2003年夏に公開され日本実写映画興行収入記録を打ち立てた、「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」から丸7年。ファン待望の同シリーズの映画化第三弾「踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!」(OD3)がいよいよ7月3日から全国東宝系で公開される。

実はこの「踊る」シリーズ作品と製作チームとは、私も個人的に関わりがあり、また、基本的にはアクションコメディ作品ではあるが、前作が日本のメジャー映画作品のデジタルシネマ化において、様々な技術実験の場になっていることもあって、私自身がデジタルシネマ分野に深く関わるきっかけとなった作品でもある。もちろん、それまでにも「リリィ・シュシュのすべて」「スパイゾルゲ」「ピンポン」「模倣犯」「突入せよ!あさま山荘事件」など、デジタルで撮影された作品はある。しかし、全編シネアルタでの撮影、ノンリニア(Avid)での全編編集、そしてキネコではなく初のフィルムレコーディングで、しかも1:2.37のシネスコサイズという点では邦画初の大作でもあった。

この6月中旬に、新作OD3を完成させたばかりの本広克行監督やスタッフへのインタビューで、久しぶりに「踊る」の話題で華を咲かせたこともあり、今回は「踊るシリーズ」の最新作公開記念ということで、日本のデジタルシネマのここまで進化と自分の本作への関わりを紹介したい。

次の一手を考える。本広監督自らNABへ

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私が本広克行監督と最初にお会いしたのは、2002年4月の米ラスベガスで行われたNABショーである。そもそも映画監督自らが放送機器展に出向いて、撮影・編集機材を見るというのは何とも妙だ。普通、演出家というのは技術的なことはカメラマンなどの制作スタッフにお任せで、自分の演出の思い通りの画を創ってくれれば良いという監督がほとんどだと思う。本広監督は自身も非常に機械=メカ好きであり、その指向性もあってNABへ来られたようだが、実はもう一つの目的があった。

当時すでに「踊る大捜査線THE MOVIE2(OD2)」の制作は決まっていたのだが、大ヒットした1作目を受けての2作目というプレッシャーもあり、なかなかモチベーションが保てなかったようだ。新作では何か映画の中で新しい技術を使うことで、スタッフ的にも新たなモチベーションを得たいというのが目的でもあった。

私自身は、当時NABブースツアーの案内人を引き受けたものの、映画=まだまだフィルムという時代でもあり、NABに来たところで、本編はフィルムで撮るわけだし、まあ作品には直接関係ないだろう、くらいにしか考えていなかった。NABショーは、いつもサプライズが待っているエキジビションであることは、私自身もよく書いている。

この前年にはジョージ・ルーカス本人が、なんとソニーのプレスカンファレンスに登場し「スターウォーズ・エピソード2」をフルデジタルで撮影したことを発表した、まさにデジタルシネマ元年だった。そしてこの2002年のサプライズは、その「スターウォーズ・エピソード2」公開直前のまさに音もまだ付いていない「デジタルシネマ」の蔵出し生映像を、監督や主要スタッフと観る機会を得たのだ。しかもF900とフィルムを同アングルで撮影して、解像度比較させた実験映像などもルーカスフィルムが制作。その映像も会場で流された。

後で聞いた話だが、これには監督自身もかなり興奮されたそうで、結局それをきっかけに、帰国後『踊る』の撮影チームは、OD2をF900で撮影することになったようだ。

必ず見直しを!新機材にも挑戦していく制作チーム

その後も技術的チャレンジを続けた本広組の制作チームは、OD2ではデジタルシネマ化+移動編集車、「サマータイムマシンブルース」では収録データの伝送編集、「交渉人 真下正義」では、3台のF900×オリジナル撮影ユニット制作…などなど、毎回様々な技術的チャレンジをしてきた。そういえば「サマータイム~」ではキヤノンのDSLR(デジタル一眼レフ:確かEOS 1Ds markⅡ)を使って、コマ撮り映像までしていた。その時、「この画質で秒間24コマのモータードライブが付いていればね…」なんて話をしていたが、いまやEOS5D markⅡで動画が取れる時代になり…。

もちろん今回のOD3では、ソニーF35での撮影のほか、スロー撮影では、2Kで秒間1500fps /HD-SDI 4:4:4で撮影可能な、P+S Technik社のWeisscam(ヴァイスカム)を使用している。また、Avid Media Composerの編集ユニットを全ロケ現場に持ち込み、その場で現場編集するなど、更なるチャレンジに挑んでいる。

日本映画界もこの7、8年で、デジタルシネマ化への急速な進化を遂げた。低バジェット&短時間という仕様にもフィットして、その急速な浸透率には驚かされる。さてデジタルでテクノロジーが世界的に均一化された後、今後の仮題は、すでに市場の限界が見え始めた国内の映画市場から海外に出て行ける作品を生み出せるだと思うのだが、こうした技術面に加えて世界に通用するスキル(演出、撮影、センス、そして配給まで)をどう養っていくかが課題だと考える。日本人の得意な勤勉さに加えて、世界と戦える強かさをどう持てるか?そこから次の世代のクリエイションが始まるのではないだろうか?

踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!オフィシャルサイト http://www.odoru.com/cinema/

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。