが分かった。減光幅が一番広いのはTiffen。色ずれが一番ないのがKenko。GENUSとTiffenは若干青色が被る傾向にある。

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最大時の濃さ Kenko / GENUS / Tiffen

ちなみに色シフトがほとんど起きないKenkoのフィルターは目盛りの最大値よりもう少し濃くすることができそうな幅をもっており、まだ減光幅を広げられるようだ。細かい仕様に関してはみなさんも試していただきたい。ただ、3枚のどのフィルターも非常に使いやすく、かなりお勧めであると実感した。

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GENUSにはつまみを装着できる

とにかく明るい場所でNDが必要になれば、何も考えずにまず可変式NDを装着すれば良い。感覚的に理想の絞り値とシャッタースピードの値を実現することが簡単にできるのだ。1/3段ずつしか調整できない絞りやシャッタースピードに対して、リニアに減光幅を動かせるNDフィルターがあれば、最終的な微調整を行い、本当に適正な露出を得ることができるというのが最大の特徴であるといえる。従来のNDフィルターであれば減光値が固定だったために、細かい調整をすることもできないだけでなく、付け替えの作業も非常に面倒であった。そういった面を考慮しても可変式NDフィルターは有効的で効果的に使用することができるだろう。是非とも撮影時には、カメラバックのポケットに一枚忍ばせて起きたいアイテムである。

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。