日本でもプロジェクション・マッピング協会が発足

8月4日〜7日で神奈川県逗子市の逗子小学校、逗子文化プラザ等の施設があるエリアで開催された「ZUSHI MEDIA ART FESTIVAL 2011」。このイベントのハイライトとして開催終盤の6日、7日行われたのが、逗子小学校の壁全面を使って行われた”プロジェクション・マッピング・ショー「光の物語」”だ。実はこの開催に際して今年6月、日本にもいよいよプロジェクション・マッピング協会(PMAJ)が設立された。本イベントはPMAJのスタートアップイベントでもあった。

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『プロジェクション・マッピング(P.M.)』とは何か?P.M.とは、建物や物体などの立体物に合わせて映像を投影し、その物体のディテールに合わせた様々な映像演出によって、物体が本来とは違った見え方になるようなリアルとバーチャルの面白さを兼ね備えた映像表現のことを指す。昔からCG業界では一般的な用語なので馴染みある方も多いかもしれない。また同じような映像表現は”ビデオアート””メディアアート”という言葉で以前から行われた。しかし現状の映像イベントとしてのP.M.のあり方は少し違った意味を持つようになってきている。

現在におけるプロジェクション・マッピングは、ここ3,4年前から欧米を中心に、製品や店舗などのプロモーションや、舞台演出として用いられるようになり、いまや全世界的にこの手の映像表現には”プロジェクション・マッピング”という言葉が一般的に用いられるようになってきた。日本でも昨年末に東京・外苑にある絵画館を使って、映画「トロン・レガシー」の公開記念イベントで、このP.M.ショーが行われている。

プロジェクション・マッピングその舞台裏


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過去のビデオアート的な映像との違いは、まず制作面がデジタルコンテンツとして作り安くなったこと、そしてプロジェクター機材などの上映環境がかなり簡便化されたことだろう。以前は筐体が大きくて、解像度も低く、さらに輝度も低い(暗い)プロジェクターと高価なVTR、大仰なPCやビデオプレーヤーを何台も置いて、サイズによっては放送中継車さながらの大量な機材が無ければ実現出来なかった。しかし、今回の逗子でのイベントでは、45m×12mという巨大な学校校舎の壁面へのプロジェクションにも関わらず、出力はMac Book Pro1台に、マルチモニター対応グラフィックボックス『matrox T2G/D』で2台のプロジェクターもパナソニックの業務用プロジェクター『PT-DZ8700』(10600lm)に分配/ブレンドするというシンプルなもの。

特に最近の業務用プロジェクターの進化は大きく、HD-SDI入力、自動台形補正などは当たり前だが、今回使用された『PT-DZ8700』ではさらに、曲面への投写を簡単に実現する「幾何学歪補正」機能や、複数のスクリーンに映像をシームレスに写し出す「マルチスクリーンサポートシステム」、さらには「複数台輝度コントロール」機能を搭載しており、今回はプロジェクター2台のデータ同期も自動的に合わせてくれるなど、まさにP.M.に向いた機能も多々兼ね備えている。

またコンテンツ側の制作はAutodesk 3ds Maxで制作されたCGアニメーションをAdobe After Effects CS5でVFX処理、さらにそれらをAdobe Premiere Pro CS5でタイムライン編集し、完成したコンテンツは2048×768ピクセル/30fpsのQuickTimeデータに書き出す、という現行のデジタルビデオコンテンツ制作そのままのものでも実行可能なのである。もちろん投影されるスクリーンとなる物体に対して、表示するコンテンツの綿密な計算と設計、デザインによる部分はP.M.専門のクリエイターの手腕による所が大きい。

プロジェクション・マッピングは、映像の未来を切り開くのか?

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今回のイベント開催のきっかけと協会の立ち上げについて、本イベントの企画制作を手がけた、プロジェクション・マッピング協会代表のmichi(石多 未知行)氏はこう語っている。

海外では映像アートとデジタルサイネージから進化した広告手法としてプロジェクション・マッピングが非常に大きく注目されています。しかし現状の日本では都市部での街灯の多さや消灯に関する権限問題など様々な規制も多く、街中で商用(企業広告向け)のP.M.ショーを行うにはまだ多くの問題があります。こうした問題を乗り越えて映像クリエイターの新たな表現方法を多くの方に理解して頂く目的もあって、プロジェクション・マッピング協会を立ち上げました。また現状の上映環境からも、今回の逗子市と逗子小学校のように、実はP.M.は周辺照明の少ない地方でのイベントなどに向いています。自治体と教育機関、関連施設が協力頂ける事によって今回のようなイベントが実現したことは、新たなメディアアートの認知と、新しい映像アートの地方からの発信という意味でも開催できた意義は大きいと思います。

映像表現の新たなフィールドとして、また広告PR分野としての可能性という意味でも、プロジェクション・マッピングは新たな映像市場を確立と今後の発展に大いに期待したいところだ。

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。