6月2日、奥秀太郎監督の最新作『USB』(渋谷シネマライズほか)公開記念として開催されたイベントと、DVJ BUZZ TVがコラボレートした第3回目のテーマはRED ONE カメラ。奥監督も2台購入したというRED ONEカメラは、すでに国内でもユーザーが増え続けているが、その制作フローはいまだ様々なところで論議を醸し出している。デジタルシネマ革命ともいうべき映像業界の”黒船”、REDの最新事情を伝えるとともに、ユーザーの視点から見えたてきた今後のファイルフォーマット/4Kカメラの行方を占ってみたい。

REDユーザー・ファンとしての核心トークショー

REDが日本国内でも使われ始めてからおよそ1年。映画やCM関係者を中心に、特にこれまでフィルムベースの制作者達の間では、今後の日本映画のデジタルシネマ化にも手頃なRED ONE カメラの人気はうなぎのぼりのようだが、その一方で従来のビデオプロダクションとは異なる制作ワークフローが必要になり、問題も多々発生している事実がある。さてそんな人気を受けてのREDのまつわることを取り上げDVJ BUZZ TVの開催となった。

今回はゲストスピーカーとして、REDユーザーのためのサイト”レッドユーザーJP”のボードメンバーでもある、倉田良太氏にもご参加頂いた。映画『USB』は撮影時期の関係でREDでは本編では使用されていないが、その後の宣材画像撮影や後処理のフォーマット変換などで使われたという。

今回のトークショー自体は、肝心の『USB』の話題はそっちのけ(!)で、最初からお二人のコアなRED 談義で盛り上がった。共にREDONEを所有するユーザーだからこその、細かいイクイップメントから、特注した周辺機材、また互いの制作環境等の話題など、まさにREDに関する公開FAQ的な内容となった。特にレンズに関しては、ともに高価な映画用プライムレンズではなく、35mmスチルカメラレンズを基本として撮影していることから、ニコンマウントの奥監督とフィルムレンズが基本の倉田良太氏との間で、専門的なRED対応レンズ談義に話は盛り上がった。

 しかし来場者の方で、何人がこの話について行けたのだろうか?これはREDユーザーだからこそ解ることがほとんどだ。つまりRED ONEというカメラは、所有して、もしくは使いこなして初めて解るというカメラでもあるのだ。撮影そのものはムービーのカメラマンならば、すぐにでも使えるのだろうが、REDは撮影の場だけでは完結しない、その後の制作フローにもITベースの知識が必要となる、別次元のカメラであることが、これまでと大きく違うところだ。僭越ながら今回のお二人を評価できる点として、REDの撮影だけではなく、RAWデータの現像からカラーコレクション、カラーグレーディングのポストプロダクションまで、REDでの制作に必要なフローをちゃんと理解した上で自分なりに研究し、それぞれの立場で仕事をしていることだろう。作品のインディペンデント化が進むにつれて、これまでの国内における映像の『プロ機材』という概念が、レンタルから所有する機材へと変化があるかもしれない。

ところで、こうしたRED周辺の盛り上がりを、以前のアップル社のマッキントッシュを取り巻くMacファン的な雰囲気と掛け合わせて見ているのは私だけであろうか?すでにREDが撮影以外のところで影響を与えているのは明らかだ。奥監督によれば『USB』にも出演し、最近は映画監督もされている女優の桃井かおりさんも、このREDに興味を示されているというお話は、機能が被写体側へ及ぼす影響という意味でも興味深いエピソードだ。

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▲左から倉田良太氏、奥秀太郎監督、筆者

新たな方向性も見えて来た4Kカメラの魅力

REDが指し示す可能性、そしてデジタルシネマカメラは今後、どこへ向かって行くのか?今回、倉田氏が自身の撮影作品『Quarter』の中から、その数カットを静止画として引き伸ばし、A1サイズのパネルにして持ち込んだのだが、まさにこれこそが一つの方向性を示していたように思う。これは動画カメラから切り出した画像がポスターサイズにまで引き伸ばしができるということで、4Kカメラが静止画カメラとしても活用できる道筋が見えている。逆の発想としてキヤノン5D markⅡがあるわけだが、こうしたスチルとムービーのミックスフローは、新たな可能性を指し示すものだ。スチルとムービーが同じカメラから切り出されることは、ある意味で画期的であり、相互のカメラ間がまた一歩近づいた証拠だとも言える。さらにこの考え方を進めて行けば、ポストプロダクションは今後フォトラボ機能も、視野に入れていく必要性が出て来るのかもしれない。こうした流れは、実際には次世代RED機材として既に発表されている、SCARETやEPICというモデルが出て来ると本格的な動きになると思われる。

  一夜にして…ということは無いだろうが、これまで動画と静止画の制作フォーマットの間にあった見えない垣根が、まさに『ベルリンの壁』のように崩れ落ちる日が来るのかもしれない。

PRONEWSでも今月の特集は「RED」(*17日予定)ということらしいが、DVJ BUZZ TVでも、REDを含む今後のデジタルシネマカメラの可能性とその方向性を探るため、これからもこの話題は数多く取り上げていきたい。

DVJ BUZZ TV 次回#4の開催は、7月7日(火)アップルストア銀座にて。次回はミュージックビデオ系著名監督を迎えてのトークセッションを予定。

http://dvjbuzz.tv

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。