©2010「SPACE BATTLESHIP ヤマト」制作委員会

「SPACE BATTLESHIP ヤマト」を支える脅威のVFXを体感せよ!

昨今、メジャー大作映画の作品性や質の低下が問われているが、映画産業にとって年に何度か上映されるこうしたブロックバスター作品は、実は業界でも重要な役割を果たしている。こうした作品は時として劇内で協賛スポンサーのコマーシャリズムに過剰に走っていたり、スポンサードするTV局の宣伝でイメージが歪んだり、有名俳優の誇張などで、作品に懐疑的になり、結果、興ざめで質も低くみられるという問題も多いのは事実。

しかし、こうした作品にしかできない部分として、例えばこれをきっかけに普段は映画館で映画を観ない人がまた映画館に足を運んだりするし、こうした大作に関わることで製作スタッフやキャストも名声を得たり、仕事が増えたりする。興行収入が見込めない新人監督や単館上映作品は、こうした作品へのスタッフ、キャストの関わりをきっかけに他の作品への興味につながったりすることは多い。映画産業そのものを根幹から支えているのは、やはり大作だったり有名作品だったりするのである。

©2010「SPACE BATTLESHIP ヤマト」制作委員会

今年公開された邦画におけるブロックバスター作品の中でも重要な位置を占めると思われるのが、12月1日に公開された「SPACE BATTLESHIP ヤマト」。1974年に放映されたTVアニメ「宇宙戦艦ヤマト」が原作であり、その後の映画作品で日本中に大ブームを巻き起こした。初回のTVアニメ放映から36年の時を経て、ついに実写映画化された。これこそが、40代のお父さん世代はリアルタイムを経験している視点から回顧的な感覚で楽しめ、その子供たち(特に男子)は夢と勇気と希望をくれるSF作品として楽しめる、木村君目当ての女子観客はもちろんのこと、まさに男女世代を超えて楽しめる娯楽作品だ。そして現役の制作スタッフである20〜30代の世代は、この作品で観られるハリウッドにも肉薄する日本のVFXレベルの高さに驚かされるだろう。

「SPACE BATTLESHIP ヤマト」は、あの「ALWAYS 三丁目の夕日」2作や、「K-20 怪人二十面相・伝」「BALLAD 名もなき恋のうた」の山崎 貴監督、主演はSMAPの木村拓哉。そして全編のVFXを担当したのは白組のVFX&CGチームだ。

この作品をこのチームが手がけた、という意味は大きい。彼らはこれまでの作品で、ブロックバスター作品の作り方を充分に経験してきている。万人が興味を持てる作品の、各々の臨界点を知っているからだ。こうした作品を作るにはやはり経験値が最も大きな役割を果たす。この実写版ヤマトでもどこまでを忠実に再現し、どこまでを脚色するか?何を省いて良いのか、悪いのかなど、2時間強という作品時間の制限の中で、この妥協点を見極めつつ、クオリティを維持するのは非常に難しい作業。だが、本作はそれを上手くやってのけた秀作だった。

撮影期間に約3ヶ月、VFX制作期間に約8ヶ月を費やして制作されたこのSF大作のVFX/CG部分を担当した、株式会社 白組のVFXディレクター 渋谷紀世子氏と、ディレクター/シニアCGアーティストの高橋正紀氏に制作に関するお話を伺った。

ディテールが印象的な作品

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VFXディレクターの渋谷さんは、個人的には過去に何回かインタビューさせて頂いているが、今回はここ数本の作品とは違って、いわゆる”SFモノ”であり、さらに初の本格的な宇宙が舞台の作品ということで、これまでとはまた違った意気込みで作品制作にあたったようだ。

渋谷「制作を始める前に、山崎(監督)から『宇宙戦艦ヤマトのアニメ作品で何か印象に残ってるものはあるか?』と聞かれ、私はストーリー的なお話の部分よりも、ヤマトが地表から浮上していくシーンとか、タキオン粒子が流れたり波動砲のエネルギー充填シーンなど、光系の映像のディテールがまず思い浮かんだのです。実写化するにあたって、この作品というのは、まずこういうディテールが大事な作品なんだ、というのを感じていました」

このディテールを担当する部分がVFXチームであり、そこにかかっている重責も大きかっただろう。当然そのほとんどがグリーンバックによる合成だ。500カットの合成シーンは多くの工夫による撮影が行われたようだ。

