今年の4月、ラスベガスで行われたNAB ShowでBlackmagic Designが世界を驚かせたのがBlackmagic Cinema Camera(BMCC)だ。30万円を切る価格で、フォーサーズのセンサーを備えたBMCCは、なんと2.5Kの解像度で12bitRAWの映像を収録することができる。さらにProRes422HQコーデックをフォーマットとして選ぶことも可能で、世界初のProResカメラとしてデビューすることとなった。またインターフェースにはThunderboltも搭載し、汎用の2.5インチSSDを収録メディアに採用。まさに次世代の形ともいえるこのカメラは、斬新なデザインも追い風となって大きな注目を集めている。

またカメラマウントにEFマウントを採用し、多くのユーザーの獲得が期待されるだろう。デジタルシネマの世界で安定した評価があるCanonのレンズ群をそのまま使えることは、アウトプットの品質をしっかりと担保できる一方で、間違いなくEOD 5D MarkⅡユーザー層を狙ったカメラになりえる。DSLRによる動画撮影が大きな流れを生んだ昨今のカメラ業界において、「美味しいところ満載」の一台という印象だ。

Blackmagic Cinema Cameraがやってきた!

いよいよ発売になったBlackmagic Cinema Camera。周辺機器をそろえる必要があるがそのクオリティはかなり高い

いよいよ9月発売ということで、今回デモ機をお借りして早速撮影をする運びとなった。実機を手にしてみると、意外とずっしりくる筐体に驚いた。カメラ本体を支えるハンドルがなく、別売りの純正のハンドルや、リグを使った撮影が基本となるだろう。残念な点としてあげるならば、バッテリーが「内蔵式」のため撮影中の交換ができない。

今回はVマウントバッテリーをつないで撮影を行った。電源が一番の弱点といえる

実質的には1時間程度しか電池が持たないため、外部電源からの供給が基本となりVマウントやアントンバウワーなどのバッテリーからの給電のシステムを組む必要がある。今回はテクニカルファームさんがC300用に制作したリグを使って、Vマウントから電源を供給するシステムを組んだ。また本体のSDI出力を外部モニターに接続。本体では表示できないウェーブフォームの表示を行うことで、適正露出の確認を可能にした。

今のファームではヒストグラムやウェーブフォームが見られないため、適正露出を確保するために外部モニターは必須だ

現在のファームウエアではヒストグラムやウェーブフォームといった情報を表示させることができないため、撮影の際はこういった外部モニターも必須となるだろう。レンズの絞りの値も表示されないなど、まだソフトの面でも改善点が多く今後のファームウエアでのアップデートに期待したいところだ。

リグを使えば、肩載せも楽だ。安定した撮影が行える

確かにまだ多くの周辺機器と併せて撮影する必要があるものの、カメラが捉える映像は素晴らしいというのが率直な感想だ。公称の13ストップあるダイナミクスレンジは、予想以上の描写力を持っている。BMCCでは前述のとおり、2種類の方法でSSDに記録することが可能で、一つはAdobeのCinemaDNG連番ファイルによる12bitRAWで、もう一つはフルHD解像度のProRes422 HQコーデックである(以降DNxHDのフォーマットにも対応を予定)。RAWは2400×1350ピクセルの2.5K解像度を持ち、ビットレートはおおよそ1Gbpsもの大容量データ量を有している。

Blackmagic Cinema Cameraの真価を探る!

このカメラが捉える映像の力は未知数だ。この価格でここまでが撮影できるとなると、多くの可能性を映像業界にもたらすだろう

またRAWによる記録ではすべてBMD FILMによるLOG撮影となり、ProRes収録に限ってBMD FILMとビデオガンマによる記録を選ぶことが可能だ。今回はBMD FILMによるRAWとProRes撮影、ProResのビデオガンマによる撮影の3種類を織り交ぜて行った。撮影ではマウントキュー株式会社の山本さん、株式会社デジタルエッグの大田さん、そして株式会社インターセプターの田巻さんのご協力をいただいた。

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DaVinci Resolveでヒストグラムをみると、BMD Filmではまだハイライトに余裕がある。驚きのダイナミクスレンジだ

まず13ストップというダイナミクスレンジを見て頂きたい。13ストップといえばREDなどのハイエンドデジタルシネマカメラと同等の表現力で、暗部からハイライトまでかなりの明るさの幅を捉えることができるといっていい。今回はノーライトの状況で、厳しい状況を選んで撮影した。比較をするために暗部とハイライトが共存する場所で、EOS 5D MarkⅡと併撮も行った。5DはCineStyleとスタンダードの2種類のピクチャースタイルを使用。以下4つのファイルの切り抜きをご覧頂きたい。ちなみに2.5KあるRAWの切り抜きは80%のリサイズと、若干の現像作業を行っている。