渋谷「ガミラス星のスタジオセットは6m×6mの床と2枚の壁という限られたセットの中で行われました。第一艦橋のセットは、パーツごとにユニット化されて組んであって、艦橋の撮影が終わると食堂のシーンや沖田艦のシーンに使うなど工夫されていました」

オリジナルアニメと実写版との、イメージ間隔を近づける

高橋「『ALWAYS 三丁目の夕日』のような作品では現実にあったリアルなものを再現していたので、その到達点が見えていたのですが、今回は宇宙が題材なので誰も実際に観たことがない世界なんです。だから最初は山崎(監督)も含めて各スタッフが思っていた最終のイメージしていたものは皆違っていたんです」

『宇宙戦艦ヤマト』の世界観をどう実写化していくのか、オリジナルアニメとの間でスタッフの葛藤は大きかったようだ。CGは人間のサイズから逆算して、全ての創造物をリアルに表現していくことが求められたが、原作モノの難しさがここにも立ちはだかった。例えば第一艦橋のスペースがアニメほどの大きさになるなら、実写版ヤマトを採寸すると全長がなんと1kmにもなってしまうという。しかし実際の”戦艦大和”は全長250mしかなく、その残骸から浮上するという例の出発シーンのイメージでは、スケール的にかなりの無理が生じてくる。今回の実写版では、戦闘機のサイズなどから考慮して、実サイズを500mという中間のサイズを想定。これを基にして各部のCGが組み立てられていった。さらにVFXシーンはなんと500カット。これまで白組が手がけて来たこれまでの劇場映画作品の中でも最大数だ。またこれまでの白組作品では、VFXシーンにはAdobe After Effectsが、CGではMayaが主に使用されて来たが、今回はそれぞれ新たなソフトウェアを導入している。

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THE FOUNDRY社のNUKE

渋谷「この「ヤマト」からTHE FOUNDRYの NUKEを導入しました。宇宙シーンの背景などカメラマップが必要なカットでCGスタッフからカメラデータをもらえばNUKE内で作業が完結できたりします。また、マスク生成作業が手早くできるのも助かりました。パスを使って固いシェイプのものを切り取る作業でNUKEは非常に便利で、「ヤマト」ではコックピットの窓ガラスを入れるなど、沢山の手切りマスクにNUKEを使用し、最終的にAfter Effectsに持って来てエフェクトを入れて仕上げています」

高橋「CGはあくまでもAutodesk Mayaベースで、メンタルレイとレンダーマンで制作していますが、ヤマトが地表から地面を割って浮上するときの、岩が崩壊するシーンは、今回初めて3ds maxのプラグインで、崩壊シミュレーションソフトの『Rayfire(レイファイア) Tool』を使用しています。これはヤマトが地面から浮上するシーンの、粉々に砕かれた部分のシミュレーションのためだけに使っています。割れる地面の部分だけを3ds maxのRayfire Toolを使って地表を割りました。そのデータはまたMayaに戻してメンタルレイでレンダリングするという方法です」

山崎監督はフィルムへのこだわりがある監督で、これまでデジタル撮影による作品はないと記憶している。今回もほぼ全編フィルム撮影だが、実は一部DSLR(デジタル一眼レフ)で撮影した部分があるという。

渋谷「1カットだけキヤノンEOS 5DmarkⅡで撮影されたムービー素材をそのまま使っています。映画の冒頭で森雪の瞳に映る宇宙戦のレーザーから始まるシーンの”瞳”の素材を撮影するために5D markⅡを使いました。『森雪の瞳からコックピット内へ、更にコックピットを突き抜けて宇宙での戦いまでを1カットで表現したい』という監督からのオーダーが出たのですが、色々な問題を抱えていたのでなかなか解決方法が見つからず、最後に行き着いたのが5D markⅡでした。筐体が小さいので狭いコックピットのセット内でも設置可能で、接写(黒木メイサさんの顔のすぐ前にカメラのレンズ)できる位置にカメラを置いてもライティングに影響が出にくい。しかもなるべく短時間で素材を撮影し終えたいと思っていたので、デジタル一眼でのこの撮影はとても助かりました。アップデートされたファームウェアで24fpsでも撮影可能になったので、今後は更に利用頻度が上がりそうです(笑)」

常にリアル感を求める白組のこうしたVFXへの追求は、また次のステップへと日本の映像界を押し上げてくれる。次は3D作品に挑むという山崎監督と白組VFX/CGチーム。今から次作品が楽しみだ。

「SPACE BATTLESHIP ヤマト」
上映時間 2時間18分/ドルビーデジタル/シネマスコープサイズ

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。