DG06_05_RAWDNG.jpg DG06_05_5DCineStyle.jpg DG06_05_QT_Film.jpg DG06_05_5DStd.jpg

BMD FILM RAW(左上) BMD ProRes(左下)、5DCineStyle(右上)、5Dスタンダード(右下)

4枚の画を見ていただければ、一目瞭然でBMCCの映像表現力の高さを分かって頂けると思う。5D MarkⅡの画像には偽色やディテールのつぶれ、ジャギーなどの破たんが生じているのに対して、BMCCの映像は階調豊かなきめ細かい表現力を持っていることが分かる。更に、もちろん細かい色補正は行ってはいないが、HDのProResファイルはRAWにも劣らない解像感である。ジャギーや偽色もなく、一見REDの素材のようであり、現場の関係者も「すごいなー」という声を上げていた。もちろん5Dも素晴らしいカメラではあるが、BMCCはシネマカメラを名乗るにふさわしい力を持っているというのが感想だ。

DG06_06_ProResVideo.jpg DG06_06_ProPesFilm.jpg Videoガンマ(上) Filmガンマ(下)
ProResによるVideoとFilmガンマの比較。一番効率的な撮影はProResのFilmかもしれない

またカメラのビデオガンマとFilmガンマの比較も行ったので見て頂きたい。わかりやすくするためにProResで比較撮影をした。これも見てすぐ分かって頂けるが、BMD Filmを使って撮影をすると相当な情報を確保することができる。一方でビデオガンマにしてしまうとやはり白とびや黒潰れを招きかねない。私見では、ProRes422のFilmで撮影するのが、ファイルサイズのことも踏まえて非常に効率的で簡単な編集フローへの近道であると考える。ちなみにProResはWindowsの環境でも再生・編集は可能であることを付記しておく。

もちろんハイエンドの収録はRAWで行うことになる。ただし現状としてCinemaDNGを扱うにはカメラに同梱されているDavinci Resolveが必要だ。カメラのコンセプトもさることながら、編集のワークフローもBMDには大きな強みがある。それがDaVinci Resolveという最高峰の色編集ツールだ。BMCCの開発意図の一つに「DaVinci Resolveが編集できる最高の画質をもつカメラ」というのがあったそうだ。このカメラで撮影しておけば、DaVinci Resolveのポテンシャルを充分に発揮させることができるといえる。つまりはBMCCで撮影したカメラは、大きな理由がない限りDaVinci Resolveを使って編集することになる。そういった意味も込めて、カメラを購入すると8万円もするDavVinci Resolveが同梱されているのだろう。またBMCCの発売にあわせてか、いよいよDavinci Resolve 9のリリース版が公開になり、Blackmagicの新しい映像制作の世界が一気に広がることとなった。

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DaVinci ResolveはVer.9になって飛躍的な進化を遂げた。BMCCとの組み合わせは最強の画質への近道だろう。読み込みも一発でネイティブ編集が可能だ。12bitのカラコレを是非堪能してほしい

DaVinci Resolveへのファイル読み込みは非常に簡単だ。Libraryから撮影フォルダーを選択すればすぐにサムネイルが表示される。あとはMedia Poolに入れれば終了だ。バージョンが9になってDaVinci Resolveの使用感は一気に上がり、とても使いやすく、わかりやすくなった。

CinemaDNGの連番ファイルは非常に重いものではあるが、編集時はサクサクと動いてくれるので少々驚いた。12bitRAW・2.5k、そして13ストップという最高峰の映像を捉えることのできるこのカメラとDaVinciの組み合わせは、おそらく最高のクオリティの色を形にしてくれることだろう。DaVinciの使い方に関してはここでは割愛するが、是非ともBlackmagicが提供する次世代の映像環境を体験してほしい。

この価格でこのクオリティを実現するこの武器をどう使うか?

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Premiere ProやAfter Effectsでの編集も可能だ。EDLを介してDaVinciとのやり取りで問題はない

またPremiere ProなどのNLEで編集を行う場合は、DaVinciからオフライン用の書き出しを行うのがいいだろう。NLEで編集を行った後に、EDLを介してDaVinciに戻る方法が今のところおすすめだ。DaVinciで更に色の編集を行った後に、再度連番などのファイルに書き出して(2.5Kの解像度を維持したい場合はやはり連番が一番扱いやすい)、それをAfter Effectsなどのコンポジットツールへ流し込むのがクオリティを落とすことなく、快適に編集を行う近道である。

正直なところ、編集をしながら映像を見ていると、その質感はALEXAやREDに似ていると思った。この価格でここまでのクオリティを手にできるとなるとこれからの映像制作の幅が大きくかわるだろう。しかもProResによる内部収録は多くのクリエーターやカメラマンを引き付ける魅力となる。今流行りのLOGをProResで手に入れることができて、ここまでの質感を得られるBMCCのこれからが非常に楽しみだ。

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。